レディ・レイピスト

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第二章

 美沙子は教室で小テストの監督をしながら、次の獲物の事を考えていた。
 坂口勇吾をレイプしてから一ヶ月が経ち、美沙子の欲求は再び高まりつつあった。
 最高の人形師が作り上げたような完璧な美貌とは裏腹に、美沙子の内部には自分ではどうする事もできない男への復讐心が燻り、一定の時間をおいてそれが燃え上がるのだった。
 美沙子がその復讐心を見知らぬ男をレイプする事で慰めるようになったのは一年ほど前からだ。
 力ずくで身体を押え込まれ、レイプされる恐怖と屈辱を男にも味合わせたい。
 その思いから美沙子は計画に必要と思われる道具を揃え始めた。
 まず女である美沙子の力で男を押え込むのは不可能なので、防犯用具店で小型のスタンガンを購入した。
 これは小型で取り扱いが簡単なのが売りの商品だったが、その威力はかなりのもので、電圧調節を最大にして使用すれば屈強な男も一発で失神させる事ができ、更には意識を取り戻してからもしばらくは筋肉が弛緩して動く事が出来ないという、美沙子の目的にぴったりの物だった。
 次に美沙子は男のアヌスを犯すためのペニスバンドを用意する事にした。
 ペニスバンドとは本来レズビアンの女同士でセックスをする際に使用する物で、皮製のバンドにゴム製のディルドーが接着されており、これを股間に装着する事で男役となった女が相手の女を犯すのである。
 美沙子は元来レズビアンだったので、このペニスバンドを既に所有していた。
 但し、美沙子の物はディルドーが双頭型になっており、装着者は片方の先端を自分の膣に収納しなければならなかったが、男を犯しつつ自らも快感を得ようとする美沙子にとってはこれまた打ってつけのアイテムだった。
 その他にも潤滑剤として使用するローションや猿轡、そして手錠など細々とした物が必要だったが、何れも安価にそして容易に手に入る物ばかりだった。
 全ての準備が整った後、美沙子が実際にレイプを敢行するまでには暫く時間がかかった。もちろんそれなりの覚悟が必要だったし、場所や時間帯についても下調べが必要だった。
 そして、ロケーションを深夜の公園に決定し、意を決して事を起こした美沙子だったが、思いのほか男をレイプする事は簡単だった。
 坂口 勇吾もそうだったが、男は夜道で自分が襲われる可能性など全く考えていない場合が殆どなので、深夜であろうが一人で人気の無い場所を歩行する。
 美沙子はそれを待ち伏せ、不意打ちを仕掛けたり、もしくはマスクなどで顔を隠して話し掛け、隙を突いてはスタンガンを使用した。
 失神した男のアヌスをペニスバンドで犯しながら、美沙子は異常な程の興奮と快感を覚えた。
 幾度と無くオルガスムスを味わい、危うくその場で失神してしまいそうになる事もあった。
 殆どの場合、途中で男は目を覚ますが、スタンガンの効果で身動きは出来ない。
 美沙子は男の屈辱感を楽しみながら、本能の赴くまま腰を振った。
 そして、アヌス及び前立腺への刺激に慣れていない男達はその強烈な刺激に耐えられず失神もしくは失禁、あるいはその両方という醜態を晒す事が多く、美沙子の嗜虐心を更に満足させるのだった。
 そうして美沙子の密やかな楽しみは幕を開け、その九人目の獲物となった坂口勇吾に至るまで、ただ一度の失敗も無く現在を迎えていた。
「先生、テスト終了の時間なんですが……」
 生徒からの突然の言葉に美沙子は思考を中断する。
「え、あ、そうね。じゃあ、後ろから集めてくれる?」
 少し慌てながらも美沙子は上手く取り繕った。
 壁際の席では理沙がクスクスと笑い、その目は(どうせエッチな事考えていたんでしょう?)と言っていた。
 美沙子は理沙に目配せをして(違うわよ)と抗議しながら、回収されたテスト用紙を受け取った。理沙にも件の趣味の事は秘密だった。
「もう時間が殆ど無いから、今日の授業はここまでね」
