通い妻 真夏の夜の夢

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第ニ夜

 翌朝は胸のすくような快晴。二階の角にある洋介の部屋に、二つ並んだ金属のベルを、ハンマーで交互に叩くけたたましい音が響き渡る。
 寝不足のせいで、白兎みたいになった目をかっと見開き、洋介は飛び起きた。
 まったく心臓に悪い朝の目覚め。しかも、ごしごし擦った目で、おぼろげに眺める下半身は、俗に言うフルチン状態だった。
 どうやら昨夜は、幾度目かのオナニーの最中に、疲れて眠ってしまったらしい。
 詩乃が起こしに来る前で本当に良かったと、洋介は騒々しい目覚まし時計に少しだけ感謝した。
「でも、今日からどんな顔して詩乃さんに会えば良いんだろう?」
 忘れると詩乃は言っていたが、昨日の今日で都合よく忘れられるほど、洋介の方は大人ではなく、それどころか、昨夜の出来事を経て、彼女への想いは募るばかり。
 食卓で遭遇するだろう気まずい沈黙を想像し、フルチンのままベッドにあぐらをかいた洋介は、腕を組んで悩んでしまう。
 と、そこへドアがノックされ、廊下から元気な声が聞こえてきた。
「おはようございますっ、洋介さん!」
 朝食の支度を終えた詩乃が起こしにきたのだ。
「やばっ……えっと、起きてるっ、起きてるから……ちょっとだけ待って」
 蹴飛ばして何処かへやってしまったトランクスを慌てて探す傍ら、洋介は散らばるティッシュの塊を急いでゴミ箱に片付けた。
「おはようございます、洋介さん。もう、起きていらしたんですね。今朝は二度寝もなさらないで」
 感心、感心とでも言いたげに頷く詩乃は、薄紫のノースリーブに黄色いエプロンを巻き、白いフレアスカートをたなびかせて颯爽と窓際へ向かう。
 カーテンを畳んで窓を開け放つと、未だ熱を孕み切らない、爽やかな風がさぁっと吹き込み、朝陽に程好くローストされた、芳ばしい大気が部屋中に満ちる。
「はぁっ……良い気持ち。外はとってもいいお天気ですよ。洋介さん」
 夏の匂いを胸一杯に吸い込んで、太陽を背に振り向いた詩乃は向日葵のような笑顔。
 今日も暑くなりそうだった。
 
 二人きりで朝食を摂る間も、甲斐甲斐しく給仕する詩乃は決して笑顔を絶やさない。
 その表情や立居振舞は昨夜の残り香を微塵も漂わせず、洋介としては寂しいような、ほっとしたような、複雑な気分だった。
(これが詩乃さんの答えなんだ。最高の夢を見せてもらったと思って、今日から勉強に打ち込もう)
 期待に背いて、オナニー三昧で一夜を明かしてしまったことが急に恥ずかしくなる。
 食後、そんな恥ずかしさを晴らすべく、洋介は勉強机に向かった。
 昼食にそうめんを食べ、また机に戻る。何の変哲も無い、受験生の夏休み。
 それが午後三時、あまりの暑さに辟易して、冷えた麦茶でも飲もうと階下へ下りた途端に一変した。
 冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに注ぎ、ごくごく飲みながら詩乃の姿を求めて居間へと移る。
 果たして縁側を渡る廊下に詩乃はいた。
 昼食の後片付けを終え、夕飯の買出しにはまだ時間がある。
 廊下の冷たい板張りで涼をとっていたのだろう。
 洋介の物より、ふた回り小さいコップが、空になったまま盆に載せられていた。
 そのすぐ横で中庭に脚を伸ばし、仰向けになって詩乃は眠っている。
 静かな寝息を発てて、ノースリーブの胸が規則正しく上下する。
 穏やかな寝顔に化粧気は少なく、にも拘わらず、詩乃は驚くほど若く見えた。
「詩乃さん、疲れてるのかな。僕が面倒ばかりかけるから」
 しどけない寝姿に思わず笑みが零れる。不意に亡くなった母親を思い出したのだ。
 容姿や性格は違えど、共に甲乙つけ難い美人であり、何処と無く可愛らしいところがあって、洋介にやさしい。二人はよく似ていると思った。
 いつしか太陽は高くに昇り、陽射しも強くなっていた。
 日陰であった廊下は今や日向となり、気付かず眠り続ける詩乃は、照りつける陽光の只中にいる。
 ノースリーブの襟口より覗ける真っ白な喉に汗が光っていた。
 剥き出しの二の腕もじっとりと汗に濡れ、酷く艶かしい。
 ノースリーブのせいで目立つバストの膨らみは、仰向けで寝ているというのに胸元を高々と突き上げ、引き伸ばされた薄紫の生地は柔房の表面にぴったり張りついて、ブラジャーのラインまでも容易に見透かせる。
 同様に下半身もかなり危険な状態だった。
 薄くて軽いフレアスカートは重力で詩乃の腰下にフィットし、くびれたウエストはおろか、下腹部のくぼみやふとももの隆起さえもシルエットとして浮き上がらせ、挙句はショーツのレース模様まで薄っすらと透けて見える始末。
 涼しげな夏の装いは、詩乃の肉体が持つたおやかな稜線を余すところなく描き出し、しっとり潤いを帯びた肌の質感や程好く熟れた柔肉の重み、三十八年物の女体だけが醸し出す、隠しようのない牝の薫りを匂わせることで、何気ない昼下がりの光景を、淫靡な予感に満ちた戯曲の一幕へと見事に塗り変えてしまう。
(僕は神様に試されているのだろうか?)
