罪母

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第ニ章



「ねえ、あそこに入ろうよ」
 セルフスタンドで給油を済ませて車内に戻ると、助手席の巧が闇に浮かぶモーテルの電飾看板を指差して言った。
「あなたみたいな子供を連れていたら入れないわ」
「やってみなくちゃわからないよ。僕、お腹空いたし、香苗さんだってシャワー浴びたいでしょ?」
「それは……そうだけど……」
 確かに空腹だったし、身体も汗に塗れていた。
 それに何より、汚れた下着を交換したい。
 一晩中、走り続ける訳にもいかないので、香苗は巧の提案を試してみようと思った。
 黄色い半透明ビニールの暖簾をくぐって地下に降り、駐車場の隅に車を停めて、エレベーターでロビーに上がる。
「へぇ、こうなってるんだ。面白いね」
 巧はシャンデリアの掛かった天井や、光り輝く部屋の一覧表を見て喜んだ。
 幸い窓口が無いタイプのエントランスだったが、監視カメラでしっかり見られている筈なので、あまりぐずぐずしてはいられなかった。
「好きな部屋を選んで良いわよ」
「僕が選んでいいの?」
 黙って頷くと、巧は嬉々として部屋の写真がはめ込まれた電光掲示板を見まわし、高くも安くも無い部屋のボタンを押した。
 マイクか何かで咎められるかと思ったが、ルームキーは難無く取り出し口に落ちて来た。
「行くわよ」
 ルームキーを手早く掴んで、再びエレベーターへ向かう。
 巧が選んだのは505号室で、モーテルの最上階にある部屋だった。
 広くはないエレベーターの中で、巧は操作パネルのデジタル表示がカウントアップされて行くのをじっと見つめている。
 そして、おもむろに訊いてきた。
「こういう時、普通はどんな話をするものなの?」
 答え難い質問に、香苗は質問で答えてしまう。
「お母様と来たことは?」
「そんなの誰かに見られたら大変じゃない。家ならいつでも二人きりだもの」
「そ、そうね……」
「で、どうなの?」
 飽くまで返事を訊きたいらしい。
「大抵は二人とも黙ったままよ。よほど若くて、来るのが初めてなら、少しははしゃぐかもしれないけれど」
「二人とも、どきどきしたまま黙ってるんだ。これから部屋ですることを想像しながら。それって、結構良いよね。わざわざ、こういう場所に来てするのは、その緊張感を味わうためなのかな……」
 巧は他人事のようにひとりごちる。
 その表情から、好奇心以外の感情は読み取れなかった。
 やがてエレベーターは五階に着き、ドアが開く。
「わぉっ……」
 巧が驚いたような、面白がっているような声をあげた。
 開いたドアの向うに、帰りの客が立っていた。
 四十代と思しきサラリーマン風の男と、私服を着てはいるものの、どうみても女子高生にしか見えない少女のカップルだった。
 巧の不躾な反応に、怯えた表情を見せる中年男だったが、それとは対照的に、少女は鋭い目つきで香苗を、巧ではなく香苗を睨みつけてきた。
「ご、ごめんなさいね」
 反射的に謝り、巧の手を引いて外に出ると、入れ替わりに二人はエレベーターへと乗り込んで、さっさとドアを閉じて降りていった。
 ドアが閉じるその瞬間まで、少女は香苗から目を逸らそうとはしなかった。
「あれ、間違い無く援交だよね」
 こちらの気など知りもしないで、巧はくすくすと笑う。
「もうっ……あなたはしばらく黙ってなさい」
 香苗はぐったり疲れて巧の手を離し、先に立って部屋へと急ぐ。
 また別の客に会うのではないかと、気が気ではなかった。
 同じドアが立ち並ぶ廊下は思いのほか長く、ドアの前を通るたびに、中から女性の派手な喘ぎ声が聞こえてくる。

『あんっ! あんっ! な、中はやめてっ! 中で出さないって言うから、ゴム無しOKしたのに! 約束が違うじゃないの!!』

『う、後は駄目だってば! さ、裂けちゃう! 裂けちゃうから、いやぁあっ!!』

『おじさんのおちんちん、すっごく気持ちいいよ! ねえ、もっと奥まで突いて! そう、その調子! いいよ、中で出しても! あぁっ、亜美、飛んじゃうぅっ!!』

 耳を塞ぎたくなるような破廉恥な絶叫の数々に、香苗は室内で繰り広げられているだろう地獄絵図をつい想像してしまい、眩暈を覚えた。
 一方、巧はというと、今にも爆笑しそうな顔で必死に笑いを堪えている。
 それを横目で制しつつ、ようやく辿りついた505号室のドアにキーを突き差し、大急ぎで中に避難した。



「すごかったねぇ。まるで動物園みたいだったよ?」
 部屋に入るなり、巧はげらげら笑ってそう言った。
 言っている内容には賛同するが、取り合う気にはなれず、香苗はそそくさとベッドサイドの電話を取り、ルームサービスで二人分のサンドウィッチとコーラとウーロン茶を注文した。
「サンドウィッチがきたら、あなたは大人しく食べてなさい。私は先にお風呂を使わせてもらうわ。絶対に覗かないこと、約束よ」
 スーツの上着を脱いで、ハンガーにかけながら念を押す。
「了解!」
 ようやく笑いの収まった巧は、ふざけ半分で敬礼して見せた。
 窘める気力も無く、香苗は脱衣所に入り、ドアを閉める。
 そのまま浴室の床に降り、蛇口を捻って湯船に湯を注いで、再び脱衣所へ戻った。
 ほっと一息ついて洗面台の鏡を見つめると、そこにはひどく疲れた顔の自分が立っていた。
「私……こんな所で何をしてるのかしら?」
 モーテルに泊まるなんて、大学以来かもしれない。
 潔癖症の夫は、この手のホテルを毛嫌いしており、また、宿泊費を節約する理由も無い為、もし利用するとすれば、常に名の通ったホテルばかりだった。
「エレベーターですれ違ったあの女の子、間違い無く私を軽蔑してたわね。年甲斐も無く、若い男を買った寂しい中年女……そう思えば、軽蔑しても当たり前か……」
 少女の中で香苗は、自分を買った中年男と同類という結論に落ちついたのだろう。
 性欲の発散を目的とした場所で、巧とのカップリングはやはり異常であり、それを思えば、少女の出した結論に口を差し挟む気にはなれなかった。
 香苗は深く溜息を吐いてベルトを緩め、タイトスカートを脱いだ。
 ひっつめ髪からヘアピンを抜き、軽く頭を振ると、セミロングのウェーブヘアがはらりと広がる。
 再び鏡の中に目をやると、胸元のボタンを外したブラウスから、ブラジャーに覆われた胸の谷間が覗け、極薄のパンティーストッキングを通して透けるショーツは、巧の手に弄られた名残で少し脇によれていた。
「こんな恰好で悩んでも、説得力は無いわね。それに……」
 香苗はパンティーストッキングの股に触れてみる。
 案の定、そこは染み出した淫蜜に湿っていた。
「あんな子供にちょっと弄られただけで、こんなになるなんて……」
 指と舌だけでイカされたことがショックだった。
 香苗は巧の愛撫を思い出し、それを振り払うようにストッキングを脱ぎ去ると、折り畳んで脱衣籠のスカートの上に乗せた。
