シスターコンプレックス
第一章 「あの娘は今日も来るだろうか?」 更衣室で着替えながら、印南祐一は期待に胸を膨らませていた。 近所の公立中学が一般解放している屋内プールに通い始めて、今日でもう一月ほどになる。最初は受験勉強のストレスを発散する息抜きのつもりだったのに、とある発見をして以来、病みつきになってしまった。 格安の入場料に惹かれ、周辺の住人たちがこぞって利用するので、昼間の内は老人や子供も多い。けれど夜間の部になると、入場者のほとんどが一人でやってきて泳いでは、また一人で帰っていく孤独な大人達に変わるのだ。 しかもその内訳はかなり女性の方が多い。というのも仕事帰りのOLや、夫の遅い帰りを待ち切れず、暇をつぶしにやってきた人妻などに、安価で確実なダイエットの手段として、意外と重宝されているらしい。 もちろん皆が皆、美女というわけではないが、掃き溜めにも一羽くらい鶴はいるもので、その貴重な一羽を見つけては水中から鑑賞する楽しみを、祐一は早々に覚えていた。 滑り止めのざらついた階段を降りてプールに出ると、開放感いっぱいの高い天井から眩しいくらい照明が降り注ぎ、水面だけでなく空気そのものが輝いて見えた。 そこでは色とりどりの水着を着けた男女が、プールサイドや水中で思い思いの時を過ごしている。 窮屈なコンクリートの街中にあって、かなり非日常的な雰囲気のあるこの場所に来ると、普段とは違う自分になれる気がしてとても昂揚した。 浄化漕で腰下を洗い、シャワーを浴びる。心地よい温水が火照った身体を流れ落ちて競泳パンツに染み込み、早くも敏感になっているペニスが驚いてぴくりと反応した。 元水泳部の性か、これ以上無いくらい念入りな準備運動を済ませる間、場内を見まわして目当ての少女を探してみる。 他の常連と同様、少女もまた、いつも同じスイムウェアなので、いればすぐに見つけられるはずだった。 (今日はまだ来ていないみたいだな。いつも通り周泳コースで泳ぎながら待とう) 祐一はプールサイドに腰掛けて水の中に滑り降り、水中歩行コースを横切ってプールの中ほどへと移動する。 周泳コースとは、二本のコースをそれぞれ往路と復路に見たてて周回を重ねる環状線のようなもので、途中で足を着くことが禁止されているため、そこそこ泳力に自信のある人間が集まる場所とされていた。 軽くゴーグルを洗って装着し、壁を蹴ってスタートする。 ウォーミングアップを兼ねて大きなストロークでゆっくりと水を掻き、磨き上げられた完璧なクロールを周囲に見せつける。 引退後もそれなりにトレーニングを続け、こうして定期的に泳いでいるせいもあって、さほど衰えは感じない。 水が身体中を撫でて擦り抜けて行く快感は何物にも代え難く、イルカにでもなったような錯覚に半ば恍惚となって、あっという間に二十五メートルを泳ぎ切った。 コースエンドに人がいないのを確認してクイックターンでロープを潜り、そのまま泳ぎ続ける。スピードは落ちず、前方にみつけた女性と思しきシルエットに、プールの半分もいかないうちに追いついてしまった。 (おおっと、この際どいウェアは不二子さんだ! あい変わらず、いいお尻してるよ。胸もでかっ……) 一月も通っていれば、常連の顔とウェアくらいは憶えてしまう。しかし、名前はわからないので、気に入った女性にはイメージに合った名前を勝手につけることにしていた。 中学のプールには不似合いな純白のハイレグ、それも背中を大胆にさらけ出したウェアを着る彼女には、そのゴージャスなボディと挑戦的な精神を称えて「峰不二子」の名を捧げた。 