熟母交姦
第一章 競泳水着の誘惑 下校途中の立ち読みは既に日課となっていた。 一人っ子の達也は充分な小遣いを貰っているので、その気になれば買えないこともない。しかし、本の内容が内容である為、美雪の目を気にして控えていた。 「うーん、興奮するなぁ。やっぱり仏蘭西書房の本は最高だ」 鼻息も荒く達也の読んでいたのは、とある出版社の発行する官能小説だった。 タイトルは……、 『ママと僕のスウィートライフ ママのあそこは蜜の味』 美雪のいる家で読めるわけがなかった。 「実のママとセックスしちゃうなんて、なんて凄い設定なんだろう。ああっ……僕もママとセックスできたらいいのになぁ」 恍惚と呟く達也の股間はすでに硬くなり、学生服のズボンの中で窮屈に捻じ曲がっていた。 達也にとって母親である美雪は最高のオナペットだった。今年で三十六歳になる美雪の美貌は衰えを知らず、そのおっとりした性格の可愛らしさともあいまって、十代の少女と見紛う若々しさを保っていた。 実際、二人並んで買い物をしていると、恋人同士に間違われることさえある。 そんな美雪はしかし、達也にとって自慢の母親であると同時に悩みの種でもあった。 母親にしておくには、余りに可憐すぎるのだ。それに加え、達也の通う中学は男子校の為、同世代の女子と知り合う機会も無い。結果として達也は、どうしても美雪を異性として意識してしまうのだった。 「なんだか我慢できなくなってきた。今夜は久しぶりに一枚いっとこうか……」 近頃の達也には、密かな楽しみがあった。 クローゼットから美雪の下着を持ち出しての自慰行為である。 「昔はママもあんなにエッチなパンティを穿いてたんだよな。今、穿いてる上品なのも大好きだけど、また昔みたいにエッチなのを穿いてくれないかなぁ」 下着を沢山持っている美雪なら、一枚くらい無くなっても気付くまい。 そう思ったのが事の始まりだった。本当は洗濯籠に入っている、脱ぎたてほやほやの物が最高で、実際、隙を見ては悪戯して、その場で匂いや手触りを楽しんでいるのだが、さすがに自室へと持ち去ればバレてしまう。 そこでクローゼットの奥にしまい込まれている、古い下着類に目をつけたのだ。 コレクションはすでに二桁に届きつつある。今夜手にするであろう新たな獲物の、甘く艶かしい芳香を想像して、達也は開いた官能小説の登場人物を、自分と美雪に挿げ替えることで、更に硬く股間を勃起させた。 「えーと、何々? 美雪は一人息子である達也の上に跨り、若々しい一物を嬉々として胎内深く咥え込むと、前後に激しく腰を揺すった。逞しい亀頭がごつごつ音を発てて子宮口に突き当たる。そのたび美雪は、脊髄の蕩けるような快感に襲われ、背筋を弓なりに反らせては、実の息子とのセックスがもたらす、甘美な近親相姦の悦びに咽び泣くのだった……」 妄想を際立たせるような、甘ったるい声のナレーションが耳の奥に木霊した。 そっと吹きかけられる吐息の熱さまでも感じて、背筋がぞくぞくする。 何という生々しい妄想だろう。しかし……、 「いやだわ、たっくんたら。美雪ママとエッチなことがしたいわけ?」 妄想から生じた錯覚と思いきや、ナレーションは本物だった。 気がつくとすぐ横に夏樹が立っており、開いた本のページを肩越しに覗き込んでいた。 「うわぁっ!」 思わず叫んだ達也に、店内にいた客たちの視線が集中する。 「馬鹿ね。そんなに大きな声を出したら、たっくんがエッチな小説を読んでるって、みんなにバレちゃうでしょう?」 耳元で囁く夏樹は、けれどもくすくす笑っていた。 達也は慌てて官能小説を書棚に戻し、近くにあった全く読む気も起こらないロシア文学を手に取ると、一心不乱に読んでいる振りをした。 そうして全身に冷や汗をかきながら、横目で恐る恐る周囲の様子を覗ってみる。 どうやら大事には至らなかったようだ。 「良かったわね。みんなはたっくんが真面目にドストエフスキー先生を読んでるって思ってくれたみたいよ。まさか『ママと僕のスウィートライフ ママのあそこは蜜の味』を読みながら、本当にママとくんずほぐれつしているところを想像していたなんて……」 「やめてくださいっ、夏樹さん。ぼ、僕……そんな想像してませんっ」 「あら、そんな想像って、どんな想像? 具体的に聴かせて欲しいわ。やっぱりさっきの……美雪は一人息子である達也の上に跨り、若々しい一物を嬉々として胎内深く咥え込むと……」 夏樹は恐ろしいほどの記憶力で、達也のお気に入りシーンを暗誦して聴かせた。 「ご免なさい。想像してました。想像してましたから、やめてください。それにわざわざ名前を換えないでください」 達也はがっくり肩を落として、結局一文字も読まなかった『罪と罰』を、元あった場所に戻した。 「最初からそう言えば良いのに」 「ところで物は相談なのですが……」 「私を相手にネゴシェイトってわけね。良いわよ、美雪さんには内緒にしてあげる。その代わり、ひとつ用事を頼まれてちょうだい」 唇の端をふふん、と思わせぶりに持ち上げて、夏樹は言った。 「これからデパートに行くんだけど、買い物に付き合って欲しいの」 どんな無理難題を押し付けられるかと思いきや、あまりに簡単な要求に、達也は拍子抜けしてしまう。 「それだけで……良いんですか?」 「そうね、罰にしてはちょっと軽すぎるかもしれないわね。でもまあ、なんであれ、罪には罰が必要って、ドストエフスキー先生も言ってることだし」 「読んだことあるんですか?」 「大学時代の私はロシア文学専攻よ」 「てっきり、官能小説専攻かと」 「あら、言うじゃない。