 汗ばんだふとももがエアコンの冷気に晒され、背筋がぶるりと震える。
 蒸れた股間はむず痒く、止せば良いのにショーツを脱いでクロッチを確めてしまった。
「いったい、なんてことなの……」
 手にしたレースショーツのクロッチは、汗と恥垢に汚れ、淫蜜に濡れて、見るも無残な状態になっていた。
 生地が白いため、黄ばみが目立ち、クロッチの中央付近に出来たアーモンド型の染みは、ほとんどオレンジ色に近づいて、洗っても落ちないのではないかと、心配になるほどだ。
 香苗は眉をひそめて目を背け、汚れたクロッチを隠すように、ショーツを念入りに折り畳むと、脱衣所から続きになっているトイレの汚物入れに棄てた。
「もっとしっかりしなくちゃ」
 鏡の中の自分に語り掛け、手早くブラウスとブラを脱いで、バスルームに入る。
 湯船にはまだ半分ほどしか湯が溜まっていなかった。
 タイル壁に設けられた、ベッドルームへと続く小窓のカーテンは閉じられたままで、どうやら巧は言いつけを守って大人しくしているようだ。
「きっとあの子、後で私を抱こうとするわね」
 好きで抱かれる訳ではないけれど、逃れられないのなら、せめて女としてのプライドを保ちたい。
 香苗は先にシャワーで汗を洗い落としてから、真空パックを破って、備え付けのスポンジを取り出し、ボディ・シャンプーをたっぷりと染み込ませて、念入りに身体を洗い始めた。
 まずは腕を擦り、二の腕から肩へ、そして胸の谷間を撫でつける。
 ずっしりと重い乳房を片方ずつ持ち上げて、下に隠されていたあばら骨の垢を順番に落とした。
 車内で触れられ、しゃぶられさえした乳房には、巧の愛撫の余韻が残っているようだった。
 恐る恐る乳頭を擦ると、薄皮を剥き取られるような、ひりつく痛みが胸を刺し貫き、その後から甘やかな快感が全身を包み込む。
「はあぁ……ん」
 一人なのを良いことに、香苗は鼻の先から喘ぎ声の混じった、艶かしい溜息を漏らしてしまう。
 巧の指の感触が思い出され、身体の芯が急速に熱くなっていった。
「いけない……いけないわ、こんなのって。でも……」
 決して認める訳にはいかないが、気持ち良くなかったと言えば、やはり嘘になる。
 意思に反して陵辱を受けた筈なのに、肉体は巧の愛撫を嬉々として受け入れていた。
 香苗は湯に温められてすっかり敏感になった肌を撫でつけながら、巧がどんな風に自分を抱くつもりなのか、想像してみる。
「詳しくは訊けなかったけれど、亡くなったお母様としていたみたい。きっと手取り足取り教わったんだわ。そうでなかったら、あんなに慣れているわけがないもの」
 近親相姦という言葉は知っている。
 でも、実際にそれが行われているとは思いも寄らなかった。
「あの子は私に、お母様の代わりをして欲しいのかしら? どうやら私の胸をずいぶんと気に入ったようだけど」
 かつて母親としていた行為を、今度は香苗を相手に再現しようというのだろうか。
 巧に乳房を吸われる自分の姿を思い浮べ、香苗は乳頭を軽く摘んでこね回した。
「はぅんっ……」
 蕩けるような快感に背筋が震える。
 いつしか乳頭は硬くしこり、ぷっくりと膨らんでいた。
「あぁ……私……いやらしい女ね……」
 そう呟きながらも、指先は丹念に乳首を弄ぶ。
 空想の中の巧は生まれたばかりの赤ん坊みたいに無垢な表情で、出る筈も無い母乳を求めて乳房に強く吸いついてくる。
 空いている方の手が腹を撫でつけ、自然とふとものの付け根へ滑り降りていった。
「こ、こんなことしてるの、あの子に知られたら……私、もう言いなりになるしかなくなってしまう」
 ガラス窓とカーテンを挟んだ部屋では、今ごろ巧がサンドウィッチを食べていることだろう。
 そんなシチュエーションで自慰するなど、自分でも信じられない。
 それでも香苗は、自らを慰める指を止められなかった。
 たっぷりと塗りたくったボディソープの泡がローション代わりとなって、指先が割れ目を滑らかになぞる。
 指先に柔らかな肉びらを掻き分ける感触が伝わり、股間から熱風にも似た快感が胎内に吹き込まれて、四肢を焼き尽くしていく。
「き、気持ちいい……自分でしてこんなに良いのって……久しぶり」
 夫と身体を重ねなくなって以来、香苗は時折襲ってくる欲情の嵐を静める為、ベッドの中で密かに手淫していた。
 しかし、所詮は自慰であり、オナペットとして思い浮べる対象もいない。
 すぐ隣いるにも関わらず、自分に背を向けて眠っている夫など役に立つ訳も無く、漠然とした黒い影に、半ば強引に肉体を求められるシーンを想像しては、ショーツの中に忍ばせた指先を静かに蠢かし、溢れ出そうとする性欲を何とか誤魔化してきたのだった。
 だが今は、巧という明確な対象がいる。
 ともすれば数年来、妄想し続けてきた、自分を強引に求めてくる異性、それも、外見だけは少女のように愛らしい少年である。
 立場上、認める訳にはいかなくとも、実際は待ち望んでいた存在を得て、これまで抑えてきた欲望が一気に燃え上がった。
「や、やめて……そ、そこは駄目よっ……」
 乳首を夢中で吸っていた巧は、香苗の股に手を伸ばしてくる。
 肉唇を幾度もなぞり、やがてボディソープの滑りに任せて、指先を胎内へと挿入してきた。
「うっ!……」
 くぐもった呻き声をあげて、香苗は背を丸めた。
 つるつるとした膣窟の粘膜はイソギンチャクみたいに指を呑み込み、その内壁に生えた無数の触手で揉みくちゃにする。
 指先をコの字に曲げ、内壁を擦るように出没を繰り返すと、内臓のそっくり溶け出しそうな快感が、身体の芯を貫いて脳の中に溢れ出した。
「あへえぇっ!……す、すごいの……気持ち良すぎる。なんて子なの? 子供の癖にこんなに上手だなんて……このいけない指で、お母様もこんな風によがらせていたの?」
 親指でクリトリスをやさしくこね回しながら、香苗は妄想の巧に語りかける。
 巧は無言のまま微笑み、雄々しく勃起したペニスを、秘唇に突き立ててきた。
「はぅんっ!!」
 長いペニスは一気に胎動を刺し貫き、膨らんだ亀頭で膣奥を叩いた。
 ごつごつという鈍い衝撃が腹の底に響いて、胃袋が持ち上がりそうだ。
 何時の間にか挿入した指は二本に増え、窮屈になった膣管は、括約筋の強烈な収縮で、巧のペニスを模した指をきつく締めつける。
 愛液と泡が混ざり合い、指を抜き差しするたびに、白濁した乳液が秘唇からだらだらと垂れ流される。
 その時、香苗はふと股間を覗き込んでいた顔を上げ、目の前の鏡を見て、愕然となった。
「あぁっ……なんていやらしい恰好してるの。私……いけない女だわ……」
 バスチェアの上で大股を開き、泡塗れの乳房を揉みし抱きながら、股間に指を突き立て、悶え狂う。
 そんな自分の姿に絶望した。
「でも……これが私の本性なのかもしれない……」
 鏡の中からこちらを見つめるもう一人の香苗は、快感に打ち震えながらも、その表情は悦びに満ちていた。