三十代半ばに見える不二子は、毎日プールに通っているようで、会わない日がほとんどない。その甲斐あってか、肉体は見事にシェイプアップされ、若いOLなど傍にも寄れないプロポーションと、小娘には絶対に出せない、涎の出そうな大人の色気を全身から振りまいていた。 「でも、不二子さんは絶対にブレストしないんだよな。フォームが綺麗だから、脚も開かないし……」 言うまでも無く、鑑賞に一番適しているのはブレスト、つまり平泳ぎだった。 それも泳ぎが下手であればあるほど、水の抵抗に負けてフォームが崩れる為、水着のズレや食い込みも増すという寸法だ。 格好をつけてバリバリの競泳水着を買ったは良いけれど、実は余り泳げない美女、というのが最高の獲物で、不二子は残念ながらベストとは呼べない。 とはいえ、不二子クラスの美女ともなれば、その他の条件など不要だった。 祐一は無理に追い越そうとはせず、つま先に指が触れそうな距離を、着かず離れず泳ぎながら、その肢体に視線を注ぐ。 無駄な脂肪の削ぎ落された身体は一定のリズムで左右にひねられ、ボリュームたっぷりのヒップが絶え間無く躍動している。ぴたりと閉じられたふとももが交互に水を蹴るたび、一瞬だけクロッチの盛りあがりが覗け、白い薄布の向うにうっすらと映る恥毛の陰に祐一は狂喜する。 (すごいや……エロエロだ……) くびれたウエストのおかげもあって、後ろからでもバストは良く見え、水着の束縛をものともせずに膨らんだ豊満な乳房が、水の抵抗を受けてぶるんぶるん揺れていた。 (や、やばい。勃ってきた……) 淫らに蠢く極上の女体は、その姿だけで若い牡を楽々と勃起させてしまう。 窮屈な競泳用パンツの中でペニスは捻じ曲がるほど膨らんでおり、しばらく水から上がるのは無理そうだ。 決して見飽きることない光景をずっと眺めていたかったが、残酷にもコースエンドは近づいており、不審に思われないよう、祐一は渋々ながら距離を取った。 すぐ後から覗かれていたなんて露知らず、不二子はコースエンドにタッチしてロープを潜ると、引き締まったふとももの隙間から水を滴らせて梯子を上り、手早くシャワーを浴びてプールを後にした。 数少ない獲物の退場を未練がましく最後まで見つめ、再びターンをしようとしたその時、不二子と入れ替わりに一人の少女が階段を降りてくる。 (あの娘だ!) 待ち望んだ真打ちの登場に胸が躍った。浄化漕に腰をしっかりと漬けた後、少女は気持ち良さそうにシャワーを浴びながら、肩甲骨まで伸びた髪をポニーテールに纏めている。 高く突き上げた肘の下には、つるりとした真珠色の腋が遠慮なく晒され、浮き出た肩の筋肉は水着の下に潜り込んで、今時の女の子にしては、やや小振りの膨らみへと姿を変えていた。 祐一は少女のことを亜美と呼んでいた。少女の上品で愛らしい容姿は、昔好きだったHアニメのヒロインにそっくりなのだ。 でも、一見おとなしくて引っ込み思案な印象の亜美は、その実かなりの頑張り屋で、どうにも泳ぎが苦手らしく、上達の為に毎回ひとりでプールに通ってきているらしい。 並々ならぬやる気の証拠か、身につけている水着は完全な競技用で、ほとんど伸縮しないウェアによって、さながら若鮎のような流線型を描くその身体から、何としても泳ぎをマスターしたい、という強い意思が感じられた。 祐一は水中歩行コースへと移動し、ゆっくりウォーキングしながら、準備運動をする亜美の姿をじっとりと眺める。 水道の縁に手を突いてアキレス腱を伸ばす脚はすらりと伸び、若さと健康に溢れた天然ものの脚線美を見せつけていた。 (本当に綺麗な脚をしてるよな。