通い妻 真夏の夜の夢

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最終夜

 遠くに祭囃子が聴こえていた。
 詩乃の引越しは夏祭りに重なり、八百屋の女将さんをつてに、半被を着た商店街の若い衆に手伝いを頼んで、唯一の重量物である箪笥を家に運び入れることができた。
「どうもお手数おかけしました」
 麦茶やビール、つまみにお菓子を振舞い、若い衆をもてなすと、詩乃は玄関の前で深々と頭を下げて見送った。
「祭りの準備で忙しいのに、手伝ってくれるんだから有難いよね」
 若い衆とともに箪笥を運び、その他の細々としたものを運び終えた洋介も、詩乃ともども見送りを済ませて一息ついた。
「本当ですわ。この町もいろいろ変わってしまいましたが、住んでいる方たちの人情は相変わらずです。さ、洋介さんもお疲れでしょう。居間でお休みください」
 いつも通りちゃぶ台につき、そうめんをすすって麦茶を呑む。
 隣では詩乃が嬉しそうにそれを見ている。
 光景そのものは昨日までとほとんど変わっていない。
 家の中のレイアウトだって、一階の床の間に衣装箪笥がひとつ増えたのと、テレビの上に例の写真立てが乗ったくらいだ。
 けれど、洋介の心持ちはまるで違った。
「お祭りだけどさ……今年からは一緒に行けるよね?」
 毎年、この日だけは詩乃の姿を見られなかった。
 一人で祭りをぶらつき、人々の楽しげな様子を遠目に眺めながら、誰も待っていない家へと一人侘しく帰ったものだ。
 その時、詩乃は何処で何をしていたのだろう。
「祭りの日にはどうしても外せない用事があるって言ってたけれど、毎年、この日に何かあるの?」
「そ、それは……」
 言い辛そうに口篭って、詩乃は困った顔をする。
「実は……洋介さんのお父様とお母様のお墓参りに行っていたんです」
「でも……」
「はい、お二人の命日に、洋介さんと一緒にお参りしましたね」
 両親の命日はもっと早く、洋介と連れだって墓参りするのが常だった。
 今年もちゃんと済ませたし、盆の送り迎えもした。
 その上、わざわざ祭りの日を選んで、もう一度ひとりで行く理由があるのだろうか。
「墓参りなんてすぐに終わるし、言ってくれれば僕も一緒に行ったのに。どうして今日なの?」
 洋介の問いに、詩乃は悲しげに瞳を伏せ、罪の告白でもするような面持ちで言った。
「今日……お祭りの当日に、私は洋介さんを捨ててこの家を出て行ったんです」
 わざわざ、「捨てて」という表現を使い、自分を責めているようだった。
「だから、僕とは祭りに行けなかったんだ」
「あの日、洋介さんはお祭りをとても楽しみにしていらっしゃいました。それを私は台無しにしてしまったんです。ですから、私には洋介さんとお祭りに行く資格がありません」
「その代わりに父さんと母さんの墓参りに行ってたんだね……」
 詩乃は黙ったままこくりと頷いた。
「その後は?」
「えっ?」
「墓参りを済ませた後はどうしてたの?」
「それは……家に帰って大人しくしていました」
 つまり、あのアパートの部屋で一人、洋介を置き去りにした過去を悔いながら、遠い祭囃子を聴いていたということだ。
 その光景を想像すると、洋介は自分に腹が立った。
 何も知らず、何も訊ねず、何もせず、何もしようとはしなかった自分に。
 だが、今はもう違う。
「よし、今日は浴衣着て、思い切り祭りを楽しもう。ここ何年か、ずっと一人で行ってたから、ぜんぜん盛り上がらなくてさ。でも、今年からは二人だから、きっと楽しいと思うよ」
 ことさら努めて明るく言うと、詩乃も乗ってきてくれた。
「わかりましたわ。浴衣を出しておきますね。それから……」
 詩乃は立ち上がってちゃぶ台を半周すると、洋介の前で正座をし直し、畳に三つ指をついて深々と頭を下げた。
「申し遅れました。今日からまた、この家にお世話になります。どうぞ、よろしくお願いします」
 いつか、父親の元へ嫁入りした時も、このようなやり取りは行われたのだろうか。
 あぐらをかいていた洋介は慌てて正座になる。
「お帰り、詩乃さん。こちらこそ、よろしくお願いするね。これから毎日楽しく行こう」
「はいっ」
 元気に答えた詩乃は浴衣を用意するために足取り軽く居間を出て行った。
 悲しい過去なんて、楽しい思い出で上書きしてしまえば良い。
 そう胸に誓っていると、加勢するように神輿を担ぐ人たちの威勢の良いかけ声が近づいてきて、家の前が賑やかになる。
 今日はお祭り、そして詩乃が家に帰ってきためでたい日、暗い顔をしていたら罰が当たってしまう。
 ひとつ詩乃の着付けでも手伝おうかと、洋介は下心満載で居間を出た。

 夕刻を過ぎ、ようやく辺りが暗くなり始めた頃、洋介は詩乃と連れ立って祭りに出かけた。
 洋介は父親の、詩乃は母親の使っていた浴衣を着ての出陣だ。
「よく似合ってるよ。ちょっと古い浴衣だけど、母さんはずっと大事に使ってたから、痛んでないと思う」
 黒地に紫と白の紫陽花模様があしらわれた浴衣に涼しげな白い帯は母親のお気に入りで、遠い夏祭りの風景とともにしっかりと洋介の記憶に焼きついている。
 それを見事に着こなした詩乃の姿は艶やかで、結い上げた黒髪の下から覗ける白いうなじは浴衣の黒い襟によく映えていた。
「ありがとうございます。お母様はきっと洋介さんの為にこの浴衣を使って下さっていたんですね。新調してもよろしかったのに……」
 からんころんと下駄の音を響かせながら言う詩乃は、浴衣を知っている口調だ。
「その浴衣、もしかして……」
「はい……昔に私が使っていた物です。家を出る際、荷物を残して行ってしまったのですが、実はほとんど手付かずのまま箪笥の奥に仕舞われているんです。捨ててしまってもよろしかったのに……お母様は本当にお優しい方です」
「そうだったんだ。じゃあ、昔、僕もその浴衣を着た詩乃さんと祭りに行ったことあるんだね?」
「ほんの数回ではありますが……」
 申し訳なさそうに詩乃は言う。
 けれど、洋介は感無量だった。
 二人の母親がひとつの浴衣を引き継ぎ、小さな自分の手を引いて祭りに連れて行ってくれていたのだから、湧き起こる想いは感謝の他にあろう筈もない。
 洋介は詩乃の手をそっと握って指を絡めた。
「あっ……」
 驚いた詩乃はちらりとこちらを見て、恥ずかしそうに頬を赤らめる。
 それから視線を正面に戻し、やんわりと遠慮がちに手を握り返してきた。
 掌を伝わってくる信頼感に胸を熱くして、洋介は詩乃と共に無言で歩く。
 やがて無数に並ぶ提灯のぼんやりとした明かりが幻想的に宵闇を照らし始め、徐々に人々の喧騒が近づいてきた。
 この町の夏祭りは商店街の夜店市と神社の祭りを同時に行い、途中に位置する公園ではやぐらの上で盆踊りまで行われる大掛かりな物だった。
 いつも買い物をしている商店街も今日はそれぞれの店が露店に早変わり、本職では無く、日頃の愛顧に感謝してのサービスデー的意味合いが強いため、価格も安い。
 店の前にはすでに長蛇の列が出来ており、漂ってくるさまざまな食べ物の芳ばしい匂いに、洋介は思わずごくりと唾を飲んだ。
「フフフッ、今日はお祭りのために晩御飯を作りませんでしたから、お腹空いてますわね。最初は何を食べましょうか?」
「うーん、そうだなぁ。どうしようかな……」