「今の私は夫にも相手にされない欲求不満の中年女。知らない子供を轢き逃げして、それにつけ込まれて弄ばれる、情けない虜でしかないんだわ」
 あきらめに支配され、自分に言い聞かせるようにそう呟くと、いっそう激しくクリトリスを爪弾き、根元まで埋め込んだ指の先で膣壁を抉る。
 全身に鳥肌が立ち、乳頭とクリトリスは破裂せんばかりに膨らみ切って、じんじんと痛んだ。
 快感に身を任せて気が緩るんだせいか、すぐさまオルガスムスの予兆が襲ってきた。
 子宮の奥底で快感の詰まった風船が膨らみ始め、あれよあれよいう間に身体の中いっぱいまで膨張して、内側から皮膚に隙間無く張り付く。
 シャワーに温められた肌は、そっと触れただけでもひりひりするほど敏感になっていた。
 そこへ脳が崩れるほどの快感が高圧電流となって流れ込み、香苗は悲鳴に近い喘ぎ声を上げてしまう。
「か、感じすぎちゃうぅっ! もう無理っ……私、イクわ……」
 もはや愛撫する必要も無く、体内で炸裂したオルガスムスの爆風に吹き飛ばされないよう、香苗は背を丸めて、力いっぱい自分の身体を抱き締めた。
 その直後、
「ひいぃっ!! い、イクぅーっ!!」
 タイル張りの浴室に、奥歯で噛み殺した悦びの嘶きが弱々しく反響する。
 丸めた背筋にぎくりぎくりと不気味な痙攣が走り、香苗は限界まで持ち上げた肩に首を埋めたまま、反射的に幾度も顎を突き上げた。
 引き攣る瞼の隙間からうっすら覗けた鏡には、オルガスムスの波動に翻弄され、壊れたからくり人形みたいに肉体を打ち震わせる自分の姿が写っていた。
 眉間に深い皺を刻み、半分白目を剥いて唇を噛み締めた苦悶の顔は、とても他人には見せられないような形相をしていた。
 泡塗れの身体を貫いた痙攣は、幾度と無く香苗を快楽の絶頂へ舞い上げると、やがて少しずつ脈動を弱め、遠退いていった。
「はぁっ! はぁっ! はぁっ!」
 荒い息を吐きながら、香苗は力尽きたようにバスチェアの上でぐったりと脱力した。
 緊張から解放され、その表情には快楽の余韻に浸る柔和な微笑が浮かんでいた。
 オルガスムスの名残に震える手で蛇口を捻り、頭からぬるいシャワーを浴びる。
 降り注ぐ無数の飛沫は、火照った肌を冷やしながら、汗と泡と愛液の混ざり合った、ねっとりとした身体の汚れを瞬く間に洗い流してくれた。
 
 香苗は縁ぎりぎりまで湯の張られた浴槽に身を沈め、盛大に溢れた湯の音を聞きながら、天井を見上げる。
「はぁ……」
 一日の疲れが湯に溶けていく開放感の中で、恍惚の溜息を吐いた。
 そして、これからの成り行きに思いを馳せる。
「どんな歪んだ形であれ、あの子は私を求めている。それは悪いことなのかしら?」
 今年で小学五年生になる一人娘は、すでに香苗をさほど必要としなくなっていた。
 それに比べると、巧はずいぶんと幼く感じられた。
 やはり母親を亡くした影響なのだろうか。
 その上、轢き逃げまでされて……。
「罪滅ぼしと思って、しばらく母親代わりになってあげるのも、悪くはないのかもしれない……」
 湯船から上がる頃には、少しの間だけ、巧の母親役をやってみる気になっていた。



「お帰り。意外と早かったね。僕のママなんて、いつも一時間半くらい入ってたよ」
 白いバスローブを着て、脱衣所から出てきた香苗に巧は言った。
 努めて平静を装っていたが、バスローブ姿の香苗に見惚れていた。
「私もいつもはそのくらいよ。今日はあなたを待たせてるから、少し急いだの」
 香苗はハンドタオルで髪を拭きながら、ベッドの端に腰掛ける。
 濡れた黒髪が照明に輝き、ボディシャンプーとリンスの混じった甘い匂いが、湯上りの火照った身体から、ほんのり漂ってきた。
「わっ……なんだか、雰囲気が変わった。何か心境の変化でもあったの?」
 どこがどうとは言えないけれど、少しだけ態度が優しくなった気がした。
「そ、そうかしら? お風呂に入って、リラックスしたからかもしれないわね」
 動揺を隠すように言葉を続け、
「そんなことより、ねえ、ちょっと……」
 髪を拭く手を止めて、香苗は言った。
「あなた、よく食べながら見られるわね。そういうの」
『あぁんっ! イクッ、イクッ、イッちゃうっ!!』
 巧の代わりに、テレビの中のAV女優が派手な喘ぎ声で返事をしてくれた。
 せっかく初めて来たのだからと、サンドウィッチを頬張りながら、とりあえずアダルトチャンネルをつけておいたのだ。
「でも、まあ……なんで覗かれなかったのか、ようやく合点がいったわ。あなたのことだから、きっとカーテンを開けると思っていたのに……」
 確かにカーテンは開けなかったが、隙間からはしっかりと覗いていた。
 わざわざ入浴シーンを覗くための窓がついているのだから当然だ。
 けれど、そこから垣間見えたのは、思いがけない香苗のオナニーシーンで、これには驚かされた。
 分厚いガラスのせいで声までは聞こえなかったが、車内での情事を思い出して自慰に耽る姿は、四角い窓に切り取られたライブショ―であり、テレビのアダルトチャンネルなんかより、よほど興奮した。
「僕は紳士だからね。入浴中のレディを覗くなんて、そんな板廉恥な真似は出来ないよ」
「いったい、どの口で言うのかしらね? もし私をレディと認めてくれているのなら、その破廉恥なテレビを消してくれない?」
「これは失礼」
 巧はテーブルのリモコンを掴んでテレビを消した。
「それに、よく見れば、ぜんぜん食べていないみたいだけど、お腹が減ってるんじゃなかったの?」
 リモコンを戻したテーブルの上には、サンドウィッチを乗せた皿が二枚、手付かずのまま置かれていた。
「だから、お腹減ってたんだ。気が付いたら香苗さんの分まで飲んだり食べたりしちゃってたから、注文し直しておいた。ウーロン茶代わりのビールも、ついでにね」
「だったら、一皿で良かったのに……御丁寧にビールまで注文してくれて。私を太らせるつもり?」
「そうだよ。ぶくぶくに太らせて、それから美味しく食べてあげる」
「まったく……減らず口を叩いてないで、あなたもお風呂に入ってらっしゃい」
「はい、ママ」
 怒った顔も可愛い香苗にそう言うと、巧は立ち上がって脱衣所へ向かう。
 その途中で振り向いて、駄目押しをした。
「そうだ。ねえ、香苗さん」
「ん……なに?」
「絶対に覗かないこと、約束だよ?」
「なっ!?」
 香苗の返事を待たずに、巧は脱衣所のドアを閉めた。

 脱衣所に入って真っ先にしたことは、脱衣籠を調べることだった。
 しかし、脱衣籠には何一つ残されておらず、がっかりした。
「……残念」
 仕方がないので、風呂の前に用を足そうとトイレに入る。
 用を足しながら、足元に置かれた汚物入れの蓋が浮きあがっているのに気がついた。
「もしかしたら……」
 そう思い、ふと蓋を開けてみて、巧は快哉を叫んだ
「ビンゴ!」
 案の定、中には丸めたショーツが入っていた。