不二子さんみたいな色気はないけれど、でも手にとって頬ずりしたいくらい、完璧な女の子の脚だ……) 脚だけではない。小さなヒップは水泳の練習で適度に鍛えられてきゅっと持ち上がり、骨盤からウエストのくびれへと連なる少女らしい直線的なラインは、未だ発育途上の青さを残しながらも、数年後を期待させるような魅力的な腰つきをしていた。 あらかじめ不二子の熟れた肉体に触発されていたペニスは、亜美の可憐な肢体に力を漲らせ、水中なのを良いことに遠慮無く競泳パンツの前を盛り上がらせた。 準備運動を終え、スイミングキャップにポニーテールを収めると、亜美は初心者用のスロープから静かにプールへと降りてきた。 練習をするのに周泳コースはシビア過ぎるので、一番広く穏やかな雰囲気の自由遊泳コースが、彼女のホームグラウンドだった。 身体の調子を確かめるように、ゆったりと泳ぎ始めた亜美を横目でみつめながら、祐一は休憩を装って自由遊泳コースに忍び込む。平泳ぎで往復を繰り返す亜美が、すぐ横でターンしたのを追いかけ、少し遅れて祐一もスタートした。 失速寸前の超スローペースに耐え、身体の三分の一ほど泳ぐラインを重ねて背後に迫る。周泳コースと違って縦列で泳ぐ必然性がない為、監視員の注意を招かないよう、より距離を取らねばならなかった。 (ああ……これだよ。これがあるから、つまらない受験勉強も耐えられるんだ……) 家に帰れば待っている苦渋の時間を忘れ、しばし至福の光景に酔う。 正直に言って、亜美の泳ぎは酷いものだった。手と脚が無関係のクロールにくらべ、双方の同調を要する平泳ぎは格段に難しく、泳げると思っている人間でも、フォームはでたらめだったりするパターンが多い。 亜美の場合はその最たる例で、手足がバラバラなのに加えて、それぞれがほとんど推力を得られるように機能していなかった。 とうぜん前には進まないので浮力が得られず、息継ぎに窮してもがく羽目になる。 懸命な当人には申し訳ないが、祐一にとっては待ってましたのシチュエーションで、ここぞとばかり乱れた股間に目を凝らした。 ぎこちなくひざを引き寄せるたびにヒップは大きく押し出され、前後から引き伸ばされたクロッチが、広がった尻の谷間に深く食い込んで皺を作る。 その一方、柔らかな割れ目を中央に刻んだ、恥かしい恥丘の膨らみは、窮屈な股布のビキニラインへの圧迫によってさらにボリュームを増し、身体の屈伸に従って水着の中で生き物のように形を変えていた。 「亜美のあそこ、すごく柔らかそうだ……多分、高校生だろうけど、やっぱり毛とか生えてるのかな?」 なんとなく、イメージに合わない。やはり、幼さを残す亜美には、ピンク色をしたつるつるのスリットがぴったりだと思う。 「不二子さんみたいな大人の女性は香水の匂いがしそうだ。でも、亜美みたいに若い女の子は、あそこに香水なんてふりかけないよな。やっぱりおしっこの匂いとかするのかな?」 視覚や触覚だけで牡の欲求は満足できない。匂いを嗅ぎ、舌で味わって、ようやく生きている柔肉の存在を実感できると思った。 仮に鼻腔を突き刺すような臭気や、舌先の痺れるような味がしたとしても、それが美しい女性のものであれば、とたんに天上の麗香、至高の味覚へと変化する。 いや、匂いや味が生々しければ生々しいほど、無垢な淑女の隠し持つ、牝の本性を知ったようで、興奮はより高まる筈だ。 実際、想像しただけでペニスの勃起はさらに強まり、膨らんだ亀頭は包皮を強引に剥き取られて、ローライズな競泳パンツから顔を覗かせる勢いだった。 デリケートな粘膜には温水すらひんやりと冷たく感じる。