フェアリーテイル

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第二章



「ねえ、起きて。もう朝よ。ご飯に遅れるわよ」
 遠くから穏やかな声が聞こえ、肩の辺りを優しく揺すられた。
 誰かに起こしてもらうなんていつぶりだろうか。
 高校入学以来、ずっと一人暮しをしてきた真琴は、猛烈な眠さも手伝って、つい甘えてしまう。
「うーん……あと十時間」
「あのね。転校早々、欠席なんて、みっともないでしょう? それに一時的とは言え、キミを預かっている身としては、遅刻も欠席もさせるわけにはいかないの。だから、お願い。起きてちょうだい」
 髪の毛をそっと撫でられる感覚が懐かしい。遠い昔にも同じことがあった気がする。
 それはそうと、女の人からお願いされては、無視するわけにもいかない。
 真琴は夢うつつのまま、むくりと身体を起こした。
「おはよう……お姉ちゃん」
 眠け眼をこすりながら、何故だか自然とそう口にしていた。
「誰がお姉ちゃんなの? 私は一人っ子よ、お寝坊さん」
 白衣の女性が腰を屈めて真琴の顔を覗き込み、にこにこと微笑んでいた。
 たおやかなセミロングの髪に縁取られた、すっきりとした輪郭の持ち主で、几帳面に整えられた眉と、心持ち目尻の下がった、切れ長の瞳が優しそうな女の人だった。
「えーと……」
 ひんやり肌寒い朝の空気に、猫みたいな身震いを一回。
 窓から差し込む光の中で真琴はじっと周囲を見回す。
 けれどもそこは、見慣れた四畳半ではなかった。
 十二畳ほどのリノリウムに事務机がひとつとパイプベッドが二つ。
 壁際には薬品棚が並び、解放された窓のおかげで薄まった、消毒液の匂いが微かに香る。
 軽く混乱して、真琴は矢継ぎ早に訊いてしまった。
「ここは何処? 貴方は誰?」
 頭をぶんぶん振って、無理やり記憶を呼び覚まそうとする。
「待って。そんなに焦らなくていいの。酷い目に遭ったんですものね。ひとつひとつ、ゆっくり理解していきましょう」
 戸惑う患者の頬を撫でながら、精神科医のような口振りで女性は言った。
「ここは聖フェアリー学生寮の三号棟、その一階にある医務室よ。そして私は、この学園の校医で沖田千鶴。よろしくお願いするわね」
 差し出された手をおずおずと握り返し、真琴はようやく思い出した。
(そうだ。あれから僕はどうなったのだろう? 辛うじて七人目までは覚えている。その時にはもう、頭は半分バカになっていて、下半身の感覚も無くて、更にその後は……わからない)
 とにかく、アパートに帰った記憶はなかった。
「僕はまだ、ここにいるんだ……」
 独り呟いて、俯く真琴の目に映ったのは、真珠色に輝くシルク地のキャミソールとフレアショーツを身に着けた自分の姿だった。
「うわっ! なにこれっ!?」
「そうそう、キミの下着は汚れてたから捨てたわ。替わりに私の下着を着せておいたんだけど、お気に召さなかったかしら? まあ、普通は気に入らないわよね。男の子ですものね」
「えっ?……あ……そっか」
 着替えさせてもらったということは、既に何もかも見られてしまっているわけで、まさに万事休す。
「終ったぁ……人生、終ったぁ……」
 真っ白に燃え尽き、真琴はがっくりとうな垂れた。
 パトカーの後部座席。両手に手錠をかけられ、隣には警察官。スローモーションで流れる風景に、中島みゆきの嗚咽するような歌声が鳴り響く。
「何を言ってるの。まだ始まってもいないわ。今のところ、知ってるのは私と生徒会の面々だけ。学園の上役連中に、キミは女の子で、ただの転校生と報告してあるから、お楽しみはこれからよ」
「……はい?」
 この人こそ、何を言っているのだろう。
「て、転校生って……そんなことできるわけ……」
「佐伯さんなら、どうにでもなるわ。この学園は彼女の為にあるんですもの」
「でも、九頭高の方は? 僕、中退とか困ります!」
「大丈夫。キミの学校にもちゃんと連絡済みよ。さすがに転校先の細工はしたみたいだけど」
「そんな無茶な……」
「私もそう思う。でも逃がしてはあげられないの。佐伯さんに気に入られたのを運の尽きと思って、しばらくの間は言う通りにした方がいいわね」
 軽く溜息を吐いてベッドを離れ、千鶴はセーラー服を持って来てくれた。
「それにキミ自身、まったく非が無いわけでもないでしょう?」
 確かに。警察に突き出されなかっただけでも、良しとすべきか。
「なら、この際、女子校暮らしを楽しんでみたら? わざわざセーラー服まで着て、忍び込もうとしたんだから、知りたかったのよね。ここがどんな場所で、お嬢様方がどんな生き物なのか。きっと幻滅するわよ……って、もう、とっくにしてるかしら」
 くすくす笑う千鶴から制服を受け取り、真琴は頬を赤らめながら、ベッドより立ち上がる。
 すると、腰に力が入らずよろめいて、千鶴の胸にすがりついてしまった。
 白衣より肌蹴たタートルネックのサマーセーターは、小ぶりのスイカ並はあるだろう迫力のバストラインを隠すどころか返って強調し、零れ出さんばかりに膨らんだ双峰の谷間にすっぽりと顔が埋まる。
 左右から頬を圧迫する柔肉の感触と、鼻腔をくすぐる香水混じりの甘やかな体臭に、真琴は状況を忘れてうっとりした。
「いつまでそうしているつもり?」
「あっ! ご、ごめんなさいっ」
 慌てて千鶴から離れ、といってもまだ自力では立てず、再びベッドに腰を落とす。
 下半身の反応は鈍く、じんじんと痺れたようなくすぐったさに、つい昨日味わった、凛を始めとする少女たちの、柔らかくて温かな口腔のぬめりを思い出してしまう。
「無理もないわね。昨日はずいぶんと頑張ったみたいだし。生徒会の子たちから話は聞いているわ。きっちり全員、満足させたらしいじゃない」
「よ……よく憶えてません」
 もし、それが本当なら、少なくとも二桁は射精した事になる。腰も抜けるわけだ。
「でも、若いっていいわね。一晩寝ればすぐに元気になるんですもの。それともキミが特別なのかしら?」
 千鶴の意味ありげな視線は股間に注がれている。
