通い妻 真夏の夜の夢
第四夜 「よ、洋介さん……この水着は本当にお母様もお使いになられていたんですよね?」 海の家の黒ずんだ木戸に半分ほど身を隠して、詩乃は念を押すように訊いてきた。 着替えを終えて水着姿になってはいたものの、デザインの過激さに恐れをなして、おいそれとは出てこられない様子だった。 「本当に母さんも着てたよ。最初は恥ずかしがってたけど、でも、僕以外には見られないってわかったら、じきに慣れたみたい」 海の家の前で腕を組み、洋介はくすくすと笑う。 恥ずかしがる詩乃の姿は、そのまま亡くなる前の母親にそっくりだった。 「詩乃さんは僕にもう裸も見られてるんだよ。それでも恥ずかしいの? ほら、手を貸すから出ておいでよ。早く一緒に泳ごう。今日は最高の海水浴日和だよ」 木戸にすがりついている詩乃に手を差し伸べて促した。 空は抜けるような快晴、まだ午前中というのに真夏の太陽は燦々と降り注ぎ、砂浜をじりじりと焼いている。 遠く見遥かす海は紺碧に染まり、うねる波の白さが目に眩しかった。 「そ、それはまた……別のお話だと思います」 言いながら、けれども詩乃は洋介の手を掴み、おずおずと表に出て来た。 空いている方の手で胸元を隠しながら、もじもじとふとももを擦り合わせる。 「あ、あの……へ、変じゃありませんか? 私……」 上目遣いで訊いてくる恥ずかしそうな表情は、身に着けている水着の自信に満ち溢れた派手さとは正反対で、そのギャップにあてられた洋介はついにんまりとほくそ笑んでしまう。 「まさか、よく似合ってるよ。サイズも大丈夫みたいだし、母さんにだってぜんぜん負けてない」 お世辞ではなかった。このレベルの水着は誰でも着て良い訳ではない。 見る者を圧倒するプロポーションがなければ滑稽に堕してしまうからだ。 母親に着せるために見繕った水着は一応ワンピースではあるのだが、谷間を見せつけるために胸元はVの字を描いて左右に分かれ、先端は真っ白な腹を深くえぐって綺麗な縦長のへその下で結ばれている。 当然、股部は腋に届かんばかりの強烈なハイレグであり、胸元と合わせて上下二つのVラインは陽光に輝くパールホワイトの化学繊維と相まって、詩乃の豊満な肉体をくっきりと印象づけていた。 「お母様も相当頑張りましたわね。まだお若かったとはいえ、心中お察ししますわ」 今は亡き洋介の母親に同情しつつ、詩乃はひとつ溜息を吐く。 確かに、女性が自ら望んで着るような代物ではなく、もし望んで着るとすれば、それは露出狂の癖があると言えるだろう。 実際、スイムウェアとしての実用性を無視したデザインのため、乳首を中心に最低限度しか隠されていない乳房は、その規格外のボリュームも手伝って今にも水着から零れ出しそうになっていた。 「も、もし洋介さん以外の方が一人でも浜にいらしたら、私はすぐに着替えますので、そのおつもりでいてください」 やりすぎ感漂うハイレグのせいで、どうしてもヒップの谷間に食い込んでしまうクロッチを、詩乃は両手の親指で懸命に直しながら釘を刺す。 「わかったよ。でも、大丈夫。この浜で泳ぐ物好きなんて地元でも僕らくらいしかいないから」 夏の盛りというのに海岸には嘘のように人影もなく、古ぼけた海の家が廃屋となって立ち並ぶ他は、無人の浜辺にただ波が打ち寄せるばかり。 不気味なまでの人気の無さにはもちろん理由があった。 「放射能……本当に大丈夫なんでしょうか?」 教会の建つ岬の方角を詩乃は心配そうに見つめる。 視線の先、見えない岬の向こう側では原子力発電所が今日も元気に稼動中だった。 「電力会社の人はそう言ってる。それに補助金を先に貰っておいて、今さら心配しても仕方ないよ」 原発建設の話が持ち上がったのは洋介の生まれる前のことだ。 町を二分する争いの果てに受け入れは決まり、もともと少なかった観光客と引き換えに住民は多額の補助金を手に入れた。 その癖、放射能漏れはやはり怖いらしく、我らが海で泳ぐ者は誰一人としていなくなり、補助金で内陸側に建てられた小さな町には不釣合いな規模の総合レジャー施設に、町民こぞって泳ぎに行くというありさまだった。 「おかげで浜は僕らの貸し切り。詩乃さんの水着姿も僕の貸し切り。さあ、行こう」 洋介は優しく握った詩乃の手を引き、パノラマとなって眼前に広がる大海原へ颯爽と歩き出す。 踏み締める砂はひどく熱く、立ち止まっていると足の裏を火傷しそうだった。 「あっ……熱っ……つい……」 慣れない詩乃は洋介の手を頼りに歩幅を広げる。 すると、一歩踏み出す毎にきゅっきゅっと小気味良い音が聞こえた。 「はははっ、大丈夫、詩乃さん?」 「は、はい……ちょっと熱いですけど、このくらいでしたら。それよりも、ここの砂はまだちゃんと鳴りますのね。私、驚きましたわ」 皮肉にも原発のおかげで人は来なくなり、海も砂浜も綺麗なまま残された。 砂の鳴る音はその証拠だった。 なだらかな浜を下ってようやく波打ち際まで辿り着いたものの、遠浅のために何処まで行ってもなかなか水位は上がらず、二人は穏やかな波を蹴散らしてずんずん沖へと向かう。 幸い海水はまだ冷たさを保っており、飛び散る飛沫が胸にかかって気持ちよかった。 「あ、あの……昨日お話ししました通り、私は泳げませんので、どうぞお手柔らかにお願いします」 腰の辺りまで水位の上がった頃、心配そうに詩乃は言った。 すがるように握られた手からも不安は伝わってくる。 「わかってる。絶対に溺れさせたりしないし、もし溺れても、必ず僕が助けるから安心して」 しっかりと手を握り返して洋介は断言した。 自分の身に何かあっても、詩乃だけは助けるつもりだった。 「は、はい……私、洋介さんを信じて頑張りますわ」 少しだけ強張っていた表情に精一杯の微笑を浮かべ、瞳には洋介への信頼を宿して詩乃は笑った。 やがて胸まで海に浸かると、洋介は詩乃の両手を取り、泳ぎを教え始めた。 「じゃあ、平泳ぎから練習してみようか。プールと違って海では身体が浮くから、そんなに辛くはないと思う。まずは脚を伸ばした状態から両膝を胸に引き寄せて……」 手を引いてゆっくりと後退しながら、学校で教わった通りに指導する。 詩乃は言われた通りに膝を胸まで引き寄せ、海老のように背筋を丸めた。 金太郎の腹掛けにも似た水着は背面にほとんど布地が無く、生白い背中が丸見えになってしまう。 浮き出した背骨の艶かしい凹凸は背中をまっすぐ貫いて、鋭角三角形の股布を張り付けた巨大な肉桃の膨らみへと視線を誘導した。 「踵をお尻にくっつける。その時、つま先は外側を向けること。そこから足の裏で真っ直ぐ後ろに水を蹴飛ばす」 指示通りに水を蹴った詩乃は顔に波がかかるのを嫌って顎を引き起こし、胸を張る。 眉をひそめた苦しげな表情のすぐ下から、水滴に濡れた柔房の谷間が一瞬だけ水面に浮き上がった。 濡れた水着は乳房にぴったりと張り付き、白地に乳頭の影が黒々と透けて見える。 やがて水の抵抗を受けたふくらみは左右に押し広げられてぐにゃりと扁平し、今にも水着が脱げそうになっては、あと一歩というところで再び海中に没してしまった。 (わぉっ……こ、これはちょっと予想してなかったな。今日の僕はツイてるっ) 思いがけぬ役得に洋介は目をらんらんと輝かせる。すると更なる幸運に恵まれた。 「あぁっ……ま、股に……股に水着が……食い込んで……お、お尻の穴にこすれて……い……やぁ……」 尺取虫のように身体を伸縮させたせいで、ほとんど紐のようなか細いクロッチはより一層股間に食い込み、無防備に晒されたアヌスをこすり立てているらしかった。 詩乃はむず痒さにもじもじと尻を振り、洋介の手を離してクロッチの食い込みを直そうとする。 「駄目、駄目、詩乃さん。直したってどうせ食い込むんだから同じじゃないか。練習を続ける方が優先だよ」 手をしっかりと握り直して洋介は意地悪した。 詩乃は泣き出しそうな顔になって抗議してくる。 「こ、この水着で泳ぎの練習をするのはやっぱり無理ですわっ。お、お母様は平気で泳いでいらしたんですか?」 「ううん、さすがに本気では泳がないよ。そういう水着じゃないもの。まあ、せいぜい二人で手を繋いで戯れ合ってたくらいかな?」 しれっと言う洋介に、詩乃はきょとんとした顔になり、 「だ、騙しましたわね……」 下唇をきゅっと噛み締めると、恨みがましい目で睨んできた。 「やだなぁ、泳ぐって言ったのは言葉のあやだよ、言葉のあや。騙したなんて人聞きの悪いこと言わないでよ」 「で、でも……でも、でも……」 納得いかない様子で詩乃は食い下ってくる。 「だったら、泳ぎの練習はこれまでにしよう」 言うなり、洋介はいきなり手を離し、 「わひゃぁっ」 バランスを失って前のめりに沈みかけた詩乃のウエストに左腕を巻きつけると、すくい上げるようにして抱き締めた。 「よ、洋介さ……うんぅっ……」 言いかけた口を唇で塞いで黙らせる。 驚きにびくりと身体を震わせた詩乃だったが、やがて挿入された舌をやんわりと受け入れ、自分からもおずおずと舌を絡めてきた。 フルーツゼリーのような唇の弾力に恍惚としつつ、ぬめる舌先をしならせてゆっくりと睦み合い、唾液を交換するようなディープキスに興じる。 甘露にも似た詩乃の唾液はとろりと口腔に滴り、ねっとりと糸を引いて絡み合う舌のつるつるとした感触に思わず腰が砕けそうになった。 胸元では二つの豊満すぎるふくらみが潰れ、密着した濡れ肌のもちもちした卑猥な肉感に眩暈すら覚える。 堪らず右手で片乳を鷲掴み、母乳を搾り出すように揉みし抱くと、薄布越しに指先は深々と食い込んで、ゼリーのように吸い付いてくる柔房の弾力にうっとりした。 いよいよ調子に乗った洋介はバストからヒップへと手を滑らせる。 尻の谷間に中指と薬指を差し入れ、クロッチ越しに恥丘の真ん中をくすぐるように擦りたてた。 濡れて張り付いた股布を通して秘裂の凹凸さえ指先に感じ取れる。 割れ目に沿って幾度も往復を繰り返す内にクロッチがぬるぬるし始めた。 「んっ……んはぁっ……こ、ここでは……遊歩道から見られてしまいますわ」 舌を引き抜き、洋介の手に掌を重ねて詩乃は恥らう。 しかし、頬を染め、目も伏せてはいたが、拒絶するような素振りは見えなかった。 海水に冷たくなった肌の表面から、薄い化学繊維越しにじわじわと温もりが伝わってくる。 唇にかかる熱い吐息に胸は高鳴り、濃密な接吻の痺れるような快感と初めて経験する水着越しのボディタッチに、いつしか競泳パンツの股間では牡肉ががちがちに勃起して詩乃の腹に密着していた。 気まずい沈黙の中、寄せては返す波の音だけが二人を優しく包み込む。 