腰紐によって痛いくらいにせき止められた尿道は、それでもどくどくと脈動を繰り返し、露出した鈴口を先走りの粘液でぬめらせた。 腰から下をじんと麻痺させた痺れは、そのまま生暖かい快感に変わって背骨を這い上がり、やがて身体の隅々まで伝わっていく。 鳥肌のたった皮膚は異様に敏感になり、身体の表面をゆっくり流れていく水流に愛撫されて、平泳ぎのキックを打つたびに、今にも漏精してしまいそうな恍惚感に包まれた。 「ううっ、すごい! 頭がくらくらして気が遠くなる。少しでも緩んだら、このまま出ちゃいそうだ……」 周囲に人がいる中で堂々と勃起し、射精しかかっている状況が激しく羞恥心を刺激する。その一方、水中という不思議な閉鎖空間が、亜美と二人きりでいるような錯覚を引き起こしていた。 水上の音は歪んで遠ざかり、躍動する亜美の肉体が生み出す、泡沫の砕ける音だけが頭の中に響いてくる。 首の後ろがじわじわと重くなって、麻酔を打たれたような酩酊感に抗えず、肛門の括約筋が緩みかけた刹那、休憩時間の到来を知らせる監視員のホイッスルが、場内に高く鳴り響いた。 はっと我に返った目の前で亜美はすぐに足を着き、いそいそとスロープへ向う。 あやうく衝突しそうになるも、そのままやり過ごし、祐一は不審に思われないよう、敢えて反対側からプールサイドに上がるのだった。 プールではシュノーケルに足ひれを装着した監視員が、落し物は無いかと縦横にチェックを始め、休憩に入った客たちは会話する相手もなく、ある者は座り、ある者は立ったまま十五分の休憩時間が終わるのを待っていた。 (あそこで笛が鳴らなかったら、きっと出しちゃってたな。監視員に感謝しなくちゃ。でも、あんなに興奮したのは初めてだ) ずらりと並んだベンチの一番端に腰を下ろすと、勃起を悟られないように深く脚を組み、遠く逆サイドで身体を休めている亜美に目を向けた。 (いつも思うけど、あれだけ可愛いとやっぱり彼氏とかいるんだろうな。あのきつそうな水着を脱がして、少し小さめの胸やピンク色したアソコを、自由にしてる男がきっといるに違いないんだ。くそっ……羨ましい!) 自分がいくら欲しても手にできないものを、欲しいままにしている奴がいるのは納得いかなかった。負け犬の遠吼えと知りつつ、心の中で情けない悪態を吐いた。 そんな祐一の心中などわかるわけもなく、亜美は膝をそろえて行儀よく椅子に座ったまま、乱れた髪を結い直している。 (初めて会ってからもう一ヶ月。水の中でただ追いまわしているだけじゃ、どうにもならないよな……) つれない態度に勝手に傷つきながら、亜美と初めて会った頃をふと思い出した。 「おまえ、このままだと行く大学ないぞ」 水泳推薦の可否を問う大事な大会を前に、とある事故に巻き込まれて、最後の夏をあっさり終えた祐一は、休み明けの進路指導で担任からそう言い渡された。 まあ、それもそのはず。部活にばかり精を出して授業中はいつも寝ていたのだから当然だった。逆を言えば、それだけ推薦を取る自信があったのだ。 推薦枠は僅かに二人。その一つをほぼ手中に収めつつあった矢先の出来事だった。 ほんの些細な怪我だったし、幸い後遺症なども無かったにせよ、チャンスは完全に失われてしまった。 この非常事態に焦ったのは本人よりも母親で、ヒステリックに騒ぎながら勉強しろと捲し立てた。 水泳で大学に入ると公言していた手前、無視するわけにもいかない。嫌々ながら受験勉強に取り組み始めたのは良かったものの、三年分の遅れを取り戻すのは容易ではなく、すっかり緊張の途切れた精神状態も手伝って、まったく捗らなかった。 