美雪さんは悲しむでしょうねぇ。大事な一人息子が本屋で立ち読みならぬ、勃ち読みしていたなんて知ったら……」 そう言い残して歩み去る夏樹を、達也は慌てて追い掛ける。 「ごめんなさい。ほんとごめんなさい。何処へでも喜んでお供しますから、どうか許してください」 追いついた頃には、すっかり卑屈になっていた。 「はぁ……」 先を歩く夏樹の後姿を見つめ、達也は深く溜息を吐いた。 書店では動揺していて気が付かなかったが、夏樹の格好は黒のノースリーブに白いタイトスカートという艶かしい物だった。 身体にフィットする服装のお陰で、たおやかな曲線を描くスレンダーなボディラインがやたらと目立つ。 趣味は水泳というだけあってウエストは細くくびれ、小ぶりなヒップも鍛えられた筋肉できゅっと引き締まっていた。 タイトスカートから伸びた脚は後から見ると驚くほど長く、ベージュ色をした極薄のパンティーストッキングが艶かしい光沢を湛え、ふとももからふくらはぎ、高々と踵を持ち上げたヒールのか細い足首へかけて、完璧な脚線美を惹き立てる。 (あぁっ……夏樹さんの体つき……なんていやらしいんだろう) もちろん達也にとって一番の憧れは母の美雪である。しかし、すぐ隣に住んでいて、幼い頃から自分を可愛がってくれている夏樹もまた、充分に性的な興味の対象だった。 「ほら、たっくん。ぼうっとしてないで、ちゃんと着いて来てちょうだい」 夏樹は首だけこちらに振り返り、小さな子供を嗜めるように言った。 その拍子に、艶のあるショートボブの髪が白い頬に纏わりつき、美雪は決して選ばない、真っ赤なルージュの敷かれた唇に、胸の奥がどきりと疼く。 「そのたっくんっていうの……恥かしいんでそろそろ止めにしませんか? 僕もう、十四ですし……」 「なに言ってるの。私にとってたっくんは、今までもこれからも、ずっと可愛いたっくんよ」 長い睫毛を軽くウィンクさせて夏樹は言った。 面と向かって可愛いなどと言われ、達也はもう、赤面して黙り込むしかなかった。 「あの……夏樹さん、さすがにここは……」 夏樹に連れて行かれたデパートの三階、女性水着売り場を前に立ちすくんで、達也は顔を引き攣らせた。学生服でここに入るのは拷問に等しい。 「いま使ってるのが古くなったから、スイムウェアを新調することにしたの。是非、たっくんに見立ててもらいたいのだけれど、さすがにここは……なに?」 夏樹は小首を傾げ、動揺する達也の様子を楽しむように微笑している。 なるほど、罰とはこういう意味だったのだ。 「いえ、なんでもありません。何処へでも喜んでお供すると言いましたから」 「フフフッ、大丈夫よ。母親に無理やり付き合わされたって顔をしておけば、きっとみんな同情してくれるわ」 それは無理な気がした。 美雪とは別の意味で、夏樹は母親という印象からは程遠いからだ。 「夏樹さんが母親っていうのは、ちょっとイメージ的に無理が……」 「イメージって、どんな? たっくんの私に対するイメージ、とっても気になるわ」 「いや……その……ええっと」 「どんな?」 口は災いの角、どうにも逃げられそうにない。 仕方なく達也は躊躇いがちに答えた。 「め……」 「め?」 「……雌豹?」 間違い無く前世は肉食動物と思われた。 「ふーん、たっくんの目には私がそういう風に映ってるの。じゃあ、どう見ても草食動物なたっくんを、ここでむさぼり食べたとしても……特に不思議はない訳ね」 怒っているのか、喜んでいるのか、ひとりごちる夏樹はその時確かに、獲物を狙う豹の眸をしていた。 「さ、行きましょうか。しっかりエスコートしてちょうだいね」 達也の腕を手繰り寄せると、夏樹は恐いくらい整った顔で満面の笑みを浮かべる。 腕に押し付けられたバストの感触に、達也は思わず息を呑んだ。 豊満な肉体を持つ美雪とは対照的に、スレンダーな体つきの夏樹であったが、小振りなバストの柔らかさは充分で、圧迫にぐにゃりと凹んでは、マシュマロみたいな弾力で腕に吸いついてくる。 「な、夏樹さんっ、その……む、胸が腕に当たってるんですが……」 「美雪さんには負けるけど、私だって棄てたもんじゃないでしょ? こうやって誘惑してるって言ったら、たっくんはどうする?」 「そ、そんなこと……」 急に言われても困ってしまう。 「冗談よ。苛めてごめんね」 そう言って小さく舌を出した夏樹に腕を引かれ、達也は目にも眩しい女性水着の森へと迷い込んだ。 「ねえ、たっくんだったら、私にどんな水着を着せたい?」 夏樹はハンガーに掛かった極彩色の水着を、片っ端から引き出してはまた元に戻して訊いてくる。 どうにも気に入った物が無いらしい。 「ええっと……夏樹さんの趣味に合うのを選べば……」 「私はたっくんの好みを訊いてるの」 実を言うと、気になっている一着があった。 「じゃ、じゃあ……これ……とかどうです?」 手にとって見せた水着は、股布の激しく切れ上がったバリバリの競泳タイプだった。 日々の鍛錬で絞り込まれた夏樹の肉体には、華美な物よりもスパルタンな競泳水着の方が似合うと思ったのだ。 「なるほど。こういう身体のラインがモロに出るタイプが好きなのね。飾り気は無いけれど、でも、誤魔化しが効かない分、着る人間のプロポーションが物を言う……か。良いわ、相手にとって不足無しよ。これを試してみる」 達也の見繕った競泳水着を手に、夏樹はにやりと凄味のある笑みを浮かべ、試着室へと歩き出した。 「な、夏樹さん……買うんじゃないんですか?」 「この手の物は一度試着してから買うのが常識よ。