 見るとフレアショーツの柔らかな生地が、あからさまにテントを張っていた。
「わっ! こ、これはその……あ、朝だから?」
 股間を両手で隠して、苦しい言い訳に終始する。
 原因はもちろん、千鶴のバストだった。
「さっきも言ったけれど、ここでキミは女の子として暮らすのよ。周囲にもし男とバレたら、佐伯さんはすぐにでもキミを警察に突き出すでしょうし、私も守ってあげられない。だから、ちょっと胸に触れたくらいで、いちいち硬くしてちゃ駄目」
「そ、そんなこと言われても……」
「無理よね。まだ若いんですもの。となれば方法はひとつ。簡単に勃起しないで済むように、あらかじめ抜いておけばいいわ。恐らく事ある毎に、佐伯さんはキミを挑発してくる。今のままじゃ、あっという間にゲームオーバーよ。どうする?」
「どうする……というと?」
「自分だけで処理するには限界があるでしょう? キミさえ良ければ、私が手伝ってあげるわ。まあ、放っておいても佐伯さんや生徒会のメンバーが、寄って集って可愛がってくれるでしょうけど」
 可愛がって、とは随分な皮肉だ。また、あんな目に遭うというのか。それも毎日のように。想像するだけでぞっとする。
「それで、キミくらいの年頃は、一日平均で三回くらいかしら?」
「へっ、何がです?」
「マスターベーションの回数よ」
「っ!……」
 何の臆面も無く言われて真琴は絶句、そして赤面した。
 これではどちらが男かわからない。
 それに一日平均三回ということは週に均して二十一回。
 やった試しはないが、もし出来たとして、死んでしまう気がする。
「ええっと、そんなには……することもありますけど、毎日では……」
「またまた、謙遜しなくて良いわ。一日二桁のスコアは伊達じゃないでしょう?」
 困ったことに、千鶴の中で真琴は、絶倫SEXマシーンというキャラを与えられているらしい。黎香たちだけでも手に余るというのに、千鶴にまで変に買い被られては、文字通り命を縮める羽目になりそうだ。
「あ、あのっ……僕……ほんと屁垂れですから、あまり期待しないで下さい。で……先生に会うとしたら、何処へ行けばいいんですか?」
「寮でも校舎でも、大抵、私は医務室にいるわ。医務室の中は私のテリトリーだから、佐伯さんにも勝手な真似はさせない。危なくなったら、いつでも逃げていらっしゃい。匿ってあげる」
 とても有り難い申し出だった。右も左もわからない校内で、理解者のいる隠れ家があるのは心強い。
「それはそうと、ショーツを脱いで。膨らんだままスカートを穿いたら目立つから、とりあえず一回抜いておきましょう」
「えっ……い、いきなりそんなっ……」
 急に言われても、人前で脱ぐのには相当の覚悟がいる。しかも、下半身は今、とんでもないことになっているわけで、簡単に決心はつかない。
「私の下着に染みをつくる気? 恥ずかしいなら手伝ってあげるわ。腰を浮かせて」
 どうやら千鶴は本気らしい。フレアショーツのウエストを掴んで催促する。
 真琴はしばし躊躇したものの、他に選択肢も見当たらず、思い切って腰を浮かせた。
「あらあら。可愛い顔して、こっちはずいぶんとやんちゃそうね」
 真琴の腰からショーツを引き下ろした千鶴は、目の前に反り返ったペニスを見て、にんまりほくそ笑む。
 昨日、嫌と言うほど精を抜き取られたというのに、育ち盛りの肉角は呆れるくらい元気だった。
「時間が無いから、少し急ぐわ。リラックスして、すべてを私に任せるの」
 カーテンを引いて周囲の視線を遮ると、すぐ横に腰を下ろして、千鶴はしな垂れかかってくる。
 カーテン越しに降り注ぐ柔らかな光の中、肩に感じる心地良い重みとほんのり伝わる温かな体温に、真琴の心臓はドキンドキン騒々しい音を発て始めた。
「もう顔が赤くなってる。キミにとって、この学園は刺激で一杯よ。私で女に慣れておきなさい」
 無節操に勃起したペニスを両手でやんわり握り、千鶴は硬さを楽しむように軽やかにしごく。
 生徒会のサキュバスたちとは違ってあくまで優しく、その手つきには大人の女性の余裕を感じた。
「あっ……あううっ……」
 千鶴の手が弾むたび、ペニスの芯にぴりりと微電流が走り、腰から下はすっかり痺れて一瞬でぐにゃぐにゃになった。
 もともと軽い身体が質量を失ってしまったのか、数センチほどベッドから浮いてるような心地良い浮遊感に、周囲の景色がぐるぐる廻って見える。
 温かな掌は根元から先端へと血液を搾り上げ、李色に充血した亀頭は目一杯に傘を広げてじんじんと鈍く痛んだ。
「すごいわ。もうびんびんね」
 化粧気の少ない千鶴の横顔は穏やかな微笑を湛え、黒髪から薫る仄かなリンスの匂いに、自然と身体の力は抜けていく。
「あの子たちの言う通りね。みんな誉めていたわよ。最後の最後まで硬いままで、精液も濃くて美味しかったって。私も是非、味見させてもらいたいわ」
 美人の千鶴に誘惑されて、嬉しくないと言ったら嘘になる。
 でも、自分の口から、はいどうぞ、なんて言えはしなかった。
「恥らう姿は、ここの生徒なんかよりずっと女の子らしいわね。スレンダーな身体に下着もよく似合っているし……そそられるわ」
 千鶴の目が粘りつくような艶を帯びる。
 思えば出会った時の黎香も、同じ目をしていた気がする。
「も、もしかして先生もレ……」
 言いかけた唇に、そっと人差し指が添えられた。
「それは言わない約束でしょう?」
「そうなん……ですか?」
 鈍い真琴は小首を傾げる。
「そうよ。だから、そういう悪いことを言う口は、私が塞いであ・げ・る」
 長い腕が優しく首に巻きつき、ずっしりと重い乳房が圧し掛かってくる。
 そのままベッドに押し倒され、同時に紅い唇が降ってきた。
 柔らかな唇は隙間無く密着し、当たり前のように舌が滑り込む。
 先端でなぞるように口腔をくすぐり、甘い唾液を滴らせて絡みつく舌は、交尾をする軟体動物みたい。
 生温かくてぬるりとした感触に脳髄は蕩け、今にも唇伝いに吸い出されそうだった。
「男の子とのキスは久しぶりよ。やっぱり、興奮が違うわね」
「いつもは女の子と?」