そんな八方塞がりの状況から逃れようと足を運んだプールで、祐一は亜美に出会ったのだ。 プールそのものに不慣れな様子は、水泳を始めた頃の自分のように見えた。 ただ決定的に違うのは、教えてくれる人間のいないこと。指導サービスなどないので、健気にも、たった一人で練習に励むしかない。 小学生にも見える頼りなげな容姿と、立派な競泳水着にぎこちない泳ぎが涙を誘う。 手取り足取り教えてやりたいと、スケベ心を抜きにして何度も思ったものだ。 結局は声をかける勇気を持てず、今はセクハラまがいの追尾行為に没頭するばかりだが……。 (何か一つでも、きっかけがあれば……) 名前すら知らない少女との接点を求めて思案していると、休憩時間の終りを告げる場内アナウンスが流れてきた。 休んでいた客たちが一斉に動き始め、亜美もまた、スロープから元のコースに戻っていく。 それを見て立ちあがろうとした祐一は、思い出したように自分の股間を確認した。 いきり立っていたペニスは休憩の間に大人しくなり、今はもう胸を張って歩けそうだった。 (さて後半はどうしようか?) 水着姿を見るのは楽しかったが、玄人の祐一にとって、亜美に合わせて泳ぐのはかなりのストレスでもあったので、少し考えて本来の目的に立ち戻り、後半は周泳コースで思い切り泳ごうと決めた。 休憩時間が始まった時点で帰った客も多く、コースはガラガラだった。 渋滞を気にせず泳げる貴重なチャンスを得て、クロールに平泳ぎ、背泳にバタフライと、調子にのって個人メドレーを披露してしまう。それも一般の人間から見たら、とんでもないハイペースで。 特にバタフライの発てる派手な飛沫と曳き波は、両脇のコースはおろかプールサイドにまで到達し、周囲の人間を唖然とさせた。 その中には亜美も含まれていて、しかしながら、息継ぎの際にちらりと見えた顔は、他の客たちの驚きや迷惑そうな表情とは違い、純粋な憧れと羨望に満ちていた。 (もしかして、これはかなりのアピールになっているのでは!?) 意外な展開に思わず色めき立つ。よくよく考えれば、自分が本気で泳いでいるとき、亜美はいつも同じ視線を投げかけていたような気がした。 (彼女が自分を見てくれている!) 優越感とは異なる誇らしい思いが祐一の泳ぎに磨きをかけ、気がつけば四十分近くもコースを占有して泳ぎまくっていた。 やがて終了時間が近づき、閉館十分前を知らせるBGMがフロアに流れ始める。 かなり目減りしていた人影が、一人また一人とロッカールームに消え、だだっ広いプールはすぐに閑散としてしまった。 いい加減疲れた祐一もクールダウンを兼ねて流していると、おっかなびっくり.といった様子で亜美がコースに入ってくる。そのままロープを潜って上がるのかと思っていたら、どうやら人気が無いのを見計らって、密かに周泳コースデビューを果たそうとしているようだった。 (いよいよやってみる気になったわけだ。僕以外は誰もいないから、恥かしがらなくてもいいよ。頑張れ!) 勇気あるチャレンジに敬意を表して応援する。一度はずしたゴーグルを、丁寧に洗って着け直す目つきは真剣そのもので、自分が我が物顔で泳いでいるこのコースが、彼女にとっては容易ならざる場所なのだ、と今さらながら気がついた。 壁を蹴って勢いよくスタートした亜美は、散々練習した平泳ぎで泳ぎ始める。 途中では立ち止まれないので、コースエンドに辿りつくまで泳ぎ切らなければならない。 祐一は万が一に備えてペースを上げ、素早くターンを終えて亜美の後ろに迫った。 