 そっと摘んで汚物入れから取り出すと、目の前でショーツを広げて見る。
「うわぁ……こりゃ、エライことになってるな……」
 股の部分にくっきり浮き出た黄色い汚れが、表からでも一目でわかった。
「きっと裏はもっとすごいぞ」
 期待に胸を膨らませ、ショーツを裏返してみる。
 果たして、期待は裏切られなかった。
 クロッチの内張りは汗と恥垢、尿と淫蜜に汚れ、指で触れてみると、まだしっかりと湿っていた。
 すぐにでもその匂いや味を堪能したいところだったが、トイレに篭ったままでは、不審に思われてしまう。
 ショーツを折り畳んで手の中に握り込むと、巧はトイレから出て素早く衣服を脱ぎ棄て、バスルームに入った。
「わぁ……良い匂いがする」
 湯気で湿った空間には、シャンプーの残り香が充満していた。
 巧は鼻をくすぐる芳香を胸いっぱいに吸い込んで、しみじみと周囲を見まわす。
 バスルームは綺麗に片付けられ、ひとつしか供えつけのないスポンジだけが、折り畳んだタオルの上に載せて、湯船の縁に残されていた。
「香苗さんはこのスポンジで身体を洗って、そのままオナニーしちゃったんだ……」
 そう思うと、何ともいえない感慨が湧き起こる。
 香苗が座っていたバスチェアに尻を乗せ、手に握ったショーツを再び開いてみた。
 純白のショーツは、前後ともに精緻なレースがあしらわれ、かなり上品なデザインだった。
 にもかかわらず、股布には淫らな欲情の証がくっきりと刻み込まれ、その貴と卑のギャップが、一枚の布きれを恐ろしく猥褻に見せていた。
「このショーツに包まれた香苗さんのあそこ……ぷよぷよして、すごいエッチな匂いがしてたな……」
 巧もまた、車内での香苗との情事を思い出し、満を持して、ショーツのクロッチに顔を埋めた。
 途端に酸味の効いた刺激臭がつんと鼻を突く。
 染み込んだ愛液が生乾きになって、車内で嗅いだ時よりも、匂いはずっときつくなっていた。
 思わず咽返りそうになるが、構わず深呼吸して、香苗自身の匂いを思いきり嗅いだ。
 饐えたオレンジかグレープフルーツの汁にミルクを混ぜ込んだような、とろとろに煮込んだチーズのような、酸っぱくもマイルドな恥臭が脳天を直撃して、頭がくらくらした。
 決して良い匂いではないのに、ボディシャンプーやリンスの薫りには無い、強烈な中毒性があった。
 その証拠に、巧の股間では指一本触れていないペニスが弓なりに勃起し、今にも破裂せんばかりになっていた。
「ねえ、ママ。ママから教わったことが役に立ったよ。指と舌だけで、香苗さんをイカせられたもの」
 今は亡き母親、真奈美に施された蜜儀の数々を思い出す。
 父親が出張がちだったので、寂しかったのだろうか。
 勉強机に向かう巧の背後から、風呂上りの真奈美はキャミソール姿でよくしな垂れかかってきたものだった。
「ねえ、たっくん……いつもお勉強してて偉いんだけれど、たまにはママの相手をしてくれても、良いんじゃないかしら?」
 真奈美は香苗とは正反対の、享楽的な性格の女性だった。
 銀座に店を持つ、文字通りの「ママ」で、高級官僚の父親が足繁く通って、店を続けることを条件に、なんとか口説き落としたらしい。
「昨晩はね、お店ですごく嫌なことがあったの。だから、代わりに何か良いことが無いと、ママおかしくなっちゃう」
 明け方に帰宅し、食事と入浴を終えてひと眠りした真奈美が目を覚ますのは、決まって巧が学校から帰る夕方だった。
 朝風呂ならぬ夕風呂に浸かった真奈美は、宿題をする巧に戯れつくのを楽しみにしていたようだ。
「なにか良いことって……例えばどんなこと?」
 キャミソールの胸元から覗ける白い谷間を、横目でちらちら眺めながら訊いてみた。
「例えばたっくんに優しくして貰える……とか」
 邪な視線など、真奈美はもちろん計算済みで、巧の膝の上に尻を乗せると、自慢のバストを摺り寄せて誘惑してくる。
 ふかふかの乳房が鎖骨に当たって、巧は目を白黒させた。
「ぼ、僕はいつだってママに優しくしてるつもりだけど……」
「わかってるわ。でも、今日はもっと優しくして欲しい気分なの。ね、ママと遊びましょう。勉強も良いけれど、たまには息抜きも必要よ」
 そう言って真奈美は立ち上がり、巧の手を取ってベッドへと誘う。
 窓から指し込む夕陽に、室内はすっかり茜色に染まっていた。
 ベッドの端に肩を寄せ合って座ると、真奈美の身体から、風呂上りのほんのり甘い匂いが漂ってきた。
 巧はさながら砲弾のように突き出したキャミソールの胸元をこそこそと盗み見ては、真奈美がどういうつもりなのか、必死に考えていた。
「知ってるのよ。このベッドの下に、エッチな本、いっぱい隠してるの」
「そ、それはっ……」
「別に怒ってるわけじゃないの。年頃の男の子ですもの、それくらい当然よね」
 真奈美はおもむろに巧のトランクスの中へと手を滑り込ませ、勃起しているペニスをやんわりと握った。
「ま、ママっ!?……」
「ママのキャミソール姿を見て、こんなに硬くするなんて、たっくんは悪い子ね」
「だ、だって……ママがそんなエッチな恰好で部屋に入ってくるから……」
「あら、これはママのせいなの?」
「そ、そうだよ……」
「なら、ママが責任をもって、お世話しなきゃいけないわね」
 くすくす笑う真奈美はペニスの根元に指を絡め、少しきつめに締めつけながら、ゆっくりと上下にしごき立てる。
「エッチな本を見ながら、夜な夜な自分でこうやって、白いのをいっぱい出してるんでしょう。でも、どう? 自分でするより、ママの手の方が気持ち良くないかしら」
「あっ! あうぅんっ!! 駄目だよ、ママ! 親子でこんなことしちゃ……」
 巧は蕩けるような快感に下半身を支配されたまま、股間を弄る真奈美の手をトランクスの上から押さえて、精一杯の抵抗を試みた。
 確かに巧は、夜毎、自慰を繰り返していた。
 しかし、その大半は「エッチな本」などではなく、真奈美の裸体を妄想してのことだった。
 とは言え、いざ実際に母親と性的な関係を結ぶとなると、やはり怖気づいてしまう。
「どうしていけないの? 私たち、親子でしょう? 親子が仲良くするのは、素晴らしいことじゃない」
「仲良くって……これはちょっとやりすぎだと思うんだけど……」
「なに言ってるの? これはただのスキンシップよ、スキンシップ。日本人の親子に一番足らないもの。それにたっくんだって、こんなに硬くしたまんまじゃ、お勉強に身が入らないでしょう?」
「そ、それは……」
「男の子は仕方ないわ。こうしてたまに抜いてあげないと、どんどん溜まってちゃうんですもの。これからはママがお手伝いしてあげる。その代わり、もうエッチな本に載ってる、知らない女の裸でなんかしちゃ駄目よ。ママと約束して。約束やぶったら、たっくんのおちんちん、ひっこ抜いちゃうんだから」
 真奈美は根元をぎゅっと握り締め、ペニスを引っ張る。
 股間に千切れるような痛みが走り、巧はあっさり音を挙げた.