「まあ、ここは女子校だし。他の先生と違って住み込みだから、出会いも少ないし」
「なんとなく……勿体無いですね」
「驚いた。ちゃんとお世辞も言えるのね」
 お世辞を言ったつもりはない。男の出番は無いと言われたようで、寂しかっただけ。
「でも、安心して。私はどちらでもいけるクチなの。ましてキミみたいな可愛い子が相手なら、フフフッ……じゅるっ!」
 千鶴の涎を拭くゼスチャーに、真琴は吹いた。
「あら、ウケたわ」
「不思議なひとですよね、沖田先生って。美人なのに愛嬌もあって、優しくて……なんだか、とても素敵です」
 するすると歌うように賞賛の言葉が紡がれる。
 口下手な真琴にとっては驚嘆すべき出来事だ。
「困ったわねぇ。いくら誉めたって、それこそ出るのは涎だけよ?」
 そう言ってにやりと笑う千鶴に、再びぷっとなって真琴は呟く。
「先生が母さんだったら、良かったのに……」
 責任転嫁などするつもりもないが、千鶴のような母親であれば、あるいは自分も、もう少し素直でいられたかもしれない、そうは思う。
「お母……さん?」
 千鶴の表情がわずかに強張った。
 どう見ても二十代前半の女性に、「母さん」は、やはり不味かっただろうか。
「ごめんなさい。まだお若いのに、失礼でしたね」
「いいえ。女性として、とても光栄よ。私にもしキミみたいな息子がいたら、きっと皆に自慢して歩くわ。お母様には申し訳無い気がするけれど……」
 感慨深げに呟いた千鶴は、おもむろにタイトスカートを捲くり上げると、真琴の膝に馬乗りになった。
 むっちりとしたふとももが肌蹴、スカートの裾より薄紫のガーターベルトとレースショーツが垣間見える。
 女子高生には決して真似できない、肉の重みを感じさせる柔らかな腰つきは、匂い発つような大人の色気を撒き散らして、真琴の股間を強烈に刺激した。
「ちょっ……な、何をするんですか?」
「言ったわよね? 味見させてもらうって」
「は、はあ……でも……」
「馬鹿ね。昨日、キミが相手をした小娘たちとは違うのよ。大人の女が味見って言ったら、下のお口に決まってるでしょう?」
「先生……下品です」
「これが私よ」
 にっこり笑ってウインクされたら、もう何も言えず、白衣の胸ポケットから取り出した四角形の銀紙を千鶴が破り、なにやらゴム製の物体がペニスに被せられるのを、ただ見つめている他なかった。
「コンドームは初めてかしら?」
 液溜まりを摘んで亀頭に乗せ、片手で器用に巻きを伸ばしながら千鶴は訊いた。
「は、はい。こんなに薄いんですね。コンドームって」
 ピンク色をした極薄のゴム膜が、ぴっちりと隙間無くペニスに貼り付いていく。
 クリームが塗られているらしく、べたべたした感触が少しだけ気持ち悪い。
「本当はゴム無しでいきたいところだけど、今日はちょっと危ないの。ごめんね」
 小さく舌を出して謝った千鶴はペニスを掴み、クロッチの隙間からショーツの中へ導こうとする。
「あ、あの……僕、一応初めてなんで……」
「昨日は?」
「みんな上の口に」
「真琴くんって下品ね」
「くっ……」
「冗談よ。それにしても、キミの筆おろしが出来るなんて、思っても見なかったわ。優しくリードしてあげるから、安心して私に任せなさい」
 千鶴の手が股間で蠢き、ペニスの先端に卑猥な弾力を感じた。
 入れやすいように片手でクロッチをずらしたまま、腰を前後に揺らして、亀頭を割れ目に擦りつける。
 コンドームを着けているせいで真琴側の潤滑は期待できず、千鶴自身の潤みだけが頼りだった。
 幸い濡れ具合は良好のようで、先っぽを咥え込んでぱっくりと口を開いた秘裂からは、甘酸っぱい匂いのする透明な蜜液がとろとろと湧き出し、ねばりつくような粘膜の滑りに、だんだんと互いの境目がわからなくなってくる。
 ショーツの隙間より僅かに覗けた秘裂は紅く、丁寧に整えられた柔らかそうな恥毛が薄く萌えている。
 見慣れた自分のペニスが、肉色をした内臓に呑み込まれていくようで、なんだか怖かった。
「OK、これで入るわ。心の準備は良い?」
「は、はい。よろしくお願いします」
「いくわよ。んんっ……」
 真琴の返事と同時に、千鶴はゆっくりと腰を落とした。
「うっ!」
 最初に粘りつくような挿入感があって、きゅんと窄まった柔唇がコンドームに包まれた亀頭をきつく舐りながら覆い被さってくる。
 内壁にびっしりと生えた触手が一斉に伸びてきてペニスに吸い付き、膣の内側に生えた柔ひだを一枚一枚押し退けるうちに、すっかり根元まで呑み込まれていた。
 入り口から奥までぴったりと密着した粘膜から、極薄のコンドームを通して千鶴の体温がじくじくと伝わってくる。
 動いてもいないのに、蛇腹状になった肉壁はうねうねと波打ち、ペニスを奥へ奥へと吸い込もうとしているようだ。
「はぁ、ふぅ……ぜ、全部入ったわ。やっぱり本物は咥え心地が最高ね。このお肉の弾力が堪らない。真琴くんの方はどうかしら?」
 千鶴の明け透けな感想が、真っ白になった頭の中で木霊する。
 身体の中心でひとつに繋がる感覚と焼きつくような温もりは、千鶴が自分を受け入れてくれた証しであり、気がつくと真琴は、返事もしないで胸にすがりついていた。
「ちょっ……どうしたの急に……えっ……嘘、もしかして……泣いてるの?」
 動揺した千鶴は慌てて真琴を抱き締め、子供をあやすように頭を撫でてくれる。
 こうして誰かに抱き締められ、優しくされたのはいつ振りだろう。
 真琴には母親に抱き締められた記憶が無い。
 母親のお気に入りはいつも、一歳年下の妹だったから。
「参ったわね。泣かれるとは思わなかったわ。初めてが私じゃ、嫌だった?」
 胸に顔を埋めたまま、ぶんぶんと頭を振る。
 そんなわけはない。それどころか、言いようもなく嬉しかった。
 ここにいても良いと、存在を許されたような気がした。
「ありがと……先生。なんだか僕……生きてて良かった」
「大袈裟ね。でも、そう言って貰えると、私も救われるわ。私で良ければ、好きなだけ甘えて良いのよ」
 喉の奥がカッと熱くなった。漏れそうになった嗚咽を、胸に強く顔を埋めて堪える。