 夏の陽射しを浴びて、無防備に身を横たえる詩乃の姿は、涅槃する聖女のようでも、セックスの後のけだるいまどろみに沈む娼婦のようでもある。
 しばし見惚れていた洋介は、思い出したように残っていた麦茶を飲み干し、盆の上に置いて詩乃に話しかけた。
「詩乃さん、詩乃さん。こんなところで寝てると、熱射病になっちゃうよ」
 念のために二の腕を揺すって、眠りの深さを確める。
 それでも詩乃は起きようとしない。
 二の腕に触れた指先は汗に湿り、ノースリーブの腋の下から食み出すベージュ色のブラジャーに目を奪われた。
「……」
 洋介はぐるりと辺りを見まわした。
 家の周囲は高い生垣に囲まれている。隣家から覗かれる心配は無い。
 ただ、何処で鳴いているのか知れない、無数の蝉の声だけが、抜けるような蒼穹にやたらと騒々しく響いていた。
「んっ」
 思い切って、湿った指先を口に含んでみる。
 ほんのりしょっぱい汗の味に、何故だか股間は硬くなっていく。
 洋介の視線はブラジャーの覗ける詩乃の腋の下に注がれた。
 閉じられた腋の下は蒸れて、もっと沢山の汗をかいているだろう。
 抗い難い欲求に襲われ、洋介は詩乃の腕をそっと掴んだ。
「わぁっ……詩乃さんの腕、ふにゃふにゃだぁ」
 すべすべした半透明の肌に半ば指を呑み込まれる。
 詩乃を起こさぬよう力を加減し、片腕を頭の上まで持ち上げさせたところ、釣られてノースリーブの肩口が引っ張られ、ベージュ色のブラジャーはますます派手に食み出した。
 そうして露になった詩乃の腋の下は、制汗スプレーのCMに出てくるモデルみたいに輝いていた。
 どきどきしながら近づいていくと、蒸れた腋の下に立ちこめる熱気が、むっと顔を包み込む。
 軽く鼻をひくつかせたところ、淡いシトラスの薫りに混じって、生々しい汗の匂いが漂ってくる。
「くっ……すごく興奮する……僕は変態なのか」
 シトラスの薫りよりも、正直に言えばちょっと臭う汗の方が良い、というのが重症だった。
 深く考えると落ち込んでしまうので敢えて無視し、洋介は腋の下に集中する。
 見れば見るほど綺麗な腋だった。大人の女性らしく、几帳面に剃毛された肌の滑らかさに驚かされる。
 目には見えない毛穴から極小の粒となって汗が噴き出し、陽光を反射してきらきらと光っていた。
 洋介は普段より少し値段の高い缶詰に喜び、夢中で餌皿に鼻を突っ込む猫みたいに腋の下を舐めた。
 濡れた腋の下はひんやり冷たく、湯葉のようにつるつるして舌の先が気持いい。
 けれど、よくよく舌を圧し付けてみると、やはりざらざらとした感触が残り、それがまた良い。
 味の方はと言えば、微妙に甘しょっぱくて、制汗スプレーのせいか、ちょっぴりほろ苦かった。
「こ、これが詩乃さんの腋の下の匂い、腋の下の味なんだ……堪らないよ」
 洋介には殊更、匂いや味に興奮を覚える性癖があった。
 母親の生きていた頃は日常的に洗濯籠の使用済み下着を拝借し、匂いを嗅いだり、舐めたりしていた。
 今となっては残念ながら、詩乃は「通い」なので、洗濯籠という罠に獲物がかかることも無くなってしまったのだけれど。
「はっ……呑気に浸ってる場合じゃない。詩乃さんが起きる前に……」
 すべてを終え、何事も無かったように立ち去らねばならない。
 気付かれたらゲームオーバーである。
「よしっ、次はおっぱいだ」
 つい今朝がた、心の中で詩乃に懺悔し、勉強に打ち込もうと決めた事実は、この時点で無かったことにされた。
 洋介はすっかりストーカー気分で詩乃の脇に添い寝をすると、震える片手の掌で胸の膨らみをそっと掴んだ。
 掌を伝わる感触に思考は止まり、ただ、苦しいくらい心臓が高鳴っていた。
「うわぁ……詩乃さんの胸……なんか焼きたてのクロワッサンみたい」
 それもその筈、ノースリーブ越しに触れる乳房はブラジャーによって守られている。
 カップのごわごわした感触の向こうから、人肌のマシュマロが洋介の指をやんわり圧し返してくる。
「でも、やっぱり大きいなぁ。昨日はこれが僕の背中に当たってたのかぁ」
 片手ではとても納まり切らないボリュームに溜息を吐いた。
 そして目を醒まさないのを良いことに、体重をかけぬよう詩乃の上に身体半分ほども伸し掛かり、胸の谷間に顔を埋めてしまう。
「僕、本当はずっとこうしたかったんだ。詩乃さんの胸、とてもいい匂いがする」
 大きな乳房はやすらぎを与えるのか、母の胸に抱かれた子供みたいにうっとりした。
 左右から圧迫する肉の重みを頬に感じて、洋介は夢中で深呼吸を繰り返す。
 ほんのり甘い香水に混じって、胸の谷間から漂う濃密な汗の匂いが堪らない。
 鼻腔はちりちりと焼け、眉間の奥はずんと重くなる。
 部屋着のショートパンツの中でペニスは激しく勃起し、頭の中は煮え繰り返ってなにも考えられない。
 洋介は首を伸ばして、息のかかる距離まで詩乃に被り寄った。
 これだけ近づいても詩乃の顔は厳然と美しさを保ち、静謐な寝顔は宗教画で描かれる聖母マリアのようである。
 しかし、唯一、その唇だけはふしだらとも言える妖艶な色香を孕み、呼吸するたびに小さく震えて、洋介の視線を吸い寄せる。
「キスしたいな。詩乃さん怒るかな? でも、少しくらいなら……許してくれるよね。詩乃さん、やさしいし」
 自分に対する言い訳の上手さは一種の才能かもしれない。
 吹きかけられる熱い吐息に眩暈を感じながら、洋介は閉じられたピンク色の唇に、生まれて初めてのくちづけをした。
「ん、んんっ」
 詩乃の唇は思いのほか熱く、密着した粘膜を伝って体温がダイレクトに染みてくる。
 滑らかな表面にはゼリーのような弾力があり、強弱をつけて唇を圧しつけたところ、同じ力で圧し返すどころか、洋介の唇を包み込むように吸いついてきた。
 ドラマや映画では既に陳腐化しているキスシーンだが、実際にやってみると、腰が抜けそうになるほど気持ち良い。
 それに加え、眠っている詩乃の唇を一方的に奪っているというシチュエーションに、異常なまでの興奮を覚えた。
「詩乃さんはさ……僕のこと、好き? 僕は……詩乃さんが大好きだよ」
 僅かに唇を離した洋介は、勢い余って告白してしまった。
 一人相撲なのは重々承知、けれど、こんな状況でもなければ、とても言えたものではない。
 無論、詩乃からの返事は無く、せっかく胸の内を明かしたというのに、かえって切なくなるばかりだった。
 その切なさを慰めるように、洋介は再び詩乃の唇を求め、慎重に乳房を揉みし抱く。
 少し首を傾げて唇同士を噛み合わせ、閉じられたリップの割れ目を舌先で舐め取る。
 軽く圧迫を加えて乳房を押し潰してみたり、中央に寄せ上げて手を離し、ぶるんと元の形に戻る弾力を楽しんでみたり、初めて触れる女体に興味津々の洋介は、まるで新しい玩具を買い与えられた子供のように、夢中で詩乃の身体に悪戯してしまう。
 すると、
「う……ん」
 それまで穏やかだった詩乃の寝息が突如乱れた。