「い、痛いよ! 痛いってば、ママ!」
「フフフッ……どうするの? ママと約束するの? それともこのまま女の子になっちゃうのかしら?」
 ピンク色の唇が妖しく歪み、サキュバスの微笑で真奈美は訊いてくる。
 相手は母親なのだ、とどんなに頭の中で否定しても無駄だった。
 すぐ目の前にある熟れ頃の肉体は、仕事柄身につけたであろう、煎じ詰めた媚薬にも似た、強烈な色気を匂い立たせて迫ってくる。
 更には息子にだけ見せる無防備さがスパイスとなって、これでもかと巧を悩ませた。
「わ、わかったから! 約束するから」
「自分でしたくなったら、必ずママに言ってくれる?」
「言う! 言うから……もう、許して!!」
 鋏で根元を切り取られるような痛みに、巧は泣きそうになっていた。
「わかったわ。苛めてごめんね」
 真奈美は指の力を緩め、涙目になっている巧の頬にそっとキスをした。
「うぅっ……ひどいよ、ママ……」
「だって、たっくんが余所の女と浮気してるみたいで口惜しかったんですもの。パパだけじゃなくて、たっくんまで私を置いてきぼりにするつもりなの?」
 一転して優しくなった真奈美は、巧の目を覗き込んで訊いてきた。
「パパ……浮気してるの?」
 真奈美ほどの美人を妻に持ちながら、浮気をするなんて信じられなかった。
 しかし、巧の目の前で真奈美はこくりと頷いた。
「でも、いいの。ママはたっくんだけ傍にいてくれたら、それでもう充分なの。ほら、さっき苛めたお詫びに、触っても良いわよ」
 真奈美は巧の手を取り、キャミソールの上から乳房を掴ませた。
「あっ……」
 掌から伝わってくる、この上なく柔らかな感触に言葉を失ったまま、巧はそっと乳房を揉みし抱いてみた。
「はぁ……ん……」
 瞼を閉じた真奈美が艶かしい吐息を漏らす。
 小さな唇を震わせ、眉を顰めるその表情は、半ば仕方なく欲望のはけ口にしてきた、見知らぬヌードモデルなど、比べ物にならないほど色っぽかった。
 一緒に暮らしてきた長い年月の中で、初めて真奈美が見せた女の顔に、巧は欲望を爆発させる。
「ま、ママ! ママ! 僕、ママが大好きだよ!!」
 頭の中で何かが弾け、巧は真奈美をベッドに押し倒すと、強引に唇を重ねた。
 そうしながら必死に乳房を弄り、勃起したペニスを柔らかな下腹部に擦りつける。
 性に関する知識の足りない巧は、牝に求愛する獣のように、不器用ながらも本能に任せて真奈美を求めた。
「焦っちゃ駄目よ。時間はたっぷりあるんですもの。そんなにがっつかなくたって、ママは何処にも逃げたりしないわ」
 真奈美は巧の両頬を掌で包み込み、あやすように接吻しながらそう言った。
 少しおちついた巧を胸にしっかりと抱き締め、いよいよ本格的にペニスをしごき始める。
「今日はこのまま、ママの胸に抱かれて、ママの手でイっちゃいなさい。明日からは毎日、気持ち良いこと、いっぱい教えてあげるから」
「ママ……ママ……」
 巧は豊満過ぎる乳房の谷間に顔を埋めて、うわ言のように繰り返しながら、真奈美の愛撫に身を委ねる。
 真奈美は重なる腹と腹の間に挟まれた、トランクスの中のペニスを器用に逆手で掴み出し、亀頭のすじを掌でこする。
 窮屈な手の中でペニスは跳ね回り、敏感な粘膜を刺激されて、腰の砕けるような快感に襲われた。
「あっ! あっ! すごいよ、ママ! ママの掌、すごく気持良い!!」
「フフフッ、ありがとう。たっくんのおちんちんも、すごく硬くて素敵よ。この硬いのでお腹の中を掻き回されたら、どんな感じがするのかしらね。今から楽しみだわ」
 耳元で囁く真奈美の声が、桃色の靄がかかった頭の中に甘く木霊した。
「ま、ママ。僕と……セックスしてくれるの?」
 真奈美の股にペニスを突き入れ、必死に腰を振る自分の姿を思い浮かべた。
 真奈美の胎内の温もりや感触も想像してみたが、未体験の快感はもやもやとした曖昧なイメージにしかならず、蛇の生殺しのような状況に身悶えるばかりだった。
「ママの膣はとっても気持ちいいわよ。きっとたっくん、入れたらすぐにお漏らししちゃうわ。ちょっと手で可愛がってあげただけで、こんなに先っぽ濡らしてるんですもの。ほら、もう我慢できないでしょう? あと三十秒も持たないかな?」
 先走りの液でぬるぬるになった亀頭を弄びながら、真奈美は笑った。
 まだ成長しきっていないペニスは酷く敏感で、真奈美の手にひと擦りされるたび、高圧電流を流されたような衝撃が全身を駆け巡る。
 そして真奈美の予想通り、巧は三十秒と持たずに、トランクスの中で精を散らしてしまった。
「あうぅっ! もう駄目だよ、ママ!! 僕、もうっ、出ちゃうぅっ!!」
 腰の中心が火でもついたように熱くなり、ペニスの根元で射精の脈動が盛り上がっていく。
 巧は歯を食い縛って真奈美の乳房にすがりつき、今だかつて体験したことのない、爆発的な射精に身を任せた。
「いいのよ、イキなさい! ママの手の中に白くて熱いのをちょうだい!」
 止めとばかりに忙しなく亀頭部を擦りたて、真奈美は最後に雁首をぎゅっと握って射精を促す。
 次の瞬間、目も眩むような熱い戦慄がペニスの芯に走り、頭の中が真っ白になった。
 身体の底が抜け落ちて、内臓をすべてぶちまけてしまったかと思った。
 尿道を貫いて駆け上った精液が、亀頭の割れ目から撃ち出され、真奈美の掌に叩きつけられる。
 一度、射精するたびに、蕩けるような快感が腰にまとわりつき、巧はうっとりしてしまう。
「あぁっ! 出てるっ! 出てるわ、たっくんの子種が掌に出てる!! 熱くて焼けどしちゃいそう!!」
 真奈美は虚ろな瞳で射精し続ける巧をしっかりと抱き締め、叫んだ。
「あぁっ……ママ……ママ……」
 キャミソール越しに伝わる暖かな体温に包まれ、その腕の中で意識朦朧となりながら、巧は若い精を存分に吐き出して、心地良いまどろみの底へと溺れていった。
 その夜、洗濯機の中から見つけ出した真奈美のショーツには、くっきりと欲情の証が残されていた。
 夢中で顔に押し当てた生乾きのクロッチは、たったいま手に握っている香苗のショーツと同じく、酸味の効いた強烈な恥臭と苦しょっぱい痴味に満ちていた。
「僕……香苗さんの匂いを嗅ぎながら、ママの思い出でイっちゃった……」
 気がつくと、ペニスを握り締めた手の中で射精していた。
 車内で発散できなかった分、恐ろしいほどの射精量だった。
 飛び散った精液が鏡を真珠色に染め、ゆっくりと流れ落ちていく。
 巧は射精の余韻にしばし恍惚とした後、手早く身体を洗って湯船に浸かり、脱衣所に上がって、ショーツを元通りトイレの汚物入れに戻しておいた。



「お待たせ。僕、バスローブなんて着るの初めてだから、なんだか恥かしいよ。サイズもちょっと大きいしさ」
 大人用の分厚いバスローブに照れながらリビングに戻ると、香苗はソファに腰掛けてサンドウィッチを咀嚼していた。
「んっ……んっ……お帰りなさい。なんだか、みの虫みたいになってるけど、でも、結構、似合ってるわよ」
 テーブルの上の皿はどちらも綺麗に片付いて、サンドウィッチを胃に収めた香苗が缶をあおることで、五百ミリリットルのビールもすっかり空になったようだ。
「なんだかんだ言って、結局、全部たべてるじゃん。夜中だし、太っても僕のせいじゃないからね」
「きょ、今日はいっぱい動いてカロリーを消費したから構わないの!」
 香苗はビールの空缶を勢い良くテーブルに置いて力説した。
 心なしか頬が紅潮して見え、酔いが回り始めているようだった。
「そうだね。一日に二回もイッちゃったし」
「そう、二回も……って、なんで二回目を知ってるのよ!?」
「さぁて、どうしてかなぁ……」
 気色ばんで訊いてくるのをひらりとかわし、巧は背後から抱き締めて誤魔化そうとソファの後に回り込む。
 しかし、酔いも手伝って、香苗の怒りはそう易々とは収まらなかった。