「け、けっこう身体冷えちゃったね。上がって……少し休もうか」 渾身の演技で自然体を装い、誘いをかけると、 「そ、そうですわね……私、疲れてしまいましたわ。少し……お休みしましょうか」 下心はしっかり見透かしながら、それでも詩乃は応じてくれた。 二人は決して視線を合わせることなく、しっかりと手を繋いで砂浜へと歩き出す。 その瞬間、いきなり大きな波を食らって二人は横倒しになった。 不意を突かれて手を離してしまい、洋介はひとり海中でぐるぐると波に翻弄される。 うっかり水を吸い込んで鼻の奥がつんと痛んだ。 方向感覚の狂う中、降り注ぐ太陽光を目印に海面を見極め、水を蹴って浮上する。 「詩乃さんっ……詩乃さんっ」 周囲をぐるりと見回して必死に詩乃の姿を探した。 まったく泳げない詩乃はあっさり溺死する可能性もあり、事は一刻を争う。 すると退き波にさらわれたのか、二十メートルほど沖合いで白い腕が二本、海中から伸びてじたばたと暴れていた。 反射的に洋介は泳ぎ出し、全速力で救助に向かう。 波を掻き分け、渾身の力で蹴散らし、最短距離で詩乃の元へと辿り着いた。 「詩乃さんっ」 しかし、到着寸前に腕は海中に没してしまい、洋介は潜水して姿を探す。 詩乃は鼻と口から乏しい気泡を吐き出しながら、解けた長い髪を海草のように揺らめかせて沈んでいく。 その様子は詩乃が見えざる手によって、一面の青に支配されたもうひとつの世界へと引きずり込まれていくようだった。 そして、洋介は思い出した。病院のベッドの上で両親が亡くなったことを知らされた瞬間の事を。霊安室で見た母親の青白い死に顔を。 (か、母さんっ……) 脳裏によぎる絶望を奥歯で噛み殺し、くびれた腰に腕を巻きつけて急浮上する。 海面に出た時、すでに詩乃の意識は失われ、呼吸も止まっていた。 「うおおおぉっ!」 鬼の形相になった洋介は詩乃を抱えたまま、手足の筋肉が引き千切れんばかりの力泳で砂浜を目指す。 焼けた砂に詩乃を寝かせ、保健体育の授業を思い出しつつ、人口呼吸を施した。 首を持ち上げて気道を確保した後、高い鼻を摘んで思い切り息を吹き込むと、膨らんだ肺によって詩乃の胸は持ち上がり、人口呼吸の効果が目に見えてわかる。 波に剥ぎ取られて水着は脱げかかり、左の乳房が露になっていた。 息を吹き込んだ後は心臓マッサージの番だ。 乳房の谷間に重ねた両手を添え、体重を掛けて何度も押し込む。 そして、再び人工呼吸。 「嘘でしょ、詩乃さんっ。こんな簡単に詩乃さんまで……」 浜にも遊歩道にも人影は無く、他人に助けを求められる状況ではない。 自分がなんとかしなければ、本当に詩乃は死んでしまう。 そう思った洋介は溢れ出す涙で顔をくしゃくしゃにしながら、ひたすら動作を繰り返すしかなかった。 吹きすさぶ海風の中、過ぎ行く一秒が無限にも感じられる。 「う……っヴぉへっ……げほっ……げほっ、げほっ……」 やがて苦しげに海水を吹き上げて、ついに詩乃は息を吹き返した。 吐いた水を再び飲まないよう、急いで身体を横に傾けさせる。 「詩乃さん……大丈夫?」 しばらくしてようやく呼吸が整うと詩乃は呟いた。 「わ、私……溺れてしまいましたのね。ごめんなさい」 「どうして詩乃さんが謝るの? 泳げないの知ってて、僕が詩乃さんを海に連れ出したせいなのに。ごめんね、僕のせいで……」 安堵と後悔に頭は混乱し、続く言葉が見つからなかった。 「おっしゃった通り、洋介さんはちゃんと助けてくださいましたわ。それに私、久しぶりに海に入れて、とても楽しかったんですよ」 詩乃は青ざめた顔でにっこり微笑み、泣きじゃくる洋介の頬をそっと撫でて慰めてくれた。 詩乃が着替えをした海の家に戻り、裸電球のスイッチをひねる。 幸い電気はまだ通じているようで、オレンジ色をしたフィラメントの光が古ぼけた屋内を照らし出す。 さらに海側の木戸をすべて外して取り払うと、差し込む陽光に海の家は一気に明るくなった。 同時に新鮮な海風がどっと流れ込んで、澱んだ空気を一息に吹き払ってくれる。 「勝手に使ってしまって大丈夫なんでしょうか?」 心配そうに訊きながら、詩乃は座敷のちゃぶ台に水筒の蓋と付属の簡易カップを並べて置き、冷えた麦茶をたっぷりと注いだ。 建ち並ぶ海の家の中から、最も風化の少ない一軒を選んで使うことにしたのだが、実を言うとここを使うのは今日が初めてではない。 「この海の家は母さんが生きてた頃には毎年使ってたんだけど、誰からも何も言われたことないよ」 誰も寄り付かない原発の海に建つ、無用の廃屋と化した海の家を束の間拝借したとして、文句を言う人間などいる筈もなかった。 「またこうして、誰かと一緒にここから海を見られるとは思わなかったよ。去年、一昨年はまだ海で泳ぐ気分にはなれなかったし、今年も詩乃さんとこういう関係になっていなかったら、来てないと思うし……」 洋介も座敷に上がり、ちゃぶ台の脇にあぐらをかいて座ると、より大きい水筒の蓋から冷たい麦茶を一気飲みして太い息を吐く。 それから遠い水平線を見つめ、母親と最後に泳いだ夏の日を思い出す。 両親が亡くなったのはそれから数日後のことだった。 「よろしかったら、また来年も誘ってください。一年かけて泳ぎを練習して、次こそは洋介さんと泳いでみせますわ」 危うく死にかけたというのに、詩乃は無邪気に笑ってくれる。 敢えて母親については触れず、小さなカップを両手で持って、ひとくちこくりと麦茶を飲んだ。 言葉の裏に感じられるいくつもの配慮に、洋介は胸を詰まらせる。 「でも、来年は水着を新調することにしますわ。この水着はやっぱり私には派手すぎますもの。次はもう少しだけ大人しめなのを今度は私のために見繕ってくださいね」 ことさら元気に笑って見せる詩乃の瞳は言葉の続きを語っているようだった。 (これからはお母様の代わりに私がおそばにおりますから……) 洋介はちゃぶ台に蓋を置くと、畳の上をにじり寄って詩乃を押し倒した。 「きゃっ」 持っていたカップをひっくり返し、詩乃はまだほとんど飲んでいなかった麦茶を思い切り全身に浴びてしまう。 構わず詩乃の胸に顔を埋め、洋介は精一杯の感謝を込めて囁いた。 「うん……そうしよう。来年からは一着ずつ、毎年僕が詩乃さんのために見繕うから、それを着て、夏は必ずここに来よう。二人で遊んで、いっぱい思い出を作ろう」 人間はいつ死んでしまうかわからないから。 ならばそれまでに、確かに生きていたという記憶をひとつひとつ大切に積み重ねるしかないではないか。 非常識なまでに露出度の高い水着のお陰で、完全に剥き出しになっている乳房の谷間に接吻しながら、洋介は自分にそう言い聞かせた。 麦茶を浴びて水着は濡れ、勃起した乳首が透けて見えていた。 水着越しに左右の柔房を両手でしっかり鷲掴み、脳裏に感触を刻み込むようにゆっくりと揉み解す。 「はっ……んあぁんっ……よ、洋介さん……い、いけませんわ。戸を開けたままでは……もし誰がやってきたら……た、大変なことに……はぁんっ」 崩れかかった海の家の天井に、羞恥に戸惑う牝の鳴き声が響き渡る。 乳房をひと揉みするたびに、詩乃はぴくりぴくりと身体を震わせて敏感に反応した。 海では真っ白だった肌も今は薄桃色に染まり、さらなる愛撫を待ち望むかのように鳥肌を立てている。 正面の木戸を全て外してしまったので、海の家は砂浜、そして海へ向けて完全に開放されていた。 二人の姿は表から丸見えの筈で、詩乃の感覚は正しい。 けれど、今いるこの場所は特別な海だった。 「誰も来やしないよ。僕らを見てるのは海と空と太陽だけ。こんな贅沢なロケーション、そうはないと思うよ。まるで何処かの無人島にでも流されたみたいだ。そんな映画、深夜放送で見た気がするんだけど……なかったっけ?」 上流階級の人妻と使用人がボートで遭難し、無人島に流れ着くが、文明から完全に切り離された環境の中で主従関係は逆転し……という粗筋だった気がする。 「な、流されて……でしょうか?」 息も絶え絶えになっているのに、詩乃は律儀に答えてくれた。 そうこうする間に、擦り切れた粗末な畳の上でくねくねと身をよじったせいで、水着から片方の乳房が零れ出してしまう。 「い、いやっ……む、胸が……」 特大の鏡餅にも似た乳白色の柔肉は水着の束縛から開放されてぷるんと震え、けれども決して形は崩れず、硬くしこった濃紅色の乳頭をぴんと屹立させて、たおやかな稜線を誇らしげに見せつけていた。 「多分、それだね。今は詩乃さんが主で僕は使用人。でも、僕はあのおっさんみたいに主人を裏切ったりしないよ。だから、精一杯、ご奉仕させていただきますね、奥様」 水着の乱れを直す暇も与えず、洋介は露になった乳頭にしゃぶりついて強く吸った。 乳首はほんのり潮の味がして、鼻の奥がつんとなる。 もしかしたら甘いミルクを飲めるのではないかと、つい懸命に吸ってしまう。 もちろん母乳は出る筈もなく、少しだけがっかり。 代わりに舌先で何度も弾いて野いちごのような弾力を楽しみながら、未だ無事な方のニップルを水着越しに摘んでこりこりと転がした。 「はぅんっ、そ、そんなに胸ばかりいじめないでくださいっ。どんなに強く吸っても、お乳は出ませんわっ。あぁっ……」 肉のしこりを吸引するたびに、詩乃はびくっびくっと胸を突き上げ、唇を噛み締めて快感に耐える。 照りつける陽光と暖かい海風に撫でられ、じっとり汗ばんだ肌から化粧水のまろやかな匂いと甘酸っぱい体臭が立ち上っていた。 「ふふふっ、詩乃さんの母乳、飲んでみたいな。これだけ大きいと吸えば出てくるような気がするから不思議だよね」 洋介は冗談のつもりで言ったのに、当の詩乃は微妙な表情をする。 「そ、それは……無理というものですわ」 「そうかなぁ……いつも思うんだよね。子供が出来ると母乳が出るようになるわけだから、その間にエッチしたら、結果的に旦那さんは母乳を飲むことになるんじゃない?」 不躾な質問ではあったが、是非、出産経験のある女性にしてみたい質問だった。 「……考えてもみませんでしたわ。でも、言われてみればそうかもしれません。面と向かって感想を聞いたことはありませんが……って、よ、洋介さんったら……恥ずかしいことを訊かないでください」 詩乃は真っ赤になって顔を背けてしまう。 洋介もまた、さすがに遠慮が無さ過ぎたと反省する。 「ごめん、ごめん。親しき仲にも……だよね。それに今は、僕と詩乃さんの大切な時間だものね……」 洋介は素直に非礼を詫び、そっと頬に手を添えて詩乃を振り向かせると、仲直りのつもりで唇を重ねた。 「んっ……」 詩乃は逃げずに受け止めてくれた。 