サイズのこともあるし、実際に着てみないと似合うかどうかなんてわからないでしょ。せっかくたっくんが選んでくれたんですもの。これが私に似合うかどうか、責任もって決めてもらうわ。予め言っておくけど、着替えてる間にいなくなったりして、私に恥をかかせたら、後がひどいわよ?」 完全なる恫喝だった。 達也の返事も聞かず、夏樹は試着室のカーテンの向こうに消えてしまう。 一人取り残された達也は、暇そうにしている女性店員の視線が気になって気になって仕方が無かった。 かといって、予め釘を刺されているため、逃げる訳にもいかない。 (どうしてこんなことになったんだろう……) 本屋での立ち読みが、このような事態を招くとは夢にも思わなかった。 途方に暮れている間も、カーテンの向こうで夏樹は着替えの真っ最中だ。 身体に張りついたノースリーブをゆっくりと剥ぎ取り、殊更高々と掲げて見せる。 黒いノースリーブはカーテンの上でひらひらと揺れ、達也の目を釘付けにした。 (夏樹さんは今、このカーテンの向こうで水着に着替えているんだ。よくよく考えてみるとすごい状況なのかも……) 薄布一枚を隔てて夏樹のストリップショーが展開されていると悟り、達也は胸がどきどきしてしまう。 すると今度はカーテンの下から見える足元に、夏樹のヒップを守っていた白いタイトスカートがすとんと落ちてきて、さっさと取り除かれた。 (あ、あと残ってるのは上下の下着とストッキングだけだ。次に脱ぐのは……ストッキングか!?) 期待に応えるように夏樹はベージュの極薄ストッキングを脱ぎ始める。 ナイロンとふともものこすれ合う、しゅるしゅるという艶かしい衣擦れの音に背筋はぞくり震え、股間が落ち着かなくなって足をもじもじさせてしまう。 伝線させないよう丁寧に脱ぎ下ろされたストッキングは、片方ずつ爪先から抜き取られ、これで夏樹は下着姿になった筈だった。否が応にも期待は高まる。 (よし、次は……次はブラジャーの……) 「ねえ、たっくん。まだちゃんとそこにいる?」 カーテン越しにいきなり話しかけられ、飛び上がるほど驚いた。 「は、はひっ……い、いますっ!」 「そう、よかった。じゃ、私、これからブラを取るから楽しみにしていてね」 下心を思い切り見透かされ、達也は絶句する。 やがてパチリとホックの外れる音が聞こえ、ノースリーブの時と同様、カーテンの上に紫色のシルクブラが堂々とはためいた。 さすがに焦って、達也は周囲を見回し、カーテンに近づいて小声で注意する。 「ちょっ……ちょっと夏樹さん、まずいですって。他の人に見られたら、誤解されますから……」 「誤解って、どんな?」 しれっと言う夏樹とは正反対に、ひどく口ごもりながら達也は答えた。 「いや……その……夏樹さんと僕が……こ、公然猥褻プレイをしていると……」 「あら、違うの?」 「違うに決まってるじゃないですか! 僕、もう帰りますよ!?」 「そう、じゃ、私は痴漢よーって、叫んじゃおうかしら?」 「ジョークです。今のはちょっとしたアメリカンジョークです」 「それは良かったわ。私、日本人だからアメリカンジョークはわからないの。次からは気をつけてね」 「……はい」 完全にやり込められて達也はがっくりと肩を落とす。 「さて……たっくんの御期待に応えて、私、これからパンツを脱ぐわ。ちゃんとそこで見ていてね」 「ぼ、僕……期待なんて……」 抗議する口とは裏腹に、ごくりと喉を鳴らして、食い入るようにカーテンの向こうを凝視してしまう。 滑らかな衣擦れの音と共に脱ぎ下ろされ、思わせぶりにゆっくりと爪先から抜き取られたショーツは、紫のシルク生地で編まれ、ふんだんにレースのあしらわれた豪奢でセクシーな下着だった。 「たっくん、私もう何も着てないわ、裸よ。私の裸、ちゃんと想像してくれてる?」 「えー、あー……はい……」 夏樹の悪戯な質問に達也は生返事を返す。言われなくても妄想全開だった。 脳裏には、水泳でシェイプアップされ、ギリシャ彫刻のヴィーナスもかくやという、完璧なプロポーションを誇る肉体がありありと浮かんでいた。 (や、やばっ……また勃ってきちゃった) 毎日のように家に遊びに来ているので、美雪同様、伸ばせば手を触れられる距離にいるのだけれど、決して拝む機会はない。 そんな夏樹の肉体は達也にとって近くて遠い存在であり、グラビアなどで容易に鑑賞できる、見ず知らずなアイドルのヌードとはプレミアのつき方が違った。 ズボンの膨らみを目立たせまいと前屈みになり、脚をもじもじさせて事の成り行きを見守る。 すると、試着室のカーテンの隙間から、音も無く白い手が伸びて来て、唐突に一枚の布切れを渡してくる。 反射的に受け取ってしまったそれは、夏樹が脱いだばかりのシルクショーツだった。 一瞬、状況を飲み込めずに、達也はまじまじと広げて凝視してしまう。 照明に照らされ、優雅な光沢を湛えた紫色のシルクショーツは、前身ごろにクロッチのすぐ近くまで透かしレースの施された、着用時にはおそらく恥毛が見えてしまうだろう、際どいデザインの一品だった。 「私の裸を想像して、勃起してくれた御褒美よ。大事にしてね」 「わぁっ!」 慌ててショーツを丸め、学生服のポケットに無理やり捻じ込む。 それから誰かに見られなかったかと、恐る恐るあたりを見回した。 幸い、女性店員がこちらを一瞥しただけで、これといった問題は起きなかった。 ほっと一息吐いて、胸を撫で下ろしていると、再びカーテンの隙間から白い手が伸びてきて、人差し指で達也を誘った。 「えっ……」 それは、こっちへいらっしゃい、という明らかな誘惑のゼスチャー。 