 美沙子はいつもより五分ほど早く授業を打ち切った。
 途端に生徒達から歓喜の声が上がる。
 四時間目の授業だったので、混雑する前に学食へ行こうと数人の男子生徒が教室を飛び出していった。
「他のクラスはまだ授業してるから、余り騒がないでね」
 生徒達に取りあえずの注意を与えると、美沙子は教室を後にした。
 すぐに背後で教室のドアが開く音がして、ぱたぱたと足音が近づいてくる。
「先生、今日、お昼はどうするの?」
 理沙が息を弾ませて聞いてきた。
「んーそうね。寝坊してお弁当作れなかったから、外に食べに行こうと思うんだけど、この辺でどこか良い所あるかしら?」
「あるある! 小さなレストランなんだけどね、そこのランチセットがすごくおしゃれで安くて美味しいの! 一緒に行こうよ!」
「それは構わないけど、今日に限ってそんな事言い出すなんてどうしたの?」
 学校では極力ただの教師と生徒を演じる事にしていたので、理沙の突然の申し出に美沙子は驚いた。
「先生にどうしても話したい事があるの。だから、ね。良いでしょ?」
 理沙は今にも美沙子の腕に抱き付きそうな勢いだった。
「わかったわ。じゃあ一緒にお昼食べましょう」
 美沙子の勤める学校は生徒の自主性を重んじ、校則も殆ど有って無いような物だったので、学外に食事をしに出かける事も許されていた。
 もちろん教師が生徒と馴れ馴れしくするのは、例え女同士とは言え、余り良い事では無かったが、たまの昼食くらいは構わないだろうと美沙子は思った。
 それに理沙の言う、(話したい事)にも興味があった。
 美沙子は理沙に連れられて、学校から五分ほど歩いた所にある、小さなレストランに入った。
 十人も入れば一杯になってしまうような小さな店だったが、洒落た内装と家庭的なメニューで美沙子も一目で気にいってしまった。
 理沙のおすすのランチセットを注文した後、美沙子が話を切り出した。
「で、話したい事っていうのは何?」
「うん、私のクラスの武田君の事なんだけどね」
「武田君?」
 理沙の言葉に、美沙子は理沙のクラスの男子の顔と名前を次々に思い浮かべて行き、何とか武田正樹の顔を思い出した。
 理沙の隣の席に座る男子生徒で極めて大人しい生徒だったが、成績は優秀でルックスもかなり良い部類に入ると美沙子は思っていた。
「ああ、理沙ちゃんの隣に座ってる子ね」
「そうそう、あの子、あの子。先生はどう思う?」
 両手で頬杖を突きながら、楽しそうに理沙が聞いた。
「どうって言われても……少し大人し過ぎる感じだけど、良い子なんじゃない?」
 理沙の質問の意図を計りかねた美沙子は、少し考え込むようにして答える。
「そうじゃなくて、先生の好みかどうかって事」
「ど、どうしてそんな事聞くの?」
「えへへ、これは私の勘なんだけど、武田君、先生に恋してるわよ」
 そう言う理沙は少し意地悪な、美沙子が一番理沙に似合うと思っている表情をした。
「え、そ、そんな事何でわかるのよ?」
 美沙子はあからさまに動揺していた。
「あの目を見たら誰だって気付くと思うよ。授業中、ずっと先生の顔見つめてるもん。それに目って言っても、先生が前に話してくれた、他の男子生徒や男の先生達の目とは全然違うんだからね」
 今年で二十五歳になる美沙子はその美貌とグラマラスなスタイル、そして意外なほど爽やかな性格によって、学校では知的な美人英語教師というイメージで通っていた。 その為、同僚の男性教師はもちろん、男子生徒の中からも熱い視線を送られる事はしょっちゅうだったし、食事やデートに誘われる事も多かった。
 しかし、男達から注がれるそんな視線を美沙子は全て無視していた。
 その好色な視線は、かつて自分をレイプした男性教師の目を美沙子に思い出させるからだ。
「って言われてもね。もし理沙ちゃんの勘が当たってても、私としてはちょっと……」
 言葉を濁しながら美沙子は武田の目を思い出していた。
 教師として授業を行う為、生徒達の視線に晒される事には慣れていた。