ほんの少しだけ麦茶の味のする舌を優しく吸い、股布の上からもうひとつの唇をひっそりまさぐる。 零れた麦茶でびしょ濡れになったクロッチは股間に張り付き、恥丘の膨らみや淫裂の凹凸まで指先に感じ取れた。 「はぁっ……むむっ……んぁ……ん」 瞼を閉じたままゆったりと舌を絡め、蠢く指に合わせて詩乃は腰をくねらせる。 指先に僅かなぬめりを感じ始めて、洋介はつい意地悪したくなってしまう。 「あれれ? なんか奥から染みてくる。だんだんぬるぬるしてきたよ。どうしたんだろう。まさかお淑やかな詩乃さんに限って、こんな場所で堂々と感じちゃったとか……そんなこと無いよね?」 「い、言わないでくださいっ。こんなに優しくキスされて、あちこち身体をいじられたら……ぬ、濡れてしまうのが当然ですわ」 「詩乃さんってば、濡れてしまう、だなんて大胆だよね。なんか僕、すごい興奮してきちゃったよ。中途半端に脱げかかった水着もめちゃくちゃエッチだし……」 詩乃の口から漏れた猥語に加え、もともと猥褻な水着から片方のバストだけ食み出しているシチュエーションに激しく欲情した。 洋介は辛抱たまらずに身体をずりさげ、ふとももの合間に強引に割り込む。 そして、詩乃の股間を覆っているブーメラン状をした僅かな股布の角の部分、こんもり膨らんだ恥丘の突端にがぶりとかじりついた。 丸みを帯びた肉丘の弾力は、そのまま卑猥な歯応えとなって戻ってくる。 かぷかぷと甘噛みする毎にじゅっじゅっと液音がして、化学繊維の奥から海水と麦茶の混じった、しょっぱくて大麦の匂いのする汁が滲み出しては喉に滴り落ちた。 「あっ……あひいぃっ……は、歯を立てないでくださいぃ……」 あられもない悲鳴は海風に抗して真夏の空へと舞い上がる。 詩乃は跳ね上げた腰をさらにくねらせて逃れようとするが、洋介は骨盤をがっちりと掴んで押さえつけた。 「ふふふっ、詩乃さんのここ、噛めば噛むほど味が出てくるよ。歯応えも心地いい」 「わ、私のお股はするめじゃありませんっ。い、今の洋介さんは中年のいやらしい男の人みたいになっていますわっ……まだ、お若いのに……そ、そんなことでは……」 「女の子に嫌われる? 別にいいよ。詩乃さんさえいれば」 洋介は詩乃の常套句を先回りして開き直り、クロッチを脇にずらして濡唇を剥き出しにする。 真っ白な布地の向こうから覗けた紅い傷口は、淡い海草みたいな恥毛に縁取られ、薔薇の花のように幾重にも重なった薄肉に守られて、花芯から透明な蜜液をひと筋とろりと滴らせた。 「あぁ……詩乃さんのここ……何度見ても綺麗だ。こうして見てるとたまらない気持ちになってくるよ」 限界まで伸ばした舌の先で、零れ落ちる滴りをすくい取って呑み下す。 海水が胎内に残っていたのだろう、粘り気を帯びた淫蜜は強い潮の味に、詩乃自身の分泌液からなる酸味の混じった複雑な味がした。 呼吸に応じて息づく裂孔は膣道の奥から濃厚な磯の香りにほんのり柑橘系の匂いを混ぜ込んだ、思わず咽せ返るような熱気を搾り出す。 それをもろに鼻から吸い込んだ洋介は、あまりの恥臭ぶりに錐を眉間に突き立てられたみたいにひょっとこ顔になってしまう。 「ふ、ふわぁあ……きょ、強烈うぅ……」 視覚に味覚に嗅覚に触覚、あらゆる感覚を同時に刺激されて、頭が変になりそうだった。 指一本触れるまでもなく、ペニスは鋼鉄のように硬くなり、窮屈な競泳パンツの中で屹立して、折れんばかりに勃起している。 すでに洋介の興奮は忍耐の限界を超えていた。 「し、詩乃さん……僕、もう我慢できないよ」 言うなり、詩乃の上に圧し掛かり、競泳パンツの紐をもどかしく解く。 ばつんと音がして赤黒い肉角が飛び出し、詩乃の股の上で雄々しく反り返った。 洋介は太い茎を掴んで亀頭の角度を抑え、ずらしたクロッチの中へと強引に捻じ込む。 「い、いけませんっ。そ、それだけは……」 挿入されると慌てた詩乃は、血相を変えて止めようとする。 「わかってる。膣内に挿入れたりはしないよ。詩乃さんのアソコで擦らせてもらうだけ。それなら良いでしょ?」 恥丘とクロッチの隙間に根元まで突っ込み、反り肉の背を濡れた割れ目に密着させる形で股間を貫いた。 それから両ふとももを跨いで脚を閉じさせると、詩乃は股間にペニスを挟んだ状態となる。 膝の内側でふとももを締め付ければ、恥丘と左右のふとももの三方から一物に圧迫を受け、生々しい肉の感触にうっとりした。 「お、お股の間に洋介さんが挟まって……こ、擦れてますぅ……」 「良いよね? これなら……これなら良いよね?」 腰を上下に忙しなく揺すりながら、膣穴に見立てた窮屈な股の隙間をずんずん突きまくる。 亀頭はアヌスからクリトリスまで幾度も往復し、拡がった傘の縁がクレヴァスに引っかかってめくれるたびに腰の中心を電撃にも似た性感に刺し貫かれて、洋介は悦びに背筋を戦慄かせる。 後頭部はずきずきと痛み、目の奥で立て続けに火花が弾けた。 「き、気持ちよすぎて……腰が……腰が止まらないようっ」 全身にびっしょりと汗をかき、暑さに意識は朦朧とする。 それでも、猿のようにがくがくと突き動かす腰をどうにも止められない。 快感に滲んだ先走りの牡汁と詩乃の胎内より漏れ出す淫蜜、そこへ互いの汗がたっぷりと混ざり合って、二人の股間はぐちゅぐちゅと聴くに堪えない音を発てた。 「あっ、あっ、あっ……す、すごいですわっ……い、挿入れてもいないのに……こんなに気持ちよくなれるなんてっ……。はっ、はひぃっ……こ、こんな悪いこと、いったい何処で覚えていらしたのですか!?」 完全なアドリブだった。実践はそのまま最高の訓練となり、洋介は快感に蕩けた脳みそをフル回転して、二人ともにもっと気持ち良くなれる方法を考案したのだ。 「あっ、あうぅっ……ぼ、僕も最高に気持ちいいよ。詩乃さんと僕のがぬるぬる擦れて、ふとももに締め付けられて、本当に膣内に挿入れてるみたいだっ」 膝で詩乃のふとももを思い切り挟み込み、破裂せんばかりの圧迫とぬめりを肉棒に感じながら無我夢中で腰をしならせる。 股間からぐしゅぐしゅと圧搾音が聞こえ、濡れた恥毛同士は絡み合い、結合部に白濁した泡が溜まってクロッチに染みを拡げていく。 「そ、それっ、すごいですわっ。角度がちょうど良くって……く、クリに……クリトリスに洋介さんの根っこが擦れて……あっ、あへえぇ……」 今度は下腹を隙間無く密着させ、股間を擦り合わせるように前後に腰を揺すった。 押し拡げられた淫裂の上端より芽吹く、肉のとがりを牡角の根元が直接擦り立てる。 詩乃の瞳は悦楽にとろんと焦点を失い、だらしなく開閉する唇の端から涎が一筋垂れ流される。 洋介は右の乳房から残りの水着を剥ぎ取り、むしゃぶりついた。 ぷっくりと膨らんだ乳頭を舌先で弾き、最も敏感な先端部に歯を立て、かりっと音がするくらい強く噛み締めた。 「ひっ、ひぎいぃっ……い、痛いですわっ……そんなに強く、強く乳首を噛まないでくださいましっ……」 思いがけない痛みに身をよじり、詩乃は白い歯を食い縛ってぶるぶると震える。 全身の毛穴から甘酸っぱい汗を迸らせ、股間では粘つく飛沫を飛び散らせた。 一度、強く噛んでおいてから、続けて優しく舐めしゃぶる。 図らずも洋介のした愛撫は痛みを使って性感を高める効果を発揮し、詩乃は体中の皮膚に鳥肌を立てて、痛みの後からやってきた甘美な悦びにひくひくと身を痙攣させた。 「はぁっ……ああぁん。と、蕩けそう……洋介さんったら、どんどんお上手になってますっ。ずっと年上ですのに、こんな目に遭わされたら私……ま、負けてしまいそうですわ」 「そ、そう言ってもらえると嬉しいよ。僕、詩乃さんの身体でいろいろと試させてもらって、育ててもらってるんだよね。いっぱい気持ち良くして……お、恩返しするから……た、楽しみにしててね。ううぅっ」 洋介の下半身にもぶるぶると痙攣が走った。 充血しきった亀頭は詩乃の股に擦られてぱんぱんに膨張し、今にも青臭い精液を噴き出しそうになっている。 じくじくと溜まっていく射精感に腰の中心は痺れ、意思とは無関係に込み上げてくる脈動を、そう長くは堪えていられないと悟る。 「詩乃さんっ……もう、そろそろ……僕、射精そう。いい? 射精してもいい?」 「あんっ、あんっ、あんっ……い、いらしてくださいっ。わ、私のお股で白い子種を存分に……あぁっ……私も……わたしも、もうっ……はうぅん……い、イってしまいそうですぅっ」 可愛らしい喘ぎ声に誘われて、洋介はラストスパートとばかりにリズミカルに腰を唸らせた。 詩乃の両肩を掴んで遠慮なしにがんがん腰を突きまくっていると、ときおり角度を誤って亀頭は薄開きになった割れ目に突き当たる。 危うく胎内に潜り込みそうになっては蜜液の潤滑に救われ、股間をぬるりと擦り抜けた。 互いの性器が溶け合うような密着感に恍惚となりながら、粘りついてくる肉の門を繰り返し貫く。 「はぁっ、はぁっ、はぁっ……も、もう本当に駄目だっ……射精ちゃうっ。僕、射精ちゃうよう……」 歯を食い縛って肛門括約筋を引き絞り、射精をコントロールしようとするが、もはや決壊は時間の問題だった。 鈴口から白濁したカウパーをだらだらと垂れ流し、ひと突きするたびに脳天に衝撃が走ってアヌスはじわじわと弛んでいく。 「ま、待ってくださいっ……少しだけ……もう少しだけ頑張ってください、洋介さん。あっ、あっ……き、来ましたわ。す、すごいのが……挿入れてもいないのに……こんなに大きなオルガを味わえるなんて……な、なんてことかしらっ」 オルガスムスの脈動に詩乃の身体はびくんびくんと痙攣を始めた。 拳をぎゅっと握り締め、両脚をぴんと突っ張らせて足の指をきつく丸める。 呼吸はいっそう短く忙しなくなり、詩乃はひくひくと鼻の穴を広げながら、寄り目になって半ば白目を剥いてしまう。 美しい顔が快楽の波動に責め苛まれ、醜く歪んでいく様はこんなにも卑猥なものか。 「す、すごいや。詩乃さんのイキ顔、なんてエッチなんだっ」 洋介は興奮に我を忘れて叫んだ。 「み、見ないでくださいっ。こ、こんな顔……見ないでぇっ……」 「だ、駄目だよ、もっとよく見せて」 顔を隠そうとする詩乃の腕を押さえ込み、鼻先の触れ合う距離で凝視する。 必死に抵抗する詩乃ではあったが、いよいよオルガスムスに脳を犯され、ぱくぱくと酸欠状態の金魚みたいに唇を開閉しながら完全に白目を剥いて、ついには舌をだらりと吐き出してしまう。 「ひ、ひくっ……ひぐぅ……」 喉の奥から断末魔の呻きを絞り出し、洋介を乗せたまま高々と腰を突き上げて、背筋で綺麗なブリッジを描いた。 