 一人でいることに慣れ過ぎた人間にとって、甘えて良い、と言ってくれる人がいて、自分も素直に甘えたいと思えるのは、最高の幸せだった。
「先生っ! 僕っ……ぼくっ……」
「あぁんっ! 真琴くん、いきなり下から! 下からそんなに突いたら……お、奥に……奥に当たるわ!」
 千鶴をしっかり抱き締めたまま、ベッドの弾力を利用して激しく腰を突き上げる。
 バウンドしたヒップが沈む度に、ペニスは深々と胎道を貫き、こりこりとした膣奥の壁に亀頭がごつごつと突き当たった。
「うくっ! し、振動が……子宮に……響く……」
 眉間に深く皺を刻み、唇を噛み締めて千鶴は衝撃に耐える。
 いつしか両脚は真琴の腰に絡みつき、自分から尻を振り始めていた。
 収縮した括約筋につられて、ただでさえ窮屈な膣がきゅんとペニスを締めつける。
 コンドーム越しとはいえ、無数の濡ひだがしゃぶるようにまとわりつく感触は強烈で、敏感な牡茎を根元まで呑み込み、若い精を搾り取ろうと蠢く、淫蕩な肉壷の吸引力に、我を忘れて溺れてしまう。
「あうぅっ! せ、先生の中……気持ちよすぎて、僕っ……もう蕩けそう……」
 恍惚と呟いた真琴は、豊満な乳房の谷間より立ち昇る、濃密な牝臭に包まれながら、夢中で腰を突き動かす。
 そんなに激しくしたら、すぐに果ててしまうと知っていても、初めて味わうセックスの悦びに、打ち震える腰を止めることは出来なかった。
「あっ! うっ! あんっ! 真琴くんのおちんちんだって素敵よ。とても硬いから、先っぽでお腹をえぐられてるみたい。聞こえるかしら? 壁に擦れて、中でごりごり言ってるの。先生、おかしくなりそう」
 千鶴も力強くヒップを弾ませ、息の合った夫婦のように完璧なタイミングで下半身がぶつかり合う。
 結合部から漏れ出す蜜液は音も無くショーツに染み込み、小気味よいベッドの軋みと二人の切ない吐息、じゅくじゅくという卑猥な液音が、静かな室内にゆっくりと満ちていく。
 ペニスの付け根がどくどく脈を打ち始め、急速に高まっていく性感に、真琴の忍耐は脆くも崩れ去った。
「せ、先生っ……僕っ……ぼく、もうっ!」
「イクの? イクのね? いいわ、出して! 我慢なんてせずに、思い切り出しなさい!!」
 射精を促すべく、千鶴はひときわ忙しなく腰を振り乱す。
 息むたびに膣孔は窄まり、根元からペニスを食い千切られるのでないかと心配になるほどだった。
「あうっ! そんなに強く締めたら僕……まだ先生はイってないのに……うっ!!」
 出来るなら千鶴と一緒に終わりたい。
 真琴の願いも空しく、快感に緩んだ下半身はあっさり精を散らしてしまう。
 噴出した熱い精液が、コンドームの液溜まりに反射して亀頭を焼く。
 射精の脈動に腰はびくんびくんと痙攣し、千鶴の胎内へ向けて精を迸らせるたびに襲いかかる、背骨の蕩けるような恍惚の連続に、目の前が幾度も真っ白になった。
 一時的に脳が麻痺して平衡感覚を失い、ふらつく身体を支えられず、千鶴の胸にぐったりと突っ伏す。
 そっと抱き締めてくれる腕の優しさに、相手をイカせることなく果ててしまった羞恥と、罪悪感がいっそう募った。
「せ、先生……ごめ……」
 謝りかけた真琴の唇を、千鶴は接吻でやんわりと塞いだ。
 慰めるように絡みつく舌が、頑なな心をゆっくりと溶かしていく。
「すっかり目がとろんとしちゃって。フフフッ、可愛いわね。イク、イカないに拘る必要なんてないの。とっても気持ち良かったわよ。有難う」
 穏やかな微笑を湛えた千鶴は、まるで聖母マリアのようだった。
(ああっ……これが女の人なんだ。なんて優しいんだろう……)
 もともと偏見を持っていたところに黎香の洗礼を受け、決定的に歪みかけていた真琴の女性観は、寸での処で千鶴に救われた。
「先生……僕、あの……」
 パチ、パチ、パチ。
 伝えようとした感謝の想いは、無粋な拍手で無残にも遮られてしまった。
「朝食前に性交とはお盛んなことだ。これが本当の朝飯前という奴かな?」
 いつの間にか、カーテンの向うに黎香が立っていた。
 カーテンの端を掴んで黎香はベッドをひと回りし、真琴と千鶴の姿を白日の元に容赦なく晒す。
「さすがは学園一、手が早いと噂の沖田先生ですね。初対面の未成年男子を相手に、大人の魅力全開、いきなり童貞食いとは恐れ入ります」
 皮肉たっぷりに言う黎香の背後、医務室の入り口からは凛やなつめを始めとする、ラウンドテーブルの面々が、無邪気な笑顔でひらひらと手を振っている。
 恥ずかしさに身を強張らせる真琴を、しっかりと胸に抱き締めて庇い、千鶴は悠然と言い返した。
「あら、佐伯さん。貴方ほどじゃないわ。見ず知らずの男の子を、無理やり引っ張り込んで、玩具にしているんですもの。私なんて足元にも及ばない」
 腰を上げ、胎内より抜け落ちたペニスからコンドームを引き剥がすと、白濁液でたっぷりと膨らんだそれを、黎香の前にかざして見せる。
「彼ったら、私の中でこんなに出してくれたの。出す時の気持ちよさそうな顔、とても可愛いかったわ。まあ、男の子が嫌いな佐伯さんには、一生わからないかもしれないけれど。どうせ昨日も、貴方は見ていただけなんでしょう?」
 男が嫌い? 見ていただけ? 真琴は耳を疑った。
「それは良かった。男に餓えていらっしゃる先生の為に、残しておいて差し上げた甲斐もあったというもの。しかし、真琴は私の飼い犬です。お貸しするのは構いませんが、使い終わったら返して頂きたい」
「貴方らしい物言いね。でも、彼は獣ではないのだから、本人の意志をあまり軽んじないようにしなさいね」
「年長者らしいご忠告、痛み入ります。外で待ちますので、登校の準備をさせて下さい。それと、食堂は既に片付けに入っています。残念ながら、真琴は朝食抜きです」
 それだけ言って、黎香はつかつかと医務室を出ていった。取り巻きも後に続き、ドアが閉められると再び室内は静かになる。
 目の前で繰り広げられた冷たい女の闘いに、真琴は血の気が引く思いだった。
「ごめんなさいね。せっかくの初体験だったのに、とんだ邪魔が入ってしまって」
 千鶴はハンカチを取り出して、申し訳なさそうにペニスの後始末をしてくれる。