 武田の視線もその中の一つとして処理してしまっていたので気付かなかったが、言われてみれば武田は美沙子の顔をいつも見詰めていながら、目が合いそうになると恥ずかしそうに目を逸らしているような、そんな気がした。
「中学生でも男は男って事?」
「そうじゃないわ。深い付き合いをするんじゃなければ男の人も全然平気よ。もちろん、大人の男の人と中学二年生の男の子を比べたら、男の子の方が話し易いのは事実だけどね」
「ふーん。じゃあ可能性はあるわけだ」
 理沙は腕を組み、ふむふむと何かを納得したように頷いた。
「理沙ちゃんは私と武田君をくっけたいわけ?」
 美沙子の胸に微かな疑惑が生まれた。
 自分との付き合いを辞めたいが為に、理沙が武田を後釜に据えようとしているのではないか、と。
「先生がいま考えてる事、手に取るようにわかる。でも違うよ。私は先生を裏切ったりしない。絶対にね。でも、私も先生と同じで男に幻滅しちゃってるからさ。だから武田君みたいな純粋な男の子を見ちゃうと応援したくなっちゃうのよね。それに私が言って良い事かわからないけど、先生もこれからずっと女の人だけ相手にっていうのは無理があると思うし」
 理沙の一言一言が美沙子の胸に突き刺さった。
 自分から誘ったにも関わらず、理沙の気持ちを疑った事、そして、十歳以上年下の少女が自分の将来について語った事。何れも美沙子を愕然とさせるに充分だった。
「先生と武田君、歳の差的にずっと一緒っていうのは無理だと思うけど、少しの間なら先生にとっては良いリハビリになると思うし、武田君にとっても良い思い出になると思うんだけどな……」
 しばしの沈黙の後、注文したランチセットが運ばれてきた。
 しかし、美沙子は物思いに沈んでいた為、全く反応しなかった。
「先生……もしかして……怒った?」
 理沙が恐る恐る訊いてくる。
「い、いえ、そんな事ないわよ。ただ、ちょっと驚いただけ。理沙ちゃんがそんなに私の事を考えてくれてるなんて思わなかったから」
 美沙子は動揺を隠すようにぎこちない笑顔で笑った。
「無理しなくても良いよ、先生。私自身、生意気な事言ってるなって思うもん。第一、武田君の気持ちだって、まだ確認したわけじゃないし。でも、もしそうなら悪くない考えだとも思うの。もちろん、私としては武田君に少し嫉妬しちゃうかもしれないけど、精一杯協力するつもりだしね」
 そう言って理沙はフォークとナイフを掴む。
「で、それはそれとして、ご飯食べちゃお。学校でも言ったけど、このランチセットすごく美味しいんだよ」
 いつもの元気な理沙に促されて食事を始めた美沙子だったが、料理の味など全くわからなかった。

 その日の夜。美沙子はリビングのソファにもたれ、余り強くはない酒を飲みながら理沙の言った言葉を反芻していた。
「これから……か……」
 美沙子はレズビアンとしての自分の将来を考えた事が無いわけではなかった。
 男が嫌いになり、自然とレズビアンになった美沙子だったが、遥かな将来まで現在の状況を続ける自信は無かった。
 男と女の恋愛の場合は、その結果として結婚や出産といった(先)がある。
 しかし、女同士の場合はどうだろう?
 法律上結婚は出来なくても、それは気持ちの問題だから良いかもしれないし、出産についても、今は精子バンクを利用した人工受精という手もある。
 しかし、女同士が結ばれる場合、性格はもとより、お互いの(美しい)部分に惹かれた結果が多いのではないか?
 歳を重ねる事によって受ける影響は、男よりも女の方が遥かに大きい。
 歳を重ね、お互いの(美しい)部分が失われていった時、果たして関係は保たれるのであろうか?
 もちろん最終的にはお互いの気持ち次第という事なのだろうが、美沙子はその事を考えると暗澹たる気持ちになった。
 それ故に今まで目を逸らし続けてきたわけだが、面と向かって理沙に指摘され、嫌が応にも考えざるを得なくなってしまった。
 美沙子は自分に対して問い掛ける。
(私は男を愛する事が出来るだろうか? 男を許す事が出来るだろうか?)