詩乃の細い身体は火事場の馬鹿力めいたオルガスムスのパワーで、軽くはない洋介を軽々と持ち上げ、その頂点でぎくりぎくりと大きく揺らめいたかと思うと、次の瞬間、最後の咆哮をあげた。 「くっ……はあぁあぁっ……い、いくっ……いくっ、いくっ……ひっぐうぅっ……」 ぎりぎりと歯を食い縛り、全身の筋肉を千切れんばかりに緊張させる。 ふともも同士は引き攣ったようにぎちぎちと閉じられ、挟まれたままのペニスを危うくへし折られそうになった。 「し、詩乃さんっ、折れちゃうっ……僕のおちんちん折れちゃうよぅっ」 悲鳴も耳には届かず、詩乃は胎内で爆発するオルガスムスのビックバンに翻弄され、恍惚の境地を彷徨い続ける。 洋介はブリッジした詩乃の股間にペニス一本で繋がったまま、天井めがけて幾度も打ち上げられ、天然のオナホールでシコられたようにあっさり射精させられてしまった。 「はっ、はへえぇっ……ぬ、抜かれるっ……詩乃さんの股に精子ぜんぶ抜き取られちゃうぅっ」 叫びながら、洋介は亀頭の先からびゅくんっびゅくんっと勢い良く白濁液を迸らせる。 まるで睾丸の中身まで一緒に吐き出すような激しい射精だった。 鈴口から吐射するたび、頭の中で強烈なフラッシュが焚かれ、身も心も蕩けるような快感に背筋は凍りつく。 濃厚なスペルマは引き締まったヒップの谷間をしとどに濡らし、水着のクロッチに向けて盛大にぶちまけられた。 「あぅ……あぅ……うぅん……」 やがて力尽きた詩乃が先に崩れ落ちた。 たっぷりと生命のミルクを注がれ、ぬるぬるになったクロッチに尻を落ち着けて、四肢をぐったりと投げ出したまま動かなくなってしまう。 そんな詩乃の肉体に圧し掛かって乳房の谷間に顔を埋め、凄まじいばかりの射精の余韻に、洋介もまた身じろぎひとつできなかった。 すっかり精を抜き取られたペニスは弛んだふとももの隙間でいつまでも未練がましく脈動を繰り返しながら、ゆっくりと萎えていく。 「詩乃……さん」 呼びかけても返事はなく、ときおり身体にひくっひくっと小刻みな痙攣が走るばかり。 でろりと垂れ下がったままになっていた詩乃の舌を丁寧にしゃぶってから口腔に押し戻す。 そのまま舌を挿入して、完全に失神してしまい、肉人形と化している詩乃と長い長い接吻を交わした。 「はむっ……むちゅ……」 水分が揮発して少しだけ酸っぱくなった唾液を味わい、糸引かせて舌を引き抜くと、詩乃は意識を取り戻し、静かに瞳を開いた。 「私……気を失っていましたのね……」 未だオルガスムスの余韻冷めやらぬといった様子で見つめてくる。 すっかり体重を預けていた為、洋介は詩乃の上から降りようとしたが無駄だった。 「ご、ごめん……こ、腰が抜けて……重いし、暑いでしょう?」 「平気ですわ。洋介さんの重みと体温が心地良くて……私、いまとても幸せですの」 清涼な海風が戸口からさらさらと吹き込んで、抱き合う二人の火照った肌を優しく撫でていく。 射精後の開放感に包まれながら、肌に感じる詩乃の温もりに、洋介もこの上ない幸福感を噛み締める。 「もう少しだけ……こうしていたいな」 囁くと、詩乃は無言のまま穏やかな微笑を浮かべてこくりと頷いた。 豊満な乳房に再び顔を埋め、とくんとくんと脈打つ心臓の鼓動に耳を澄まして瞼を閉じる。 遠く聴こえる波音と詩乃の鼓動が重なって眠気を誘った。 太陽はすでに天頂を過ぎ、西の空へ傾き始めている。 二度と帰らないきらめく時間の中で、二人は互いを守るようにしっかりと抱き合い、心地良い午後のまどろみの底へと緩やかに沈んでいくのだった。 翌朝、目覚めたのは昼過ぎだった。 久しぶりに海で泳いだ疲れと遅れを取り戻すために深夜まで勉強したのが祟ったらしい。恐らく自分でやったのだろう、目覚まし時計は電池を抜かれて畳の上に転がっていた。 しかし、ここまでは良くあること。問題は寝坊でも、二度寝でもなかった。 「詩乃さん……どうしたんだろう?」 眠気眼をこすりながら、洋介は呟く。 もし来ているのなら、起こしてくれる筈だ。 家の中はしんと静まり返り、階下からは物音ひとつ聴こえなかった。 「もしかして……昨日、僕が無理をさせたせい?」 若い洋介ですら疲れているのだから、もう若くはない詩乃が体調を崩したとしてもおかしくはない。まして一度は溺れて呼吸まで止まっているのだ。 一階に降りるとまずは雨戸を全て開け放ち、屋内に夏の光と新鮮な空気を招き入れる。 真昼間というのに、自分ひとりしかいない家の中はひどくがらんとした印象で、両親が亡くなった直後を思い出す。 (そういえば、詩乃さんが来るまではこんなだったっけ……) それから詩乃の家に電話をしようとしてふと気がついた。 「僕、詩乃さんちの電話番号……知らないや」 年一回、夏祭りの日の他は、この三年間、一日だって休まずに通ってきていた。 もちろん毎週休みを取るように薦めていたのだが、詩乃は聞き入れなかった。 「ずいぶんと無理をさせてきたんだな」 初めは気を使っていたものの、朝目覚めた時にそこにいるのがいつしか当たり前になってしまい、すっかり甘え切っていた。 電話番号すら尋ねなかった自分に、そして、詩乃について何一つ知らないままここまできてしまった事実に洋介は愕然とする。 「叔父さんなら、詩乃さんの番号を知ってる筈だ」 急いで黒電話のダイヤルを回すと予想は当たり、詩乃の番号を聞くことができた。 でも、聞き出したのはそれだけではなかった。 (今まではずっと詩乃さんが通ってきてくれてたんだから、今度は僕の番だ) けれども、洋介の問いに対して、電話越しに叔父の語った詩乃の住所は意外なものだった。 自宅から歩いて数分の所に建つ、一軒の古めかしいアパートを前に、洋介は呆然と立ち尽くす。 「住所……間違ってないよね」 メモ帳を何度見ても間違いではなかった。 勝手な想像ではあったが、詩乃は夫や子供と幸せに暮らしているものとばかり思っていた。 しかし、目の前の今にも解体されそうなアパートを見れば、そうではないとすぐに察しがつく。 洋介は錆びた鉄製の階段を恐る恐る上り、足音を殺して細い廊下を歩いた。 二階には部屋が四つあったが、手前の三つには表札も無く、人が住んでいるのかどうかも外からは伺えない。 詩乃の部屋は廊下の突き当たりにあった。 覗き穴さえついていないドアの表札には、確かに「野上」と書かれたプレートが入っている。 それでも洋介は信じられなかった。 あの詩乃がこのような部屋に一人で住み、毎日自分の家に通ってきては朝から晩まで甲斐甲斐しく世話を焼いてくれていたのかと思うと、やりきれない気持ちになる。 「ど、どうしよう?」 詩乃の人生に立ち入って良いものか、すぐには判断できず、しばらくドアの前をうろうろした。 一度は帰ろうとも思ったが、今後、何も知らない振りをして詩乃と暮らし続けていくのは辛すぎるし、何より詩乃を助けたかった。 洋介は震える指先で、まだ機能しているのか怪しい呼び鈴のボタンを押した。 「……」 鳴ったのか、鳴らなかったのか、とにかく音は聞こえず、やはり壊れているのかと心配になった頃、ドアの向こうから声がした。 「どなた……ですか?」 それは確かに詩乃の声で、けれども一度だって聞いた試しの無い、危険を警戒するような声だった。 「ぼ、僕……洋介です」 緊張のあまり、つい敬語になってしまう。 同時にドアの向こうで詩乃が思い切り息を呑むのがわかった。 「ご、ごめんなさい。今朝、起きましたら、体調がよくありませんでしたので……一応、お電話はしたんですが……」 「僕の方こそごめん。いつも通り寝坊してた。目覚まし時計も電池まで抜いちゃってて、電話にはぜんぜん気づかなかったんだ。それより身体は大丈夫? やっぱり病気……なんだよね」 詩乃が休むというのだから、よほど調子が悪いのだろう。 「いいえ、病気というほどのことでは。ただ、昨日の疲れが出たのかもしれません。明日からはまた通わせていただきますので、今日のところは……」 詩乃はドアを開けようとせず、やんわり洋介を帰そうとする。 「そっか、わかったよ。でも、取り合えず、これだけ受け取ってくれないかな? バナナ買ってきたんだ、いつもの八百屋で。お見舞いなんてするの初めてだから、何を買ってくれば良いのかわからなくて。もちろん、駄目なら持って帰るけど」 それでも消化に良いものを、というくらいの配慮はしたつもりだった。 「……」 何を躊躇っているのか、詩乃はしばし黙り込み、それから鍵を外す音が聞こえて、静かにドアは開かれた。 「わざわざ、ありがとうございます。お手間をおかけしてごめんなさい」 全身にあくびをしているコミカルな猫のプリントがあしらわれたパジャマを着て、詩乃は深々と頭を下げた。 寝乱れた髪が勢いでほぐれ、肩にかかったしどけない姿にどきりとする。 慌てて結い直す仕草は微笑ましく、洋介はにまにましながら返事をした。 「い、いや……いきなり来ちゃってごめん。朝、起きたら、詩乃さんいないからびっくりしてさ、電話番号も知らなかったから、叔父さんに住所聞いて来ちゃったよ。こんな近くに住んでるとは思わなかったけれど……と、とにかくお大事に」 洋介は贈呈用に紙包みのされたバナナを手渡す。 「あらあら、これはどうもご丁寧に……」 二人の手がバナナで結ばれた途端、ぐうっという情けない音が何処からともなく聞こえてきた。 「……」 詩乃がいなかったので、洋介は朝食も昼食も食べていなかった。 「そうでしたわね。今日はお休みしてしまいましたから、お腹を空かせているのですね。すぐに何かお作りしますわ。どうぞ、部屋にお上がりください」 「いやいやいや、それじゃ僕、お見舞いじゃなくて、ご飯作らせに来たみたいじゃない。自分でどうにかするから、詩乃さんは寝ててよ。ええと、お邪魔します」 遠慮しつつも靴を脱いで部屋に上がった。 バナナも渡した訳だし、帰るべきかとも思ったが、ここまできたら成り行きに任せて詩乃のことをもっと知りたいと思った。 玄関を入ってすぐ右は狭いキッチンで、その奥がユニットバスのようだ。 詩乃は冷蔵庫を開けてバナナを仕舞うと、洋介に振舞う食材を物色していた。 取り合えずは寝かさなければならない。 「病人は寝てなきゃ駄目だよ」 背後から抱き締めて、首筋にキスをした。 「きゃっ……や、やめてください。起きたばかりで私、寝臭い筈ですから」 確かに白いうなじからは化粧水とは異なる、鼻腔にねっとりと絡みつくような汗と皮脂の混じった甘ったるい体臭がぷんと立ち上っていた。 しかし、それはそれで生々しい生活の匂いとして欲情をそそる。 「だったら、布団へ行かなきゃ。じゃないともっとエッチなことするよ……もうしてるけど」 パジャマの上から思い切り片乳を揉みし抱き、耳元で囁く。 