 洋介は頭から氷水でもかけられたみたいに身体を強張らせ、唇を重ねたまま呼吸を止めると、冷や汗をびっしょりかいて詩乃の顔を見つめる。
(今、目を開けられたら、僕は変態レイプ魔になってしまうっ)
 しかし、幸運にも寝息は元通り穏やかなものとなり、ほっと胸を撫で下ろす。
 どうやら、詩乃の眠りは相当に深いらしい。
(ふう……危なかった)
 事の成り行きに自信を深めた洋介は懲りもせず、乳房を揉んでいた手を下へと移動させ、フレアスカートの薄い生地越しに、詩乃の股にそっと触れてみた。
 指先に感じる恥丘の膨らみは思っていたよりもずっと弾力があり、水を吸ったスポンジのような触り心地で指を受け止めてくれる。
 思い切って股の隙間に指をさし込み、指の腹を恥丘の表面に擦りつけたところ、スカート越しに感じるショーツのクロッチは化学繊維で編み込まれており、そのつるつるとした特有の滑り具合に思考は蕩けて、いよいよ辛抱できなくなってくる。
 洋介の脳裏には昨夜、風呂場で垣間見て以来、焼きついたままになっている一つの光景があった。
「詩乃さんのここ……ちゃんと見てみたい」
 たった今、指先で触れている秘密の花園を、ショーツの股布に被われ、恥毛の影に隠れた詩乃の裂唇を何としても見てみたかった。
 今を逃せばチャンスは二度とやって来ないように思われる。
 そこで唇や乳房に泣く泣く別れを告げた洋介は、素足のままで中庭に降り、詩乃の正面にしゃがみ込んだ。
 淑やかに揃えられた膝を辛うじて被っている、スカートの裾に手を伸ばす。
 裾を摘んだ指先は震え、腹の中で胃袋が浮き上がるような錯覚を覚える。
 親しい家政婦が相手とはいえ、これまでしてきた悪戯だけでも立派な犯罪行為であり、今さら恐れをなしても仕方ないのだが、女性の最も神聖な部分を自分の手で露にするには、やはり相応の覚悟が必要だった。
「ううっ……ほんとごめんね。詩乃さん」
 罪悪感を誤魔化す為だけに謝罪すると、洋介は少しずつスカートを捲りあげていく。
 まず最初に綺麗な膝小僧が覗け、続いて白いふとももが剥き出しになる。
 スカートの中で蒸れたふとももは汗ばんで、フレアの波打つ裾をひらひらと煽れば、香水混じりの甘酸っぱい芳香が生暖かい空気に乗って漂ってきた。
「詩乃さんのふともも……むちむちしてて、なんだかおいしそう」
 自然と洋介は顔を寄せて、汗でぬめるふとももの表面に舌を這わせた。
 腋の下より塩気は少ないものの、舌をどんなに強く圧しつけても、滑らかな舌触りは損なわれることもなく、恥丘にくらべて格段に豊かなその弾力は舌先に心地良い。
 ふとももの汗を丹念に舐めとり、筋肉と脂肪の隆起を舌先に感じながら、再びスカートをめくりつつ股間を目指す。
 やがてブラジャーと同じベージュ色をしたショーツが徐々に姿を現し、ぷっくりと膨らんだクロッチのきらきら輝くナイロン繊維が目の前に迫る。
 興奮した洋介は一息にスカートをめくり終え、真夏の大気の中に、詩乃の下半身を露出させた。
「ああっ……」
 それは息を呑む光景だった。
 ショーツに包まれた腰のくびれやクロッチの貼りつく恥丘のふくらみ、伸びやかに生えた素肌のふとももに、膝を曲げて中庭へと降りるか細いふくらはぎ、と目の潰れてしまいそうな腰下の様子が、惜しげもなく白日の下に晒されている。
 その中でも特に興味を引くのは、やはり股間を被う薄布である。
 詩乃の穿くショーツはベージュ色のオーソドックスなナイロン製であり、サイドにワンポイントレースがあしらわれている他は飾り気のない落ちついたデザインだった。
 確かに色気という観点からは、いささか物足りない気はする。
 けれど、普段使いのナイロンショーツより漂う、素朴な生活の匂いに、洋介は激しく欲情してしまう。
 詩乃はこのショーツを穿いたまま、自分のために掃除や洗濯、買い出しに料理と、忙しく立ち働いてくれる。
 そうした労働の中でかいた汗や新陳代謝により排泄される恥垢、その他、女性特有の分泌液が染み込んでいると思うと欲情を抑えられなくなり、洋介は詩乃の股間に鼻先を突っ込んで、恥丘に貼りついたクロッチの匂いを犬のように嗅ぎ始めた。
「くはっ」
 予想通り、汗にまみれた股布は強烈な臭気に満ちていた。
 古くなったオレンジと温めたチーズを混ぜ合わせたような匂いに思わず咽てしまう。
 しかし、洋介は嗅ぐのを止めなかった。
 それどころか、鼻先をクロッチに擦り付けて、夢中で嗅いだ。
 鼻の曲がりそうな臭い、という表現があるが、必ずしも悪い意味とは限らない。
 事実、洋介のペニスは今だかつてないほど力強く勃起し、詩乃の体臭がいかに素晴らしい興奮剤になっているか証明している。
 それこそ、病みつきになりそうだった。
「すごく綺麗な詩乃さんなのに、ここはこんなにすごい匂いがするなんて……」
 美形の詩乃ときつい体臭というミスマッチが興奮をひときわ激しいものにしていた。
 炎天下で長らく眠っていた為、ショーツはぐっしょりと汗で湿り、クロッチの中央にはしっかりと楕円系の黒い染みが出来て、押し当てた鼻の頭が濡れるほどだ。
 汗でぬるぬるするふとももに両頬を挟まれ、眩暈のするような臭気の中でクロッチに舌を圧し付けると、じゅくじゅくという、膣内に溜まった汗を搾り出す音が聞こえ、コットンの裏打ちだけでなく、外側のナイロン繊維すら染み通して、咽るほど酸味のきつい肉汁が排泄された。
 恐らくは汗や恥垢、そして膣の内壁を保護し、膣内を無菌状態に保つための分泌液が混ざり合ったものだろう。
 舌先に触れた瞬間、びりっと痺れたように身体は硬直し、全身の毛穴という毛穴から冷や汗が噴き出した。
 酸っぱくて、しょっぱくて、苦みばしった未体験の味に、洋介の神経は危うくショートしそうになる。
「ひのはんのここ……あはま……へんになひそう」
 ラリった麻薬常習者みたいに、しばし呂律が回らなくなる。
 息も絶え絶えになりながら、洋介はべろべろとクロッチを舐め続けた。
 詩乃の体液と洋介の唾液で失禁したように濡れそぼったクロッチは、糊づけされたみたいにべったりと恥丘に貼り付き、ナイロン生地を通して濡唇の形状が薄っすら透けて見える。
 腫れぼったく膨らんだ肉土手に挟まれ、ぴたりと重なり合った二枚の羽根びらが、スリット状のくぼみを作っている。
 唾液をたっぷり染み込ませて舌を押し当てると、クロッチ越しに濡れた裂唇の凹凸まで感じ取ることが出来た。
「いよいよだ、いよいよ詩乃さんのおまんこを見られる。昨日といい、今日といい、今年の夏はなんて素晴らしいんだろう」
 念願の女性器を目の前に好奇心は最高潮を迎え、コの字に曲げた人差し指と中指をクロッチの縁に引っ掻ける。
 そのまま脇にずらして御開帳しようとした途端、深い眠りに落ちていた筈の詩乃が、かすかな呻き声を上げて、いきなり股を閉じようとした。
 ふとももに顔をがっつりと挟まれ、驚きのあまり洋介は目を白黒させる。