「あ、あの……夏樹さん?」 返事はない。 沈黙の返答は、中に入って来い、との夏樹の厳然たる思し召しだった。 であれば、断るという選択肢はあり得ない。 レジカウンターに立つ女性店員が別の客に話しかけられたのを見計らい、達也は意を決してカーテンの中へと首を突っ込んだ。 「ふわぁ……な、夏樹さんっ……」 カーテンの向こう、首を伸ばせば鼻の先が触れそうな距離に立っていたのは、想像と寸分違わぬ、夏樹のパーエフェクトボディ。 いつの間に着用したのか、すでに水着姿だった。 「どう? 似合うかしら」 夏樹は両手で前髪を掻きあげ、高々と肘を持ち上げてポーズを決めた。 試着室を被う三方の壁は鏡で出来ており、その鏡すべてに、誇らしげにポーズする夏樹の肢体が映り込んで、達也は目のやり場に困ってしまう。 上から降り注ぐスポットライトを浴びて、競泳水着の化学繊維は虹色に輝き、もともとスレンダーな身体は更に細く絞られ、清流を泳ぐ若鮎のようにしなっていた。 「に、似合います……すごく」 ごくりと唾を呑み込んで、答えるだけ答えておきながら、しかし達也は夏樹の肉体を鑑賞するので手一杯だった。 普段であれば垣間見ることすら叶わない秘所が、目の前で堂々と披露されている。 これを見逃す訳にはいかない。 引き締まった純白の二の腕の下から、綺麗に剃毛された腋が晒されていた。 照明を受けて輝く腋の下は、周囲の肌に較べて色素が沈着し、少しだけ赤茶けて見えた。それにこれだけの近距離である。よくよく見れば、やはり腋毛の剃り跡が薄く残っていた。 (うぁっ……夏樹さんの腋……なんていやらしいんだ。なんなんだろう、この不思議な感覚は……) 服の上からではわからない夏樹の生々しい秘密、股布の奥に隠された女性器の割れ目やヒップの中央に穿たれたアヌスの窪みなど、見てはいけない女の秘境を直接見てしまったような、強烈な背徳感に襲われた。 後頭部をハンマーで殴られたように、鈍い衝撃が頭の芯に響き渡り、興奮と緊張に膝はがくがくと震え、歯を食い縛って耐えなければ意識が遠退いて、そのまま崩れ落ちてしまいそうだった。 (そ、それに……) 大きすぎず、小さすぎず、きっと直接であればもっと格好よいであろうバストも、水着の中にバランスよく収まって、メーカーロゴを魅力的に張りつめさせていた。 さらに下へと目を移せば、まずコーラ瓶のようにくびれたウエストに目を奪われる。 密着性の高い競泳水着は隙間なく肌に張り付いて、子を持つ女性とは思えないボディラインをこれでもかと強調し、化学繊維を通して引き締まった腹筋の筋やへその窪みまでが薄っすらと透けてしまい、裸身でいるよりもよほどいやらしく見えた。 タイトスカートの裾から一部覗けていたふとももさえ今や剥き出しとなり、鍛えられた筋肉の上に薄く脂肪の乗った、思わず齧りつきたくなるような美味しそうな肉感を漂わせている。 そんなふとももの付け根、つい先ほどまでショーツに優しく包まれていたであろう恥丘の膨らみは、ほとんど伸縮しない競泳水着のクロッチによってきつく圧迫され、生地が食い込まんばかりに切れ上がって、中央に走るクレヴァスの影すら浮き出していた。 (あぁっ……この見えそうで見えないところがもどかしい。それにしたって、なんてエッチな身体してんるんだ、夏樹さんは) 限界まで薄く作られた化学繊維一枚に身を包んだだけで、後は素っ裸と変わらない。 そんな夏樹を前にして、興奮とじれったさに地団駄を踏みそうになる。 これは本当に現実なのだろうか。夢見心地の達也が恍惚と桃源郷をさ迷っていると、突然の一声に打ち据えられた。 「さっきから一体、どこを見てるのよ」 いつのまにか夏樹は腋を閉じ、腕組をして仁王立ちになっていた。 肉食獣の険しい眸が、間抜けな草食動物のどんぐりまなこを睥睨してくる。 「ひ、ひぃっ、ごめんなさい……」 思わず首を縮めて達也は謝った。さすがに視線が露骨過ぎたのだろうか、夏樹は本気で怒っているのだろうか。頭の中でぐるぐると思考は回転する。 「なんてね、うそうそ。男が見たがる場所なんて、いつの時代も一緒だもの。許してあげるわ。それよりほら、私の水着姿がいくらセクシーだからって、いつまでも見惚れてないの。外から見たら、通報ものの怪しさよ」 にっこり微笑む夏樹の笑顔に胸を撫で下ろし、達也はカーテンから首を抜こうとした。 「そ、そうでした。ごめんなさい。じゃあ、そろそろ……」 「そうよ。早く中に入ってらっしゃい」 「はい、わかりま……えぇっ!?」 「あら、なかなか良い乗り突っ込み。でも、ちょっとタイミングが早いかしら」 達也のリアクションに呑気な駄目出しをしつつ、夏樹は続ける。 「私の小さな胸も、こうしてきつい水着を着るとけっこう目立つわね。さぁ、どうする? たっくんは中に入ってこの胸に触るの? それとも尻尾巻いて逃げ出すの?」 競泳水着の上から両手で乳房の膨らみを揉みし抱いて訊いてくる。 濃紺色の化学繊維が張り付いた、形の良いバストはぐにゃりと潰れ、指先が食い込んで見るからに柔らかそうだった。 「ちなみに据え膳を食わないような意気地無しには……」 「い、意気地なしには?」 「死……あるのみっ!」 「なんで死ななきゃならないんですか!?」 「冗談よ。それにしても、まったく、たっくんはへたれねぇ。こうして恥を忍んで女が誘ってるんだから、素直に言うこと、聞、き、な、さ、いっ!」 何処が恥を忍んでいるのかわからないが、兎に角、業を煮やした夏樹の手がおもむろ伸びて来て、学生服の襟を掴んだかと思うと無理やり力一テンの中へ引き込まれた。 