 答えはYESでもありNOでもある。
 美沙子は大学生の頃、幾度か男に抱かれる事を試みた事があった。
 結果は何れも失敗。裸になり男の手によって愛撫される事までは何とか我慢できたが、いざ事に及ぼうとすると、どうしようもない恐怖と嫌悪感に襲われ、男を突き飛ばしてしまった。
 そんな事が続く内に美沙子の噂は学内に広まり、声を掛けてくる男はいなくなった。
 しかし、相手がまだ男になりきっていない中学生だとしたら……。
 その考えはもはや教師として、いや人として問題が有る事は美沙子自身にも良くわかっていたが、昼間、理沙が言った、(美沙子にとっても武田にとっても……)という言葉が耳元で悪魔のように囁いた。
(物は試しよ……)
 美沙子は激しく頭を振り、その甘く危険な考えを打ち消す。そして、ソファから立ち上がると鍵付きのタンスの中から大きめのバッグを取り出した。
 中身は美沙子が男を狩る際に使用する一切の物だった。
 肌色をしたペニスバンドのディルドーが一際目を引く。
 いつもの美沙子は胸の奥底から湧き出る男への復讐心とレイプのもたらす興奮に快楽、そして征服感にほだされて事に及ぶが、今日は違っていた。
 自分の将来への不安、そして自分自身への不安から逃避するべく、美沙子はペニスバンドを手に取った。
 衣服を全て脱ぎ捨て、全裸で鏡の前に立つ。
 鏡の中に写る美沙子の身体は、美しさという一点において非の打ち所の無いものだった。
 完璧な曲線が形作る女そのものの肉体は匂い立つような色気を纏い、美沙子の氷のように冷たい瞳をより際立たせていた。
 美沙子はペニスバンドのディルドーを掴むと、これから胎内に納める側の先端にたっぷりとローションを塗り込んだ。そして、ローションで濡れた指をそのまま自分の淫裂へと這わせ、肉洞の奥深くまでローションを馴染ませて行く。
「あ……はぁ……ん」
 冷たいローションに胎内を侵食され、美沙子は淫らな吐息を漏らした。
 やがて、肉洞の内壁がローションと愛液で充分に潤った事を確認すると、美沙子は軽く両脚を開いて、ローションでぬるぬるになったディルドーを淫裂に宛がい、ゆっくりと胎内に受け入れていく。
「あぁっ……深いわ……」
 美沙子は強烈な挿入感に恍惚としながらもディルドーを根元まで咥え込み、ベルトでしっかりと固定した。
 股間から巨大なペニスを垂れ下げ、美沙子は鏡の中で牡獣となった。

 美沙子が狩りの場として選んだのは自宅から程近い児童公園だった。
 これまで自宅から近いこの公園を使用する事は無かったが、規模の小ささとは裏腹に、その高低差のある立地から物陰や茂みが多く存在する為、美沙子は以前から目を付けていた。
 美沙子は服装を黒で統一し、特に下半身はボリュームのあるロングスカートを履く事で股間に装着されたペニスバンドの膨らみをカムフラージュしていた。
 もちろんパンティーは身に付けていなかった。厚縁の伊達眼鏡をかけ、口元をマスクで隠して、取り合えずの変装を施した。
 両手には薄いゴム手袋を装着し、持ち物は小型のハンドバックのみ。
 中身はスタンガンに目隠し、猿轡に手錠、そしてローションだった。
 美沙子は公園の下の方の入り口から園内に入ると、歩行者を装って高台へ移動し、園内全域を見渡せる茂みに身を隠した。
 高台の裏手にはアパートが建っている為、園内を通って帰宅してくる男を襲う計画だった。
 腕時計の針は午後八時半を回り、公園に人影は無い。風にざわめく木々の音だけが静かな園内に響いていた。
 それから一時間ほども経っただろうか、美沙子がその日の狩りを諦めかけた頃、公園の入り口に人影が現われ、高台へと向かう階段を上り始めるのが見えた。
 美沙子はその人影をしばらく観察し、男である事を確認した後、茂みの中を歩道沿いまで移動した。
 確実に近づいてくる足音を聞きながら、美沙子は寒さでこわばった身体を解し、ハンドバックからスタンガンを取り出す。そして、電圧調整ダイアルを最大にセットするとトリガースイッチに指を掛け、スタンガンをしっかりと握り直した。
 通算で十回目の狩りになるにも関わらず、心地よい緊張感が胸をくすぐる。
 足音が自分のすぐ横を通り過ぎると同時に美沙子は茂みの中から飛び出した。
 物音に気付いて振り向きかけた男の首筋に背後からスタンガンを押し付け、トリガーボタンを力一杯押し込む。
 バリッという電気的な音と「うっ」という男の呻き声が同時に聞こえた直後、男は力無く前のめりに倒れた。
 美沙子は間髪入れずに倒れた男に近寄り、目隠し、猿轡を施した上、手足には手錠を嵌めた。
 それは芸術的なまでの手際の良さだった。美沙子は全身を痙攣させ昏倒している男の姿を見下ろしながら、背筋の痺れるような快感を味わう。
 美沙子は男を抱き起こすと、引き摺りながら茂みの奥へと移動した。
 相変わらず園内は静けさに包まれ、現在進行している事件に気付く者は誰もいなかった。
 美沙子の興奮は極限まで高まり、はやる気持ちを抑えながら男をうつ伏せに寝かすと一気にズボンを摺り下ろした。
 ズボンの下から現れた尻は、美沙子の予想に反して少女のように白く、小さなものだった。
(男の子……よね?)