(ば、バレたっ、今度は確実にバレたっ、うわあぁっ)
 自分の股間に顔を埋める洋介を見て、詩乃は何と言うだろう。
「あら、あら、洋介さん。そんな所で御昼寝をしてはいけませんよ。うふふっ」
 なんて、言う訳ないだろうっ。洋介は恐ろしくご都合主義な空想に喝を入れる。
 だが、奇蹟とも思える出来事は、意外と往々にして起こるもので、洋介のパニック振りを余所に、結局、詩乃は目を醒まさなかった。
「ううむ……なんか詩乃さんって、冬眠した熊みたいだな。ほとんど仮死状態。でも、これなら入れちゃっても起きないかも」
 今日の洋介は退き際という言葉を忘れていた。
 再び緩んだふとももの合間で、濡れに濡れたクロッチの脹らみを目の前に、今しがた九死に一生を得たことさえあっさり失念し、詩乃の見せた恐竜並の鈍感さに乗じて夢想する。
「ここに……ここに僕のを……」
 挿入できたらどんなに良いか。
 こんなに強く何かを願った経験はないように思われる。
 だからといって、理性を失いかけている洋介にしても、さすがにそれは不味い、ということくらいは理解できた。
「絶対に起きちゃうだろうし、目を醒ました後、フォローの仕様が無い」
 さて、どうしたものか、と考え込み、精一杯の妥協案をひねり出した。
 洋介はショートパンツを膝まで下ろし、詩乃の上に伸し掛かる。
 体重をかけぬよう腋の下を通して床に手をつき、閉じた両ふとももを跨いで狙いを定める。
 そして反り返るペニスを片手で押さえ込み、クロッチとふとももの隙間に恐る恐る挿し込んだ。
「うっ、ああっ……すごっ……」
 股布に被われた濡丘の膨らみと、同じく濡れた両ふとももによって、ペニスは三方から満遍なく締めつけられる。
 どちらを向いても、弾力たっぷりの申し分無い柔らかさだ。
 しかも、汗と唾液によって、すっかり滑りは良くなっていた。
「うっ、うっ、うっ、ぬ、ぬるぬるするよぅ」
 腰を上下に揺すって、股間のトンネルにゆっくりと抜き差しを繰り返す。
 ひと突きするたび、亀頭のえらはクロッチに擦れてめくれ上がり、腰の抜けそうな快感が背筋を駆け上って脳天に炸裂した。
 ふとももに手を添えて両脇からぎゅっと挟み込むと、生きているオナホールは左右からペニスをきつく圧迫し、本物の膣に挿入しているような締まり具合と濡れ具合に、洋介は交尾する猿のように腰を突き動かして、恍惚の境地をさ迷った。
「あっ、あっ、あっ、外から擦りつけてるだけでこんなに気持いいなんて、中に入れたらいったいどうなっちゃうんだろう。もし詩乃さんとセックスできるなら、僕もう、何もいらないよ」
 ぐったりとして動くことのない詩乃を犯しながら、洋介は思い出していた。
 かつて見た、クロロホルムで昏睡させた女性をレイプするAVのことを。
 まったく反応しない死体のような女優に挿入し、そのまま膣内で射精してしまう内容に、いけないと思いつつ、恐ろしく興奮したのを覚えている。
 挿入こそしてはいないが、さながら生身のダッチワイフと化した詩乃の身体を無断で拝借し、その股間にペニスを抜き差しする今のシチュエーションは、まさしく昏睡レイプと言える。
「くそっ、入れたいっ、入れたいっ、詩乃さんの膣に根元まで突っ込んで、一番奥で中出ししたいよっ」
 いつ詩乃が目覚めるか分からないスリルの中、身も震えるような興奮に激しく勃起したペニスをひたすら狭穴に突き入れる。
 驚いたことに射精の予兆はまだ随分と遠い。どうやら敏感な亀頭部分をクロッチとふとももに擦られ、神経が麻痺したように鈍くなって、射精運動を圧し止めているらしい。
 アヌスを引き絞る必要もなく、慣れない腰使いに任せてがんがん詩乃の股を突く。
 快感は痛いくらい伝わってくるのに、どうにもイクことは出来ない。
 射精の瞬間を延々と先延ばしにされ、結果として続く無限の射精感の中で、洋介の視界はぐにゃぐにゃと歪んでいく。
「うあぁっ、なんだこれっ、すごいや。こんなに激しくしたら、いつもならとっくに出ちゃってるのに……ああっ、まだだ、まだ続くよ。どんどん気持ちよくなってくる。これ以上したら、あ、頭おかしくなっちゃうよぅっ」
 言葉に反して、肝心の腰は一層激しくピストン運動を繰り返す。
 洋介はすでに擬似セックスのもたらす快楽の虜となっていた。
 しかし、もう一生射精できないかもしれない、という得体の知れない不安に駆られ、だんだんと怖くなってくる。
 今現在も確かに気持ちは良いのだが、射精の瞬間だけが持つ、このまま死んでも構わないと思えるほどの絶頂感は得られない。
 イケそうでイケない無間地獄の中、真夏の太陽に焼かれて洋介は汗だくで腰を振る。
 額から滴る汗はノースリーブにいくつもの染みを作り、振動でゆさゆさ揺れる乳房は胸板に擦れて少しずつブラジャーのカップがずれていく。
 あまり激しくしたら詩乃を起こしてしまうのに、もはやそんなことすら気にする余裕も無く、ひたすら射精の瞬間だけを求める洋介は、荒ぶる種馬となって詩乃の股間にざくざくとペニスを突き立てた。
「あっ、く、来るっ。すごいのが、来るっ。ああっ」
 首の後が急激に熱くなり、腰の中心は痺れて、ぐつぐつと煮えたぎるマグマが溜まっていく。
 アヌスの奥底で引き攣るような括約筋の収縮が始まり、込み上げる精液に圧迫されて、睾丸の裏に重苦しい鈍痛を感じた。
「で、出ちゃう……何もかも……全部出ちゃうよぉっ」
 生殖機能ごと吸い尽くされる錯覚に危うく嘔吐しそうになる。
 瞬間、括約筋によって搾り出された精液は狭い尿道へと一気に流れ込み、膨張した尿道は前立腺を刺激して、目も眩む恍惚感が脳内に溢れ出した。
「あへぇっ」
 脳の中に射精したとも思える、おぞましくも鮮烈な快感に神経を侵され、気付いた時にはクロッチの膨らみに向けて、ありったけの精液をぶちまけていた。
 経験したことのない大量射精に、鈍器で殴られたような衝撃が後頭部に走り、目の前は真っ白になる。
 不気味な痙攣に腰を打ち震わせ、背筋を目一杯に反り返らせた姿勢で、洋介の眼球はゆっくりと裏返っていく。
 周囲の景色がぐるりと回転し、力無く崩れ落ちた洋介は柔らかな乳房にしっかりと抱き留められ、詩乃の優しい鼓動に包まれながらぶくぶくと泡を吹く。
 今だ続く射精運動のままに白濁液を垂れ流し、辛うじて残った意識の最後の灯火が消える刹那、洋介は自分の名を呼ぶ詩乃の、悲痛な声を聞いた気がした。
 
 遠く聞こえる風鈴の音に耳を澄まし、頬を撫でるやさしい風に目を醒ますと、洋介は月明かりの中にいた。
 まるで昼間の熱気は夢であったかのような涼しさである。
 居間に敷かれた布団に身を横たえ、心地良い風の吹き来る方を朧気に見つめる。
 灯りを消した居間の月影に被われた蒼い闇の中、見覚えある浴衣を着た詩乃がそこに正座し、団扇でゆらゆら、こちらを扇いでいた。
「詩乃さん……」