バランスを崩した達也は、靴を脱ぐ暇も無くつんのめり、英語で「速度」と書かれた夏樹の胸に思い切り顔を埋めてしまう。 「うぷっ……」 香水の淡い芳香が鼻腔いっぱいに広がった。 小振りではあっても、充分に柔らかな乳房の膨らみは両頬をしっかりと包み込む。 化学繊維のさらさらした肌触りと、その向こうから染み出してくる夏樹の体温がうっとりするほど心地良かった。 (あぁっ……僕はいま、夏樹さんを抱き締めてるんだ。夏樹さんの身体、柔らかくて、暖かくて、いい匂いがする。出来るなら、ずっとこうしていたい……) 驚くほどくびれたウエストにすがりつき、つるつるする化学繊維越しに、思わず乳房に頬擦りしたまま、達也はすっかり固まってしまった。 頭半分背の高い夏樹も、思った以上に身体は華奢で、まして女性を抱き締めるなど初めての経験なので力加減もよくわからず、ウエストを抱き締める腕は落ち着かない。 しかも腕のすぐ下に感じる、ヒップの膨らみを撫でてみたくて仕方がなかった。 「いいのよ。触っても」 「えっ……」 「私のお尻に触りたくて、ウズウズしてるんでしょう?」 夏樹はすべてお見通しらしい。図星を突かれて達也は思い切り赤面したものの、胸に抱き締められている為、顔を見られずに済んだのは幸いだった。 (さ、触りたい……でも……) 無理やり誘惑される形でこの状況に至ったのだから、ここまではまだ言い訳も出来る。 しかし、一度でも自分の意思で触ってしまえば話は別だ。 (いいのかな? これってママを裏切ることになるんじゃ……) 確かに夏樹を好きだけれど、でもやっぱり本命は美雪なわけで、しかもこんな……、 「こんな中途半端な気持ちのままで夏樹さんの身体に触るのは、失礼なんじゃないか……ってところかしら?」 「はわっ……な、なんでそれを……」 心の呟きの先を言い当てられ、達也は動揺した。 「思い切り声に出てたわよ。たっくんは嘘をつけないタイプね」 「そ、そんな馬鹿な……」 自分の間抜けさに愕然となる。 「でも、私はそんなたっくんが好きよ。母親を大事に思う少年は魅力的ですもの。だから私のことは気にしないで。美雪さんについては内緒にしておけば大丈夫。それとも、何から何まで美雪ママに報告しないと、たっくんは不安で仕様がないのかしら? エッチな小説を立ち読みしてるのだって、話してはいないんでしょう?」 ほんの少しだけ意地の悪い物言いでマザコン振りを指摘され、達也はたじたじになってしまう。 「そ、それは……そう……ですけど」 「その手の話はしても美雪さんを困らせるだけよ。何事も経験だし、息子が大人の階段を上っていくのは確かに複雑な想いだけど、でも、嫌がる母親はいないわ。だって、いつかは必ずその日がやって来るんですもの。だから、遠慮せずにいらっしゃい」 すがるように顔を見上げた達也に、にっこり笑って夏樹は言った。 (ママ、ごめん。今でもママが一番好きだよ。だから、許して) 心の中で美雪に謝ると、達也は羞恥心を紛らわせる為に再び強く乳房に顔を押し付け、恐る恐る腕を緩めて両手でヒップの膨らみを撫でてみる。 「こ、これが……夏樹さんのお尻……小さくてぷりぷりしてる……」 二つの肉丘を掌に達也は恍惚と呟いた。広げた指に収まりそうなヒップのサイズが、恐いもの知らずな性格と正反対で、なんだか可愛らしい。 水泳で程好く鍛えられた果肉は、水にさらしたこんにゃくの弾力で指先に吸いついてくる。力を入れて両の肉丘を寄せ上げると、尻の谷間に沿って水着は深い皺を作り、少女のように小さなヒップは、転じて巨大な桃を連想させた。 その種穴にも似たアヌスの窪みを目指して、達也は指先で皺をなぞる。 添えた掌の真中を走る、競泳水着の際どいハイレッグラインが、ヒップの曲面を正確にトレスしながら、ふとももの付け根へと吸い込まれていく。 (ここから先は、夢にまで見た夏樹さんの……) 中央の皺と左右から絞り込まれるレッグライン。三本の導線に導かれて、達也は背後から夏樹の股間へと指を滑り込ませた。 「あぅっ!……」 コの字に曲げた指先でクロッチの盛り上りを引っ掻いた途端、小さな悲鳴を上げて夏樹は弓なりに背筋を反り返らせる。 慌てた達也は思わず手を引っ込めてしまった。 「ご、ごめんなさいっ。僕、何か間違いを……」 「いいえ、私の方こそご免なさいね。そこ触られるの久しぶりだから、身体が勝手に反応しちゃったの。だって、たっくんの触り方、すごく優しくてエッチなんだもの」 そう言って達也の頭を撫でる夏樹の声は、餌をねだる猫のような、今まで聞いた試しのない甘ったるい声だった。 「久しぶりって……でも、孝太郎さんが……」 達也の父親は出張ばかりでほとんど家に居ないが、夏樹の夫はそうではない。 朝、家を出る時にばったり出くわして、挨拶することもしょっちゅうだった。 「結婚して十五年も経つとね、夫は妻の身体に飽きて何の興味も抱かなくなるのよ」 さっきまでの上機嫌が嘘に思えるほど、あまりに寂しそうな口調だったので、達也は上目遣いで夏樹の顔を見上げてしまった。 「そ、そんなのって……」 とても信じられなかった。夏樹のような美女を妻に出来れば、それだけでもう、人生バラ色だろうに。もし自分が夏樹の夫なら、触るどころか、毎晩喜んで犬のように舐めてあげるのに。 「こんな時に愚痴を聞かせるなんて、私も焼きがまわったわね。ごめん」 「い、いえ……でも、僕……どうしたら……」 「フフフッ、どうしたらもなにも、私にはこれでもう充分なのだけれど」 夏樹は笑いながら、達也の股間に手を添えた。 「うぅっ!」 