相も変わらず下手くそな泳ぎと、真後ろからの視点のお陰で、先ほどを上回る淫靡な眺めが目に飛び込んでくる。 慌しく開閉するふとももの付け根では、力のこもったキックに小さなヒップがきゅっ、きゅっ、と元気良く隆起し、その谷間に勃興する肉丘は開脚によって紺色のクロッチを張り、光沢のある薄布を通して、縦に一本通った割れ目の筋を薄っすらと浮きあがらせていた。 このまま後ろから圧し掛かり、破裂しそうに勃起した肉角を力ずくで突き入れたい。 競泳水着を引き裂いて狭い膣道を貫き、その奥に眠る幼い子宮に、膨らんだ亀頭の先を叩きつけたい。 自分でも驚くほど凶暴な考えが頭を過ぎったその時、練習の疲れからか、突然亜美の右足が不自然に引き攣った。 痛みに焦った亜美はふとももを抱えてバランスを崩し、息継ぎを失敗してしたたかに水を飲む。手足をばたつかせて必死にもがくものの、慌てれば慌てるほど水面は無慈悲に遠退いていった。 祐一は冷や水でもかけられたように淫らな妄想から醒めた。監視員が気付くよりも早く反応し、背後から亜美を抱いて水面に引き上げようとする。 沈む頭を起こすため、腋の下に通した右腕をそのまま胸に巻きつけるが、驚いた亜美が身体をひねったせいで、手は反対側まで回り切らず、はからずも片方の乳房を鷲掴んでしまった。 蒸したての中華まんを思わせる、思わず目尻の下がるような感触と共に、競泳水着の生地が吸盤のように指先に吸いついてくる。掌の真中に当たるこりこりとした蕾に慌てて手を持ち直し、今度はしっかりと腋を支えた。 それでも、腕は乳房を持ち上げる形で密着したまま、これ以上は遠慮のしようがない。じんわりと伝わってくる熱い体温に、釜から出したばかりのパンを素手で抱き締めているような錯覚に襲われた。 間近に視線を感じて咄嗟に顎を引くと、ゴーグルの向うから亜美の目がこちらを見つめていた。 驚きと安堵に羞恥の入り混じった瞳は、その色を小リスみたいにころころと変え、最後は父親を見るような信頼の眼差しに落ちついた。 わずか数秒ではあったが、まるでチークダンスでも踊るように二人はしっかり身を寄せ合い、ゆるやかに回転しながら水面に浮上した。 「お二人とも大丈夫ですか!?」 慌てて飛び込んできた監視員が気色ばんで訊いてきた。人身事故は最悪の失態なので、焦る気持ちはよくわかる。 「僕は平気ですけど……」 心配して目を向けると、亜美は咳と荒い呼吸の合間に無理して答えた。 「わ、わたしも……大丈夫です。急に脚が動かなくなって、でも、すぐに助けていただいたんで、ちょっと水を飲んだだけで済みました」 言い終える頃にはある程度息も整い、なんとか窮地は脱したようだ。 「そうですか……とにかく無事で良かった。足はまだ痛みますか?」 「少し……」 「では、マッサージしておきましょう。申し訳ないんですが、プールサイドまでお願いできますか? 私は上で受け止めますから」 そう監視員に頼まれ、思い切って亜美をお姫様のように抱きかかえると、祐一は全神経を腕に集中させてプールサイドまで歩いた。 「あ、あの……ご迷惑お掛けして本当にごめんなさい。わたし、もう大丈夫ですから……」 見守る周囲の視線を恥かしがって、亜美は遠慮した。 「でも、右足はまだ痺れてるよね? 無理なフォームでずいぶん頑張って泳いでいたから。もしかして、足が攣ったのは今回が初めてなんじゃない?」 「じ、実はそうなんです。わたし、下手なくせに調子に乗っちゃって、それでこんなことに……」 騒ぎを起こした責任を感じて、亜美は自分を責めていた。 「僕も最初になった時は焦ったよ。足が思ったように動かなくなってね。