「あなた、やっぱり覗いてたのね。僕は紳士だ、なんて言ってたくせに、嘘ばっかり。汚らわしいったら、ありゃしないわ!」
 体半分ふり向いてこちらを睨みつけ、なおも御立腹の様子。
 とても抱き締められるような雰囲気ではない。
 巧は仕方なく計画を変更し、乾きかけの黒髪をそっと撫でつけてひとつに束ね、バスローブの肩を揉んでご機嫌を取った。
「まぁ、まぁ……」
「か、肩揉みなんかで誤魔化されないわよ。私、そんな年寄りじゃないんだから!」
「香苗さん、飲むと性格変わるみたいだね。あまり人前では飲まない方がいいかも。せっかくの恰好いいイメージが台無しだよ?」
 火に油を注ぐようなことを言いながら、巧は華奢な肩に指先を食い込ませる。
 バスローブの襟越しに覗けるうなじから、ボディソープの甘い匂いがぷんと漂う。
 首筋は恐いくらいに細く、親指を押し当てて力を入れると、今にも折れてしまいそうだった。
「よ、余計なお世話……あっ! はぅんっ!!」
 びくりと肩を震わせて、香苗は喘いだ。
 巧の指は的確にツボを捉え、痛みを与えないぎりぎりの力加減で指圧していた。
「ずいぶんと凝ってるね。疲れが溜まってるみたいだ。お風呂を覗いたお詫びにマッサージしてあげる。話したよね、僕は得意なんだ。ママにもお風呂上りにマッサージしてあげてたんだけど、気持ちいいって喜んでくれたよ。だからさ、ベッドへ行こう」
「そんなこと言って、またいやらしいことするつもりなのね? その手には乗らないわよ」
 腕を組んで横を向いてしまった香苗に、巧は肩を落として呟いた。
「はぁ、悲しいなぁ……香苗さんもママみたいに喜んでくれると思ったんだけどなぁ……」
 香苗の肩から手を離すと、よろよろとベッドに歩み寄り、ふてくされたように突っ伏す。
 ここから先はちょっとした賭けで、決め手は生前、真奈美が教えてくれた貴重なアドバイスのひとつだった。
『怒っている女を追いかけては駄目。どうせ大した根拠は無いんですもの。怒っている本人だって、どうして自分が怒っているのかわからないくらい。だからね、そんな時は傷ついた振りをして母性本能をくすぐるの。相手がうんと年上なら、なおさら効果てきめんよ。罪悪感に駆られて、きっと自分の方から擦り寄ってくるわ』
 真奈美に教わった通り、怒れる女であるところの香苗を靡かせるには、この手が一番だと思った。
 果たして結果は吉と出た。
「もうっ……ちょっと怒っただけですぐに傷ついてふて腐れる。これだから思春期の男の子は扱い辛いのよ」
 大きく溜息を吐いて不平を言う、香苗の口調は明らかに優しくなっていた。
 やがてベッドに腰掛けると、枕に突っ伏している巧の頭をそっと撫でてくれた。
「ほら、あなたの言う通り、ベッドまで来たわよ。自慢のマッサージをしてくれるんじゃなかったの?」
 あやすような物言いに、巧は心の中でガッツポーズを決め、枕から少しだけ顔を横向けて、おずおずと訊いてみた。
「……良いの?」
「良いも何も、あなたが望んだことでしょう。さ、私はどうすれば良いのかしら?」
「えっとね、ここにうつ伏せで寝て。そうしたら後は全部、僕がやってあげるから」
 巧は待ってましたと飛び起きて、かけ布団をめくると、枕を退かして、皺一筋見当たらない白いシーツの上に香苗を寝かせた。
「エッチなこと、しちゃイヤよ」
 しっかり念を押して、香苗は組んだ手の甲に頬を乗せ、瞼を閉じた。
「わかってる、わかってる」
 巧は見られていないのを良いことに両手の指をわきわきと蠢かし、安請け合いする。
 それから香苗の腰に馬乗りになって、体重をかけないように軽く尻を浮かせた。
「まずは腰からやるね」
「任せるわ」
 許しを得て、堂々と香苗のウエストに手を触れた。
 もこもこしたバスローブの上からくびれをしっかりとつかみ、親指を背骨の左右に深く食い込ませる。
「んはぅっ……」
 一瞬、香苗の身体がぎくりと跳ね、小刻みに震えてぐったりとベッドに沈んだ。
「ごめん。痛かった?」
「違うの。ピンポイントで弱いところを突かれたものだから、気持ち良くって、つい……ね
「なら、良かった。もし、痛かったら言ってね」
 巧は体重を乗せて親指をツボに埋め込んでいく。
 こりこりとした感触を指先に感じながら、香苗の艶かしい息遣いに耳を澄ませる。
「あっ! それっ……き、効くぅ……」
 薄く開いたピンク色の唇が小さく開閉し、ツボを突くたびに苦しそうに呼吸を止めたかと思うと、鼻の先からどっと甘い吐息を吐き出す。
 瞼を閉じた穏やかな顔はときおり険しくなり、眉間に皺を寄せて、悩ましい苦悶の表情を浮べた。
(香苗さん、なんて色っぽいんだろう。このまま後から襲いかかりたいくらいだよ)
 巧は重心移動を装って身体を前後に揺らし、腰を落とす。
 ふとももの内側が盛り上ったヒップの頂点に触れ、こんにゃくのような弾力と温もりにうっとりした。
「うっ!……はあぁ……ほ、本当に……上手。きっとお母様の仕込みがよかったのね。背骨がぐにゃぐにゃになりそう」
 蕩けるような呻き声を漏らして、香苗が言った。
 うっすら開いた瞼の隙間から、虚ろな瞳がぼんやりと室内を見つめている。
 頬は上気して完全に紅潮し、瞼までほんのり赤くなって、香苗はすっかり出来あがっていた。
「褒めてくれてありがと。ママも良くそんなこと言ってたよ。でも、その内うたた寝しちゃってさ」
「私も……寝ちゃいそう……なんだかビールが効いてきたみたい……」
 香苗は掌を唇に添えて小さくあくびをし、頬をシーツに擦りつける。
「いいよ。寝ちゃっても、マッサージは出来るから。後は僕にまかせて」
 香苗の眠けを散らさないように、少し刺激を弱めながら、巧は腰から背中へと指を滑らせていく。
「うっ……ううん……」
 しばらくは反応を見せていた香苗だったが、小さな呻き声はやがて静かな寝息に変わり、いつしか完全に寝入ってしまった。
「香苗さん、よほど疲れてたんだな。そうだよな……社長秘書って大変そうだもの」
 弥生の調査報告によれば、とある大企業に社長秘書として務めているらしい。
 慎ましくも華やかさを失わない、香苗にぴったりの仕事だと思った。
「でも、これで後は僕のお楽しみタイムだ」
 無防備な姿で横たわる香苗を前に、巧は一人ほくそ笑む。
 眠ったばかりの香苗を起こさないように腰の上から降りると、バスローブの裾から剥き出しになっているふくらはぎに触れてみた。
「わぉっ……三十八歳でこの触り心地はすごいなぁ……ぷりぷりしてるもの」
 初めて触れる香苗の生脚は、瑞々しい肌と入浴でほぐれた筋肉によって、生々しい弾力に溢れていた。
 そっと表面を撫でてみると、肌の滑らかさに驚かされるとともに、膝の後からむちむちと膨らみ、太過ぎず、細過ぎず、恐いくらいにくびれた足首に向かって絞り込まれていく見事な脚線を掌に感じて、思わず目が綻んでしまう。
「このまま……このまま、お尻まで……」
 どくどくと脈打つ心臓の鼓動を静めるように囁くと、巧はふくらはぎに触れていた手でふとももを撫で上げ、バスローブの中へと指を滑り込ませる。
 指に吸いつく肌の感触は上に行くに従ってより柔らかくなり、肉の厚みも増して、少しでも力を加えると、指先が簡単に呑み込まれてしまった。
 薄絹のような皮膚の感触を頼りにバスローブを弄り、指先はふとももの付け根まで辿りつく。
 そこにはこんもりと膨らんだヒップの肉峰がそびえていた。
「嘘っ!? か、香苗さん……パンツ、穿いてないや」
 恐る恐る触れた香苗のヒップはショーツに包まれていなかった。
 換えの下着を忘れてしまったのか、それとも何らかの事情があるのか。
 いずれにしても、リスクを犯して脱がす手間が省け、巧にとっては好都合だった。
「今、バスローブを捲くれば、香苗さんのあそこもお尻の穴も、全部見られる……」