詩乃はブラジャーをつけていなかったので指先はふにゃりと柔房に食い込み、わきわきと指を蠢かすたびに心地良い弾力がぽよぽよと返ってきて嬉しくなった。 「そ、そんな……今のような、だらしのない姿の私を相手にも興奮なさるんですか?」 「申し訳ないけど、弱ってる詩乃さん、すごく色っぽいもの。あと、そのパジャマ、意外な取り合わせが可愛いくて、見てて嬉しくなってくるよ」 和風美人を絵に描いたような詩乃が、少女の好むような猫パジャマを着ているのは、やや反則気味の可愛らしさだった。 「は、恥ずかしいですわ。こんな若い人の着るパジャマを見られてしまって……」 自分の格好を思い出して、詩乃は胸を揉む洋介の手をやんわり取り除けると、逃げるように居間の布団に潜り込んだ。 「あははっ……本当に可愛いんだけどな」 洋介は冷蔵の中を物色したが、簡単に食べられそうな物はなかったので、結局、自分の持ってきたバナナを二本もいで手早く腹に収め、いそいそと居間へ移った。 六畳ワンルームの室内には簡素な衣装箪笥と壁に立てかけられた折りたたみ式のちゃぶ台の他に物も無く、テレビすら見当たらない。 換気の為に窓は僅かに開かれ、軒に吊られた青い風鈴とその凛とした音色だけが、恐ろしく殺風景な部屋に申し訳程度の彩を加えていた。 「寂しい部屋でしょう? あまりご覧にならないでくださいね」 掛け布団を鼻の上まで被って、詩乃は恥ずかしそうに呟く。 「てっきり家族がいるんだと思ってたよ」 布団の脇に胡坐をかいて座り、洋介は何気ない口調で切り出した。 心臓はばくばく鳴っていたが、言い辛いことを真っ先に言ってしまって、早く楽になりたかった。 「叔父さんから幾ら貰ってるのか知らないけど、もし足りないようなら……」 「違うんです。お金は……充分過ぎるほど頂いていますから」 「だったら、どうして……」 言いかけて、数少ない調度品のひとつである衣装箪笥の上に、写真立てが乗っているのに気がついた。飾られているのは家族写真のように見える。 「これ、家族の写真?」 「そ、それはっ……ち、違うんですっ」 慌てて身を起こす詩乃をおいて立ち上がり、洋介は写真立てを手にした。 「えっ……」 一瞬、写真の意味するところがわからなかった。 経年劣化を起こして少しだけ色の褪せた古い写真に写っていたのは、自宅の玄関先に並んで立つ、幼い頃の洋介と詩乃、そして亡くなった父親だった。 「……なんで? なんで詩乃さんが小さい頃の僕の写真を持ってるの? それに、なんで詩乃さんと僕が一緒に写ってるの?」 本来、亡くなった母親が立っている筈の場所に当然のように立っていたのは、初々しい面影に少女の名残すら感じさせる若かりし頃の詩乃だった。 洋介は時間SFのひと場面に居合わせたような不気味な感覚を覚える。 頭はぼうっとして、身体がふわふわした。 「詩乃さんは……いったい誰なの?」 振り向いて訊ねると、そこには絶望の色に染まった詩乃の顔があった。 「そ、それは……」 そう言ったきり、俯いて黙り込んでしまう。 洋介はもう一度写真に視線を戻し、背後から詩乃に肩を抱かれ、レンズに向かって無邪気にVサインをしている幼い自分を見つめ直した。 年齢は二、三歳と言ったところか、幼稚園に上がったか、上がらないかの頃だろう。 けれど、どんなに記憶を探ってみたところで、写真に写った詩乃の顔は思い出せなかった。 代わりに出てくるのは亡くなった母親の顔だけで、それは近所の幼稚園の風景と共にはっきりと思い出される。 「幼稚園に入った頃……何があったんだろう?」 その瞬間、頭の中で火花が散り、洋介は詩乃の言葉を思い出した。 『その昔、まだ私が若かった頃、洋介さんのお父様に、お世話になっていた時期があったんです』 あの時は咄嗟に父親の恋人か愛人と疑ったが、どうみても写真の三人は家族にしか見えない。 若かった頃、というのはつまり、亡くなった母親が家に来る前の話で、父親の恋人でも愛人でもないのなら、残る可能性はひとつだけだった。 「もしかして……母さん?」 「違いますっ。洋介さんのお母様はお亡くなりになりました」 血相を変えて詩乃は言下に否定したものの、その様子自体が告白と変わらなくなってしまった。 「そうなんだ……だから、毎日、毎日、休まずに来てくれてたんだ」 「違いますっ」 「父さんと母さんが亡くなったから、叔父さんが詩乃さんを連れて来たんだ」 「違うんですっ」 「何が違うの? 詩乃さんは言ってたよね。何がどうあろうと、僕とだけはセックスできないって。それって、血の繋がった親子だからでしょう?」 ああ、そういうことか。細々とした疑問は吹き払われ、ジグソーパズルの最後のひと欠けらが嵌った時のように、頭の中がすっきりした。 「僕がずっと母さんだと思ってた人は、父さんの再婚相手だったんだね」 「そ、そんな……人……だなんて」 詩乃はひどく悲しそうな顔をする。 「わかってる。単に事実を確認しただけ。母さんは今でも僕の母さんだもの」 口にした途端、母親との思い出が胸に溢れ出す。 自分がお腹を痛めて産んだ訳でもない洋介を、本当に大事にしてくれた。 洋介も彼女を母と信じて慕っていたし、であればこそ、亡くなったと知った時には、世界が終わったとさえ思ったものだ。 もちろん、人一人世を去ったくらいで世界は終わる筈も無く、ただ洋介自身が抜け殻のようになってしまっただけのこと。 それを救ってくれたのは詩乃だった。 「そっか……さっき叔父さんが詩乃さんを連れて来たって僕は言ったけれど、ちょっと違うな。ひとりぼっちになった僕の為に帰って来てくれたんだね、詩乃さんは」 写真立てを元の位置に戻して布団の脇に跪くと、洋介は膝を重ねて女の子座りをしている詩乃の腹にすがりついた。 「ありがとう、詩乃さん。本当に何ってお礼を言ったら良いのか、わからないよ」 ちょっとだけ間抜けな顔をした猫のプリントに鼻先を擦りつける。 かつて自分がその中でたゆたっていた詩乃のお腹は柔らかくて暖かかった。 「よ、洋介さん……私、洋介さんにお話ししなければいけないことがあるんです」 「昔の話はいいよ。こうして詩乃さんは今、僕のそばにいてくれるんだもの」 どんな理由で父親と別れたのか、その後、何故再婚しなかったのか、そんなことはもうどうでも良かった。 離れ離れになっても詩乃は自分を忘れずにいてくれたし、ひとり迷子になってしまった三年前にはちゃんと迎えに来てくれたのだから。 「僕の方こそ謝らなきゃ。僕、詩乃さんの顔を今でも思い出せないんだもの。とんだ薄情者だよね」 「そんなことありません。洋介さんはまだ小さかったですから……」 「詩乃さんと別れる時、僕は泣いてた?」 それだけはどうしても知っておきたかった。 「……はい」 「これでお別れだって、ちゃんとわかったんだね」 「……はい」 「なら良いんだ。結果的に忘れちゃったけど、詩乃さんが居なくなるのにけろっとしてた訳じゃないなら、それで」 どうして忘れてしまったのかはわからない。しかし、それもまた過ぎた話だった。 「よし、寝よう! ほら、詩乃さんは病人なんだから、寝てないと駄目」 洋介はすがりついた腹から胸へとよじ登り、詩乃を布団に寝かせる。 後ろ手に掛け布団を被って乳房に顔を埋め、なし崩し的に添い寝してしまった。 「あ、あの……洋介さん?」 「人間湯たんぽ。風邪は暖かくして寝なきゃ」 「私、たぶん風邪ではないと思うんですが……今は夏ですし」 「ぐー」 狸寝入りで誤魔化し、パジャマ越しにもっちりしたバストの感触を堪能する。 「洋介さんったら、仕様がありませんわね」 乳房の谷間に沈んだ洋介の頭を撫でながら、詩乃は呆れたように言った。 けれど、その声には長年に渡る胸の支えが取れた、明らかな安堵が混じっていた。 「ねえ、詩乃さん。もう離れて暮らす理由は無くなったんだから、家に帰っておいでよ。一緒に暮らそう」 「えっ……そ、それは……」 「母さんに遠慮してるの?」 胸元から見上げると、詩乃は図星とばかりに唇を噛んだ。 「お母様は逃げ出した私の代わりに洋介さんを育てて下さいました。今さら私がどの面を下げて帰れましょう……」 詩乃は亡くなった母親から、自分が放り出したその母親という肩書きを奪い取ってってしまうことを恐れているらしい。 「僕は詩乃さんを母さんとは呼ばないよ。詩乃さんも言った通り、母さんは亡くなったんだ。それにもし詩乃さんを母さんって呼んだら、僕らの関係は近親相姦ってことになって、もうエッチで出来なくなるしね」 「ええと……なんとお答えして良いやら。では、これまで通り家政婦として……」 「それも違うよ」 洋介はきっぱりと言った。 「ち、違うんですか? では、私は……」 「詩乃さんは僕の奥さん。それなら一緒に暮らすのが当たり前でしょう」 「ええっ!?」 詩乃は大げさに驚いた。 「とにかく、詩乃さんがこのアパートにこれからも一人で暮らすなんて、僕は絶対納得できない。どうせ毎日通って来るんだから同じじゃない。だから、決まり。元気が出たら、引越ししよう。荷物も少ないから、すぐに済むと思うしね」 勝手に予定を決めてしまい、洋介は心置きなく有り余る柔肉の感触を両頬で味わい尽くす。 「くはぁ……詩乃さんが引っ越してきたら、この感触を毎日楽しめるのかぁ。夢のような暮らしだ。想像するだけで心臓が破裂しそうだよ」 「よ、洋介さん……毎日、こういったことをなさるおつもりなんですか?」 今度は本当に呆れ顔になって詩乃は言う。 「仕方ないよ。若いんだもの」 「ご自分で言わないで下さいっ。それに洋介さんはお若くても、私はそうではありません」 「なら、二日に一回で我慢する」 「そ、それでしたら、なんとか……」 「二日に一回がOKだなんて……フフフッ……見かけによらず、詩乃さんも結構好き者だね」 「なっ……」 真っ赤になった顔を詩乃は両手で覆って言い返す。 「ひ、ひどいですっ! 洋介さんがお求めになったんじゃりませんか」 「うん、ごめんね。詩乃さんは官能小説的に言うと清純で貞淑な美人妻ってキャラクターだものね。でも、夜だけは少しだけ淫乱系に変身してくれると嬉しいんだけどな……」 あっさり謝りつつ、洋介は更なる言葉責めを繰り出した。 「し、知りませんっ、そんなこと。それに官能小説だなんて、疲れた中年男性の読む物とばかり思っていましたわ。この頃は洋介さんのようなお若い方もお読みになりますのね」 「それは偏見というものだよ、詩乃さん。若いからこそ、来るべき日に備えて、日々、勉強を欠かさないんじゃないか。