 あたりをぐるり見回すと、そこはさすが商店街、お好み焼きに焼きそば、たこ焼きにイカ焼き、焼き鳥にフランクフルトにチャーハンに餃子と何でもありの大盤振る舞い。
 どれから食べようか迷ってしまう。
「ちょっとそこの仲いいお二人さん! うちの焼きそば、食べてきなさいよっ」
 いきなりだみ声で呼び込んできたのは八百屋の女将さんだった。
 周囲の目もかまわず、遠くから激しく手招きしている。
 洋介と詩乃は互いに顔を見合わせ思わず笑い出す。
 もちろん女将の有難い誘いに乗ることにした。

 神社へと続く坂道の途中、広い公園の中央に建てられたやぐらの上で浴衣を着た子供たちが輪になって踊っている。
 流れてくる曲はドラえもん音頭にオバQ音頭にアラレちゃん音頭と、いつから使っているんだというレトロなレパートリー。
 音源はきっとテープなのだろう、スピーカーから割れた音がガンガン響いてくる。
「この手のキャラ音頭は子供の頃からぜんぜん変わらないな。ドラえもんはともかく、オバQやアラレちゃんは存在自体を今の子は知らないんじゃないか?」
「昔、小さな洋介さんの手を引いて来た時も流れていましたわ。今時の子供たちにどう聴こえるのかはわかりませんが、私たちには懐かしくてよろしいんじゃありませんか?」
 そう言って微笑んだ詩乃は割り箸の先に山盛りになった綿菓子のてっぺんを小さな唇で上品にかじる。その横顔は提灯の明かりに照らされてオレンジ色に輝き、無邪気な笑顔は少女のようだ。
「いま詩乃さんにキスしたら、きっと甘い味がするね」
 冗談半分に耳元で囁いてみたところ、ザラメ糖の名残にきらきら光る唇をぺろりと舐め上げ、詩乃は慌てて拒絶する。
「だ、だめですよっ……こ、ここでは。たくさん人がいるんですからっ」
「ふーん、じゃあ、人のいない所だったらいいんだ」
「そ、そういう意味では……ありませんっ」
 詩乃は困ったようにぷいと顔を背け、照れ隠しに再びかぷりと綿菓子をかじった。
 やがて坂道を上り切ると巨大な鳥居が見えてくる。
 全体を鮮やかな朱に塗り上げられ、根元は白い御影石の基礎で支えられている。
 大人三人で手を繋いでようやく囲めるかどうかという柱の太さに、頭上遥かそびえ立つ姿は神住む社の玄関を守るにふさわしい威風を誇っていた。
 鳥居をくぐると遠く彼方に望む社殿へと長い参道が真っ直ぐに伸びる。
 両側にずらりと露店が立ち並び、こちらは本職のため値段は高め、それでも繁盛振りは商店街と変わらず、参道は人で埋め尽くされていた。
 周囲にはたくさんのカップルがいて、昨年までなら肩身の狭い思いから早々に退散していたところだが、今年はもちろん違った。
 離れ離れにならないようしっかり手を握り合い、肩寄せ合って人波を掻き分ける。
 着替えの前にシャワーを浴びた詩乃の髪からはほんのりリンスの薫りが漂い、肩越しに伝わる体温にどきどきした。
「すごい人出。この町も昔に比べてずいぶん人が減ってしまったと聞きましたが、お祭りの日だけは別ですわね」
「娯楽の少ない町だからね。海は無くなったも同然だし、盆と正月くらいは騒がないとやってられないんじゃないかな」
 せっかく来たのだからお参りしていこうと、手水舎で手を清め、拝殿で賽銭箱に賽銭を投げ入れる。
 来年には受験を控えている身だから、二人共に五百円玉を奮発した。
 人々の喧騒を背に鈴を鳴らしてかしわ手を打つ。
 しばしお祈りしてから、洋介は訊いた。
「詩乃さんは何をお願いしたの?」
「もちろん、洋介さんの合格ですわ。洋介さんは?」
「もちろん、詩乃さんとずっと一緒にいられますように」
「お稲荷さんにお願いしなくても、私は洋介さんがお望みになるだけお傍におります。ですから、どうか御自分のことをお願いしてください」
 嬉しいことをさらりと言って、詩乃は少しだけ心配そうな顔をする。
「大丈夫だよ。僕の分は詩乃さんがたくさんお願いしてくれたから」
 笑って洋介は背後を振り向いた。
 石段の上から見下ろす境内は人々の笑顔で溢れていた。
 それを素直に喜べるようになったのは、すぐ横にいる詩乃のお陰だ。
「皆さん、本当に楽しそうですね」
「うん、今日は年に一度のお祭りだもの。楽しまなきゃ嘘だよ。さあ、行こう。僕はまだまだ食べ足りないからね。ラムネにチョコバナナに水飴にソースせんべい、今度はデザート三昧だ」
「洋介さんったら、ほどほどにしておきましょうね」
 くすくす微笑む詩乃の笑顔は弾けるような明るさで、洋介は再びしっかり手を握り直すと心に思った。
(きっと僕は今、人生の中でも最高に幸せな瞬間にいるんだな……)
 最愛の女性が隣に居て、最高の笑顔で自分に微笑みかけてくれる。
 スピーカーから流れる祭囃子も軽やかに、何ひとつ憂うべきこともない。
 誰もが幸せな気分に浸れる祭りの夜に、洋介は詩乃の手を引いて迷い込んだ。

 アスファルトに月影を引きずって、二人は来た道を帰る。
 祭りの喧騒は背後に遠ざかり、しんと静まり返った街路にからんころんと下駄の音が響く。
 食べて飲んで、遊んで笑って、有頂天だった気分も少し落ち着き、祭りの後の静けさの中で、それでも、せっかくの夜をまだ終わらせたくなかった。
「月がとっても青いから……って感じだな」
「ずいぶんと懐かしい歌を御存知なんですね。まだ、それほど遅くはありませんから、少し遠回りしましょうか?」
「そうしようっ」
 真っ直ぐ家路には着かず、海岸へと足を向ける。
 雲ひとつ無い水平線の空に高く上った月は夜の海を明々と照らして、海面にきらめく光の道が出来ていた。
 波は穏やかで、吹き抜ける夜風は涼しく、砂浜に人影は無い。
 洋介は詩乃の手を取り砂浜に降りると、波打ち際をゆっくりと歩いた。
「そういえば、志望校はもうお決めになったのですか? 県外……特に東京の大学を受けるとなれば、生活の準備も含めていろいろと下調べも必要になると思いますが」
「僕はこの町から出て行かないよ」
 地方都市の他聞に漏れず、毎年多くの人が進学や就職の為に県外へと旅立っていく。
 原発建設以来、町の人口は減り続け、洋介も来年に大学受験を控えてひとつの選択を迫られているのだが、もちろん答えはすでに出ていた。
「クラスの友達はみんな東京へ行くって言ってるけど、僕は家から通える大学にする。なんだかんだ言ってもこの町が好きだし、何より詩乃さんがいるしね」
「私のことはお気になさらなくて結構なんですよ。一生を左右するお話ですし、ご自分にとって最も良い選択肢をお選びになるべきです」
 母親らしい、親身になっての忠告は嬉しくもあり、また寂しくもある。
「心配してくれてありがとう。でも、僕はいつも思うんだ。幸せってなんだろうって。お金は生きていくのに必要だけど、だからって湯水のように必要な訳じゃない。どんなにお金があっても肝心なものが無いんじゃ、一時は良くても、結局は自分の人生が虚しくなるだけだと思うし」
「洋介さんにとって、肝心なもの……とはなんですか?」
「たぶん……一緒に人生を生きていく人だと思う」
 タイム・イズ・ライフ、時は命なり。
 いつ終わってしまうかもわからない、儚く過ぎ行く一瞬の積み重ねが人生であるなら、その一瞬を記憶し、後々まで共有できる相手がいないのは、数十年にも渡る舞台を無人の観客席に向かって一人演じ続けるのと変わらない。
 一人芝居をすること自体に価値を見出せないなら、それは徒労に等しいのではないか?