 夜更けにも拘わらず、何故、詩乃がいるのか、すぐには分からなかった。
 事の経緯を思い出そうにも、記憶は靄に包まれている。
「お目覚めですか。洋介さん」
 ああ、良かった、と目を綻ばせて、詩乃は笑った。
「お医者様に診て頂いたんですよ。軽い熱射病だそうで、幸い大したことはないそうです」
「熱射病……僕が?」
 洋介はようやく思い出した。
 眠る詩乃に向かって、熱射病になると注意した上でのこのざまである。
 まったく世話がない。
 それより、人事不省に陥って医者を呼ばれてしまったのだから、自分のした破廉恥な行為はすでに発覚している筈だ。
 その証拠に、洋介の格好はいつもの部屋着ではなく、これまた見覚えのある、少し大きめの浴衣に着替えさせられていた。
「その……詩乃さん、僕……」
 何をどう話せば良いのか分からなかった。
 罪悪感から目は合わせられず、謝ろうにも胸が詰まって言葉が出ない。
 そうこうするうち、詩乃は畳に三つ指をついて、深々と頭を下げた。
「ごめんなさい。洋介さん」
 謝るべきところを、逆に謝られてしまい、洋介は面食らう。
「私が余りに無神経でした。若い洋介さんのお気持ちも考えずに、昨晩、あのようなはしたない真似をしてしまって。そうでなければ、こんなことには……」
 どうにも話の様子がおかしい。このままでは詩乃を悪者にしてしまう。
「待って、待って。それは違うよ」
 自分を責める詩乃を制して、洋介は慌てて割り込んだ。
「だって、昨日のことは僕のためにしてくれた事じゃないか。すごく嬉しかったよ。正直に言うとね、勉強そっちのけで一晩中オナニーしてたんだ。今朝は今朝で、詩乃さんが平気な顔してるの見てなんだか悲しくなって……でも、廊下で寝てる詩乃さん、すごく綺麗だった。すごく綺麗だったから調子に乗って……その……詩乃さんの身体にいろいろと……い、いやらしいことを……」
 面と向かって悪事を白状するのはとても辛い。
 まして、内容が性的な事ともなれば尚更である。
 その昔、母親にグラビア本を見つけられた時の何十倍も恥ずかしかった。
「とにかく、悪いのは全面的に僕なんだ。謝らないといけないのは僕の方だよ。医者まで呼んでもらって、また迷惑かけて……ほんと何から何までごめん。だから……」
 勢いに任せてまくし立てた洋介は、最後の最後で口篭もってしまう。
 その言葉が現実になるのを何よりも恐れていた。
「お願いだから、僕を嫌いにならないで」
 渾身の力で絞り出した時には、すっかり涙声になっていた。
 一連の懺悔を黙って聞いていた詩乃は、今にも泣き出さんばかりの洋介をじっと見つめ、やがてくすりと微笑んだ。
「洋介さんは……私のこと、好きですか?」
「えっ」
「私は……洋介さんが大好きですよ」
 それは眠る詩乃にした、洋介の告白をもじったもの。続けて詩乃は言う。
「私のことを好きと言って下さる方を、嫌いになんてなれません」
「お、起きてたの、あの時」
「いくら私でも、熊のように冬眠はしません。今は夏ですし」
 軽口すら、しっかりと聞かれていた。
「だったら、どうして……」
 何もかも知っていて、その上で洋介の好きにさせていたというのか。
「洋介さんのお気が済むのでしたら、それで良いと思いました。女性の身体に興味を抱くお年頃ですし、昨夜のこともあります。さすがにセックスまでは出来ませんが、受験勉強のお手伝いになるのなら、私の身体くらい、幾らでもお預けしようと。でも……」
 詩乃は困った顔で頬に手を充てる。
「先ほど、おっしゃっていましたね。一晩中、オナニーをなさっていたと」
 全く余計な事を言ってしまった。わざわざ恥の上塗りをする必要はなかったのに。
「それでは困ります。受験勉強がおろそかになっては本末転倒ですから」
「うっ……じゃ、じゃあ……もうしない」
 何の説得力も無い安請け合いだった。これでは万引きを咎められた子供と一緒だ。 さすがの詩乃もぷっと噴き出し、団扇でゆっくりと口を被った。
「まあ、それはそれでお体に悪いですわ。何と言っても、洋介さんは健康な男の子なんですから」
 そこで詩乃は健康で思い出したと団扇を置き、冷えた麦茶を持って来てくれた。
 水分をたくさん摂るようにとの、医者の言付けらしい。
 洋介自身、弁明するのに忙しくて忘れていたが、喉はカラカラだった。
「ぷは〜、生き返るなぁ」
 愛用の特大グラスから、麦茶を一気飲みして太い息を吐く。
 すると詩乃は笑って言った。
「晩酌をなさる時のお父様にそっくり」
 何気ない一言に洋介は考える。
 詩乃がやって来たのは両親の亡くなった後のこと。
 紹介者の叔父は、自分の知り合い、と説明しただけで、両親との関係については何も言っていなかった。
「詩乃さんは父さんを知ってるの?」
「えっ……」
 詩乃は明らかに動揺して目を逸らす。
 なにやら、訊いてはいけいないことを訊いてしまった、いわゆる地雷を踏んだ雰囲気が、しばしの静寂となって居間を包んだ。
「その昔、まだ私が若かった頃、洋介さんのお父様に、お世話になっていた時期があったんです」
「そ、そうなんだ……あは、あはは……」
 緊張感に耐えられず、洋介は一刻も早く、その話題から離れようとする。
 万が一、詩乃の口から、実は在りし日の父親の恋人、もしくは愛人だった、などと衝撃の告白をされた時には、どのように接して良いか分からなくなってしまう。
「先ほどのお話に戻りましょう」
 仕切り直すように落ちついて詩乃は言った。
「な、なんだっけ」
「洋介さんが受験勉強に集中できますよう、私にお手伝いさせていただきたいんです。もちろん、学校のお勉強は教えて差し上げられません。けれど、もっと別のことでしたら、私にも……」
「別のことって……まさか」
 洋介だって馬鹿ではない。詩乃の言わんとしている意味くらい理解できた。
 しかし、だからといって、渡りに舟と喜んで良いものかどうか。
「私のような年増が相手では、きっとご不満もありましょうが……」
「ないっ、ないっ、ないっ」
 首をぶんぶん振って全力で否定した。せっかくのチャンスをフイにしてなるものか。
「えっと……その……」
 詩乃に倣って正座をすると、洋介はぺこりとお辞儀をする。
「よろしくお願いします」
 なんとなく、そうしないといけない気がした。
 それを見た詩乃は嬉しそうに微笑み、再び三つ指をついて深々と頭を下げる。
 向かい合う二人はまるで、新婚初夜を迎えた夫婦みたいだ。
「こちらこそ、よろしくお願いします。では、用意をしますので、浴衣の帯を緩めて下さい。お医者さまのお言い付けで、洋介さんは今夜、お風呂には入れません。私がお体をお拭きします」
 捲り上げた浴衣の袖を紐で縛ると、詩乃はいそいそと桶を用意し、湯を張って手拭を沈める。
 洋介は戸を開け放ったままの縁側を向いて、布団の上に胡座をかき、帯を緩めて浴衣から上半身を肌蹴させた。
 寝汗をかいた身体に、夜風がひんやり気持ち良い。