例えば今日のような日がいつ来ても良いようにね」 洋介は猫パジャマのボタンをぷちぷちと外しながら、男前口調で力説した。 「ちょ、ちょっと……どうしてボタンを外すのですか?」 上から三つ目まで外したところで右手を斜めに突っ込み、パジャマの向こうに隠されたままの豊乳をまさぐる。 夏なのに布団を被って二人仲良くくっついているせいで、詩乃はじっとりと汗をかいていた。 とても掌には収まり切らない柔らかな蒸れ乳をぎゅっぎゅっと音のしそうな勢いで揉み解すと、掌に硬くしこった乳頭が擦れ、パジャマに手を突っ込んでの無理やり感も加わって興奮に頭はくらくらした。 「あっ、あっ……よ、よしてくださいっ。せめて……せめてシャワーを浴びてからに……」 「具合が悪いんだからお風呂は控えなきゃ。それに、ちゃんとイイ匂いしてるよ。石鹸や化粧水の匂いも良いけど、ほんの少しだけ生臭い、詩乃さんのそのままの匂いが一番興奮するんだ」 鎖骨の窪みをぺろぺろと舐め、鼻息を荒くして詩乃の体臭を嗅ぎまくる。 ごわついたジーンズの中でいつの間にかペニスはがちがちに勃起しており、欲情の度合いを図らずも証明していた。 「ぜ、ぜんぜん褒め言葉になっていませんわ。うぅっ……けふんっ、けふんっ……む、無理をしたら、なんだか急に身体が……」 口を押さえて見え見えの小芝居を打つ詩乃に、嘘とわかっていても無視できず、洋介は動きを止める。 「もうっ……洋介さんったら、お優しいのも良し悪しですわ。こういう時、中途半端に遠慮されると、こちらの立場がないじゃありませんか。無理やり奪ってくださるのも、殿方の甲斐性というものですよ」 「た、謀ったなぁっ!」 照れ隠しに詩乃の小芝居に乗って激昂……する振りをして、洋介は両襟を掴むと、皮を剥くように詩乃の身体からパジャマを剥き取った。 ぶるんと豊満すぎる乳房が零れ出し、目の前で派手に揺れる。 しかもパジャマは完全には引き下ろさず途中で止めた為に、詩乃は肘を拘束される形で乳房をさらけ出したまま固まってしまった。 「下手に動いたら、お気に入りパジャマのボタンが飛んじゃうからね」 やんわり脅しをかけておいて、洋介はメロンみたいに膨らんだバストの先にしゃぶりつく。 「あっ、あひいぃっ……」 びくりと胸を突き上げ、背筋を弓なりに反らせて詩乃は鳴いた。 血管すら透けて見える白い肌は上気して綺麗な薄桃色に染まり、パジャマのボタンは今にも弾け飛びそうになる。 床に伏せる病人を犯しているのにパジャマの猫は相変わらずのん気にあくびをしていて、その生活感からくる生々しさにすっかり欲情した洋介は、肉のとがりを夢中で吸った。 「ね、寝起きで汗をいっぱいかいてますから、そんなに吸ったり舐めたりしないでくださいっ」 詩乃の抗議は完全に無視して、こりこりとした感触とほんのりしょっぱい汗の味に一人どきどきする。 憶えてはいないが、遠い昔、確かに自分はこの乳房を吸っていたのだと思うと、とても感慨深かった。 「僕……小さい頃もこうやって詩乃さんのおっぱいを吸わせてもらってたんだね。でも、まさかこんなに大きくなってから、また吸われるとは思ってなかったでしょう?」 「い、言わないでください。む、昔のことは……」 顔を背けて照れ隠しする詩乃はとても可愛い。 互いにずっと離れて暮らしていたお陰で背徳感はほんの少しで済み、それはほどよいスパイスとして機能しているように思われた。 「僕は嬉しいけどな。詩乃さんは帰ってきてくれたし、こうして僕に自分の身体を与えて、いろいろと教えてくれる優しい人生の先輩。きっとこういう縁だったんだね。僕たち仲良くやっていけると思うよ」 軽くウィンクして唇を重ね、洋介は舌を滑り込ませる。 「んっ……」 小さく鼻を鳴らして詩乃を唇を薄く開き、そっと舌を絡めて受け止めながら、手元を見もしないでベルトを器用に緩め、ジーンズを脱ぐのを手伝ってくれた。 「はぁ……はむむ……くちゅ……あむ……」 互いの唇を食み合い、たっぷりと唾液を滴らせて舌を絡め合う。 この上無く濃厚な接吻を続ける一方、洋介は暑いので掛け布団を蹴っ飛ばして退けてしまう。 ベルトを外した詩乃の手は、そのままトランクス越しに勃起しきったペニスを掴んで緩やかに愛撫し始めた。 両手の指は肉茎にやんわりと絡みつき、たった一日で溜まってしまった少年の性欲を抜き取ろうと、強すぎず、弱すぎず、牛の乳でも搾るような指使いで根元から雁首まで尿道をしごき立てる。 搾り出された先走りの恥汁が鈴口から零れてトランクスにじんわり染みを作った。 詩乃の手の中で剛直はびくんびくんと跳ね上がり、ひとしごきされるたびにぬめる亀頭の先はトランクスに擦れて、身体の芯が溶け落ちるほどの快感に襲われる。 「んはぁぅっ……」 堪らず詩乃の口腔から舌を引き抜いて洋介は呻いた。 「フフフッ……どうなさったんですか? もし我慢できないようでしたら、このままパンツの中でお漏らしなさってもよろしいんですよ」 早くも射精しそうになっている洋介の姿を見ると、一転して詩乃は悪戯な微笑を浮かべる。 生意気な息子をたしなめるようなその視線に、むきになって洋介は必死の抵抗を試みた。 「そ、そんなことは……あっ、あひいぃっ」 言い終える間もなく、股間にびりりと電撃が走った。 絡みついた十本の指は絶え間なく別々に蠢いて、問答無用の愛撫を加えてくる。 「私とて年端も行かない小娘とは違います。本調子でなくとも、そう易々と手玉に取られるほど柔ではありませんわ。ほら、こういうのは如何かしら」 詩乃は両手をトランクスの中に滑り込ませると、片手で茎をしごきつつ、もう片方の掌で亀頭をすっぽりと包み込んでしまう。 「な、なにをする気なの、詩乃さん?」 「いじめっ子な洋介さんを、大人のテクニックで逆にいじめてさしあげますわ」 唇に光る洋介の唾液を舌先でゆっくりと舐め取った詩乃は手首をぐねぐねと妖しくくねらせ、カウパーのぬめりを使って際限なく回転しながら、掌を擦り付けて亀頭全体を磨き上げる。 薄皮を剥き取られるようなぴりぴりする快感をもっとも敏感な粘膜に擦り込まれて、洋介は目を白黒させた。 「あっ……あぁっ……なにそれっ、すごいっ……先っぽがもげちゃうよ。そ、そんなことされたら……僕……ぼくっ……」 「もう降参ですか? さきほど二日に一回とおっしゃっていましたが、これほどの早漏では洋介さんの方がすぐに干からびてしまいますわね」 「あぐぐぐっ……」 詩乃の挑発に歯を食い縛ってアヌスを引き絞り、射精を堪えようとする。 以前に比べれば耐久力もついたようだが、それでも一方的に責め立てられている状況では暴発は時間の問題だった。 「あらあら、少しは我慢できるようになりましたのね。初めての頃でしたら、とっくに青臭いミルクをパンツの中でお漏らしになっていたでしょうに」 苦悶の表情を浮かべる洋介の耳元で詩乃は囁く。 「し、詩乃さんのいじわる……」 「お互い様ですわ。それに洋介さんはおっしゃったじゃありませんか? 夜は淫乱系に変身してくれると良い云々」 「い、今はまだ昼間っ……はっ……はうぅんっ」 言い終える前に睾丸をマッサージされて、喉から敗北の雄叫びを上げてしまう。 皮袋に収まった肉玉をさわさわと玩ばれた途端、火を放たれたように腰の中心が熱くなり、耐える暇もなく精乳をぶちまけてしまった。 「あっ、ひっ、で、射精るっ……あはぁああうぅっ」 詩乃にしっかりと男根を握られたままびくんびくんと腰を痙攣させて、煮えたぎった精液を繰り返し吐射する。 熱い脈動が腰を貫くたびに頭の中は真っ白になり、背筋の蕩けるような快感にうっとりした。 詩乃の乳房にきつく顔を埋めて、いつ果てるともなく襲い来る絶頂の波状攻撃に歯軋りする。 「フフフッ、洋介さん、御昇天。たった一晩お休みしただけで、これだけたくさんお射精しになれるのですから、本当に毎日でも出来そうですわね。私でお相手が務まるかしら?」 詩乃は根元をきつく締め付けた指の輪で肉茎をきゅっきゅっしごき上げ、最後の一滴まで搾り出してくれた。 「あっ……あっ……し、詩乃さんっ……だ、射精したばかりなんだから……も、もっと優しくしてよぅ……」 過敏になっているペニスに柔らかな掌の感触を感じて洋介は腰を震わせる。 トランクスに跳ね返って降りかかる粘っこい精液に塗れてペニスはべとべとだった。 「これも鍛錬のうちです。しっかりと最後まで抜いておけば、回復も早いというもの。回復の早さは殿方の甲斐性ですわよ」 「そ、そんなぁ……やっぱり駄目だぁ、やっぱり詩乃さんには敵わない……」 溜まっていたものを抜き取られた開放感にぐったりして、豊満な乳房の谷間で洋介はあっさり敗北宣言。 パジャマに拘束されたままほとんど身動きひとつしていない詩乃に、手淫だけで射精させられてしまったのだから、言い訳のしようがなかった。 「そうでもありませんわ。じきに私……洋介さんにひぃひぃ言わされてしまう日が来るような気がしますもの。さ、残りのボタンを外してくださいな。このパジャマ、実はお気に入りなんです」 促されるままに残りのボタンを外すと、両腕の自由になった詩乃は洋介の腰からトランクスを引き下ろして丸め、精液に塗れた手を拭って枕元に置いた。 「お休みをいただきましたのに、すっかりひと汗かいてしまいましたわ」 肌蹴ていたパジャマの前を合わせて詩乃が言うと、窓から午後の風が部屋に吹き込んで青い風鈴をちりんと鳴らした。 風はぬるくても汗ばんだ肌にはひやりと感じられ、火照った身体からの心地良い放熱にしばしの爽快感を味わう。 「詩乃さん、着替えた方が良くない? 本当に風邪ひきそうだし。僕、手伝うからさ」 洋介はパジャマを脱ぐのを手伝おうと詩乃の背後に回り込む。 「そんな……は、恥ずかしいですわ。着替えくらい自分で出来ますから」 「ここまできて恥ずかしいもなにもないんじゃない?」 羞恥心は大変結構、しかし、もう、着替えを見られて恥ずかしがるような間柄ではない気がした。 「……それも……そうですわね」 洋介に身を任せ、詩乃は脱がされるままにパジャマの上を脱いだ。 「手拭は何処かな? 背中の汗を拭いてあげるよ」 「箪笥の一番上です」 言われた場所から手拭を引き出した洋介は、両腕で乳房を隠した詩乃の背中を丁寧に拭う。 汗に濡れ光る白い背中はとても艶かしくて、手拭などではなく舌で舐めて清めてあげたくなってしまう。 なんとかその欲求に抗い、背後から抱き締めることで我慢した。 「よ、洋介さん?」 「ズボンも脱がせてあげるから、このまま四つん這いになって」 うなじの甘ったるい匂いを嗅ぎながら促す。 詩乃はもう抗おうともせず、右腕で乳房を隠しながら、洋介の前に四つん這いならぬ三つん這いになって見せた。 