 甲斐甲斐しいその姿に、真琴の胸はじんとなった。
「そんなことありません。素敵な初体験をありがとうございます。それに先生は本当に僕を守ろうとしてくれました。すごく嬉しかったです」
 初めての相手が千鶴だったのは幸運といえる。
 もし、黎香やラウンドテーブルの連中が相手なら、それは初体験と言うより過激なプレイでしかなく、トラウマになりかねなかった。
「でも、大丈夫なんですか? 彼女にあんなこと言ってしまって、先生の立場が危うくなったりとか……」
 千鶴は黎香と対立関係にあるらしい。今のところ、真琴にとっては唯一の味方だ。
 自分を庇ってくれるのは有り難いが、大切な人に迷惑をかけるのは嫌だった。
「キミはそんな心配しなくてもいいの」
 ペニスを掃除し終えた千鶴はきっぱりと言った。
「私と佐伯さんは以前からあんな調子よ。別にキミのせいじゃないわ」
「は、はあ……」
「それに苛められている生徒を守るのは、教師として当然でしょう?」
 九頭高にそう言ってくれる教師は一人もいなかった。
 皆、こんなところに来たのが悪いのだから、自分でなんとかしろ、というスタンスだった。
「ほら、あんまり佐伯さんを待たせると後が大変よ。彼女、気が短いから」
「あっ……はい!」
 千鶴に促され、真琴はフレアショーツを引き上げると、大急ぎで制服を着る。
 セーラー服も二度目ともなれば慣れたもので、留め具が少ないぶんだけ、着替えは詰襟よりもずっと早い。
「えっと……いろいろとお世話になりました」
「どういたしまして。今回のことで懲りていなかったら、またいつでもいらっしゃい。女の扱い方を手取り足取り、じっくり教えてあげるわ。あとこれ、もし良ければ食べてちょうだい」
 そう言って千鶴が事務机の引出しから取り出したのは、コミカルなカエルのプリントが可愛い弁当包みだった。
「これは先生のお昼でしょう?」
「いいえ。私のはここにあるわ」
 引出しからもう一つ、少し小さ目の包みが出てくる。どうやら真琴のために、予め余分に作っておいてくれたらしい。
「本当はお昼に食べてもらおうと思っていたんだけれど、私のせいで朝ご飯、駄目にしちゃったから」
 真琴は危うく泣きそうだった。
「ありがとうございます。大事に食べます」
 情けない顔は見せたくないので、弁当箱を胸に抱き締め、足早に医務室を出る。
 そこで待っていたのは……、
「朝っぱらから、恥をかかせてくれて礼を言う。代わりに最高の一日を進呈しよう。楽しみにしておきたまえ」
 ある意味、死刑宣告だった。



(これは本当に現実なのだろうか?)
 教室を埋め尽くす、セーラー服の少女たちを前に、真琴は自問した。
「では、自己紹介をしてください」
 担任教師に促され、しぶしぶ教壇に上がる。
 季節外れの転入生を迎えるクラスは、好奇心にしんと静まり返り、皆の視線が真琴に集中していた。
(穴があったら入りたい。それが駄目なら帰りたい)
 残念ながら、どちらも無理なので、仕方なく口を開く。
「えっと……このたび、皆さんのクラスに転入することになりました。深井真琴です。どうぞ、よろしくお願いします」
 何の面白味もない自己紹介。それもその筈、滅多なことを口にしたら、男とバレてしまう。
 このまま何事も無く済んでくれれば良いのに。そう願いながら周囲の反応を待った。
「はい。では皆さん、仲良くしてあげて下さいね。深井さん、貴方の席は佐伯さんの隣よ」
(くっ……よりによって……)
 取り敢えず、第一段階はクリア。でも、まだまだ気は抜けない。
「さっそく授業に入りましょう。今日は三十二ページから。佐伯さんは、深井さんに教科書を見せてあげて」
 教師の声を背に、言われた通りの席へ向かう。
 左右からちらちらと顔を覗く視線に、いつバレるかと気が気ではなかった。
 何とか無事に辿りついたものの、隣には澄まし顔の悪魔が座っている。
 嫌々ながら机を寄せると、黎香は意外にも、机の境目に自分から教科書を置いてくれた。
「あ、ありがとうございま……」
 クラスメイトの手前、取り敢えず礼を言おうとして、途中で口を噤む。
 差し出された教科書の隅に、メモ書きがされていた。
『机の中を確認したまえ』
 シャープペンで書かれたメッセージに、つい横顔を見つめても、黎香はいたって無表情。
 仕方なく机に手を突っ込むと、なにやら厚紙の束が入っていた。
 恐る恐る引き出して、真琴は驚愕する。
 それは昨日の痴態を撮影した写真だった。
 セーラー服のまま荒縄で吊るし上げられ、露出した下半身にそそり立つペニスから、白いシャワーを吹き上げてよがり狂っている自分の姿に、思わず悲鳴をあげそうになる。
 黎香は黒板を見つめたまま、唇の端でくすりと笑い、教科書を一ページめくった。
『君のデジタルカメラを使わせてもらったよ。便利な物だな。いくらでも印刷できる。ネットで日本中に配信するのも一興かな。フフフッ』
 わざわざ笑い声まで書き込んで、余裕しゃくしゃくというところか。
 とにかく、決定的な弱みを握られてしまった。
 エロい写真を撮りに来て、逆にSMヌードを披露していたら世話がない。
 これでは、逃げ出すことも出来ないではないか。
(ど、どうしようっ!?)
 すっかりヒートアップした頭で善後策をうんうん考えているうちに、何時の間にか一限目は終わっていた。
 休み時間に入ると、クラス中の生徒が真琴の席を取り囲む。
 黎香はといえば、いち早く机を離して避難してしまい、唯一の庇護者を失った真琴は、鯉の棲む池へと投げ込まれた「ふ」みたいに、寄ってたかって、つっ突き回される羽目になった。
「ねえ、何処から来たの?」
「前の学校は共学だった?」
「彼氏はいたの?」
 名門通いのお嬢様とは言え、女子高生であることに変わりはない。
 その声は甲高く、至近距離で聞くと耳がじんじんする。
 次から次へと降りかかる質問に、片っ端からあたり障りのない、ほとんど嘘の返事をしながら、真琴は冷や汗をかいていた。
(やばいって! こんな近くに寄られたら、バレるってば!!)