学生服のズボンの中で激しく屹立し、敏感になったペニスにびりりと電流が走る。 腰から下が蕩けるような快感に包まれ、達也は危うく膝から崩れ落ちそうになった。 「こんなに硬く勃起させて……これは、たっくんが私の身体に欲情してくれた証でしょう? 違うの?」 「ち、違いませんっ」 「なら、続けて。私の身体、今はたっくんだけものよ。女にここまで言わせておいて、恥をかかせないで。私もたっくんの身体を楽しませてもらうわ」 達也の目をじっと見詰めたまま囁くと、夏樹はズボンのチャックを引き下ろしていく。 そして、ペニスの弾力で半ば飛び出すように弾けたトランクスの膨らみを、両手で優しく包み込んだ。 「あら、あら、やっぱり若い子は反応良いわね。ちょっとお尻触らせただけで、先っぽ濡らしてトランクスぬるぬる。自信つくわぁ」 夏樹はカウパーでぬめるトランクスの生地を亀頭に擦りつけ、尿道口から伸びる包皮の筋を優しく爪弾いてくる。 「うぐぅっ……そ、そんなことしたら僕……すぐに射精ちゃいますって……」 膝をぶるぶる震わせながら、達也は射精の予兆を我慢する。腰まわりは急激に熱くなり、痺れて感覚の鈍っていく下半身は、自分の身体ではないみたいだ。 「ほらほら、どうしたの学生さん。一発抜いたらサービスタイムはお終いよ。お漏らしする前に、少しでも悪戯しておいた方がいいんじゃない?」 耳元で夏樹はわざと明け透けな台詞を囁いた。性格からして何処まで本気なのかよくわからない。その妖艶さに心臓が口から飛び出しそうになる。 「ぼ、僕の知ってる夏樹さんは、そんな下品なこと言わない筈なのに……」 場末の娼婦みたいな物言いに抗議しながら、けれどもペニスはより一層硬く勃起していく。その紛れも無い興奮の証を夏樹が見逃す筈もなかった。 「でも、嫌いじゃないんでしょう? こういうの。おちんちんびくびくいってるわよ。女はね、幾つも別の顔を持ってるの。たっくんみたいに愚図な子は、私の手の中でとっととイっておしまい」 悪女チックな掛け声と共にトランクスの穴を広げると、夏樹はバナナの皮でも剥くような手つきでペニスに穴を被せ、器用に中身だけを引っ張り出した。 濡れた亀頭が外気に晒され、ひやりとする。すぐさま夏樹の指が絡みつき、手拭いを絞るようにペニスを圧搾し始めた。 指は根元を締めつけ、掌は茎を絞り、両手首の滑らかな皮膚は亀頭をやんわり挟み込んで、雁首と尿道口をぬらぬらと擦り立てる。 掌の温もりに包まれ、その柔らかな感触と滑り具合に、そして夏樹の駆使する人妻のテクニックに達也は目を白黒させた。 「あっ、あっ、す、すごいっ……こんなことって……」 「いつも美雪ママの下着を悪戯しながら、こんな風にしこしこオナニーしてたんでしょう? 今日からは私が手伝ってあげるわ。自分でするよりずっと気持ちいい筈よ」 「そ、そんなっ……僕、ママの下着なんて……」 母親の下着をくすねてオナニーしているだなんて、死んでも夏樹に知られる訳にはいかなかった。 「あら、本当かしら? こうやってお股の所に先っぽ擦り付けて、ひぃひぃ喜んでたんじゃないの?」 夏樹は握ったペニスの先端を自らの股間に宛がい、恥丘の膨らみに擦りつけた。 中央のスリットをなぞるようにペニスを幾度も上下動させながら、夏樹の腰がゆっくり前後にグラインドすると、尿道口から漏れ出す先走りの液は、淫裂の筋に沿ってクロッチに縦一本の黒い染みを描いていく。 濡れて滑りのよくなった化学繊維に、今だ発育途上の敏感な粘膜を摩擦され、達也は亀頭の薄皮を剥き取られるような鋭い性感に思わず呻いた。 「う、嘘ぉっ……夏樹さんのあそこに僕のが擦れてるぅっ」 クロッチに守られた恥丘に亀頭が潜り込み、最も敏感な皮膚で直接味わう、指先では感じ取れない卑猥な弾力に、今にも腰が砕けそうになる。 「ここに入れたかったんでしょう? 美雪ママでなくて悪いけれど、私のここだって、結構具合いいのよ」 一層激しくペニスの上下動を繰り返しながら、夏樹は圧迫を強めてクロッチ越しに無理やり亀頭を挿入しようとする。 「だ、だめだよ、夏樹さんっ。先っぽ折れちゃうってばっ」 痛みを感じる寸前の力加減に、少しマゾっ気のある達也は悶絶しそうになった。 そして、夏樹の衝撃の一言が止めを刺す。 「ところで、ねえ、たっくん。私のパンツは良い匂いだった?」 「はひっ!?……」 「勇介と二人で私と美雪さんのパンツを交換したでしょう? 全部お見通しなのよ。私のお気に入りのTバックショーツ、今はたっくんのとこにあるのよね」 夏樹の口からぽんぽん飛び出す質問に、すっかり固まったまま達也は返事も出来ない。 「別に怒ってる訳じゃないのよ。ただ聞かせて欲しいの。私の匂いでオナった感想を。たっくんが勇介にくれた美雪さんのパンツは洗ったやつだったけれど、私のは違うわよね。私の汚れたパンツの匂いはどうだった? もしかして、臭かった?」 「そ、そんなこと言えるわけ……」 言い終えるより早く夏樹の手に力がこもり、恥丘に減り込んで捻じ曲がった亀頭に痛みが走った。 「あぐぐぐっ!」 「ちゃんと説明してくれないなら、このまま先っぽ折っちゃうわよ? 憐れたっくんは童貞より先におちんちんを失うってわけね」 ペニスへの圧迫を続ける夏樹は、片手で顎を掴んで達也の顔を上向かせると、冷たく笑った。 もはや瞳を見つめ返す勇気すら無く、達也はすぐ目の前に迫った紅い唇を凝視したまま、半泣きで自分の犯行を白状する。 「Tバックに触るのは初めてだったから……ほとんど紐みたいなデザインのいやらしさに驚きました。