「父さんと母さんはもういない。僕が助かったのだって、ただ運が良かっただけ」
 テレビで死亡事故の報道を見ても、いつも他人事だと思っていた。
 けれど、両親はあっさり亡くなってしまった。
「もし母さんたちと一緒に死んじゃってたら、詩乃さんにだって会えなかった訳だし……」
 当然、詩乃と自分の関係を知る機会も永遠に無かった。
 その可能性を思うと背筋が寒くなる。
「僕は詩乃さんを忘れてしまったのが悲しい。一緒に居られなかったのが悲しい。だから、もう二度と忘れないし、一緒に過ごせなかった時間を取り戻したいんだ」
 奇跡のような確率で母子としてこの世で出会い、不幸にして別れはしたが、運命の皮肉か、両親の死と引き換えに再びめぐりあえたのだ。失ってたまるものか。
「それに昔と違って都会に出て行かなきゃ何もできない訳じゃないし、皆がそうするから自分も……っていうのは嫌なんだ。僕は自分の確かな意志で人生を選択したい。でないと責任を持てないから」
 黙って聞いていた詩乃は静かに頷いて微笑んだ。
「そこまでお考えなのでしたら、もう私から申し上げることは何もありません。すっかり大人になりましたね。安心しましたわ」
 息子の成長を喜ぶ母親のような言葉に、洋介は何だか気恥ずかしくなる。
 母親としての記憶が無い以上、洋介にとって詩乃は感覚的に他人であり、年上の恋人のような存在なのだが、実際はやはり血の繋がった親子だった。
「もし僕がこの町を出て遠くへ行くと言ったら、詩乃さんはついてきてくれる?」
「神社でも申し上げた筈です。洋介さんがお望みならば、何処へでもお供しますわ」
 よどみなく返ってきた心強い答えに、洋介は詩乃の手を強く握り返す。
「ありがとう……その言葉だけで十分だよ。僕はここで幸せに暮らしていける」
 生れ育った土地で大切な人と暮らしていけるなら、それに勝る幸せはあるまい。
 詩乃の温もりを掌に感じながら、洋介は遠い月を見上げて叫び出したいような喜びの気持ちを噛み締めた。

「どうぞ、お入りください」
 詩乃の声を聞いて、寝巻き姿の洋介は床の間のふすまを開けた。
 中は暗く、行灯に張られた和紙を透かして、柔らかな光がぼんやりと室内を照らしている。
 部屋の真ん中に敷かれた布団に洋介は緊張した。
 布団は一枚、けれども枕は二つ、すぐ横の畳に真っ白な木綿の寝巻きを着た詩乃が背筋をぴんと伸ばして正座していた。
「えーと……お、お邪魔します」
 何と言えば良いかわからず、呟いて後ろ手にふすまを閉めると、床の間は一層暗くなり、詩乃の顔は半分闇に溶けて込んでしまう。
 それでも行灯の光を映し込んだ二つの瞳はしっかりとこちらを見つめていた。
 布団を挟んで洋介も正座し、詩乃と向かい合う。
「じゃ、じゃあ……ね、寝ようか」
 取りあえず言ってはみたものの、もちろん大人しく眠る気は全くなかった。
 そもそも口から心臓が飛び出しそうなほど高揚して、とても眠れる状態ではない。
「はい……」
 詩乃は静かに答えて掛け布団をめくり、先に布団に横になって洋介に背を向ける。
 その背中に寄り添うように布団に入った洋介は掛け布団を肩まで被せて、詩乃の耳元で囁いた。
「僕……詩乃さんを大事にするからね」
「よろしくお願いします」
 詩乃の返事を合図に、結い上げられた黒髪の生え際より覗ける白いうなじにそっと唇を押し当てる。
「あっ……」
 しんと静まり返った床の間に営みの始まりを告げる甘い吐息が響き、洋介は背後から詩乃を抱き締めた。
 風呂上りの湿った髪からリンスの匂いがぷんと立ち上り、思い切り深呼吸してまろやかな薫りを肺に満たすと、頭の中は真っ白になってついぼうっとしてしまう。
 寝巻き越しに伝わる火照った体温とふにゃりとした抱き心地に欲情して、思わず力尽くで詩乃をめちゃくちゃにしたい衝動に駆られた。
(だ、だめだっ……今晩は僕と詩乃さんの大事な初夜なんだから……)
 ぐっと堪えて、洋介は寝巻きの上から右手でやんわりと乳房を揉む。
 指先はマシュマロのような柔らかさに包まれ、寝巻き越しにも拘わらず、掌には硬くしこった尖りの感触が確かに伝わってくる。
 人差し指と親指で乳頭をつまんで優しく転がしながらこりこりと甘くつねりあげた。
「くっ……ふぅんっ……」
 鼻の頭から切なげな喘ぎを漏らして、詩乃はびくりと身体を震わせる。
 即座に両手を口に当てて、それ以上声を漏らさぬように堪えようとしていた。
「詩乃さん、ここはもうアパートじゃないんだから、少しくらい声を出したってかまわないんだよ」
「は、はい……で、でも……」
 やはり恥ずかしいのだろう。
 詩乃は言葉を詰まらせたまま唇を噛み締めて喘ぎを噛み殺す。
 であるならば、鳴かせて見せるまでだった。
 洋介は寝巻きの襟の合わせ目に手を滑り込ませ、窮屈な胸の内で半ば強引に柔房を揉みし抱く。
 パン生地を捏ねるように掌で押し潰し、続けてじっくりと指先を食い込ませ、乳頭から母乳を搾り出すようにしごき上げる。
 充血した乳首はぷっくりと膨らみ切って、今にも破裂しそうになっていた。
「あっ、あっ……さ、先っぽがじんじんして……い、痛いですっ……」
 とは言いながらも詩乃の声は甘ったるく蕩け、悩ましく腰をくねらせ、身をよじっては必死に快感に耐えているようだった。
 もじもじと暴れる詩乃の脚に自分の脚を絡めて押さえ込み、肩を掴んで仰向かせる。
 掛け布団を背中で持ち上げつつ詩乃の上に覆い被さり、寝巻きの両襟を掴んで左右に広げ、乳房を肌蹴させた。
 ぷるんと揺れて柔肉の塊は零れ出したものの、中途半端に広がった襟に寄せ上げられてもっちりと縦長に扁平する。
 それでもかまわず乳頭にしゃぶりつき、洋介は欲情に任せて思い切り吸った。
「はぁっ……んっ……」
 びくりと詩乃は胸を突き上げ、洋介の頭をやんわり抱き締める。
「よ、洋介さん……優しく……してください」
 熱い吐息交じりの囁きを吹きかけられ、はっとした洋介は唇の吸引力を弱めた。
 代わりにぴんと屹立した乳首のまわりを舌先で円を描くように何度も舐めまわし、時折、乳頭を舌先で甘く弾いては母乳を吸い出すように繰り返し優しく吸う。
「そ、そうですわ……あぁ……とても気持ちいい……蕩けそうです……」
 切ない喘ぎを頭上に聞きながら、洋介はもう片方の乳房をやんわりと揉みし抱いた。
 重い乳房を下から掌で支え、人差し指と中指の付け根にニップルを挟んでこりこりと擦り立てる。
「うんぁ……」
 左右の乳頭を同時に愛撫され、洋介を抱く詩乃の腕に力が入る。
 火照った肌から伝わる熱気に、洋介は掛け布団を跳ね上げた。
 行灯の光が胸を肌蹴た詩乃の上に降り注いで柔肌の上に陰影を作り出す。
 じっとりと汗ばんだバストの谷間はぬらぬらと鈍く輝き、呼吸と共に静かに上下動している。
「綺麗だよ……詩乃さん。他の誰にも見せたくない光景だ」
 一時、恥ずかしそうに頬を赤らめた詩乃は、けれどもにこりと微笑んで答えてくれた。
「ありがとうございます。私がこのような姿をお見せするのはもちろん、洋介さんだけですわ」
「通い妻はもう卒業だね。今、この瞬間から詩乃さんは僕の本妻さん」
「はい……どうぞ可愛がってくださいませ……」
 返事をする代わりにゆっくりと顔を近づけると、詩乃は静かに頷いて瞼を閉じる。
 洋介は紅い唇にありったけの感謝と愛情を込めて接吻した。
「んっ……」
 切なげな吐息が頬にかかる。
 少しずつ圧迫を強めて唇を深く食み、フルーツゼリーのような弾力を堪能した。
「はぁ……んんっ……」
 粘膜同士を重ねて感じ取る温もりに頭の芯がくらくらする。
 つるつるした表面を舌先で丁寧に舐め取り、上唇を軽くめくって前歯の隙間をすり抜け、ぬるりと口腔に滑り込んだ。
「はむぅっ……」
 詩乃は小さな舌を淑やかに伸ばして洋介の舌を出迎えてくれた。
 くちゅくちゅと卑猥な液音が鳴って舌と舌は絡み合い、互いの口腔にほんのりミント味の唾液がとろりと滴る。
 夢中で詩乃の舌を貪りながら、洋介は両手で乳房をふんわり掴んで内から外へと円を描いて優しく転がした。
 ほんの少し力を加えただけで、ふくらみは蒸したての中華まんのようにふにゃりと頼りなくへこみ、手の中でさまざまに形を変えながら、ぷるんぷるんと面白いように揺れる。
「くっ……はぁっ……」
 唇を密着させたまま、詩乃は少し苦しげに呻いた。