 顎を引いて、必死に喉仏を隠す。そして、もう一箇所、どうあっても隠さなければならない場所があった。
 近頃の女子高生は皆、スタイルが良く、ウエストは細いのにセーラー服の胸はやたらと膨らんでいる。夏服なので生地も薄く、ブラジャーのラインが透け透けだ。
 シャンプーにリンス、化粧水や制汗デオドラント混じりの甘酸っぱい体臭に包まれて、真琴の股間は早くも絶好調になっていた。
(沖田先生、ごめんなさい)
 せっかく気を利かせて千鶴が抜いてくれたというのに、現役男子高校生の身体には、焼石に水だったらしい。
 屹立したペニスはフレアショーツをこれでもかと突き上げ、充血して敏感になっている亀頭が、つるつるしたシルク生地に擦りつけられる。
(あぁ……すごいっ! シルクの下着ってこんなに気持ち良いんだ。穿いてるだけで、先っぽ濡れちゃう)
 しかも、それはかつて千鶴の身に着けていた下着である。
 あまりの軽さに着ていることすら忘れかけるキャミソールは、育ち過ぎたバストに日々押し上げられて、悲鳴を上げていただろうし、今、ペニスを覆っている股布は、デリケートな紅色の恥裂を常に守り、時に深く食い込んでは汚れ、時に擦れて磨耗することもあっただろう。
 貸し与えられたシルクのランジェリーを通して、千鶴の女体をありありと感じ取った真琴は、今朝がた味わった、この世のものとは思えない快楽を思い出して、抑えるべき欲情をより一層、掻き立てられてしまう。
 ズボンであればいくらか誤魔化しも利くが、拘束の緩いプリーツスカートではどうにもならず、椅子を引いて机の影に隠すしかない。
「ねえ、そんなに俯いて、どうしちゃったの?」
「もしかして、お腹痛い?」
「うそっ! 大丈夫っ!? 保健室いく!?」
 優しい少女たちは真琴の異常を勘違いし、一斉に身を乗り出して今やニアミス状態。
 垂れ下がったセーラーの襟口から、色とりどりのブラに包まれた白い谷間が揃って御開帳され、併せ技一本。いよいよ進退極まった時、思わぬ救いの声が聞こえた。
「転校生いじりも良いけれど、次の授業は水泳でしょう。早く更衣室へ行かないと、遅刻するわよ? 前回は確か、遅刻者全員がプールサイドで正座させられたのよね」
「……」
 黎香に忠告された少女たちは、無言のまま互いに一瞬、見詰め合ったかと思うと、
「激ヤバっ!」
 蜘蛛の子を散らすように解散し、各々、大急ぎでプール用具を準備し始める。
 その隙に真琴は、スカートの中に手を突っ込んでポジションを修正。
 興奮を冷ますべく、微妙な前屈みで廊下へ出た。
「あら、深井さん。具合でも悪いのかしら?」
 柱の影でひぃーふぅー言っている真琴の背後から、気味の悪い猫撫で声が聞こえる。
「なるほど。皆の前では猫を被っているわけですね。意外と小賢しい」
「能ある鷹は爪を隠すものだ。しかし、本望だろう? 女子高生に囲まれた薔薇色の学園生活。頭の悪い男子が空想する設定ではないか。今のうちにせいぜい楽しんでおくと良い」
 耳元で囁く黎香は元通りの傲慢キャラに戻っていた。
 黙ってさえいれば完璧な美少女であり、それを隠れ蓑に裏での悪行三昧。
 時代劇なら叩っ斬っているところだ。
「ねえねえ、佐伯さん。深井さんはプールの授業どうするの?」
 準備を終えた少女たちが、ぞろぞろと出てきて黎香に訊いた。
 それについては真琴も知りたい。
 皆と一緒に水着に着替え、水泳の授業を受けろというのか?
「深井さんは今日、あの日なの。だから、授業は見学よ」
(あの日って、どの日!?)
「そっかぁ。だから、さっき俯いてたんだ」
「辛いよねぇ。毎月、毎月」
「必要なら、いつでも言ってね。ナプキンやタンポンなんて、山ほどあるんだから」
(ナプキンっ!! タンポンっ!!)
「心配無用よ。あまり重いようなら、私が責任をもってお世話するわ。それよりも、更衣室まで案内してあげて欲しいの。深井さんはまだ、右も左もわからないから」
 転校生を気遣う優しいクラス委員。その偽りの姿に、皆はころりと騙される。
「さすがは生徒会長」
「オッケー!」
「任せといて」
 快く引き受けてくれる、少女たちの素直さが口惜しい。
(きみら騙されてるよっ!)
 しかし、それを口にするのは自ら正体を暴露するに等しく、黎香の術中にまんまと嵌まりながら、どうにもできない自分を真琴は呪った。

 案内されたのは、校舎の端より連絡橋を渡った先にある、室内温水プールの更衣室だった。
 ワックスでてかてか光る板張りの床は土足禁止で、上履きは入り口の靴箱に入れた。
 天井がやたらと高くて、エアコンと空気清浄機の効いた室内は、早朝の公園みたいに清々しい。
 真琴が知る中で最も広く豪華な更衣室は、いつかテレビで見た、会員制高級スポーツクラブを連想させた。
「ロッカーは早い者勝ちよ。好きな所を使ってOK。あと、授業が終わる毎に用務の人が掃除をするの。私物を置きっ放しにしてると、まとめて回収されちゃうから注意してね」
 ひとしきり説明が済むと、少女たちはおもむろに着替えを始める。
 真琴の見ている前で、何の躊躇いもなくスカートを下ろし、さっさと上着も脱ぎ去って、ブラジャーとショーツのみになってしまう。
 女同士と思っているため、そこには遠慮など微塵も存在せず、大胆というよりは、まったく無防備な少女たちの姿に、開いた口が塞がらない。
(はわわっ! こ、この状況は……どうしようっ!?)