 廊下の真中にはピンク色をした陶器製の豚が置かれ、そのぽかんと開いた口より立ち昇る煙は、風に乗ってのんびり居間へと流れ込んでくる。
「ねえ、詩乃さん。僕と詩乃さんの着てる、この浴衣なんだけど……」
「衣装箪笥に仕舞ってありましたので、勝手に使わせていただきました。おそらく、お父様とお母様がお使いになられていた物と思います」
 見覚えがあるとは思っていたが、詩乃に言われてやっと思い出した。
 まだ小さかった頃、毎年夏の終りには、浴衣を着た両親に連れられ、必ず神社の祭りに行っていた。
 浴衣を着た母親の美しさは、今も脳裏に焼き付いている。
「箪笥の中には洋介さんの可愛い浴衣も仕舞われていましたよ」
 きつく絞った手拭で詩乃は背中を拭き始める。
 ほかほかする手拭は汗や皮脂を綺麗に拭い去り、そこへまた夜風が吹き込んで、さっぱりとした気分になった。
「うん、思い出した。三人で浴衣着て、よく神社のお祭りに行ったよ」
「楽しかったですか」
「楽しかった……すごく。今年はさ、詩乃さん。一緒に行こうよ、夏祭り」
 思い切って誘ってみる。
 詩乃を家に迎えてから、はや四度目の夏になるというのに、一緒に祭りへ出かけたことは一度もなかった。
 思いがけず詩乃の浴衣姿を見てしまい、元の持ち主である母親に勝るとも劣らない、その浴衣美人振りにのぼせた洋介は、二人並んで縁日を歩く様子を、ありありと思い浮かべてうっとりする。
「ごめんなさい。お祭りの日には、家の方でどうしても外せない用事がありまして、どうか許してください」
 例年と同じ台詞でひどく申し訳なさそうに詩乃は断る。
 祭りの日に何があるのかは未だにわからない。でも、仕方ないと思った。
 年に一度だけ、祭りの日を除いては、毎日通ってきて朝から晩まで洋介の面倒を見ているのだから、自分の家庭での時間はほとんど無いだろう。
 気乗りしない様子なので無理に訊ねる訳にもいかず、結果として洋介は、詩乃の家庭について何ひとつ知らないまま今日まできてしまった。
「ううん、僕の方こそ、無理を言ってごめん。詩乃さんには帰るべき家庭があって、待っている家族だっているんだものね。だから、仕方ないよ」
 拗ねていると思われないよう、出来る限り明るく振舞う。
 しかし、その実、かなり落ち込んでいた。
「洋介さん……」
 手拭を持った白い腕に背後から抱きすくめられ、熱くて柔らかい何かが、うなじに吸いつく。
 驚きに身を固めた洋介は、遅蒔きながらキスされていると気付いて真っ赤になった。
「私はただの家政婦ですが、洋介さんを実の家族のように思っています」
 耳元で囁くやさしい声は、同じ分だけ憐れみを帯びて、胸の奥にじんと染み込む。
 浴衣に被われただけの乳房を背中に押し当てられ、一時、夜風に冷まされた体温は、即座に転じて沸点へと駆け昇った。
「さ、今度は前を拭かせていただきます。横になってください」
 言われるままに身を横たえると、詩乃はすぐ脇に正座をして前屈みになり、洋介の首筋をそっと拭う。
 鼻先まで迫る美しい顔に、目を合わすのも恥ずかしく中庭を見やれば、天井の梁ぎりぎりの高さにぽっかりと浮かぶ月が覗けた。
「今日は……帰らなくても良いの? 終電、無くなっちゃうよ」
 じっと月を見つめたまま、洋介はわざと訊いてみる。
 これまで誘った試しは数知れず、けれども、詩乃が泊まっていった事はただの一度も無い。
「倒れられた洋介さんを一人にしては帰れません。今夜は泊めて下さい」
 胸板を丁寧に拭いながら、詩乃は答える。
「布団、もう一枚敷かないといけないね」
 更に念を押したところ、詩乃は短く、
「必要ありません」
 とだけ返事をして、浴衣の帯を解いた。
「あっ……」
 剥き出しになった下半身を風に撫でられ、洋介は驚く。
 慌てて首を起こすと、半勃ちになったペニスが夜風に堂々と晒されていた。
「し、詩乃さんっ」
 声をかけるより早く、詩乃はペニスの根元を掴んで引き起こし、手拭を巻きつけて上下に擦り始める。
 包皮を剥き下ろされる甘美な痛みと手拭越しに感じる掌の柔らかさに、洋介は腰を震わせて続く言葉を飲み込むしかなかった。
 亀頭のくびれに親指の付け根を添え、中指で裏の筋を押えた詩乃の手は、ぷっくり膨らんだ亀頭全体を転がしながら肉李の表面を摩擦する。
 昨夜と異なり石鹸の潤滑は無く、最も敏感な部分をざらつく手拭に擦られて、薄皮を剥き取られそうな熱い快感に身悶える。
 やがて肉茎の根元まで達した手拭は続いて陰嚢を包み、皺を伸ばすようにやさしく引っ張ってはごしごしと拭う。
 既にペニスは完全に勃起しており、詩乃の鼻先で力強く屹立していた。
 流れるような手際の良さに何も言えず、洋介は無表情な月と分の悪い睨めっこを続ける。
 そうしている間に、詩乃は空いている手で洋介の股を容赦無く開かせ、陰嚢の裏を露出させてしまった。
(ああっ……)
 あまりの恥ずかしさに、洋介は腕で顔を被ってしまう。
 例え相手が詩乃であっても、尻の穴まで見られては、もうお婿に行けないと思った。
 そんな洋介の羞恥心には気付かず、手拭は直接アヌスに擦りつけられる。
 尻の中心を湿った感触に貫かれ、反射的に括約筋を絞った洋介の腰は、射精の瞬間さながらにびくんびくんと跳ね上がった。
「ふう……お疲れ様でした。これで一通り……どうかなさいましたか、洋介さん」
 手拭を桶に沈めて一仕事終えた詩乃は、達成感に満足する傍ら、心配そうに訊ねてくる。
 一方、レイプされた気分で一杯の洋介は、顔を被った腕の下で、涙目になってすんすんと鼻を鳴らす。
「ご、ごめんなさいっ。私ったら、つい一生懸命になってしまって。そうですよね。男の子だって、恥ずかしいですよね」
 掌で口を隠した詩乃は、堪え切れずにくすくすと笑い出す。
「でも、今の洋介さん、なんだか女の子みたいで可愛いです」
 あまり慰めになっていなかった。
「さぁさ、そろそろ、ご機嫌を直してくださいな」
 詩乃は洋介の腕をやさしく退けると、掌で両頬を包んでフレンチキスを唇にチュッ。
 きょとん、とする洋介の目をじっと覗き込み、しっとり濡れた瞳で、
「くださいな……」
 と、繰り返す。すると洋介は、
「……直った。今、直った」
 恐ろしく簡単に出来ていた。
「フフフッ、ありがとうございます。でも、よかったですわ。御主人様のご機嫌を損ねては、家政婦の仕事は成り立ちませんもの」
 冗談めかして詩乃は言う。
「ご、御主人様っ!?」
「いま、若い方の間で流行っていると訊きました。あちらこちらに喫茶店なども出来ているそうで。もし、お望みでしたら、そのようにお呼びしてもよろしいんですよ。この年ですから、さすがにエプロンドレスは着られませんが」
 それは強烈な誘惑だった。
 エプロンドレスを身に着けた詩乃から、御主人様と呼ばれる光景を想像して眩暈を覚える。
 だが、しかし、
「す、すごく嬉しい提案だけど、でも、止めておくよ」