 浅い呼吸を忙しなく繰り返しながら、巧はバスローブの裾を捲り上げる。
「あぁ……」
 言葉にならない感動が溜息となって唇から漏れた。
 バスローブの下には、最高の絶景が巧を待ち受けていたのだ。
 つきたての鏡餅をふたつ並べたような、真っ白なヒップが天井に向かって突き上げるように膨らんでいた。
 尻たぶはぴたりと閉じていたが、ほとんど真下から覗いているため、ヒップとふとももに挟まれた窮屈な空間に、淡い恥毛に蔽われたスリットが一筋、僅かに覗けた。
 もっとよく見ようと、巧はヒップを丸出しにしたまま眠る香苗の脚を、少しだけ開かせてみる。
 そうして露になった香苗の股間は、息を呑む素晴らしい光景だった。
「こ、これが香苗さんのあそこ……なんて綺麗なんだろう」
 ふもとももの付け根に卵型の生白い恥丘がふっくらと盛り上っていた。
 その真中を切り裂くように、色素の沈着の少ない、薄桃色の割れ目が僅かに傷口を開いている。
 肉の花びらは幾重にも重なり、開きかけの薔薇のようにも見える。
 もともと薄いらしい恥毛は丁寧に整えられ、中央に穿たれた胎洞への入り口を、柔らかく守っていた。
「僕は……僕はここから……」
 巧は吸い寄せられるように、ヒップの谷間に顔を突っ込み、熱く火照った秘唇に鼻を押しつけると、思いきり匂いを嗅いだ。
「くはぁっ!……」
 まずボディシャンプーの甘い芳香がぷんと香った。
 柔らかな恥毛が鼻先をやさしくくすぐり、叢を掻き分けるたびに、人工香料の香りが顔面を包み込む。
「香苗さん! 香苗さん!」
 夢中で香苗の股に顔を押し付けると、鼻先は柔らかな肉の合わせ目に潜り込み、スリットが薄く開いて、胎内から別の匂いが漏れ出した。
「げほっ! げほっ!」
 酢の匂いをもろに嗅いでしまった時のように、巧は思わず咽てしまった。
 ボディシャンプーとはまったく異なる、生々しい粘膜の匂いが鼻腔に粘りついたからだ。
 入浴を終え、洗浄されたばかりというのに、胎内には酸味を帯びた濃厚なチーズ臭が立ち込めていた。
「香苗さんの中、すごいエッチな匂いがする。中はいったい、どうなってるんだろう?」
 強烈な臭気に朦朧とする意識の中、巧は親指を添えて、香苗の肉びらを軽く左右に開いてみる。
 そうして露になった濡れ光る膣壁は、目にも鮮やかなサーモンピンク色をしていた。
 まるで内臓を覗き見ているような衝撃に、巧の頭はくらくらする。
「これが、香苗さんのお腹の中なんだ……」
 興奮に我を忘れて、アーモンド状に開いた肉孔の内部をしばし魅入ってしまう。
 やがて、おもむろに舌を伸ばし、先端で内壁を舐めてみた。
「うわぁっ! 匂いだけじゃなくて、味までキツイや。そういえばママも時々、そんな日があったっけ」
 舌が痺れるような酸味と塩気に、巧は漠然と香苗の生理が近いことを想像する。
「それに、この上には香苗さんのお尻の穴が……」
 好奇心に抗えず、尻肉を左右に割ってみる。
 すると、スリットのすぐ上、豊満なヒップの割れ目が果てる谷底に、果実の種口にも似た茶褐色のアヌスが顔を出した。
 女体の芯を貫くように、秘唇と肛門が一直線に並んでいる。
 それを見たとたんに、巧は頭の後をがつんと殴られたような衝撃を感じた。
「あぁっ……香苗さんのあそこも、お尻の穴も丸見えだ……」
 柔らかな女体に穿たれた肉穴が二つ、巧の目の前にその入り口を晒していた。
 びっしりと皺の寄った、不浄の菊座は入浴によって清められ、香苗の呼吸に合わせて、ひくひくとそれ自体が生き物のように蠢いている。
 そっと匂いを嗅いでみると、ボディシャンプーの香りの向うから、少しだけ生臭い腸液の匂いが漂う。
「くっ……この匂い……すごく興奮する」
 巧は舌の先を硬く尖らして、アヌスの中心に潜り込ませた。
 苦いしょっぱい味覚に苦悶しつつ、舌先で無数の皺をゆっくりと解していく。
「んんっ!……」
 すると香苗の身体がびくりと震え、アヌスがきつく窄まった。
 一瞬、起きてしまうのではないかと心配したが、それは杞憂だった。
 自分がいま、秘唇の奥やアヌスまで嬲られているとは露知らず、香苗はこんこんと眠むり続けている。
「も、もう我慢できない!」
 巧は辛抱堪らず、バスローブを脱ぎ捨てると、背後から香苗に圧し掛かった。
 浴室で一度放出したばかりだというのに、すでにペニスは激しく勃起しており、いつでも香苗の秘唇に突き立てる準備は出来ていた。
「香苗さん、ごめんね。どうしても香苗さんの中に入れたいんだ」
 自分を受け入れてくれた香苗を、眠っている最中に犯す恰好となり、さすがに罪悪感に胸が痛む。
 けれども、薄く口を開いている淫裂や褐色のアヌスを目の前にして、何事も無かったように香苗の隣で眠るなど出来るわけも無かった。
 巧は備え付けのコンドームなんて目にも入らず、香苗を起こさないように腰の位置を合わせると、握ったペニスの先を恥孔の裂け目にぴたりとあてがい、ゆっくりと腰を突き出した。
「うっ!……」
 ぬるりという卑猥な感触と共に、先端が香苗の胎内に潜り込む。
 風呂上りのせいで筋肉は緩んでおり、またマッサージの効果で、僅かに膣は濡れていた。
 それでも香苗の締めつけはきつく、ぴたりと重なり合った二枚の肉の壁を、強引に引き裂くようにして、巧のペニスは少しずつ胎洞を突き進んでいく。
 膣壁の濡れた粘膜には襞がびっしりと生えており、無数の触手となって吸いついては精を搾り採ろうとミミズのように蠢めき、ペニスを胎内深くまで呑み込もうとする。
「はぅっ!……」
 余りの気持ち良さに巧は腰を突き出すことも、引き抜くこともできなくなってしまった。
「香苗さんのおまんこ、気持ち良すぎだよ。きっと名器ってやつなんだ。ママの中もすごかったけど、香苗さんには敵わない。このままじゃ、すぐに出ちゃうよ」
 ぶるぶると腰を震わせながら、巧はしばらく膣の中ほどに留まり、絡みつく肉襞の蕩けるような感触と、粘膜を通してダイレクトに伝わってくる、焼けつくような温もりをペニスに感じていた。
 そうしている内に射精感は収まり、巧はひと思いに腰を突き出して、香苗の膣にペニスを根元まで埋め込んでしまう。
 下腹がぶつかってヒップが扁平し、香苗の腰の辺りからごつりという鈍い音が聞こえて、ペニスの先端に軽い衝撃を感じた。
 巧のペニスが長いせいで、どうやら亀頭が膣奥の肉壁に突き当たったらしい。
 こりこりとした感触を先っぽに感じながら、巧はついに香苗を物にしたという感激に恍惚となる。
「やったっ! 僕は今、香苗さんの中にいるんだ。またここに戻ってきたんだ……」
 ゆっくりと背中に圧し掛かり、眠る香苗の頬に接吻した。
「ただいま、香苗さん。大好きだよ」
 そうして下腹をヒップに押しつけたまま、上下に腰を揺すり始める。
 膣口を支点として、ペニスが梃子のように胎内を掻き回す。
 亀頭は膣奥にごりごりと擦れ、眠っているというのに、香苗の肛門括約筋が反射作用で引き絞られる。
「うぐっ……」
 ペニスの先端から根元までを、濡れそぼった柔肉の管が、きつく、それでいて優しく締めつけていた。
 敏感な亀頭はぬめる膣壁の粘膜に擦れて、焼けどでもしたような痛みを感じ、そのすぐ後から、蕩けるような快感が襲ってくる。
 腰全体が熱い痺れに包まれ、けれども緩やかな上下動は決して止められない。
「はぁっ……はぁっ……香苗さんっ! 香苗さんっ! 僕、このまま香苗さんの中でイキたいよ……」
 ここまできたら、もう後戻りは出来なかった。
 まずい、とは思いつつ、腰の上下動を少しずつ確実に激しくしていく。
 ぎしぎしとベッドが音を発て始め、巧は股間で盛り上がっていく強烈な射精感に身震いした。
 その時、とつぜん顎の下で小さな呻き声が聞こえた。
「うっ……んんっ……」
 振動で香苗が目を覚ましたのだ。