 信じ難い光景を目の当たりにして、興奮するより先に足がすくんだ。
 本当なら、こんな美味しいチャンスはそうそうない。
 遺憾ながら黎香の言った通り、頭の悪い真琴がそれこそ何度も夢に見たシチュエーションなわけで、せっかくだからじっくりたっぷり、舐り上げるように鑑賞すれば良いのに、いざ目の前で脱がれると、恥ずかしいやら、申し訳ないやらで、目を逸らさずにはいられなかった。
 しかし、すっかり怖気づきながらも、そこはやはり男である。
 情けない哉、横目でちらちら覗いてしまう。
 すると面白いことに、性格に応じて下着のデザインが随分と異なるのに気が付く。
 彼女たちにとって下着選びは、一種の自己主張であるらしい。
「涼子ぉ、さすがにそのパンツはヤバいんじゃない?」
「ええっ、そっかなぁ。これすごく楽なんだよぉ?」
 割れ目に食い込んだのか、コットン生地のTバックをしきりに直している。
 Tバックゆえに、染み一つない、薄ピンクのお尻が丸見えになっており、クロッチをずらす瞬間には気合充分、きっちりと逆三角形に剃り込まれた恥毛まで垣間見えてしまう。
「わおっ、みんな見てよ! 友里恵ったら、またブラのサイズ変えてる。彼に揉まれて、おっきくなったんだ!」
「きゃっ! ちょっと、揉まないでよ! あんっ、そんなにしたら、感じちゃう!」
 軽くDカップはあるだろう迫力のバストが、ブラジャーの上から思い切り揉みし抱かれ、調子に乗ってやり過ぎたのか、フロントホックが外れてしまった。
「あぁん、外れちゃったぁっ!」
 とたんに零れ出した重そうな乳房は、驚いたことにほとんど型崩れせず、張りのある柔肌を見せつけながらぷるんと揺れ、その豊満な肉峰の頂点では桜色の乳頭がグミのような弾力で元気良く膨らんでいた。
 半裸の少女たちに囲まれて、真琴は身動きが取れない。
 ロッカーのドアに隠れながら、スカートを突き上げるペニスを、ふとももの隙間に挟もうと四苦八苦する。
(ねえ、鉄男……ここは天国? それとも地獄?)
 赤い国の何処かにあるらしい、桃源郷とやらもびっくりの酒池肉林ぶりを、鉄男にも是非、見せてやりたかった。
「ここのところ生理が重くて、いやんなっちゃう」
「これがほんとの出血大サービスぅっ!!」
 火がついたように爆笑する少女たちの中で、真琴だけが顔を引き攣らせた。
(ぜんぜん笑えない……)
 女子高生に対して抱いていたイメージが、ガラガラと音を発てて崩れ去る。
 なのに、勃起は収まらない。それどころか、どんどん硬くなっていく。
 制服を脱いだ少女たちの身体は、体温と共に蒸れた体臭を一斉に解放して、室内に充満する咽かえるような若牝の匂いに、真琴の頭はくらくらした。
 やがて少女たちはブラもショーツも脱ぎ去って裸になる。
 未だ成熟し切っていない肉体は、ボディラインの所々に蒼さを残しながらも、やはり時代性なのか、総じて発育が良い。
 しかも、その体つきに応じて、着替えの仕方もまるで違うのが面白かった。
 青年誌の巻頭グラビアを飾れそうな見事な巨乳さんは、それはもう私の胸を見てといわんばかりに落ちついて、堂々と着替えてくれるので気持ちが良いし、見応え充分。
 また、バランスのとれた、格好いいバストの娘は、スポーツスレンダーな元気者が多いのか、すっかり着替えを忘れて、おっぱい丸出しのまましゃべりまくり、人の乳、揉みまくり。見ていてハラハラする。
 でも中には、やや小さめの子もいたりして、大抵は胸を隠すように大人しく着替えているのだが、それはそれでとても愛らしく、つい抱き締めたくなるのでノープロブレム!
 サイズや形、乳首の色まで選り取りみどり。ずらりと並んだ柔房と乳頭の行列に、真琴は鼻血を吹きそうになる。
 しかも、下半身はさらにすごい。白桃のような小さなヒップはおろか、下腹に萌える柔らかな恥毛や、ピンク色の割れ目まで丸見えなのだ。
「ちょっと里美ぃ、少しはお手入れしなさいよ。いくら女子校っていっても、それは不味いでしょう? 横から食み出すわよ」
 可憐な美少女とは思えない、黒々と渦を巻いた恥毛にクレームが入る。
 真琴も同意見だったが、当の本人はけろりと言った。
「いま私、フリーだもの。気にしてもしょうがないでしょう。そういうあんたはなんでつるつるなのよ? ああ、そっか。出会い系でみつけたっていう早苗の新しい彼、ロリコンなのね」
「ち、違うもん! 涼くんはただ、こっちの方が芸術的見地から言って、美しいからって……」
「絶対、嘘っ!!」
(絶対、嘘っ!!)