「こ、こうでしょうか」 「うん、それでいい。今、脱がせてあげるね」 ゴムに指を引っ掛け、くびれたウエストからパジャマのズボンを引き下ろす。 そうしてズボンの下から現れた巨大なヒップには、パジャマと同じ柄のあくび猫がでかでかと張り付いていた。 「し、詩乃さん……このパンツはいったい……」 「えっ……きゃあっ、わ、忘れていましたわ。ね、寝る時はいつもこのようなパンツなんです。寝汗を吸ってくれるのが便利で……み、見ないでくださいっ。こんな子供みたいなパンツ穿いてるところを見ないでくださいっ」 今さら手遅れだった。 片腕で胸を隠して跪いたまま、後ろ手に猫を隠して頬を赤らめる姿は、先ほどとは別人のような愛らしさだ。 昼は貞淑な良妻賢母、夜は淫乱な娼婦という男の理想を地で行く二面性を詩乃は身につけていた。 「こういうパンツを穿いてる詩乃さんもそそるなぁ」 詩乃の手を退けさせると、洋介はヒップのボリューム故に幾分横に引き伸ばされてしまっているあくび猫に接吻した。 「はひっ……な、何をなさって……!?」 「この蒸れ切った匂いがたまらなひ……」 左右から骨盤をがっちり掴むと尻の割れ目にぐりぐり鼻先を潜り込ませて、股間の恥臭を好き放題に嗅ぐ。 寝汗と洋介自身のかかせた汗によってクロッチはしっとりと湿っており、ゴムで半密閉された綿布の奥に立ち込める臭気が、繊維の目を通してむっと漏れ出していた。 オレンジ果汁と牛乳を混ぜ込んだような、ほんの少しだけ酸味の効いた、それでいてマイルドな臭みが情事に火照った女体の熱気に蒸らされて、むせ返りそうな匂いを醸し出す。 嗅いだ途端につんと鼻腔は痺れ、思考はあっという間に混濁し、舐めてもいないのに酸っぱい味覚を感じて頭が変になりそうだった。 そんな匂いに誘われて最初は尻の谷間付近にあった鼻も、いつしかふとももの合間に半ば仰向けになって潜り込み、恥丘に張り付いたクロッチへと直接擦り付けられる。 「よ、洋介さんったら……そ、そんなところに頭を入れないでくださいっ」 詩乃は股の間から顔を出しそうな勢いの洋介をふともものアーチ越しにたしなめたものの、どうにも止まらない。 「詩乃さん……ほらここ、股の真ん中のところに染みが出来てるよ」 秘唇の形に沿って綺麗なアーモンド型の染みがコットン生地に滲んでいた。 それは詩乃の肉体が洋介の愛撫に反応していた確かな証拠。 「いっ……やぁ……み、見ないでくださいっ。そんな……そんな恥ずかしい所をみないでくださいっ」 詩乃は懸命に訴えるが、興奮し切っている洋介はまるで聞いていない。 それどころか、 「ねえ、詩乃さん。このまま僕の顔に座ってよ」 股間で仰向けに寝転がり、詩乃のヒップが降りてくるのを今か今かと待ち望む有様だった。 「な、何を言っているんですか!? そ、そんなはしたない真似、できるわけ……」 「じゃあ、パンツを脱がして直接アソコとお尻の穴を舐める。床に伏せっていた詩乃さんの匂いと味はどれだけ強烈なんだろうね」 断固たる意志を込めた恫喝に、詩乃は震え上がった。 よく言えばフェティッシュ、悪く言えば変態的性癖持ちの洋介は、やると言ったら本当にやる。 これまでの経験から、それは身を持って思い知らされていた。 「わ、わかりましたわ。で、では……し、失礼して……」 ふとももをハの字に広げると、詩乃は恐る恐る尻を落としていく。 全体重を掛けては洋介の顔を潰してしまうので注意が必要だが、なにぶん初めてなので加減がよくわからない。 狂牛病にかかった牛のようにぶるぶると腰を震わせながらヒップを下降させ、股間に減り込む突起を感じて即座に足を踏ん張った。 むちっという感触と共に、ショーツに包まれた恥丘の、丸みを帯びた膨らみに鼻と口を圧迫されて洋介は気がつく。 「あぁっ……僕はいま、詩乃さんのお尻に顔を踏まれてるんだ……」 顔面騎乗という言葉を思い出し、今、まさにそれを体験している事実に恍惚となった。 じっとり湿ったクロッチ越しに密着する恥丘のもちもちとした弾力を顔いっぱいに感じ、苦しいながらも深呼吸すると、開脚したためにショーツの奥で薄開きになった淫裂から、先ほど嗅いだ時とは比べ物にならない強烈な体臭が溢れ出して鼻腔と肺に満ち溢れる。 それは腐りかけてふにゃふにゃに凹んだ蜜柑の皮を酢に漬け込んだような凄まじい匂いだった。 「あ、あの……臭くはありま……」 「ぶふぉあっ……げふっ……げふっ、げふんっ……」 酸味のきつさに耐え切れず、洋介は思い切りむせてしまう。 「だ、大丈夫ですかっ……やっぱり臭かったんですねっ。ですから、こんなことはお止めになった方が……」 詩乃は慌てて腰を浮かせ、恥ずかしそうに上から覗き込む。 「違う、違う。ぜんぜん臭くなんてないよ。ただ、ちょっとむせただけ。だから、もう一回」 「ふぇ……まだ、やるのですか?」 こくこくと頷いて、テイクツーを要求した。 「そ、そうですか。では……」 再び盛り肉に押しつぶされてご満悦の洋介は、無理やり口を開いて、先ほどよりもやや大きくなっているクロッチの染みを舐め上げる。 「あひっ……よ、洋介さんっ……お約束と違いませんか?」 「直接は舐めてないよ」 孔をほじるように硬く尖らせた舌の先で、ここぞと思しき染みの中心部を繰り返しえぐった。 どうやらそこはドンピシャのポジションだったようで、詩乃は悩まし気に身をくねらせて、控え目なあえぎ声を漏らす。 「あっ……そ、そこは……いけませんっ。ちょ、ちょうど……産道の入り口に……はっ、はぁんっ……」 漏れ出す蜜液と洋介の唾液でぐしょ濡れになったクロッチはべっとりと秘裂に張り付き、ほとんど直接舐めているのと変わらなくなっていた。 肉色の割れ目が薄っすら透けて見え、黒々とした恥毛の影の生々しさに、剥き出しのまま眺めるよりもよほど卑猥な景観だった。 お陰でクロッチを通しても敏感な尖りの位置はすぐにわかってしまい、洋介は裂孔そのものからスリットの上端に芽吹いたしこりへと狙いを切り替える。 「うんあぁっ……ど、どうしてパンツ越しですのに、そんなに正確に場所がわかるのですかっ……あっ、あっ……そ、そこばかりいじめないでくださいっ、わ、わたし……腰が浮いてしまいますっ」 言葉どおりに浮き上がろうとする腰をがっしりと掴んで引き戻し、洋介はクリトリスへのピンポイント攻撃を続けた。 急所への執拗な愛撫に濡れあわびはすっかりふやけてじゅくじゅくと粘液を吐き出し、すでにクロッチは何の用も果たしていない。 しんなりしたコットン生地を押し上げ、ぷっくりと膨らみ切った肉ぶどうを洋介はいよいよ前歯で甘く噛み締めた。 こりっという軟骨じみた歯応えに思わず目じりが下がってしまう。 外皮は柔らかいのに芯はしこしこ、たまらない味わいだった。 「ひいぃっ……そこを噛むのは反則ですわっ。そ、そこだけは優しくしてくださいましっ。あぁっ……」 詩乃の身体は力無く前のめりに傾いて、がくりと畳に両手を突く。 戒めを解かれて乳房は零れ出し、洋介の頭上でぶるんと揺れた。 すかさず両手を伸ばして下から鷲掴むと、すでに破裂せんばかりに勃起している乳頭を人差し指と親指で摘んでこりこりとつねり上げる。 「いやっ、いやですっ……上と下を同時になんてひどいっ。そ、そんなことをされたら……」 自ら更なる弱点を晒してしまい、詩乃の顔が痛恨に歪む。 両乳首にクリトリスという女体の弱みを三箇所同時に責め苛まれ、体中を駆け巡る快感に頭を振って耐え忍ぶ。 髪留めが外れて長い髪はばらけ、いよいよ牝の本性が露になった。 「そんなことされたら私……わたし、洋介さんが欲しくなっちゃうっ」 詩乃の口にした信じられない言葉が耳の奥に木霊した。 これまで一度だって詩乃が挿入を求めた試しはなかった。 それどころか、さんざん愛撫され、快感にのたうっても、血の繋がった息子とのセックスを忌避して挿入だけは拒み続けてきたのだ。 けれども、その実、挿入なしではやはり熟れた女体は満足出来なかったのかもしれない。 今ならば、長年に渡る別離と三年に渡る中途半端な共同生活の果てに全てが明らかになった今ならば、あるいは念願叶って詩乃を抱けるかもしれない。 洋介は迷わず詩乃の股間より抜け出し、背後より圧し掛かると、一息にコットンショーツを引き下ろす。 クロッチとの間に粘り気のある糸を派手に引いて、濃紅色の裂け目が眼前にくぱぁっと口を開いた。 顔面騎乗のお陰で完全に再勃起したこわばりをトランクスから掴み出し、怒張した亀頭の先を裂け目に宛がって洋介は矢継ぎ早に尋ねる。 「良いよね、詩乃さんっ。僕たち、もうしても良いよね」 「ま、待ってくださいっ。そ、それだけは……それだけは堪忍してくださいっ」 「さっき言ってたじゃないか。本当はこれが欲しかったんでしょう。でも、僕が息子だから、ずっと我慢してたんでしょう。でも、もう遠慮する必要なんてないんだ」 「いけませんっ、私の言うことを聞いて下さい」 興奮に半ば我を忘れている洋介は、もう思い止まるつもりはなかった。 このまま詩乃を犯してしまおう、その思いに任せて亀頭で淫裂を割り、強引に挿入しようとする。 「わ、わかりましたわっ。わかりましたからっ……せ、せめて避妊をしてくださいっ。生だけはいけませんっ。コンドームを、コンドームをお使いになってくださいましっ」 洋介が本気であると悟り、詩乃はいよいよ覚悟を決めた。 「良いんだねっ、ゴム使えば良いんだね」 「……は、はい……かまいませんわ」 観念したようにがっくりとうな垂れて詩乃は言った。 ついに同意を取り付けた洋介は、ジーンズの尻ポケットに突っ込んだ財布の中からビニールの四角い包みを取り出し、乱暴に千切って中身を引っ張り出す。 使う当てもないのに、千載一遇のチャンスを逃すまいという助平根性から用意しておいたコンドームが役に立つ時が来た。、 クリームにぬめるゴムの輪を肉李に被せ、陰毛を巻き込むのも構わず、しごいて一気に根元まで伸ばす。 「とても洋介さんのお顔を拝見しながらは出来ません。このまま後ろからいらしてください」 詩乃は四つん這いの姿勢からさらに前のめりになって顔を畳に伏せると、尻をつんと持ち上げて洋介を迎え入れる準備を整えた。 茶褐色のアヌスはひくひくと小刻みに開閉を繰り返し、滲み出す汗と腸液にぬらぬらと濡れ光っている。 恥毛に守られた肉唇からは逞しい一物の挿入を期待してか、止め処なく涎が溢れ出し、濡れて柔らかくなった恥毛の先から透明な雫となってぽたぽたと畳に滴り落ちた。 「詩乃さん……いくよ。本当に挿入れちゃうよ」 自分から求めたくせに、いざとなると尻込みして訊いてしまう。 