 一瞬困惑する美沙子だったが、股の間からペニスがはっきりと見えたので行為を続行する事にした。
 ハンドバッグからローションの入った小瓶を取り出すと手の平にローションをたっぷりと出し、男のアヌスに塗りたくった。
 男に気が付く気配が無い事を確かめながら、ゆっくりとアヌスに指を挿入し、アヌスの内部にまでローションを塗り込んで行く。
 次にスカートを捲し上げると、股間にぶら下るディルドーにも素早くローションを塗り込んだ。
 全ての準備を終えた美沙子は、男の尻に圧し掛かりディルドーの先端をアヌスに馴染ませながら呟いた。
「さあ、行くわよ。覚悟なさい。君を犯してあげる!」
 言い終わると同時に美沙子はディルドーを手で支えながら一気に腰を突き出した。 括約筋の激しい抵抗を強引に押し切り、ディルドーは男のアヌスにすっぽりと埋まった。
「んっ……んん……」
 アヌスを刺し貫かれた衝撃で、男が意識を取り戻しつつあった。
「目が覚める前に終わらせるからね」
 美沙子は即座にピストン運動に入った。男のアヌスと美沙子の膣はディルドーによって一つに繋がれている為、ディルドーとアヌスの強烈な摩擦感はそのまま美沙子の胎内へと伝わってくる。そこに美沙子自身の腰の振動が加わり、美沙子の胎内に飲み込まれたディルドーは激しく律動した。
「あっ、あっ、あっ、すごいっ! 君のお尻、すごくきついわ!」
 ディルドーに胎内を掻き回され、美沙子は夢中で腰を振る。
 その股間に装着された皮ベルトの隙間からは熱い蜜液が止めど無く流れ出し、男の尻を濡らした。
(い、今、私は男を犯しているのよ! 男をレイプしてるの!!)
 女である自分が男を犯しているという思いが、美沙子の情欲を際限無く高ぶらせていた。
 美沙子は髪を振り乱し、服の上から両乳房を強く揉みし抱いた。
 胎内深く埋め込まれたディルドーから伝わる、巨大な快楽のうねりに全身を貫かれ、脳が砕けるような錯覚に襲われる。
「う……ううっ……ん!? むぐっ、むぐぐ!!」
 美沙子の下で男がようやく意識を取り戻した。しかし、スタンガンの後遺症で身体は思うように動かない。身動きも取れず、何も見えず、声もまともに発する事が出来ない状態で美沙子にアヌスを犯され、男は錯乱状態になった。
「ふんっ!!」
 呻きながら暴れる男を全体重をかけた腰の一撃で黙らせると、美沙子は背後から手を伸ばして男のペニスを刺激した。
 完全に勃起したペニスの先端からは微かに白濁した粘液が漏れ出し、射精の時が近い事を告げていた。
 前後から強制的に与えられる暴力的な快楽に、男はもはや呻き声を上げる事もできず、ただ、涙を溢れさせ、終わりの時を待った。
 そんな男の後ろ姿に美沙子は強烈な既視感を感じた。
 それは、かつて男性教師にレイプされた時の自分に、力ずくで犯されながら抵抗を諦め、快楽に身を委ねた美沙子の姿にそっくりだった。
 胸の奥に大きな罪悪感が湧き出したが、それでも腰は正確にピストン運動を刻んでいく。
 美沙子は自分のしている事が決して許されないという事を知っていた。
 しかし、胸の奥底でもう一人の自分が(男を犯せ! 男に復讐しろ!!)と叫び続ける。
 美沙子は罪悪感と復讐心の狭間で思考を停止した。そして、ただひたすらに快楽を求めて腰を振り、男のペニスをきつくしごいた。
 やがて、二人に最後の時が訪れた。先に果てたのは男の方だった。
 押し殺したような呻き声を発したかと思うと男の腰がびくりと硬直し、美沙子の掌に真っ白な精液が幾度と無く打ち付けられた。
 そして、精液の熱を手に感じた美沙子もまた、男を追うようにしてオルガスムスを迎えた。