「お、重いっ……えっ!? な、何?……あぅっ……お、お腹の中で……何かが……動いてる」
 胎内で蠢くペニスの感触に気付いて、香苗は顔面蒼白になった。
「嘘っ……何をしてるのよ!? こ、こんな……」
 首を後に振り向け、香苗はベッドに両手を突いて、上半身を起こそうとした。
 その手首を掴み、巧は香苗をベッドに磔にする。
「ご、ごめん、香苗さん。マッサージしてたら、我慢できなくなって……」
 起こしてしまった以上、遠慮しても仕方がない。
 巧は謝りながら、思う存分腰を使い始めた。
「あっ! あっ! や、止めてっ! こ、こんなっ……止めなさいっ!!」
 目覚めと共に背後から犯され、香苗は快感の中で半ばパニックに陥っていた。
 掴まれた手首を振り解こうと必死の抵抗を見せる。
「これじゃ……これじゃレイプと変わらないじゃない!!」
「マッサージしてる最中にママも寝ちゃう時が良くあってさ。眠ったママの身体に僕は好き勝手に悪戯して、そのまま挿入しちゃうんだ」
 香苗の背中に圧し掛かり、激しく腰を使いながら耳元で囁いた。
「それでも、ママは許してくれたよ」
「私はあなたのママじゃ……」
 言いかけて香苗は躊躇した。
 そして、急に優しい口調になって懇願してくる。
「いいえ、ママになってあげる。あなたの気が済むまで私がママになってあげるから、ねえ、お願い。こんな恰好で無理やり犯されるなんていや。せめて普通に抱いてちょうだい」
 巧にとっては美味しい展開のはずなのに、素直には受け入れられなかった。
「駄目だよ。香苗さんは僕に同情してるんだ。母親を亡くした僕に同情して憐れんで、優しくしてあげようとか思ってる。でも、僕は人から同情されたり、憐れまれたりするほど不幸なんかじゃない」
 違うのだ。香苗に求めているのはそんなことではなかった。
 それどころか、母親と暮らした日々を汚されたように感じた。
「トイレの汚物入れに香苗さんの汚れたパンツが置いてあったの見たよ。香苗さんみたいな綺麗な人でも、パンツをあんなに汚すんだね。見た目はともかく、やっぱりおばさんだよね。汗とおしっこと恥垢の匂いがすごく臭かったよ」
 思ってもいないことを怒りに任せて吐き出した。
 本当は傷つけたくなんかないのに。
「ひ、ひどいっ! なんてことを言うの! あなたっ……私のショーツで何をしたの!? 言いなさいっ!!」
「香苗さんだって、お風呂でオナニーしてたじゃないか。僕の指と舌を思い出してしたんでしょう? だから、僕も香苗さんの臭いパンツの匂いで抜いたんだ。でも、まだ抜き足りない。ほら、わかる? またこんなに硬いんだよ」
 巧はペニスの硬度を誇示するように亀頭で膣奥を小突き、起き上がろうとする香苗の手首を締めつけながら、耳元で囁いた。
「わ、私の中で動かないで! あなたは変態よ! 可愛そうな子だから、お母さん代わりになってあげようと思ったのに……仏心なんか出すんじゃなかったわ!!」
 口惜しそうに唇を噛んで、香苗は横目で睨みつけてくる。
 胸の奥がずきりと痛んだ。
 どうしてこうなってしまうのか?
 しかし、巧は手を緩めるつもりはなかった。
「僕を子供だと思って見下してるから、こうなるんだよ。僕のことを何も思い出さないくせに、可愛そうだなんて言って欲しくないね」
 渾身の力で香苗の手首を抑えつけ、巧はラストスパートとばかりに、ヒップに腰を叩きつけていく。
 濡れた膣道を勢い良くペニスが滑り、亀頭がごつごつと奥壁を突き当たる。
「ひぐっ! ぐふぅっ……」
 轢き潰された蛙のような恰好で、香苗は苦しそうにのたうった。
「い、いやっ! そんなに奥まで入ってこないで!! お、お腹が、お腹が裂けちゃうぅっ!!」
「もう少し! もう少しだからっ……大人しくしてて!」
 香苗の耳元で叫ぶと、巧はがんがん腰を突き動かす。
 快感によって膣は激しく収縮し、胎内に生えた肉襞が硬くしこって、一斉にペニスへと絡みついてくる。
 膣そのものが強烈な吸引力でペニスを吸い、腰を退くたびに、尿道から強引に精を抜き採られるような錯覚を覚えた。
「あぁっ!……香苗さんの中、最高だよ!! よく締まって、ぬるぬるしてて……蛸みたいに吸い付いてくる!!」
 突いても、抜いても、目の眩むような気持ち良さに、巧は恍惚と囁く。
 そして、香苗は気付いてしまった。
「こ、この感触……まさか!? うっ、嘘っ!? 嘘でしょう!?」
 ベッドサイドに置きっ放しになっている、未開封のコンドームを見上げて、絶望に叫んだ。
「どうして、避妊しないのよ! 私っ……排卵日が近いのに!? できちゃったら、どうするつもりなの!? 抜いて! 今すぐ抜きなさい!!」
 妊娠の可能性に気付いて取り乱す香苗を見下ろし、巧は言い放った。
「だ、大丈夫っ……出すときは抜くから……うっ!」
「駄目よ! あなた、お母様から習わなかったの!? 先走りの液にだって、精子はうようよいるのよ。今、この瞬間にだって受精するかもしれないの。だから、早く抜いて! すぐに洗えば間に合うから!!」
 暴れる香苗だったが、背後に圧し掛かられた姿勢では力が出せず、巧の下でのたうち回るだけだった。
 そして、この行動が最悪の結果を招いてしまう。
「あっ!……そ、そんなに締めつけたら……僕っ……ぼくっ……」
 戒めから逃れようと力んだ拍子に括約筋が締まり、射精寸前の巧のペニスにとどめを刺してしまったのだ。
「もう、間に合わない! うっ!……で、出るっ……」
 射精の脈動に腰を震わせ、全身を引き攣らせた巧は、身動ぎひとつできないまま、香苗の腹の奥底に精をぶちまけていた。
「熱ぃっ!! いやっ! いやぁっ! で、出てる! 中に出ちゃってる!! このままじゃ、子宮に届いちゃうっ!! 赤ちゃんできちゃうっ!!」
 半狂乱で泣き叫ぶ香苗の中で、射精運動は機械的に容赦無く続く。
「うっ! うっ! うっ!」
 熱い脈動が腰を貫くたびに、巧の頭の中は真っ白になった。
 亀頭の先から精が迸り、背骨の蕩けるような快感が頭蓋の中いっぱいに溢れ出す。
 そうしている間にも、ペニスは弾け続け、膣奥に向けて幾度と無く精液を叩きつけていく。
「も、もう駄目ぇ……子宮に精子が流れ込んじゃってる。できちゃう……できちゃうぅ……」
 最早、手遅れと悟ったのか、弱々しい声で香苗が呟いた。
 強張っていた体から力が抜け落ち、がくりとベッドに突っ伏す。
 その頬を涙が伝って落ちた。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
 巧は荒い息を吐きながら、死体のように力無く横たわる香苗の中から、ペニスをゆっくりと引き抜いた。
 淫裂と亀頭の間に長い粘液の糸が引き、しばらくの後、激しい摩擦に充血した紅い割れ目から、真っ白な精液がどっと溢れ出す。
「香苗さん……ごめん、僕……」
 はからずも約束を破って、膣内射精してしまった。
 排卵日が近いという香苗の言葉が思い出され、急に恐ろしくなる。
「そこを退いてちょうだい……」
 静かではあるが、有無を言わさぬ迫力に満ちた声で、香苗は言った。
 ペニスを抜きはしたが、まだ背中に圧し掛かっていた巧は、弾かれたように香苗から離れる。
 無言のまま起き上がると、香苗はベッドから降りた。
 激しい運動で帯が解け、あらかた脱げかかっていたバスローブが肩から滑り落ちる。
 一糸まとわぬ姿でベッドサイドに立つ香苗はもう恥らわなかった。
 胎内から溢れた精液が、ふとももを伝って音も無く流れ落ちていく。
「もし、妊娠していたら、責任をとってもらうわよ」
 目を合わせることなくそう言い残し、香苗は股間から滴る精液も気にせず、疲れた足取りでバスルームに消えた。

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