 洋介の手の動きに合わせてぴくぴくと小刻みに身を震わせ、たまにびくんっと大きく胸を突き上げる。
 身体もすっかり温まって、手に余る豊乳はとても敏感になっているらしい。
 慎重に乳頭を摘んでわずかに引っ張りながら、ちょっとだけつねってみる。
「ひぐぅっ……」
 接吻したままで詩乃の唇は歪み、呻きが漏れた。
 ついでに口端から唾液が零れ、顎を伝って滴り落ちる。
 可愛そうになって唇を離すと、詩乃は深く息を吸い込んで瞳を潤ませた。
「ごめんなさい……気持ちよ過ぎて……息を継げなくなりました」
「謝らないで。僕の指で感じてくれたんだもの。嬉しいよ」
 洋介は唾液に濡れた詩乃の顎をぺろぺろと舐めて掃除してあげる。
 そのまま首筋へと舌を這わせ、双房の谷間を舐め下ろして、へその窪みにつるりと落ち込む。
「ひゃあっ……」
 驚いた詩乃の嬌声を聞きながら帯を解き、寝巻きの裾をめくると、剥き出しになったふとももの内側に指を這わせてさわさわと撫でた。
「はぅっ……そ、そこは……とても敏感なんです。あまり触らないでください……あぁっ……」
 撫でるたびにびくりびくりと詩乃は腰を戦慄かせ、愛撫から逃れるためにふとももを閉じようとするが、それよりも早く洋介は股の間に割って入り、逆にふとももを大きく開脚させてしまう。
「あぁ……こ、こんなはしたない格好をさせないでください……私……恥ずかしいです……」
「夫婦の間柄で恥ずかしがることなんてないじゃない。今の詩乃さん、色っぽくて最高だよ」
 いつしかふとももを撫でさすっていた手はマッサージでもするようにもも肉をぎゅっぎゅっと揉みし抱いていた。
 産毛すら感じ取れない滑らかな手触りと指先に吸いつくようなむっちりとした弾力にうっとりして洋介は囁く。
「詩乃さんのふともも、こんにゃくみたいにむちむちしてる。お尻だってほら、こんなに大きくて柔らかい。ほんと、いやらしい身体してるよね。これじゃ、父さんと別れた後、引く手あまただったんじゃない?」
 ふとももを鷲掴んでいた両手をそのままヒップの下に潜り込ませ、純白のショーツに包まれた巨大な肉桃の表面に指先を食い込ませる。
 ふとももよりもいっそう柔らかな尻のふくらみはずっしりと重いボリューム感で洋介の手を押し潰した。
「そ、そんなことありません。わ、私は……」
「僕への懺悔の為に、一生、一人身を通すつもりだった?」
「そ、それは……」
 どうやら図星だったらしい。詩乃は黙り込んでしまう。
「すごく光栄だけど、もったいなさ過ぎるよ。でも、もう詩乃さんは僕の奥さんだから、このエッチな身体はぜんぶ僕の物ってことだよね。ねっ?」
 洋介は豊満なヒップをきつく抱き締め、こんもりと盛り上がったショーツのクロッチに鼻と唇を押し付ける。
 じゅんという音とともに蜜汁が染み出し、鼻の頭が濡れた。
 早くもじっとりと湿り気を帯び始めている薄布越しに、恥丘の膨らみをぐりぐりと凹ませて肉土手のぷにぷにした感触を顔面で楽しむ。
「あっ! あっ! わ、私は……洋介さんの……あぁっ、無理をなさらないでくださいっ……そ、そんな恥ずかしいところを強く押されたら、私……」
 詩乃は両手を使って止めようとするが、洋介は殊更、恥丘の丸みに唇を食い込ませ、クロッチ越しにスリットを擦り立てる。
「真ん中のところ、だんだん湿ってきてる。ほら、はっきり答えてくれないと、パンツがぬるぬるになっちゃうよ?」
 恥丘のふくらみを圧迫したまま首を上下左右に小刻みに振って、電動マッサージ機のように強烈なバイブレーションを加えた。
 股布のちょうど割れ目の当たっている部分にアーモンド型の染みができて、じわじわと拡がっていく。
 じっとりと滲み出した恥蜜は洋介の鼻と唇を濡らし、クロッチは強い粘り気を帯び始めていた。
「はぁっ……うっ……あうぅんっ……そ、そうですわっ。わ、私は洋介さんの妻です。私の身体は髪の毛一本に至るまで洋介さんの物。ですからっ……ふ、震えを止めてくださいっ」
 詩乃の言葉に洋介は独占欲を満足させ、顔の震えをぴたりと止めた。
 しかし、その時にはすでにクロッチはぐっしょりと濡れそぼり、薄布の向こうでほぐれ、わずかに口を開いた淫裂から、むっとする熱い匂いの波があふれ出てくる。
 詩乃の割れ目はくたくたに煮込んだチーズにオレンジの絞り汁を垂らしたような匂いがした。
「くっ……くはっ……きょ、強烈だ……」
 深く吸い込むたびに鼻腔は痺れ、肺の中はぴりぴりと痛み、危うく咳き込みそうになる。眉間にずきんと鈍痛が走って思考は徐々に混濁していく。
「ふわぁ……詩乃さんの匂い……きっついよぉ……ぼく……なんだか頭がぼうっとしてきた……」
「あぁ……ま、また洋介さんはそんなところの匂いを嗅いで……さきほどお風呂でよく洗っておいたのですが……」
 顔を両手で覆い、詩乃はいやっいやっと首を振る。
 詩乃の胎内より漏れ出す淫らな匂いをむさぼるように嗅いだ洋介は、すっかり欲情して勢いづいてしまう。
 クロッチのど真ん中に出来た染みをぺろぺろと夢中で舐め、後から後から染み出してくるしょっぱい牝蜜を喉を鳴らして飲み下した。
「すごいや……パンツの染みがどんどん大きくなってく。まるでお漏らしでもしたみたいだ……」
「そ、そんな……パンツ越しにお舐めになったら、そうなるに決まっているじゃありませんかっ……」
 顔を真っ赤にした詩乃は腰をくねらせ逃れようとするが、洋介はがっちりと骨盤を掴んで放そうとしない。
 コットン生地の繊維の目から、こんこんと滲み出す蜜液をさんざん堪能し、
「ふう……」
 と一息ついた頃には、濡れそぼったクロッチはべっとりと恥丘に張り付き、中央に一本、縦に走ったスリットとその周囲に密生した恥毛の影が完全に透けていた。
「わぉ……詩乃さん……パンツを穿いたままなのに、おまんこ丸見えになってるよ。なんてエッチな絵面なんだ……」
「い、いやぁ……よ、洋介さんは意地悪ばかり……ご自分の妻を苛めて楽しいのですか?」
 詩乃は瞳を潤ませ、目尻に涙を貯めて今にも泣きそうな顔で訴える。
 しかし、その様子がさらに欲情をそそるという悪循環に。
「だって、恥ずかしがる詩乃さん、すごく可愛いんだもの。こんなにエッチな身体してるのに素振りは深窓の御令嬢。それでいて本当はすごく床上手だなんて……まさに男が望む理想の奥さんだよ」
「ご、誤魔化さないでください。そんなことを言われても……よ、喜んで良いやら悪いやら……よくわかりませんわ」
 困った顔もまた可愛いから困ったものだ。
 洋介は両ふとももを掴んで持ち上げるとヒップからぺろんとショーツを剥き取り、そのまままんぐり返しの体勢で上から詩乃を押さえ込む。
 詩乃は脱げ掛けのショーツに膝を拘束されたまま、秘唇も肛門も丸出しの状態で身動きが取れなくなってしまった。
「こ、こんな格好をさせないでくださいっ……あぁっ……もうっ……恥ずかしくて頭が変になってしまいそう……」
 詩乃の懇願もそっちのけで、巨大な桃の割れ目にぱっくりと開いた紅い裂孔、そしてそのすぐ下に穿たれ、ひくひくと蠢く茶褐色の菊座に、洋介はしばし言葉を失って惚れ惚れと見惚れた。
 濡れ光る恥毛に守られた秘唇は赤茶けた色をしていて、ともすると大きな傷口に見えた。
 二枚の薄い肉びらに挟まれ、中央には胎内へと続くコイン大の孔が穿たれている。
 そのすぐ上には包皮に包まれたクリトリスが膨らみ、無理な姿勢を強いられている詩乃の苦しげな呼吸に合わせてひくひくと妖しく蠢いていた。
 ヒップを掴んで左右の尻たぶを寄せてみると、薄開きになっていた淫裂がぴたりと閉じられ、窄まった膣孔から透明なシロップが溢れ出して、あんぱんの真中に埋め込まれた桜の塩漬けみたいなアヌスにじくじくと染み込んでいく。
 今度は両の親指で軽く秘唇を広げてみた。
 赤や紫の血管が這い回る鮮やかなサーモンピンク色の蜜壁が露になり、広げてもなお窄まったままの窮屈な濡れ孔の底に粘膜から滲み出したエキスが溜まっていく。
 洋介は中指を根元までよくしゃぶってから、肉体の門にゆっくりと挿入した。
 たっぷりと濡れているため、中指はぬるりと勢いよく滑り、たちまち根元まですっぽりと埋まってしまう。
「ひぅっ……」
 喉から空気の抜けるような声を絞り出し、串刺しにでもされたように詩乃はびくりと尻を震わせた。
 とたんにきゅんと膣は引き締まり、内壁に生えた無数の肉ひだを吸いつかせて、洋介の中指をぎゅっと掴む。