 何の不満も無い今の生活が、何処か芝居じみてしまう気がした。
 それに名前で呼んでもらう方が、よほど親しみも湧くというものだ。
「そうですか。以前、お部屋をお掃除した時に、そういう本を何冊も見つけてしまいましたので、てっきりお好きなものとばかり思っていましたが、早とちりでしたね」
 絶望のどん底へと明るく洋介を突き落とし、けれど、それに気がつかない詩乃は、隆々と勃起しているペニスを素手で握って、硬さを確めるように軽くしごいた。
「何時の間にか、すっかり硬くなってしまいました。昨晩から随分とお出しになっている筈なのに、こんなに元気だなんて、若さというのは素晴らしいものです」
「あっ、あっ、あうぅっ」
 アヌスを陵辱され、ぐったりと脱力していた洋介は、不意を突かれて思わず喘いだ。
 昨晩に続いて、二度目となる詩乃の素手は温かく、絡みついた指はきゅっきゅっと素晴らしい締め付けで肉茎を圧迫してくる。
「洋介さんは敏感ですね。もう先っぽをお濡らしになって。これでは落ちついて出来ませんから、取り敢えず一度、手で抜いておきましょう」
「と、取り敢えず一度って……」
「中途半端に溜まったままですと、明日のお勉強に差し支えます。今夜は打ち止めになるまでお休みにはなれません。どうぞ、そのおつもりで」
 さらりと宣言した詩乃は、ペニスへの愛撫を続けながら洋介に顔を近づけて、そのまま唇を奪った。
「んっ……んん……」
 大人のキスのお手本とばかりに唇を強く圧し付けると、めくれた上唇の隙間からつるりと舌を滑り込ませる。
 濡れた舌先は口腔を丹念に掻き回し、誘き出した洋介の舌に唾液を滴らせて絡みついた。
 互いの唾液が音を発てて混じり合い、口の中に詩乃の味が広がる。
 吹きかかる熱い鼻息に頬をくすぐられ、洋介は夢中で詩乃を求めた。
「詩乃さんっ、詩乃さんっ」
 唇を密着させて、うっとりするような柔らかさを少しでも多く味わおうとする洋介に対し、詩乃は餌をついばむ小鳥のように、断続的に唇を離して、舌先でちろちろと表面を舐め取る。
「そう言えば、昼間はちゃんとキスをしてくださいましたね。とても嬉しかったです。どんな女性も優しいキスには抗えぬもの。覚えておきましょうね」
 しっかりとレクチャーした詩乃は食むように深く接吻すると、洋介の舌を強く吸う一方、力強く勃起して下腹に張りついているペニスを掴んで引き起こし、天井に向けてリズミカルなピストン運動を始めた。
 握力を調節することで、亀頭の先から根元までを満遍なくしごき上げ、時折、手首をひねってはペニスに回転を加える。
 鈴口から溢れ出す先走りの樹液に潤滑された、ローションでも塗ったような掌の滑り具合は、得も言われぬ喜びで、洋介の腰を痺れさせていく。
「あっ、あっ、詩乃さんの手、ぬるぬるして気持ちいいよっ」
「それは洋介さんがとっても敏感だからですわ。この通り、先っぽから幾らでも溢れてきます。こんなにお濡らしになって、やっぱり女の子みたいですね。さて、乳首の方はどうかしら」
 そう言って、ほくそ笑んだ詩乃は、身体を摺り下ろし、洋介の乳首に舌を這わせる。
 普段、触れることの無い乳首はとても敏感で、軽く転がされただけでも、こそばゆい性感に背中をよじって悶えてしまう。
「そ、そこは……詩乃さんっ、そこはやめてっ」
「女性からの愛撫にも慣れておきませんと、積極的な女性をお相手した時に、すぐにイカされてしまいます。その証拠にほら、洋介さんのおちんちんはぴくぴくと痙攣を起こされていますよ。これではもう幾度かおしごきしたら、辛抱堪らずに昇天なさる他ありませんわ」
 詩乃の言う通り、限界はすぐそこまで来ていた。
 デイ―プキスや乳首へ愛撫を受けながらの手淫は初体験であり、意識があちらこちらに散って、踏ん張りが利かない。
 詩乃直伝のアヌス絞りも、絶え間無い快感に邪魔されて脳のコントロールが乱れ、下半身は思うように言うことを聞かなくなっていた。
「洋介さんはまだ女性に不慣れですから仕方ありません。私を相手に経験をお積みになられて、気を逸らす方法を身につけてください。では、参ります」
 詩乃は再び唇を重ね、ねっとりと舌を絡める。片手の指先で乳首を執拗に転がし、ペニスを愛撫する掌は一層きつく握られて、一回一回のピストン運動も、その鋭さを増していく。
 深く前屈みになった詩乃の浴衣は乱れて、胸元からブラジャーに被われていない、生白い乳房の谷間が覗けた。
 ペニスをしごくたびに乳房は揺れ、垂れ下がっては洋介の胸板にバウンドする。
 躍り狂う巨乳に浴衣の乱れは激しくなり、紅色をした小梅大の乳頭が、襟の向うに見え隠れした。
 しかも、それはぴんと膨らみ、一見余裕を持ってリードしているかに見える詩乃が、自身もしっかりと感じていることを雄弁に物語っていた。
(あぁっ……詩乃さんの乳首、小さくて、紅くて……なんて可愛らしいんだ。これが夢なら醒めないでくれっ)
 迫り来る絶頂に急き立てられ、洋介は無意識のうちに詩乃の胸をまさぐっていた。
「んっ、んっ、んっ」
 思わぬ反撃に驚いた詩乃は、接吻したまま、くぐもった喘ぎを漏らす。
 洋介の両手は浴衣の上から乳房を捕らえ、下から持ち上げる形で揉みし抱いていた。
 とても手には納まらない柔肉の塊を、マッサージでもするような指使いで、存分に揉みほぐす。
 指先はマシュマロさながらの弾力を感じつつ、巨房の稜線をぐにゃりと歪ませ、奥へ奥へと、どこまでも呑み込まれていく。
 愛撫につられて詩乃の身体は小刻みに痙攣し、面白いほど敏感に反応した。
(詩乃さんが僕の指で感じてくれてるっ)
 昼間、眠っている詩乃の肉体を悪戯している時には、決して味わえなかった感動に打ち震える。
 薄く目を開いた詩乃は眉をひそめ、眉間には切なげな皺を寄せている。
 洋介の愛撫に無言で喘ぎながら、けれどその瞳は、我が子の成長を喜ぶように柔和な微笑を湛えていた。
 そんな詩乃の優しい微笑みに包まれて、洋介の身体は絶頂を迎える。
「もうだめだよ、詩乃さんっ。僕、もうっ……い、イクぅっ」
 ふっと一瞬、意識は遠退き、信じられない幸福感が全身を包んだ。
 唇を、乳首を、そしてペニスをこれでもかと愛され、掌には柔らかな巨房を味わい、甘い吐息を胸いっぱいに吸い込む今この瞬間、洋介は確かに極楽浄土へと昇天していた。
「あひぃっ」
 射精の脈動に腰を刺し貫かれ、詩乃の手の中でペニスが弾けた。
 精の迸りが尿道を駈け抜けるたびに、高圧電流でも流されたように脊髄は痺れて、快感で脳が砕けるかと思った。
 脳から溢れ出た悦楽は神経を焼き尽くしながら全身の隅々にまで駈け巡り、操り人形のように洋介の四肢を痙攣させる。
 天井に向けて噴き上げられた精液は熱い雨となって下腹に降り注ぎ、脇腹を伝って流れ落ちてはシーツに黒い染みを広げていく。
 詩乃は決して唇を離さず、洋介の舌を強く吸って、射精に応える。