 美沙子は全身を突き上げる痙攣に身を躍らせ、押し寄せる快楽の波に全てを忘れて呑み込まれた。
 遠ざかる意識を必死の思いで繋ぎ止め、美沙子は男の背中にがっくりと崩れ落ちる。
 何とか意識は繋いだものの、余りに強烈なオルガスムスの余韻に、美沙子は男の背中で暫く身動きできなかった。
 一方、男は美沙子の下でぴくりとも動かなかくなってしまった。どうやら、失神したらしい。
 やがて体力を回復した美沙子はディルドーを男のアヌスから引き抜き、身支度を整えた。
 そして、男にズボンを履かせると仰向けにして手錠と猿轡を外す。
 一連の動作をする美沙子は全くの無表情であり、その心の中は虚無感に支配されていた。
 しかし、最後に男の顔から目隠しを外した時、美沙子の中で何かが壊れた。
 その男は……いや少年は、理沙の話していた武田正樹だった。
 蓋が半開きになった正樹の鞄からは学習塾のテキストのような物が飛び出していた。 美沙子の頭の中は真っ白になり、夢遊病患者のような足取りで立上がると児童公園の闇に消えた。

 どこをどう帰ったのかわからなかったが、翌朝、美沙子は自分のベッドで目が覚めた。
 姿は全裸で、脱ぎ捨てられた衣服やペニスバンドが床に散乱していた。
 美沙子は慌てて新聞に目を通し、テレビを点けニュースをチェックした。
 しかし、武田に関する情報は全く報じられていなかった。
 どうやら武田は第三者に発見されず、自力で帰宅したようだ。
 時計は既に始業時間を回っており、有給休暇を消費するという手もあったが、美沙子はどうしても確認しなければならない事があった。
 理沙のクラスの授業の時間になり、平静を保って教室に入った美沙子は、真っ先に理沙の隣の座席を確認した。
 当然の事ながら座席に武田の姿は無かった。
 武田があの後どうなったのか、それを考えると美沙子は恐ろしくなる。
 殆ど上の空で授業を終えた美沙子は、理沙を屋上へと呼び出した。
「先生、どうしたの? 急に私を呼び出すなんて」
 人気の無い屋上で理沙は金網に寄り掛かりながら訊いてきた。
「ごめんなさいね。ちょっと訊きたい事があって。武田君の事なんだけど、授業の時いなかったわよね」
「うん、武田君、今日は朝から来てないよ」
 それが何か? と言った感じの理沙の答えは、美沙子の予想していた通りのものだった。
「何か病気とか理由は聞いてない?」
「うーん、担任の先生は何も言ってなかったけど……。先生、武田君と何かあったの?」
 理沙の当たり前の質問に美沙子は動揺した。
 一瞬、理沙に全てを告白し、協力を仰ごうかとも思ったが、関係の無い理沙を巻き込むのは余りに無責任であると思い、踏み止まった。
「い、いいえ。昨日、理沙ちゃんから武田君の話を聞いたでしょ。で、今日、武田君がいないものだから、どうしたのかなって、ちょっと気になっただけ」
 ぎこちない笑顔でお茶を濁す美沙子の顔を、理沙がじぃっと見つめる。
「ふーん、本当にそれだけ?」
 理沙の目は全てお見通しと言っているようだったが、美沙子は嘘を付き通した。
「ええ、もちろんよ。突然、こんな所に呼び出してごめんなさいね」
「ま、いいけど。じゃあ、私、行くね」
 そう言って、理沙は跳ねるように階段へと向かう。
 その背中に美沙子は知らず知らずの内に縋り付くような視線を送っていた。
 自分で仕出かした事とは言え、罪悪感と孤独に成す術も無い。
 そんな美沙子の視線の中で理沙は突然立ち止まり、クルリと振り返った。
「ねえ、先生。教師の人ってよく(困った事が有ったらいつでも相談に乗る)って生徒に言うよね。でも、生徒が教師の相談に乗るのは良くない事なのかな?」