 その締り具合は指が痛くなるほどで、最奥から入り口に至るまで満遍なく締め付け、濡れ壁が波を打って蠕動し、指を奥へ奥へと呑み込もうとしているかのようだった。
「ぬるぬるになってるから、あっさり入っちゃった。それでも膣内はきつきつだ。壁のでこぼこが膨らんで指に絡み付いてくる」
 きつい締め付けに抗って膣壁の濡れひだをぐるりと指先でなぞり、感想をわざと口にした。
「はっ……あぁっ……い、言わないでくださいっ。そこは……そういうはしたない場所なんです。な、中で……指を動かさないで……中身が……お腹の中身がまざっちゃう……」
 言葉とは裏腹に、詩乃の忙しない息遣いに応じて膣肉はきゅんきゅん引き締り、根元まで呑み込んだ中指をきゅうきゅう締めつけて放そうとしない。
 もともと狭い膣管は入り口付近から奥に至るまで括約筋によってしっかりと引き絞られ、咥え込んだ男根に快感を与え、射精へと導く為の器官として最高の機能を果たしていた。
「こりゃすごいや。こんなに締りの良いおまんこに挿入れたら、きっと僕、すぐに射精ちゃうよ。膣内は熱いし、指が溶けそうだ。さて、お味の方はどうかな?」
 洋介は舌の表面を使ってスリットの下端から上端までを一息にべろりと舐め上げた。
 強い粘り気を帯びた濃厚な蜜液が舌にまとわりつく。
 酸味としょっぱさの入り混じった芳醇な味覚に舌の先はぴりぴりと痺れ、暗い裂孔の奥底から吐き出される噎せ返るような酸っぱい匂いに洋介は目を白黒させた。
「はひぃんっ……あはぁっ……」
 詩乃は鋭くいなないて甘ったるい靡声を居間に響かせると、ヒップをぶるぶると震わせる。
 両手はシーツをぎゅっと掴み、足と足を絡めて羞恥と快感を耐え忍ぶ。
 唇をきつく噛み締め、眉間に深く皺を刻んだ苦悶の表情が艶かしい。
 洋介は精一杯舌を伸ばし、尖らせた舌先で淫裂を割ると、膣内へと潜り込んだ。
 ぴちゃりと金魚の跳ねるような音がして、舌は根元近くまで膣に埋まり、舌先はきつく窄まった濡孔を押し開いて胎内深くまで到達する。
 肉壁はつるつるしていて、表面は濃密な粘膜に守られていた。
 膣管の内面を舌先でぐるりと舐め回してみると、ひくっひくっと膣は敏感に反応し、きゅんと引き締まっては愛液をじゅくじゅくと溢れさせる。
「あっ……はぁっ……ん」
 蕩けるような声を漏らし、詩乃は口端から一筋の涎を垂れ流す。
 もはや抗いの言葉を発することも出来ず、瞳はとろんとして焦点が合わなくなり始めていた。
 洋介は膣から舌を引き抜くと囁く。
「可愛いよ、詩乃さん。感じている詩乃さんのエッチな顔を見てるだけで、僕、射精ちゃいそうだよ」
 とっくにペニスは勃起し切ってがちがちになり、トランクスと父親の寝巻きを突き上げて隆々と反り返っていた。
 親指で淫裂の上端を軽く開き、尖らせた舌先でクリトリスの包皮を丁寧に剥き取る。
 無防備になった肉の尖りはぷっくりと痛々しいまでに膨れ上がって震えていた。
「そ、そこは……そこだけは……」
「大丈夫、優しくするから」
 洋介はにっこり微笑んでクリトリスに舌を絡める。
「あへぇっ……」
 舌をでろりと吐き出して、詩乃はぱくぱくと唇を力なく開閉させた。
 すっかり寄り目になってしまい、端正な顔は台無しになってしまう。
 洋介は痛みを与えないように、たっぷり唾液を滴らせて過敏な牝の弱みを優しく嬲った。
「ひぃ……ひぃ……」
 こりこりとした舌触りを感じるたびに、詩乃の断末魔の悲鳴が漏れる。
 股間から酸味の効いた涎をだらだらと垂れ流し、愛液塗れのアヌスをひくひく痙攣させて快感にのたうつ。
 洋介はクリトリスを解放すると、びっしりと皺の寄った肉色の菊の花弁に舌を這わせた。
「ひゃあぁっ……そ、そちらは……そちらはお止めくださいっ……お、お尻だけは……」
 アヌスをばくばくと忙しなく開閉させて詩乃は涙ながらに訴えるも、洋介はまるで聞いてない。
 一本、一本、丁寧に皺を舐め取り、唾液と愛液でアヌスを解きほぐしていく。
 それから舌先を硬く尖らせ、皺の中心を穿って直腸に潜り込んだ。
「な、中はいけませんっ……お尻の中は……う、うんちが……うんちが残っているかも……い、いやぁっ……」
 消え入りそうな声を絞り出し、詩乃は歯を食い縛る。
 不浄の玉門に舌を挿入される、虫唾の走るような感覚に耐えているのだ。
 勢いづいた洋介は容赦なく直腸をえぐり、つるりとした腸壁を嬲り続ける。
 肉管の中に甘い腸液が溢れ、舌を蠢かすたびにアヌスから飛沫を上げて吹き出した。
 詩乃はすべてを諦めたように静かになり、いくつもの恥ずかしい孔からだらしなく体液をお漏らししながら、虚ろな瞳で天井を見つめる。
「もう……我慢できない。詩乃さん……挿入れるよ」
 アヌスから舌を引き抜き、寝巻きの帯を解くとトランクスも脱ぎ捨てて、日本刀のように反り返った剛直を掴んだ。
 詩乃の脚からショーツを引き抜き、大きく股を広げさせて、膨らみ切った李型の亀頭を秘唇にあてがうと洋介は訊ねた。
「ゴム……つけた方がいい?」
 本当は問答無用で挿入したい所だが、血縁関係を思えばさすがにそうもいかない。
「きょ、今日は……だいじょうぶ……です」
 詩乃は息も絶え絶えになりながら、それでも生挿入を許してくれた。
「ありがとう……いくよ、詩乃さん」
 亀頭の先に熱いぬめりを感じた。
 肉壁に生えた濡れひだの群れを突き破って、詩乃の胎内に滑り込む。
「ひぐぅっ……」
 くぐももった呻きを漏らして、詩乃は背筋を丸めた。
 亀頭は膣奥まで達し、奥壁に突き当たって胎内に鈍い振動が響く。
 それでも長大なペニスは収まりきらず、根元が余ってしまう。
 洋介は詩乃の腰を掴んで軽く布団より持ち上げ、腰高位の姿勢でもうひと突きする。
「ふんっ……」
 すると亀頭は膣奥を滑って子宮口をえぐり、ペニスは晴れて根元まで膣に収まった。
「あぁっ……は、入った……こ、これが……詩乃さんのおまんこの感触なんだ。コンドームを着けている時とはまるで別物だよ……熱っ……つい……」
 恍惚と呟いて、洋介は初めて味わう女性器の本当の快感に感動する。
 柔らかな粘膜はぴったりと隙間なく肉茎に密着し、きゅんきゅん締め付けてはぺたぺたと吸い付いてくる。
 詩乃の呼吸に合わせて膣管全体がうねり、根元からペニスを抜き取られそうになる。
 体温があまりにダイレクトに伝わってくるので、敏感な亀頭に刃物で切られたような痛みを感じて背筋がひやりとした。
「はぁっ……はぁっ……よ、洋介さんが……私の中に。昔、洋介さんがいた子宮にまでしっかり届いて……こんな日が来るなんて……洋介さんを産んだ時には思いもしませんでしたわ」
「せっかく帰ってきたんだから、もう何処へも行かないよ。僕はずっと詩乃さんの傍にいるからね」
 洋介はゆっくりと腰をゆすり始めた。
 愛液の粘りつく窮屈な膣管の中を、限界まで勃起し切ったペニスがゆったりと出没する。
 やわやわと絡み付いてくる肉ひだに亀頭の粘膜を擦られるたび、腰の砕けるような快感が弾け、瞼の裏に星が煌く。
 とんっ、とんっ、とんっ、とリズミカルに膣奥を突くと、亀頭の先に感じる子宮口のこりこりとした感触にあっさり射精しそうになり、慌ててアヌスを引き絞る。
「くぅっ……」
 そんな洋介の肩に両手を添え、詩乃もゆるやかに腰を使う。
 長い脚を腰に絡め、上下左右にヒップを揺らして、洋介の腰使いをサポートした。
「はっ……あぁっ……あんっ……い、いつでも……お射精になって……かまわないんですよ? 我慢なさらず、思い切り私の中にいらしてください……」
 洋介を気遣って詩乃は言う。
 本当は強がりたいところだったが、あまりに詩乃の具合が良過ぎて、そう長くは持ち堪えられそうにない。
 洋介にとっては、これが本当の意味で初めてのセックスだった。
「うぅっ……ごめんっ……気持ちよすぎて……ぜんぜん我慢できないよ」
「一度、射精しておきましょう。お若いんですから、大丈夫ですよ。ほら、私の中で洋介のおちんちんが苦しがっています。はやく楽にしてあげてください」
 円を描くような詩乃の腰使いに、ペニスは根元からねじられ、振り回され、膣奥深く埋まった亀頭は子宮口にごりごりと擦られて悲鳴を上げる。
「し、詩乃さん……なんてエッチな腰使いなんだっ。おちんちん溶けちゃうよぅ」
 我慢しきれないと分かった洋介は一気にラストスパートをかける。