詩乃に対して母親としての記憶を持たないのが洋介にとっては幸いだったが、全てを記憶している当人の心中はいかばかりか。 「私にここまでさせておいて、今さら怖気づくのですか? いらっしゃるなら、ひと思いにいらしてください。お願い、焦らさないで」 家政婦としての立場をかなぐり捨てた覚悟の一言に意を決すると、洋介は巨大な桃尻の中心に狙い定め、か細いウエストを掴んで勢い良く腰を突き出した。 「ふんっ……」 ずぶりという肉の裂ける音が聴こえ、みっちりと中身の詰まった膣管を貫いて、反り返る雄角は根元まで詩乃の胎内に深々と埋まった。 極薄のコンドーム越しに焼け付くような体温が伝わり、熱湯の中にでも突っ込んだみたいに反射的に腰を退きそうになる。 異物を挿入されたせいで膣壁は急激に窄まり、内側に生えた無数の肉ひだをまとわりつかせて、根元まですっぽりと呑み込んだ洋介の一物をこれでもかと搾り上げた。 「はっ……はひぃいんっ……洋介さんが……洋介さんが私の中に入ってるぅっ」 畳に爪を立て、詩乃は交尾中の牝馬のように鼻の先でいなないた。 背筋をびくびくと震わせ、実の息子に背後から犯される罪への赦しを乞うように歯を食い縛る。 「はあぁっ……し、詩乃さんっ……僕、詩乃さんのお腹に帰ってきたよ」 この胎道を通って産まれ来た時から数え、十七年ぶりの帰還だった。 「言わないでっ……私たちは年齢が離れているだけの他人よっ。あぁっ……許して、あなたっ……まさか、こんなことになるなんて……」 詩乃が父親を「あなた」と呼ぶのを聞いて、洋介は居ても立ってもいられない思いだった。 烈火の如き嫉妬に駆られて激しく腰をピストン運動させ、膣の最奥を猛然とペニスの先で突きまくる。 「父さんは母さんと一緒に死んだんだっ。今日からは僕が詩乃さんの夫だ。詩乃さんを抱いて良いのは僕だけだっ」 叫びながら子宮を串刺しにせんばかりの勢いで胎内を抉った。 すでに一度、射精を済ませているので、思い切り腰を振っても、そう簡単には終わらない自信があった。 亀頭は膣奥の壁をごつごつと叩き、熟れ切った女体の内部を容赦なく責め立てる。 「ひっ……ぐぅっ……あまり奥まで……突かないでっ……内臓が……内臓がずれちゃうぅっ」 ひと突きするたびに膣管はきゅんと引き締まり、そのすぐ上では菊座がばくばくと開閉し続けては、時折、ぽっこりと脱肛する。 その際、サーモンピンクの腸壁が垣間見え、じゅくじゅくと滲み出した甘い匂いのする腸液は激しい出没を繰り返す結合部に滴り落ちて潤滑液に変わった。 「これが……これが詩乃さんのおまんこの味なんだっ。コンドーム越しでもよくわかる。す、すごい締め付けだよ。膣内の壁全体が螺旋を描いて絡みついてくる。お、おちんちんもぎ取られちゃうぅっ……」 あまりの締りの良さに、詩乃の膣は洋介のペニスを呑み込んだまま放そうとしない。 強引に腰を引くとコンプレッサーで吸われたように負圧がかかり、根元から引っこ抜かれそうになってしまう。 ブラックホールさながらの肉孔に渾身の力を込めて男根を埋め込んでは引き抜き、埋め込んでは引き抜き、洋介は狂ったように腰を突き動かす。 初めて味わう女性器は、この世でも稀に見るほどの最高の一品だった。 恐らくは父親もこの甘美な味わいの中で、やがて洋介の元となる子種を搾り取られたのだろう。 詩乃を孕ませた父親に激しく嫉妬しながら、洋介は詩乃の背中に圧し掛かり、全体重をかけて亀頭を膣奥のさらに向こうに位置する子宮口まで届かせようとした。 「うっ……うぐぅっ……お、重いですわ……洋介さんっ。そ、それにお腹の奥まで届いて……うぐっ……は、吐きそう……」 ひき潰された蛙ように畳にへばりついて、詩乃は呻く。 背後から圧迫をかけられたままの苦しい姿勢で、肉体の奥底をがんがん突き上げられ、振動は胃袋にまで響いていた。 先に余裕を見せて一本抜いておいたのが失敗だった。 そうでなれば童貞の洋介など、三十秒かからずにゴム内射精させられたのに。 しかし、今となってはもう遅かった。 しかも抜き差しされる洋介のペニスはかつて受け入れた父親のそれに比べて、硬さも長さも太さも反り具合に至るまで、すべてのスペックにおいて勝っており、少しでも気を緩めたら、際限なく与えられる肉欲に溺れてしまいそうだった。 「そ、それだけは……いけないっ。実の息子とのセックスを楽しむなんて……人として許されないわっ」 口の中で呟き、詩乃は奥歯をがちがち鳴らして快感を耐え忍び、洋介に射精の瞬間が訪れるのを待つしかない。 「はあぁあっ……詩乃さんっ、最高だよ。これがセックスなんだっ。こんなにも気持ちいいものなんだ。初めての相手が詩乃さんだなんて、僕は幸せ者だよ」 次から次へと繰り出される賞賛の言葉に、詩乃は頭がくらくらした。 「よ、洋介さんも……す、素敵ですよ。しっかり奥まで届いて……はんあぁっ、もう……声が抑えられないっ……お、お隣さんに聴こえちゃうっ……」 丸めた人差し指の背を強く噛み締めて喘ぎを堪える。 いけないとはわかっていても、この世でもっとも大事な洋介に求められては、応えないわけにはいかなかった。 「まだだよ、詩乃さん。もっともっと二人で気持ちよくなろう」 洋介は詩乃の両手首を掴んで上半身を引き起こし、背筋を弓なりに反らせた姿勢でさらなる快感を求めて腰を突き動かす。 高く突き上げられていたヒップは絶え間なく送り込まれる快楽に腰砕けとなり、今では畳近くまで引き下ろされている。 結果的に正座をした詩乃をほとんど真下から突き上げる格好となり、この上なく深い挿入感に洋介も詩乃も酔い痴れてしまう。 「あっ、あへぇっ……よ、洋介さんのものが……の、喉まで届きそう……」 「し、子宮の入り口が先っぽに当たってる。ふはっ……こ、こりこりしてて気持ちいい……もっと……もっと詩乃さんの奥を感じたいっ」 背後からきつく詩乃を抱き締め、羽交い絞めにする形で両肩を掴むと、思い切り引き下ろす一方、鞭のように腰をしならせ、完璧な一撃で女体の中心を突き上げた。 「ひぐうぅっ……はっ……はく……はく……」 虚ろに蕩けた瞳で詩乃は断末魔の呻きを漏らす。 力なく開閉される唇の端からひと筋の涎が垂れ流され、首が据わらないのか、突き上げられるたびに壊れた人形みたいにがくんがくんと頭が揺れた。 「なんだか僕……また射精したくなってきたよ。詩乃さんに抜いてもらったばかりなのに……」 「ひ、ひってくらはい……はやく……れないとわらひ……ほんろにひんじゃう……」 全身にびっしょりと汗をかき、呂律もまわらず詩乃は哀願する。 もともと肉体疲労を理由に休みを申し出たというのに、普段とは比べ物にならないくらいの重労働を課され、ほとんどグロッキー状態になっていた。 性的な技巧ならともかく、体力では洋介に敵う訳もない。 「駄目だよ。一人じゃ嫌だ。詩乃さんも一緒にイってくれなきゃ。詩乃さんをイかせるのが僕の夢なんだっ。これなら少しは楽でしょ」 深々と繋がったまま畳に仰向けに寝転がり、胸の中でぐったりしている詩乃の両乳房を揉みし抱きながらリズミカルに腰を突き上げる。 詩乃の体重を受け止める分、腰の負担は大きくなったが、鎖骨の辺りに詩乃の横顔があるので、快感に歪む淫靡な表情を間近で眺めることが出来た。 「好きだよ、詩乃さん。本当に大好きなんだっ。これからはずっと一緒だよ。誰にも渡すもんか」 詩乃の口端を濡らす涎を舐め取り、最初からたっぷりと舌を絡めて唇を貪る。 ぷりぷりとした感触と口腔にとろり滴る酸っぱい唾液にうっとりした。 肉茎に感じる膣管の締り具合から、詩乃もイキそうになっているのがわかる。 括約筋が不規則の痙攣し、性感は異常なまでに高められて、乳房をひと揉みしただけでも、詩乃の肉体は焼きごてを押し当てられたように跳ね上がった。 「はぁあぁっ……わらし……もうひきますわ……いっれしまいますうぅ……」 意識朦朧となり、うわ言のように繰り返す詩乃をしっかりと抱き締め、洋介はラストスパートに入った。 根元まで深く挿入した状態で小刻みなピストン運動をこれ以上は無理という速度で反復し、子宮口に絶え間ない激震を送り込む。 「あっ、あんっ、あっ、ああんっ……ひっ……ひく……いくっ……いくっ、いくっ……」 とろんとした瞳で虚空の一点を見つめ、詩乃はオルガスムスの到来を予言する艶かしい喘ぎを繰り返す。 それに混じってぐしゅぐしゅと膣内で愛液の圧搾される音が聞こえ、牝の本能なのか、瀕死の状況にあってもなお、牡から子種を搾り取ろうと蠢く膣窟の妖しい蠕動に磨きがかかる。 コンドームに守られているにも拘わらず、強烈な締め付けと摩擦によって亀頭の先から根元までを心地良い微電流が包み込み、激しく二度目の射精を誘われた。 「うっ……で、射精るっ……僕も……また射精ちゃうっ……」 腰にぶるりと震えが走り、アヌスの奥で射精運動を予感させる鋭い脈動が始まった。 深く詩乃の胎内に埋め込んだペニスの雁首を震源として、脳が崩れて溶け出しそうな快美感が全身の筋肉を隅々まで痺れさせる。 互いの肉体から止め処なく溢れ出る快楽を分け合うように、洋介と詩乃は悦びのさえずりをハモらせ、手に手を取り合って素晴らしいオルガスムスの待つ大空へと舞い上がった。 「はんぁあぁっ……もうらめぇっ……イクーっ」 「射精るっ……詩乃さんの膣奥に射精ちゃうっ」 ひときわ大きく腰が弾み、バウンドしたヒップの落下に伴いペニスの先が子宮口を抉った瞬間、コンドームの液溜まりに洋介の生命が弾けた。 二度、三度と続けざまに吐射するたびに、眉間の奥で眩い光が炸裂し、身も心も蕩けそうな射精感に恍惚となる。 きつく抱き締めた腕の中で、詩乃の肉体は限界まで四肢を突っ張らせたままぎくりぎくりと不気味な痙攣を繰り返し、オルガスムスの爆風に吹き飛ばされまいと、髪を振り乱して歯を食い縛る。 「ひぐっ……ひぐっ……うっ……」 細身の何処からそれほどの力を絞り出すのか、洋介の腕を引き千切らんばかりに暴れると、やがて精も根も尽き果てたのか、詩乃は恍惚の吐息を残して晴れ渡る夏空へと一人旅立った。 「あぁ……うぅん……」 眉間に皺を刻んだ険しい表情から、一転して柔和な微笑を唇に浮かべ、詩乃は束の間の死を迎えた。 精の雫を最後の一滴までコンドームに吐き出し、心地良い疲労感にたゆたう洋介は、穏やかな表情で眠りについた詩乃の顔を愛しく見つめながらそっと呟く。 「詩乃さん……僕たち……初めてセックスしたんだね。もう二度と離さないよ」 ついに結ばれた母子を祝福するように、清らかな風鈴の音がいつまでも蒼穹に鳴り響いていた。 |