 理沙は軽く脚を広げ、両手を腰の後ろで組むと、美沙子の目をまっすぐ見詰めて訊いてきた。
 強い風にポニーテールを靡かせて立つ理沙の姿は、美沙子の目にとても大人びて、そして頼もしく見えた。
「理沙ちゃん……私……私、とんでもない事しちゃったの!」
 教師として、大人として無責任な事はわかっていた。情けない事もわかっていた。
 それでも美沙子は溢れる涙を止められず、生徒である理沙に、まだ少女である理沙に縋ってしまった。
 全てを告白し、子供のように泣きじゃくる美沙子を理沙は抱き締め、母親のように頭を撫で続けた。
「あの時と立場が逆になっちゃったね。私が堺先生に振られて泣いてる時、先生もこうして抱き締めて、私の頭を撫でてくれたもんね」
「理沙ちゃん……私、やっぱり警察に……」
「先生がした事、いえ、してきた事は悪い事だけど、今更どうする事も出来ないんじゃない? 被害者の男の人達が誰なのかわからないし、先生が警察に自首したって、その人達は絶対名乗り出ないと思うよ。そうしたら警察だって被害者もいないのに先生を捕まえる事なんて出来ないでしょ。だから、先生は今までしてきた事を反省して、もう二度とやらないって誓って、後は唯一わかっている被害者の武田君に対してフォローをする。それが今、先生に出来る全てなんじゃないかって私は思う」
「それで……本当に良いのかしら?」
「先生にとって都合の良い解決法に聞こえるって言うんでしょ。でも、私が思うに、やっぱり結果なんじゃない? どんなに法律や倫理的に正しくても誰も幸せにならないんじゃしょうがないよ。先生は教師だから(結果よければ……)なんて言い辛いだろうけどね」
 自信を持って語られる理沙の言葉は、美沙子の心理を的確に読んでいた。
 美沙子は理沙の言う解決案に対し、教師として、常に正しくあらねばならない者として、微かな疑問を感じていたが、一方では確実に真理を言い当てているとも思った。
 そこには美沙子自身の甘えも確かに存在していたが、ともかく美沙子は理沙の言葉に従う事に決めた。
「……わかったわ。理沙ちゃんの言う通りにしてみる。放課後、武田君の家に謝りに行くわ」
 そう言うと美沙子は頬の涙を手の甲で拭った。
「その答えじゃ、丸は上げられないよ先生。良いとこ三角かな?」
 理沙の言葉にわけがわからず、美沙子はきょとんとした。
「それじゃ事が大きくなって武田君も先生も困るでしょ。武田君は多分、自分がレイプされた事を誰にも言ってないだろうから、それを両親にバラすような真似は絶対にまずいよ。あと先生の方は言うまでも無いよね。もちろん先生は覚悟の上なんだろうけど」
「じゃ、じゃあどうすれば……」
「私に全部任せて。明日は休日だから、私が武田君に話を付けて先生の部屋に連れて行くよ」
「う、家に来るの?」
「そう、先生の部屋なら誰にも話を聞かれないし、いざって時にはベッドも有るしね」
 理沙はそう言って美沙子にウィンクして見せた。
「い、いざって時っていうのは……」
「いざって時はいざって時よ。じゃあ明日、お昼頃行くから準備しておいてよね。 あと……」
 言葉を切ると理沙は素早く美沙子にキスをした。
 突然の事に美沙子は目を白黒させる。
「先生の泣き顔、すごく可愛かったよ。じゃあね!」
 理沙は身を翻すと、短めのスカートを靡かせながらぱたぱたと走り去った。
 その後ろ姿を呆然と見送る美沙子の胸に一抹の不安が浮かんだが、最早、理沙に全てを任せるしかなさそうだった。

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