 どうせだからと渾身の力で腰を振り、詩乃の子宮をがんがん突き上げた。
「あんっ、あんっ、あんっ……よ、洋介さんも素敵ですよっ。まだ、こんなに腰を振れるなんてっ。あぁっ……これじゃ……私までイカされちゃうっ」
 先にたっぷりと愛撫を施され、十分に熟していた詩乃の肉体は洋介よりも余裕が無かった。
「はぁっ、はぁっ……し、詩乃さんもイキそうなの?」
「はっ、はいっ……わ、わたしも……だんだんよくなってきました。あっ、あっ、あっ……もう少しだけ頑張ってくださいっ……そうしたら一緒に……一緒に……あっ…ああぁっ……はぁんっ」
 詩乃は洋介の首を抱き締めて耳元で叫んだ。
 派手な喘ぎ声を聞かされ、がぜん勇気の沸いた洋介は、詩乃のふくらはぎを掴んで両肩に担ぎ、ふとももをきつく抱き締めて腰をしっかりと密着させる。
 限界まで深く挿入できる体位を守ったまま、歯を食い縛って膣奥を突きまくった。
「くっ……はぁっ……こ、これでどう? さっきよりもっと深く挿入いってるでしょう? 詩乃さんも気持ちいい?」
「はっ……はひぃ……お、奥が……奥が気持ちいいのっ、おちんちんが奥にごつごつ当たってるのぉっ……」
 身体をくの字に折り畳まれた苦しい姿勢で髪を振り乱し、詩乃は唇を震わせて洋介の男根によって与えられる快感を吐露した。
 膣管はきゅうと引き締まり、収縮し切った状態でひくっひくっと不規則に痙攣し始める。
 それは紛れもないオルガスムスの兆候。詩乃もまたイク寸前だった。
 いよいよ膣穴に出没するペニスの勢いは最高速に達し、ぱんっ、ぱんっ、ぱんっ、と肉と肉のぶつかり合う乾いた音が鳴り響いては、膣内で圧搾された蜜汁が根元の結合部からぐしゅぐしゅと飛沫を上げて派手に吹き出す。
 互いの恥毛はぐっしょりと濡れそぼり、性器の粘膜同士が生のまま擦れ合うぬるぬるとした感触に性感は急速に高められていく。
「こ、腰が……腰が止まらないっ。き、気持ちよすぎて……あぁっ……これが本当のセックスなんだっ……この世にはこんなにも気持ちいいことがあったんだっ……」
「あっ、あんっ、あっ、あんっ……そ、そうですよっ。が、頑張れば……もっともっと気持ちよくなれますっ……だから……はうぅんっ……どんなことも一生懸命に……あっ……あっ……ああああぁっ……い、いくっ……いくっ! いくっ!」
 耳元で繰り返される、オルガスムスの到来を告げる鋭い喘ぎに止めを刺され、ひときわ強く腰を叩きつけると、洋介は詩乃のふとももを精一杯抱き締め、根元まで埋め込んだペニスを膣の一番深い所で弾けさせた。
「ふぐっ……で、射精るっ……」
 呻きとともに腰をぶるぶるっと震わせ、亀頭を子宮口に密着させたまま精を迸らせる。
「あっあああああぁっ……お、奥で……一番奥で洋介さんのが射精てるっ。し、子宮に……子宮にぴゅくぴゅく流れ込んでくるの……あっ……熱いぃ……」
 圧し掛かる洋介の体重に押し潰されながら、詩乃は一滴たりとて漏らすまいと新鮮な生命のミルクを子宮に直接受け止めた。
 胎内に炸裂する溶岩流のように熱い飛沫に子袋を焼かれ、詩乃は胸を突き上げて絶頂に達する。
「んぁああぁっ……いっ……いくぅっ……いくっ、いくぅっ……」
 がくがくと全身を痙攣させ、歯をぎりぎりと食い縛って絶叫した。
 濡れ孔はこれでもかと引き絞られ、根元まで呑み込んだ洋介のペニスを絞め殺そうとする。
「うっ……うっ……うぅっ……」
 びゅくんっ、びゅくんっ、と勢いよく鈴口から飛沫が上がるたび、腰の中心に熱い痺れが走り、洋介の頭の中は真っ白になった。
 詩乃のふとももをしっかりと抱き締めたまま背筋を反らせ、腰をぶるぶる震わせて膣内射精の目も眩むような快感を存分に貪る。
 たっぷりと吐き出された精液はすぐに子宮を満たして膣内に溢れ出し、ペニスを包み込んだ。
 生暖かい自分の精液を肉茎に感じて、洋介は初めて詩乃とセックスできたのだと実感した。
「あぁ……詩乃さんの膣内……あったかい……ずっとこうしていたいよ。あっ……あぅんっ……」
 恍惚と呟いた洋介の腰にぶるっと最後の痙攣が走り、尿道に残っていた残りの滴が詩乃の胎内に搾り出される。
「はぁ……はぁ……ま、まだ射精てる。なんて長い射精なの……もう……お腹いっぱい……」
 はくはくと力なく唇を開閉させ、オルガに蕩けた瞳で詩乃はうっとり呟いた。
 洋介は抱き締めていたふとももを解放し、大の字に寝そべった詩乃の上に崩れ落ちる。
 詩乃の肉体は絶頂の余韻にひくひくと小刻みに痙攣していた。、
 夢中で抱き締め、柔らかな髪に鼻を擦りつけて、イッたばかりの甘酸っぱい体臭を胸いっぱいに吸い込んだ。
「最高に気持ちよかった……ありがとう、詩乃さん」
 まだ腰が痺れていた。しばらくは動けそうもなかった。
 しぼんだペニスは胎内よりどろりと吐き出され、やがて洋介の放った白濁液が充血した紅い傷口から白い血のようにとろとろと溢れ出す。
「洋介さんもとってもよかったですわ……背筋がびりびりきましたもの。それに……フフフッ、こんなにたくさんお射精しになって……今日が危ない日でしたら、きっと弟か妹ができていましたわ」
 洋介の髪を愛しげに撫でながら、詩乃はそっと耳元で囁いた。
「どうせなら僕は妹が欲しいな。僕の子供……産んでくれる?」
 軽く身を起こし、詩乃を見つめて洋介は訊いた。
 一人っ子の寂しさは身に染みているので、詩乃に似た可愛い妹が欲しかったのだ。
「まぁ……洋介さんったら……血の繋がった女性を妊娠させようだなんて、いけない子……ですわ」
 洋介の頬を両手で包み込み、詩乃は優しく唇を重ねて舌を絡める。
 唾液を交換するような長い長いディープキスの後、透明な糸を引かせて舌を引き抜き、詩乃は微笑んだ。
「もし、本気なのでしたら、もう一度たっぷり可愛がってくださらないといけません。今日は安全日ですから、そう簡単には孕みませんわよ。少しだけお休みして、それから、もう一回……ね?」
 小首を傾げてリクエストされたら、受けて立たない訳にはいかなかった。
 もちろん、異論はある筈もない。
「はい、ママ」
 今度は自分から唇を求め、柔らかな乳房の谷間に顔を埋めて少しだけ眠った。

「さ、挿入れますわよ?」
 洋介の腰に股がって詩乃は言った。
 掴んだ一物を優しくしごいて硬さを保ち、亀頭を自ら淫裂へと導いて浮かせた腰をゆっくりと沈める。
 紅い秘唇は限界まで押し広げられ、太い肉茎をスムースに呑み込んでいく。
「うっ……あぁ……」
 亀頭の先に熱い粘膜を感じたかと思うと、濡れそぼった肉の管に根元まで一気に包み込まれた。
 身体の一部が白い下腹の奥に収まっていくのを洋介は呆然と眺める。
 互いの恥毛は絡み合い、肉体はひとつに結合された。
「くっ……ふうぅ……」
 詩乃は深く息を吐くと、洋介の胸板に両手を添えてぴんと背筋を伸ばす。
 くびれたウエストで腹筋がきゅっと引き締まり、乳頭をつんと上向けた乳房はたわわに実って、肩から重そうにぶら下がっていた。
「は、入りましたわ……はふぅ……やっぱり騎乗位は挿入感が深いです。しっかり奥まで届いて、子宮と亀頭が繋がっている感じがしますもの」
 軽く腰をひねってヒップをぐるりと回し、てこの原理で亀頭が子宮口をごりごりと擦り立てるのを確かめた。
「今度は長く楽しみましょうね」
 洋介の頬をそっと撫でて詩乃は妖艶に微笑む。
 解けた長い黒髪がイメージを一変させ、詩乃を淫猥な夜の女に変えていた。
 ゆったりとした腰の前後運動が始まり、わずかに膣から吐き出されたかと思うと、牡茎は再び根元まで沈んで亀頭が子宮口を優しくえぐる。
 くちっ、くちっ、と粘りつくような音につられて、たっぷりと愛液にまみれた肉竿はぬめる蜜壁に絡みつかれ、敏感な粘膜をじくじくと溶かされた。
 静かで深い性の営みはひどく卑猥な雰囲気を醸し出し、言葉を発するのが躊躇われる。
 洋介は無言のまま乳房へと手を伸ばし、豊満すぎるふくらみを下から両手で鷲掴んで優しく揉みし抱いた。
「はぁ……ん。少しくらい……痛くしてもかまわないんですのよ。たまには荒々しいのも素敵なものですわ」
 腰を淫らにくねらせ、ヒップで8の字を描きながら、詩乃は舌の先で紅い唇を舐め回した。
 その仕草に眩暈を感じ、洋介は柔房に指先を食い込ませていく。
 指の隙間から白い果肉が食み出し、バストは醜く歪んだ。