こ、香水に混じって夏樹さんの身体の匂いがして……」 自らの醜態を告白するのが嫌でつい口ごもってしまう。 体中の血液が沸騰したみたいに熱くなり、今すぐこの場を逃げ出したかった。 「匂いがして……それからどうしたの?」 夏樹に促され、達也は渋々、先を続ける。 「あ、アソコに当たる部分とか、お尻の穴に当たる紐の匂いを嗅いでみたり、少しだけ汚れて黄色くなってる染みを舐めたりしてたら頭の中が真っ白になって……その……気がついた時には射精ちゃってました」 美雪の物とは全く異なる趣きの黒いTバックショーツを手に、夢中で自慰に耽った夜のことを思い出して達也は身震いする。 現役スポーツウーマンである夏樹は新陳代謝が良いせいなのか、美雪に較べてかなり体臭がきつい気がした。 「フフフッ、堪らないわぁ。たっくんの口から直接オナニーの解説を訊けるなんて思わなかった。そうなの、たっくんは私のアソコの匂いや、お尻の穴の恥かしい匂いでイッたのね」 「は……い……」 「念の為に聞いておくけど、まさか私や美雪さん以外の、知らない女の下着になんて……手を出してないわよね?」 にっこり微笑み、有無を言わさぬ迫力で訊いてくる夏樹は、夫の浮気を疑う恐妻そのものだった。 「は……い……」 壊れたボイスレコーダーのように、達也は消え入りそうな声で繰り返し答える。 すると満足したらしい夏樹はニンマリほくそ笑んで小さく舌舐めずりし、そのまま濡れた唇で達也の口を塞いだ。 「むぐぐっ……」 粘膜と粘膜とが溶け合うような濃厚なキスに、達也は瞼を閉じるのも忘れて息を呑む。 夏樹は構わず舌を挿入し、獲物を玩ぶ蛇の舌使いで、少年の臆病な舌を絡め取った。 (夏樹さんの舌が……く、口の中に入ってくるっ。僕、夏樹さんとキス……してるどころか、舌を舐め合ってるんだ。もう死んでもいいかも……) ファーストキスの相手が夏樹とは、何という幸運だろう。しかも初めから、これ以上ないくらいのティープキス。 夏樹の唇はうっとりするほど柔らかく、舌伝いに味わう唾液は粘度が薄くさらりとしていた。隙間なく吸いついた唇が蠢くたびにチュクチュクと卑猥な液音が鳴り、口内に甘酸っぱい夏樹の味が溢れて鼻の奥がじんと痺れる。口腔を這い回る舌のぬるぬるとした感触に、脳みそが今にも溶け出しそうだった。 「うっ!……」 突然、腰の中心に火が点り、全身へと一気に燃え広がっていく。 母親の乳房を吸う赤ん坊のように、夢中で夏樹の唇を求める達也の下半身で、堪える間も無くペニスが弾けた。 「うっ! うっ! うっ!」 括約筋の痙攣によって搾り出された精液は、狭い尿道を一気に押し広げ、血液の流入で膨張し切った亀頭の先から、間欠泉さながらに噴き出した。 電撃にも似た射精の脈動が全身を貫くたびに、背骨の蕩けそうな強烈な快感に目が眩む。 首の後に重い鈍痛が走り、一瞬、まばゆい光が眉間の奥を刺し貫いて消えた。 それからどれだけの間、唇を重ねていただろう。 「美雪さんには悪いけど、たっくんのファーストキスは私がいただきね」 目をらんらんと輝かせて夏樹は囁き、引き抜いた舌の先で達也の唇をひと舐めして、長い長いファーストキスは終わりを告げた。 達也は声を発することも出来ず夏樹の胸に突っ伏して、喉に穴でも空いたようにひゅうひゅうと不気味な呼吸を繰り返す。 「すっかり大人しくなっちゃったわね。初めからディープキスなんて刺激が強過ぎたかしら……って、あら?」 ようやく夏樹は気がついた。 「ちょっと、ちょっと……キスだけで射精しちゃったの? もうお仕舞い?」 慌てて見下ろした股間では、打ち上げられた精の迸りが大輪の華を咲かせ、射精の脈動が今まさに収まったところだった。 真っ白なゲル状の精液が競泳水着のクロッチにへばりつき、飛び散った飛沫がふとももを伝って流れ落ちていく。 「ごめんなさい……」 夏樹の胸に頬を摺り寄せ、達也は謝るしかなかった。 「仕様の無い子ね。女性に無断で射精するのはマナー違反よ。たっくんが射精するところを生で見たかったのに……ねぇ、もう一回勃たせて」 いらついた様子の夏樹は厳然と言い放った。 「へ?」 「だから、もう一度勃起しなさいって言ってるの」 「だ、射精したばかりですよ。そんなの無理に決まってるじゃないですか」 達也のペニスは欲望を吐き出して、既にだらりと垂れ下がっていた。 「若いんだからもう一発くらい余裕でしょ。大丈夫よ、たっくんは匂いフェチの変態なんだから、今日は特別に腋の匂いを嗅がせてあげる。匂いだけよ、舐めたらオチンチン引っこ抜くからね。ほら、来なさい」 おもむろに右腕を持ち上げると、夏樹は制汗スプレーのコマーシャルみたいな格好で腋を露出させた。その一方で、だらけたペニスを掴み直し、怒りがこもっているせいなのか、かなり乱暴にしごき始める。 「あ、あうぅっ……」 射精直後の敏感なペニスを手荒く弄られ、こそばゆい快感が達也のふやけ切った下半身を駆け巡った。危うく腰が抜けそうになるが、夏樹の腋の匂いを嗅げる千載一遇のチャンスである。呑気に腰を抜かしている場合ではない。 達也は脚を踏ん張り、力いっぱい夏樹の身体を抱きしめると、腋に鼻を突っ込んだ。 「ふごぉっ」 鼻先をひくひく蠢かせ、深呼吸を繰り返す。 スポットライトの強烈な光に照らされ、夏樹の身体はじっとりと汗ばんでいた。 腋の下の窪みはすっかり蒸れて、汗と柑橘系の香水、そして夏樹自身の体臭が混ざり合った、甘酸っぱくもまろやかな匂いがした。 (鼻の奥から口の中まで、夏樹さんの腋の匂いでいっぱいだ!) 