 ツープラトンで突っ込んでいた。
 でも、彼氏の気持ちはよくわかる。
 男としては毛がボーボーより、つるつるの方が良いに決まっている。
 実際、恥毛に覆われていない少女の股間には影一つ無く、ただ一筋のスリットだけが、愛らしくも生々しいクレヴァスを深々と穿つばかり。
 薄紅色をした秘唇は淑やかな割れ目の奥に隠れてひっそりと息づき、若さ故に敏感な蕾を守ろうと、ぴたり合わさった肉の双丘は、生まれたての赤ん坊のような肌色に輝いて、指で触れたらさぞ気持ち良さそうにぷっくりと膨らんでいた。
 そう、これは漫画でもアニメでも、ゲームでもない。当然、モザイクもなければ、少し手を伸ばせすだけで、柔らかな肉体に触れる事だってできる。
 少女達の放つ、眩いばかりの若さと健康美、そして有り余る元気に眩暈がしそうだ。
「あっと……ごめん!」
 すぐ隣で着替えていた娘が、水着に足を通そうとしてバランスを崩し、突然、胸に倒れ込んできた。
 素っ裸の少女を反射的に抱き締めてしまい、真琴はその抱き心地の柔らかさに息を呑む。
 さほど胸の大きくない娘なのに、乳房は焼きたてのパンみたいにふかふかで、抱き締めた腰はコーラ瓶のようにくびれて、少しでも力を入れたら、ポッキリ折れてしまいそうなくらい華奢だった。
 瑞々しい肌は吸盤さながらに吸い付き、突起物のない下腹部がぴったりと密着して、なんとも卑猥な弾力で股間を圧し返してくる。
 千鶴よりも遥かに高い体温の向こうから伝わる、どきんどきんと脈打つ鼓動がやけに愛しく、ショートヘアから立ち昇る甘い芳香に意識は遠退いて、もう二度と手放したくない、と真琴は思ってしまう。
「ちょ、ちょっと深井さん。そんなに強く抱き締められたら、私、変な気分になっちゃう」
 吐息まじりの抗議を耳たぶに受け、飛び退くように身体を離した。
「わぁっ!? ご、ごめんなさい!」
 千鶴とのセックスを体験しているとはいえ、全裸の少女を平常心で抱き締めるには、修行がまったく足りなかった。
 迂闊にも、ふとももを緩めてしまい、スカートの中でペニスがジャックナイフのように跳ね上がる。
「二人とも熱々なんだもん。見ててドキドキしちゃったよ」
「なんだか恋人同士みたいだったね。留美ちゃんたらすっかり赤くなってる。深ぴーに抱かれた感想はどう?」
 早くも真琴の愛称を確定し、きゃあきゃあ、囃し立てる周囲に少女は答えた。
「なんだか男の子に抱かれてるみたいだった。不器用だけど頼り甲斐があって、すごく安心するの。私、ちょっと濡れちゃった」
 てへ、と笑って割れ目を擦り、指の間に伸びた透明な糸を見せびらかす。
「わおっ、濡れ濡れじゃん! ねえ、もしかして深井さんったら、レズっ気ある? だとしたら大歓迎。私たち、みんな仲良しだもんね」
「そうそう。夜になったらイカせっこしようよ。深ぴーのあそこ、私の舌でとろとろに溶かしてあげるからさ」
 過激な百合話で盛り上がるのは結構だが、取り敢えず水着をちゃんと着て欲しい。
 胸や尻や割れ目を晒したまま話し掛けられても、目のやり場に困ってしまう。
「でも……」
 騒ぎの合間を縫って口を開いたのは、先ほど抱き締めた留美という女の子だ。
「なんかさっき、お腹に硬いものが当たったんだけど……深井さん、制服の中に何か入れてるの?」
 入れているというか、生えているというか……突然、自分の股間に矛先を向けられ、真琴は答えに窮する。
「えっ、何? 硬いものって何?」
「もしかしてバイブ?」
 当たらずとも遠からずの指摘に絶体絶命! そんな時、
「その辺にしておきなさい。深井さんが困っているわ」
 驚いたことに、またまた黎香が助け舟を出してくれた。
「お嬢様学校と名高い聖フェアリーが、こんな破廉恥な場所だったと知って、今ごろ、転校してきたのを後悔しているかもしれないわね」
 姦しい少女たちを遠回しに窘める姿は、クラス委員の鏡と言える。
 けれど真琴は、その品行方正な仮面の下を知っている為、とても素直には喜べない。
「ごっめーん。つい、いつもの癖が出ちゃった」
「そうそう。ここったら男の子がいないから、女同士で盛り上がるしかないんだよね。彼氏がいても、門限のせいであまり一緒にいられないし。来たばかりの深井さんにはショックだったかも。ごめんね、驚かせて」
 口々に謝る少女たちは両脇から真琴に抱きつき、仲直りの頬ずりをする。
「うあ……」
 女の子はどうしてこう、事ある毎にくっつくのか。男の真琴には理解できない。
 確かに理解は出来ないが、嬉しくないわけもない。
 女子高生の元気いっぱいな肌は、作りたてのプリンみたいに柔らかくてつるんとしている。
 今にもキスしそうに急接近した艶やかなリップと、唇をくすぐる熱い吐息に胸はどきどき。
 強烈なスキンシップに動揺しつつも、自然と鼻の下が伸びてしまう。すると……、
(はっ!)
 集団の向うに、獲物を狙う猛禽の眼を感じた。
 やがて始業のチャイムが鳴り、急いで着替えを済ませた少女たちは、足早に更衣室を出ていく。
 次々に通り過ぎる彼女らを無視して腕を組み、仁王立ちした水着姿の黎香は、美しくも酷薄な微笑を浮かべながら、しかし目はまったく笑っていない。
 スイムキャップを被る為にきっちりと髪を結い上げ、露になった首筋には他の少女たちに無い高貴な色気が漂うものの、お嬢様然としたイメージは見事に吹き飛び、近寄りがたいほどの潔癖さに気圧されて、真琴はごくりと唾を呑む。
 そして、二人だけが残った。
 先程までの喧騒が嘘のように静まり返った更衣室で、黎香と真っ向から対峙する。
 聖フェアリーの標準水着は競泳タイプであり、光を反射して虹色に輝く化学繊維はぴったり身体に貼りついて、スクール水着とは異なる鋭利なシルエットを描き出す。
 制服の上からでは分かりづらかったウエストの細さが際立ち、組んだ腕に寄せ上げられて、水着をぱつんぱつんに張ったバストはひどく窮屈そうに見えた。
 切れ上がったハイレグの股布は、深々と食い込んで恥丘をこんもり膨らませ、中心には一本の縦筋が、薄っすらと浮かび上がっている。
 健康的な肉付きを誇るふとももと、よく締まったふくらはぎ、恐ろしく長い両脚で威風堂々、立ち塞がるその姿は、水泳の授業を控えた女子高生というより、一兵卒に訓示を垂れんとする女SS士官みたいだ。
(や、やばい……凄く綺麗だけど、絶対なにか怒ってる)
 動物的な勘が黎香の怒気を敏感に察知し、身体は脱兎のように素早く反応する。
「さ、私もプールに行かなくっちゃ」
 乙女走りで、そそくさと脇を擦り抜けようとした瞬間、更衣室の天井に冷厳な声が響いた。
「君には失望したよ。完璧にな」
 余りの迫力に、危うく真琴は失禁しそうになる。
「今朝の一件といい、君はどんな雌犬相手にも発情し、薄汚れた種をばら撒こうとするらしい。これだから雑種は困る。甘やかせば、すぐに緩んでつけ上がる。優れた犬とは、主と主の認めた者にのみ、尻尾を振る犬を言う。やはり更なる訓練が必要だな。シェーファーフントを躾るような、苛烈で容赦の無い訓練が」
「で、でも……自分で楽しめって……」
 おっかなびっくり振り向いた途端、
 ビシィッ!
「きゃんっ!!」
 いきなり頬を張られた。
「無節操なエレクチオンを許可した憶えはない」
「えっ、エレク……チオン?」
「無知とは罪である。小池一夫に漢を学べ」
 意味不明なことを、こうもきっぱりと言い切られては、絶句するしかない。
「授業に遅れるぞ。急ぎたまえ」
 水着姿の豪傑は盛大な笑い声をあげて、悠々と更衣室を出ていった。

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