 濃紅色の乳頭は充血して痛々しいまでにふくらみ、左右ともにあさって方角を向いてぴくぴくと震えている。
 双方の乳首を親指と人差し指で摘んでつねり上げると、ペニスを咥え込んだ膣管がきゅんと窄まり、詩乃の綺麗に生えそろった前歯が唇をきつく噛み締めた。
「あぁんっ……」
 鼻の頭から鋭いいななきを発して、詩乃は身をよじる。
「この痛みが……た、たまらないの……」
 吐息交じりの甘い囁きは強力な媚薬となって、洋介の身体をあっさり痺れさせてしまう。
 見下ろしてくる大きな瞳は快感に蕩け、目を逸らすこともできず、その黒い瞳孔に吸い込まれそうになった。
「詩乃さん……とても綺麗だよ……」
 ようやく絞り出せたのは感嘆と賞賛の呟きだけだった。
「フフフッ……そういう洋介さんはとても可愛らしいですよ。ほら、乳首もこんなに硬くなっていますわ」
 詩乃は胸板に添えていた両手の親指で洋介の乳首をさわさわと撫でさする。
「あぅんっ」
 鳥肌がびっしりと浮き出し、全身の毛が逆立った。
 びりびりと電流にも似た快感が体中を駆け巡り、息んだ拍子にカウパーがペニスの先からぴゅると漏れ出す。
「あらあら、男の子のくせに、ずいぶんいい声で鳴くのですね。苛めたくなってきますわ」
 身を伏せた詩乃は乳首に舌を這わせてちろちろと嬲る。
 もう片方の乳首もしっかりと摘んで甘くつねり上げた。
「あっ……い、痛いよ……詩乃さんっ」
「それが良いのでしょう? 洋介さんのおちんちん、私の膣内でびんびんいってますよ」
 血が流れ込み過ぎて、本当に破裂するかと思うほどペニスは力強く勃起していた。
 それを熱く濡れた肉壺がやんわり包み込んできゅうきゅう締め上げてくる。
 柔肉のしなやかな弾力と焼きつくような温もりの中で、洋介は身体の芯が蕩けるような錯覚を覚えた。
「あっ……あぁ……ぼ、ぼく……もう……」
 だんだんと腰は熱く痺れ始め、アヌスの奥に鈍い射精感が染み渡っていく。
「仕方のない洋介さん。先ほどあれだけ私の膣内にお漏らししたのに、もうお仕舞いなのですか? もっと私を可愛がってくださるお約束ですよ」
 メロン大の乳房を胸板に押し付け、詩乃は洋介の唇をぺろぺろと舐めて挑発する。
 腹筋に筋を刻んで腰を前後にしならせ、股間の肉壺を使って少年の柔な牡茎をたっぷりとしごき上げる。
「あぁっ……待って、詩乃さんっ……そ、そんなにしたら、ぼく……もたな……むぐぐっ……」
 弱音を吐こうとする唇を無理やり塞がれ、舌を絡め取られる。
 ほんのり酸っぱい唾液を口腔にとろりと流し込まれ、強引に飲まされた。
 押し付けられる乳房の卑猥な感触と生暖かい温もりは胸板に染み込み、下半身は完全に蕩けて詩乃の下半身とひとつに溶け合っている。
 牝ライオンに食い殺されるインパラみたいに、洋介はなすすべなく詩乃の胎内に生命の飛沫を散らした。
「うっ……うっ、うっ……」
 痺れるような熱い射精感が津波のように身体の隅々まで押し寄せて、脳内に光が満ち溢れる。
 亀頭の先から精を迸らせるたびに腰の中心で快感が炸裂し、背骨の砕けるような錯覚を味わった。
 皮膚は異常なまでに敏感になり、詩乃の柔肌とほんの少し擦れただけで、びりびりと高圧電流を流し込まれたみたいに感じてしまう。
「くはっ……はぁっ……あうぅっ……」
 たまらず詩乃の舌を吐き出して洋介は呻いた。
 それでも、まだ射精は続いていて、身も心も蕩けるような快感にのたうちながら、詩乃の身体にしがみついてしまう。
 打ち上げた精液が膣の中を逆流してくるのがわかる。
 膣内はもうぐちゃぐちゃだった。
「フフフッ……あっさりイってしまいましたわね。だらしのない洋介さん。それにしても、二度目ですのにすごい量。こんなに射精されたら、本当に妊娠してしまうかもしれませんわ」
 にこにこ微笑んで詩乃は怖いことを言う。
 しかし、何を言われても、今の洋介には言い返すことが出来なかった。
「さて、仕上げにかかりますか」
 詩乃は身を引き起こし、いま一度、しっかりと淫裂にペニスを咥え直すと、ベリーダンスでも踊るような腰つきで、ヒップを前後左右に忙しなく揺らし始めた。
「あっ……あぁっ……」
 洋介はたまらず叫んだ。
 まだ射精も終わらないうちに、次なる射精を促す愛撫を加えられたら、たまったものではない。
 過敏になっている粘膜を強引に擦られ、ひりひりと痛むような、くすぐったいような性感をペニスに流し込まれて悶絶しそうになる。
「ま、待って詩乃さんっ……だ、射精したばかりだからっ……無理しないでっ」
 泣きそうになりながら哀願するが、詩乃の返事は冷たかった。
「私はイっていませんわ。それにほら、まだ十分硬いですわよ。これならもう一回くらい楽に出来ます。硬さが残っているうちに頑張っておきませんと、出来るものも出来なくなってしまうじゃありませんか」
 萎えかけた肉茎には確かに力が残っており、痛みにも近い性感の中で、少しずつ芯が通っていく。
「だんだんしっかりしてきましたわ。洋介さんは精力がお強いですわね。これなら私、欲求不満の心配はなさそうですわ。お覚悟なさいませ。中年女の性欲は恐ろしいですよ。洋介さんの若さをぜんぶ吸い取って差し上げます」
 男の精を吸い取る女夢魔のように、詩乃はにんまりほくそ笑む。
 普段とは別人のような大胆さで、洋介のペニスから快楽をむさぼり尽くそうと貪欲に腰を振り乱した。
「はあぁんっ……し、詩乃さんっ……そんなにしたら……お、おちんちんがもげちゃうよっ」
 強烈な締め付けでぎゅうぎゅうと根元から先端までを掴まれたまま、めちゃくちゃに振り回され、揉みくちゃにされる。
 激しい摩擦にどんどん熱くなっていく膣内は肉のミキサーと化していた。
 洋介の吐き出した精の名残と止め処なく分泌される詩乃の牝汁が攪拌され、白く泡立ったエキスが飛沫を散らし、結合部より吹き出しては互いの恥毛をぐっしょりと濡らした。
「あんっ、あんっ、あんっ……さ、最高ですわっ……硬くて太くて長くて……反り具合もぴったり。どこかの若い小娘なんかにこれを使ったら許しませんわよっ」
 背筋をぶるぶると震わせて詩乃は叫ぶ。
「そうですわ、他の女性に悪さを出来ないように、ぜんぶ抜き取ってしまえばよろしいのね。一滴も残らないくらいにカラカラに吸い取ってしてしまえば……」
 恐ろしいことを口にした詩乃は浮かした腰を勢いよく落とし、肉棒を胎内深くまで迎え入れる。
 打ち込まれた亀頭が子宮口を叩いて、肉と肉のぶつかり合う鈍い音が詩乃の腹から聞こえてきた。
「あぁっ……奥に来るっ来るっ……だんだんよくなってきましたわ……」
 重いヒップはばつんばつんとリズミカルに弾み、下腹にボウリングの球でも落とされたような衝撃が繰り返し走る。
「うっ……うぅっ……」
 半ば詩乃に強姦されながら、それでも射精を求めて激しく勃起してしまう自分のペニスを洋介は恨んだ。
 しかし、二度の放出を終え、感度の鈍くなっているペニスはそう簡単には射精できない。
 詩乃にとってはそれが好都合だった。
 決して萎えることのない肉バイヴを手に入れ、熟女の性欲が爆発していた。
「あっはぁんっ……先に二度抜いておきましたら、さすがに長持ちしますわねぇっ。こんなに腰を振っても、まだ持つなんて……あぁっ……わたしったら……もうイってしまいそう……」
 恍惚と呟きつつも、一瞬たりとて腰を止めない詩乃の姿に、男と女の性欲の差を見せ付けられる。
 二度も精を抜き取られ、すでにグロッキー状態の洋介は、再び迫ってくる三度目の射精感に恐れをなし始めた。
「うわぁっ……ま、まただ……また射精そう……やばいよ……こんなに射精したら、ぼく、死んじゃうよぅ……」
「その若さで腹上死なんてしませんわ。明日から毎日、精のつくものをたくさん作って差し上げますから、頑張ってくださいっ。さあ、御一緒にっ……イクときは一緒ですわよっ」
 目をぎらぎらさせて詩乃は背筋を反り返らせると、膝を立て、背後の畳に手をついて勢い良くヒップを弾ませる。
 ペニスを無理やり引き起こされて根元に痛み走るが、膣にずっぷりと呑み込まれたまま角度的にキメられているため、もはや逃れられない。
 快楽を求める淫獣と化した詩乃に肉体を蹂躙されながら、洋介は最後に残された命の源までも強引に吸い出されてしまう。
「ひいぃっ……す、吸われるぅ……詩乃さんのおまんこにぜんぶ抜き取られちゃうっ……ぐっ……ぐふうぅっ……」