達也は危うく咽かえりそうになるが、夏樹に恥をかかせまいと必死に堪え、腋を舐めたい衝動にも耐えて、芳ばしい恥臭を嗅ぎ続ける。 「無理だなんて嘘ばっかり。もう完全に勃起してるじゃないの」 達也にとって夏樹の腋の匂いは、想像を遥かに超えた強烈な媚薬だった。 つい先ほど射精したばかりだというのに、馬鹿高い精力剤でも呑んだみたいにペニスは隆々と勃起していた。 「この棒の根元には青臭い精液がまだ一杯詰まってる筈よ。私の見てる前で全部吐き出しなさい」 サディスティックな笑み浮かべた夏樹は、ペニスに絡めた指をきつく絞って、一秒に一回の割合で包皮を力強く根元へと剥き下ろす。帰り道にしごき上げられた血流で、亀頭は見る見る真っ赤に充血し、張り裂けんばかりに膨張して、表面がぴりぴりと痛んだ。 「夏樹さんっ、夏樹さんっ……あまり痛くしないで下さいっ。もう、一回出してるんですから……」 達也はこれまでの自慰経験から知っていた。再び勃起はしても、ペニスは最初の射精で鈍感になっている為、二度目の射精はそう簡単には起こらないのだ。 今の調子でしごき続けられたら、射精する前にペニスがもげてしまう。 「なに甘ったれたこと言ってんの。これくらいの刺激に耐えられないようじゃ、セックスで美雪さんを悦ばすなんて無理よ。どうせ一回目はすぐに射精しちゃうんだから、長持ちする二ラウンド目はガンガンいくのが当然でしょ」 夏樹に愛撫の手を、いや、強制的に射精を促す、機械的ピストン運動を緩める気は毛頭無いようだ。 一刻も早く射精しなければ、と達也は焦る。さらに興奮を高める為、夏樹の腋を舐めたいと思ったが、下手に怒らせたら、それこそペニスをもぎ取られてしまうかもしれない。そこで達也は考えた。 「あっ、ちょっと、それはずるいわよ」 「僕、舐めてなんていませんよ。それに少しでも早く射精するためです。我慢してください」 突っ込んだ鼻の先とひょっとこみたいに伸ばした唇を腋の皮膚に密着させ、一心不乱に擦りつける。 汗をたっぷりと分泌した腋はしとどに濡れ、鼻先も唇もつるつると滑った。 「わ、私っ……腋を責められると弱いのよ」 「みたいですね。夏樹さんのここ、こんなに濡れてる」 達也は反撃とばかりに夏樹のクロッチに指を宛がい、クレヴァスの窪みに沿って出来た染みを確認すると、化学繊維を通して滲み出した粘液に指先を馴染ませ、こんもり膨らんだ恥丘の真中をこれでもかと圧迫した。 「んぁっ! く、クリが……クリが潰れちゃうっ!!」 図らずも達也の指は、勃起したクリトリスをクロッチ越しに押し潰したらしい。 夏樹の喉から、盛りのついた牝猫の咆哮が絞り出される。それを表の店員に聴かれまいと、夏樹は空いている掌で懸命に唇を塞いだ。 調子に乗った達也はヒップの谷間からもう片方の手を差し入れ、か細いクロッチを鷲掴んで紐のように纏めると、思い切り引っ張り上げた。 「や、やめなさいっ! そんなことしたら、く、食い込むっ! お尻に! お尻の穴に水着食い込んじゃうぅっ!!」 噛み殺した叫びと共に、ペニスを掴む夏樹の握力も増し、達也もしくは夏樹が果てるか、ペニスあるいはクリトリスとアヌスが損傷するかのマッチレースとなった。 「うっ!……」 「うっ!……」 達也と夏樹の身体が断末魔の痙攣に震えたのはほとんど同時だった。 一見して余裕を装っていた夏樹ではあったが、水着姿で興じる達也とのペッティングは、餓えた熟女の肉体に悦楽という名のダメージを想像以上に与えていた。 その証拠に、達也の掴んだクロッチは今や絞れば滴るほど愛液に濡れ、震える白いふとももの内側を、幾筋もの雫が流れ落ちていく。 一方、達也にも二度目の射精が迫っていた。鈍っていた性感は徐々に戻り初め、ペニスの根元からもりもりと盛り上がった射精感は、暖かな春風となって達也の腰を砕き、身体の隅々まで吹き抜けていく。 「な、夏樹さんっ……射精ますよ! 見ていてくださいっ、僕の射精するところ!!」 「わ、私も……イクわ……もう駄目なの、我慢できない。ね、たっくん、約束して。これからはいつでも私が抜いてあげるから、知らない余所の女になんか手を出さないって約束して!」 切なげな夏樹の掠れ声に達也がこくりと頷いた瞬間、二人は身体の芯を突き上げる絶頂感の大波に呑み込まれた。 「あぁーっ!!」 「イクーッ!!」 互いにきつく抱き締め合った二人の、恍惚の叫びがシンクロした。 びくんびくん痙攣する夏樹の身体から、オルガスムスのバイブレーションがダイレクトに伝わってくる。 その波動を全身に感じながら、達也は夏樹のイク姿を目に焼きつけようとした。 唇を噛み締め、眉間にきつく皺を寄せた夏樹のイキ顔は絶頂感に歪み、それでも虚ろな瞳でペニスから迸る白い噴水を凝視していた。 その表情は決して美しいものではなかったけれど、見た男を一発で勃起させ、たちどころに射精させてしまうくらい、卑猥さに満ちていた。 やがて苦悶の表情は音も無く崩れ、柔和な笑みを浮かべて唇が震えた。 夏樹は満足げに瞼を閉じて、心地良いオルガスムスの余韻に浸りながらそっと囁く。 「この水着、染みをつけちゃったから買うことにするわ。でも、今からプールに行くのが楽しみよ。たっくんの精子が染み込んだ水着で泳いだら、きっと別の意味で濡れちゃうわね」 ひどく露骨で挑発的な言葉に、堪らず腋の下から離れた達也は、夢中で夏樹の唇を求める。 互いの股間から立ち昇る、生臭い情事の匂いが狭苦しい空間に飽和していた。 二人分の体温でサウナのようになった試着室の中、達也と夏樹は腋の汗と唾液をたっぷり混ぜ返しながら、いつまでも仲睦まじく舌を絡ませ合うのだった。 |