まあ、これからはあまり無理をしないようにすれば良いだけさ」 慣れない慰めの言葉をさらりと口にしたものの、降って湧いた急接近に頭はかなり熱くなっていた。 泣く泣くプールサイドに引き渡すと、亜美はレスキューボードに寝かされ、右足のマッサージだけでなく、様々な救急対応を受け始めた。 滅多に無いアクシデントに、監視員たちも必死に緊急マニュアルを思い出しているようだった。 せめて名前だけでも訊ねたいのに、とてもそんな雰囲気ではない。 このまま付き添っていても邪魔になるだけなので、後を監視員に任せて引き上げることにした。 亜美は何か言いたそうにしていたが、真剣な監視員たちの勢いに口を開けず、ありがとうございました、と目で合図して小さく会釈をした。 軽く手を上げて応えた祐一は、潜水で一息にプールを横断すると、いそいそとロッカールームに向かう。 胸の動悸を押さえてシャワーブースに入った時には、人には見せられないほど股間が盛り上がり、競泳パンツを突き破る勢いでペニスが屹立していた。 震える手でカーテンを引き、もどかしく紐を解いて反り返った肉竿を引っ張り出す。 いつもなら清掃の始まっているロッカールームも、亜美の処置のために今日は静かなものだった。 祐一は鼻息を荒げて背後を何度も気にしながら、恐る恐る競泳パンツを膝まで下げ、シャワーの蛇口をひねった。 「うぁっ! 冷たっ!!」 水道管に残っていた冷水に驚き、慌てて腰を引いたものの、シャワーはすぐに温まり、プールで落ちた体温を取り戻してほっと人心地つく。 手の中でドクドクと脈打つペニスには青い血管がいくつも浮き出し、陰嚢の裏に感じる熱い疼きに括約筋が痙攣するたび、赤黒く膨張した蛇頭は有り余る若さに任せて力強くへそを叩いた。 亜美の膣を模して握った掌の、ペニスをもぎ取られそうな締めつけを押し返して、祐一は思い切り腰を突き出した。 「うぅっ!!」 包皮が強引に根元まで引き絞られ、肉棒の腹に這う赤い筋がぴんっと真っ直ぐに突っ張ると、僅かな痛みをかき消して背骨の蕩けるような快感が一刺しに脳天を貫いた。 指の輪っかが開いた茸の傘をしごき上げ、洗われても洗われても湧いてくる欲望の樹液に肉の潤滑は増していく。 「はあっ、はあっ、すごいよ亜美! もうこんなに濡れてる。それにきみの中、生き物みたいに動いてるんだ! ざらざらした壁がぼくのにまとわりついて、ああっ! ね、ねじれるぅっ!!」 きつくまぶたを閉じたまま、一心不乱に挿入と抜孔を繰り返した。挿しても抜いても腰の砕ける気持ち良さに眩暈がする。びりびりと痺れるような快感に腰は完全に麻痺し、今にも膝が抜け落ちそうになった。 「あっ! ううっ! ああっ!! も、もう……限界だっ! だ、出すよっ! な、中に! 亜美のお腹に全部っ! ううっ!!」 ひときわ大きな痙攣が全身を突き抜け、祐一はアッパーカットでも食らったみたいに弓なりになると、その極点でぶるぶると震える。 直後、尿道を焼き尽くした精の迸りは、噴水の如く飛沫を上げた。 真っ白な牡のミルクが、高々と放物線を描いてタイルに降りかかる。 なおも吐精しつづけるペニスは、見えない指先で弾かれたように幾度も跳ねあがり、そのたびにビュクン、ビュクン、と液溜まりに残ったすべての生殖液を絞り出した。 やがて肉の先割れから最後の一雫が滴り落ちると、祐一は事切れたようにその場に崩れ落ちた。 降り注ぐ熱い雨に打たれながら、目の前の壁を流れ落ちる精液の、咽かえるような青臭い匂いに、卑しい願望を想い抱く。 いつの日か本当に、亜美の小さな性器をこの匂いで満たしてやりたい……と。 |