 眉間に火花が散って、ペニスの先に無数の針で突き刺されたような痛みを感じた。
 鈍磨した亀頭をさらに擦られ、びりびりと痺れたまま無理やり射精させられてしまう。
 それは絞った雑巾をさらに絞るようなものだった。
 白濁していた液はすっかり薄まり透明になって、ほとんど残っていないわずかな雫すらも、詩乃の子宮は容赦なく吸い上げる。
「あんぁーっ……私っ……い、イクわっ……わたしも、もうっ……い、イクぅーっ」
 顎を高々と突き上げてオルガスムスの雄叫びを上げると、背筋を限界まで反り返らせて詩乃の肉体はがくがくと痙攣し始めた。
 肉壺は括約筋を引きちぎらんばかりに収縮し、すでに息絶えているペニスをとどめとばかりに食い千切ろうとする。
「あっ……あっ……うぅん……」
 白いヒップをぶるぶると震わせ、悦びのエナジーを味わい尽くした詩乃はゆっくりと上半身を引き起こしたかと思うと、バランスを失ってそのまま洋介の上に崩れ落ちてくる。
 唇の端から泡を吹き、白目を剥いて洋介はすでに失神していた。
 その胸に顔を埋めながら、かつて生まれたばかりの洋介を抱いた、人生最良の瞬間を思い出して、詩乃もまた眠るように意識を失うのだった。

「おはようございます。起きてください、洋介さん。もうお昼近くですよ」
 肩を優しく揺すられて、洋介は目を覚ました。
「うぅっ……お、おはよう……っておわっ……」
 眠気まなこを擦りながら、周囲を見回して驚いた。
「あっ……そうか……昨日は床の間で寝たんだった……」
「ずいぶんと良くおやすみになられていたので、お昼までは……と思って起こしませんでした」
 くすくす笑う詩乃はすでにいつものエプロン姿で、昨夜の激しい乱れ振りなど想像も出来ない爽やかな表情をしていた。
「シーツを洗いますから、起きてくださいな。御飯はもう出来ていますので、食堂でどうぞ」
 言われてシーツを見下ろすと、黄色い染みがたくさん出来ていて赤面する。
(あぁっ……昨日のアレはやっぱり夢じゃないんだ……)
 都合三発も抜き取られた、めくるめく夏の夜の記憶は、乱れ狂う詩乃の白い裸身と共に、鮮烈に思い出された。
 布団から起き上がろうとして足を踏ん張ると、むず痒い痺れが走って腰から力が抜け落ちる。
 膝がかくんと抜けてしまい、正面にいた詩乃の胸にすがりついてしまった。
「あら、あら……腰が抜けてしまいましたのね。フフフッ……無理もありませんわ。昨夜は随分と頑張ってくださいましたから……」
 そう言う詩乃は肌艶も良く、いつも以上に若々しく見えた。
「し、詩乃さんは平気なの?」
「殿方に抱かれた翌朝、女性はかえって元気になるものです。言いましたでしょう? 洋介さんの若さをいただきます……と」
 なるほど、そういうことか、と洋介は納得した。
 抜き取られた精力は、そのまま詩乃の養分に変わったらしい。
 それで詩乃がいつまでも若く綺麗でいられるなら、願ったり適ったりだった。
 肩を貸してもらって食堂に行き、遅い朝食をたっぷり食べる。
 重労働を終えた後なので、ひときわ空腹だった。
 食事を終えると、居間で詩乃がアルバムを開いているのに気がついた。
「それは?」
「洋介さんが生まれた時に買った家族のアルバムです。この写真を貼っておこうと思いまして……」
 詩乃はテレビの上に置いてあった写真立てから、例の写真を取り出してアルバムに納める。
「ようやく元の場所に戻せましたわ。この写真は私がこの家から持ち出した唯一の物だったんです。これで気持ちの整理もつきました」
 ぱらぱらとめくったアルバムには、今は亡き榊家の人々の写真が並んでいる。
 けれども詩乃の写真だけは、そこに無かった。
「洋介さんが混乱しないように、私の写っている写真は外したのだと思います」
「そうか……だから、僕は詩乃さんの顔を思い出さなかったんだ……」
 それは寝た子を起こさぬための、両親の配慮だったのだろう。
 しかし、そのせいで詩乃の写真が一枚しか残っていないのは、やはり寂しかった。
「これからは写真をたくさん撮ろう。でもって、このアルバムに貼っていこう」
 アルバムは人生の記録だ。残っていないなら、新たに足せば良い。
 生きている限りはそれが許されるのだから。
「はいっ。そうしましょうっ」
 元気に答えた詩乃を洋介は散歩に誘った。
 以前から考えていた、とある計画を実行するためだった。

 海岸沿いの遊歩道は平日ということもあって閑散としていた。
 手を繋いで向かうのは岬の突端に建つ教会だ。
 右手に海岸、左手には原子力発電所を見下ろす高台に建てられた教会は、白い漆喰の塗り壁に囲まれた質素な造りで、海風を考慮した少し低めの鐘楼には古めかしい青銅製の鐘が吊り下げられ、緑色をしたとんがり屋根の天辺にはステンレスの十字架が夏の日差しに輝いてそそり立っている。
「小さい頃に遊び半分で来て以来だよ。詩乃さんは?」
「私は……昔に一度だけ来たことがあります」
「それって、もしかして……」
「はい……洋介さんのお父様と式を挙げた時です。神社ではなかったんです」
 タキシードを着た父親とウェディングドレスに身を包んだ詩乃の姿を思い浮かべ、父親だけ想像のハサミで切り離す。
「そっか……ウェディングドレスを着た詩乃さん、綺麗だったろうな……見たかったな……」
 惜しくも写真はすでに失われていた。
 しかし、たった今、若かりし頃とほとんど変わらぬ姿を目の前にしているのだから、大した問題ではない。確かにウェディングドレスを着た詩乃は見たかったが……。
 開け放たれた扉から中に入ると、左右に木製の長椅子がずらりと並び、祭壇へと続く中央通路には染みひとつ無い純白の布が敷かれていた。
 天井の高い、がらんとした内部に人影は無く、壁と祭壇に幾本も立てられた燭台の炎だけが、しんと静まり返った荘厳な空気の中でゆらゆらと揺れていた。
「えーと、じゃあ……行こうか」
 握り合った手を離し、そっと肘を突き出して詩乃を誘う。
「……はい」
 意図を悟ったのか、詩乃は何も訊かずに腕を取った。
 無言のまま二人はバージンロードをゆっくりと歩む。
 メンデルスゾーンも演奏されず、祝福する者もなく、婚礼を取り持つ司祭もいない。
 それでも二人は幸せだった。
 ステンドグラスから色とりどりの光が降り注ぐ祭壇の前に立ち、洋介は言った。
「死が二人を別つまで……ずっと一緒だよ、詩乃さん」
 手に捧げ持つのは、なけなしの貯金を下ろして買ったプラチナのエンゲージリング。
 詩乃の左手を取り、何も嵌っていない薬指にリングを通す。
「私はもう若くありませんが、もし洋介さんが先にお亡くなりになったら、白い喪服を着てお葬式に出ますわ」
 白い喪服は二夫にまみえずの意思表示。
 互いに互いを最後の伴侶と心に決め、添い遂げる覚悟で始まりの挨拶をした。
「よろしく……お願いするね」
「こちらこそ……末永く、よろしくお願いします」
 腰に腕をまわして優しく抱き寄せると、詩乃は爪先立ちをして静かに瞼を閉じる。
 ステンドグラスに描かれた聖母マリアと見紛うような穏やかな表情を見つめ、洋介は永遠の誓いを込めて接吻した。

 しっかりと腕を組み、教会を出た二人は澄み切った夏の大気に包まれる。
 折りしも正午を告げる鐘楼の鐘が鳴り始め、その厳かな音色は風に乗って遥か水平線まで響き渡った。
 示し合わせたようなタイミングに、洋介と詩乃は互いを見つめてくすくす笑い出す。
「まるで僕たちを祝福してくれてるみたいだね」
「ありがたいことですわ。本来であれば赦されざる仲ですのに……」
 誰に赦しを乞うまでもない。
 親を殺す子がいれば、子を殺す親もいる、この世の中だ。
 仲睦まじく生きていけるなら、それは素晴らしいことではないか。
 洋介は力いっぱい詩乃を抱き締めて言った。
「何があっても……僕が詩乃さんを守るから……」
 笑顔で詩乃は頷いて、力強く答えてくれる。
「それはこちらの台詞ですわ。もしもの時は私が身代わりになりますから」
 相思相愛、ここに極まれり。
 二人はどちらからともなく唇を重ねた。
 最愛の女性を胸に抱き締め、その温もりを唇に感じながら、洋介は思う。
(父さん、母さん。僕はもう……ひとりじゃないよ)
 物語は終わり、人生が始まる。<了>

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