 ペニスを掴んだ掌は、徐々にペースを落としながらも、ゆったりとしたピストン運動を繰り返して更なる射精を促し、一方、洋介は最後の力を振り絞って括約筋を収縮させ、悦びの証を残らず詩乃へと捧げるのだった。
 静かに舌を抜き取った詩乃は、もう一度、愛情を確めるように長々とキスをする。
 そして、無言のまま洋介の下半身へと向き直り、足の指を立てて正座をすると、下腹に吐き出され、白く濁った液溜まりを作っている生命の滴を、丹念に舐め取っていく。
 洋介は射精の余韻に忘我の境地をさ迷いながら、脇で揺れる浴衣包みの尻にそっと手を添えた。
 一瞬、びくりと震えた尻は、またすぐに規則的な揺れを取り戻し、それを同意と受け取った洋介は、遠慮せず詩乃の尻をまさぐり始めた。
 正座によって踵のめり込んだ尻は扁平し、はちきれんばかりの緊張を保っていた。
 巨大な鏡餅のようにも見える尻を片手で撫でながら、洋介は腹の上で蠢く詩乃の様子を呆然と眺める。
 洋介に尻を任せたまま、詩乃は精液の飛沫を残さず舐め終え、萎えかかって先端から滴を垂らしているペニスを迷わず口に含んだ。
「うくっ」
 射精直後のペニスは敏感なのに、それをいきなりフェラチオされて、洋介は呻いた。
 白濁液に塗れたペニスを根元まで咥え込むと、詩乃は舌先で螺旋を描きながら少しずつ頭を引き上げていく。
 舌は肉茎の表面を這い回り、欲望の名残りを舐め取っては飲み下す。
 そのたびに白い喉は上下に揺れ、詩乃の深い愛情を見せつけられる。
(詩乃さんが……僕のを飲んでくれてる)
 底知れない感謝と悦楽に洋介は震えた。
 濃厚なフェラチオの快感に加え、普段はティッシュにぶちまけている排泄液を、詩乃は嬉々として舐め取り、飲み下してくれている。
 信じ難いその光景は、すでに情熱を解き放ち、精も根も尽き果てた筈の洋介に再び力を与えた。
「洋介さんたら、お出しになったばかりなのに、もうこんなに硬くなさって……」
 ずるりとペニスを吐き出した詩乃は、萎える間も無く勃起した回復力に舌を巻く。
「詩乃さんのおかげだよ。信じられないくらい気持ち良かった。それに僕のを飲んでくれて……」
「フフフッ、たくさんお出しになりましたものね。洋介さんのミルク、とても濃くて美味しかったですわ。それにこれだけお元気なら、もう一度くらいは頑張れそう」
 ペニスをしっかり握ったまま、詩乃は浴衣の裾を押えて洋介の胸を跨いだ。
 背中を弓なりに反らせ、軽く腰をひねって振り返ると、後手にヒップの谷間を撫でつける。
「昼間は随分とこちらに興味を抱かれていたご様子。それで洋介さんが満足されるなら、私、何をされても構いませんわ。さ、洋介さんのお好きになさってください」
 昼間、あと一歩の所で果たせなかった夢の行為が、今こうして完全に許されている。
 信じられない思いの洋介は、目の前に突き出されたヒップを、浴衣の上から両手で掴んでみた。
「あんっ」
 鼻にかかった甘い吐息を漏らして、詩乃は愛撫をせがむ牝猫のように尻を振った。
 緊張に力が入り過ぎ、指先を深々とヒップに突き立ててしまったのだ。
 乳房とは一味違う、もちもちと指先に吸いつく強烈な弾力。
 顔を押し潰されそうなビッグサイズにずっしりと重い肉の質感。
 何もかもが、洋介の感覚を狂わせていく。
「いけませんわ、洋介さん。女性の身体に触れる時は、もっとやさしくしてくださらないと」
 困った顔で詩乃はやんわりとたしなめる。
 その表情がまた色っぽくて、洋介は焦りながらも欲情してしまう。
「ご、ごめんっ。いまいち力加減がわからなくて……」
 謝る一方で桃尻に張りついた浴衣という薄皮をするすると剥いていく。
 丸いヒップの表面を浴衣はなめらかに滑ってずり上がり、裾がめくれていよいよ全貌が露になる。
 待ちに待ったその瞬間、
「な、なんてこったっ」
 興奮の余り、洋介は意味不明な叫びを挙げてしまった。
 詩乃はショーツを穿いていなかった。
「はしたなくてごめんなさい。急なお泊まりでしたので、替えの下着を用意できませんでした」
 昼間に穿いていたショーツは洋介が汚してしまい、つきっきりで看病していた為に、買い出しにも出られなかったのだろう。
 浴衣の向うから顔を覗かせたのは、巨大な白桃を思わせる丸々としたお尻だった。
 一糸纏わぬ牝尻は、ほんのりピンクがかった双房の谷間から、女体の秘密を隠すことなく曝け出している。
 尻肉とふとももの付け根に縁取られ、緩やかな曲線を描いてこんもりと膨らんだ恥丘の表面には、艶やかな若草が黒々と萌えていた。
 中央にはナイフでざっくり切り裂いたような、猫の瞳にも似た鋭い裂孔が縦に刻まれ、紅を敷いた大きな唇にも見える裂孔の端、よく整えられた若草に囲まれて、包皮を被った小さな肉の芽が膨らんでいる。
 そこから始まる左右一対の薄い肉びらは、股を開いているというのにぴたりと一筋に重なり、真っ直ぐに恥丘を貫いて褐色のアヌスを指し示す。
 詩乃の息遣いに合わせてアヌスはヒクヒクと膨らみ、まるでヒップそのものが呼吸しているように見えた。
「す、すごいやっ、詩乃さん……何もかも丸見えだよ」
 感嘆の溜息も吐き終わらぬ間に、今度は力加減に気をつけて、両手でそっと尻肉を掴んでみる。
 すべすべとした餅肌の奥にはみっちりと中身が詰まっており、左右から寄せ上げて手を離すと、膨らんだ水風船のように震えてすぐさま元の形に戻っていく。
「ああっ、恥ずかしい……でも、これが女性の身体です。よくご覧になってください。そして触れてみてください。これもまた立派なお勉強ですから」
 羞恥に染まった顔を見られまいと、前屈みになった詩乃は再びペニスを咥える。
 下半身に熱いぬめりを感じた洋介は、憧れのシックスナインを体験していると気付いて歓喜に咽ぶ。
「詩乃さん……僕たち、今、シックスナインをしてるんだね。ううぅっ、詩乃さんに舐めてもらいながら、僕も詩乃さんのを……なんて、幸せなんだろう」
 ペニスに被せられた詩乃の唇は強く窄まり、亀頭の先から根元までを、ゆっくりと往復し始めた。
 つるつるした口腔の粘膜に擦られ、先端は喉の奥に楽々と届いている。
 ひっつめ髪がバウンドするとヒップは震えながら前後に揺れて、今にも洋介の顔を押し潰しそうになる。
 鼻先に触れるほど急接近した詩乃の股間には、昼間とは異なり濃密な石鹸の匂いが発ち込めていた。
「洋介さん、私のあそこは臭いませんか? 先ほど、お風呂をいただいたのですが……。昼間は随分と臭いましたでしょう」
 フェラチオの途中で唇を離し、片手でペニスをしごきながら訊いてくる。
「うっ、うっ、詩乃さんのここ、石鹸の良い匂いがする。でも、昼間の匂いだって、僕は大好きだよ」
「そんな……恥ずかしいですわ。喜んでいただけて光栄ですが、シャワーを浴びる前にあまり女性の匂いを嗅いではいけません。あの時は私、恥ずかしくて悲鳴をあげてしまいそうでした」
「ごめんね。ごめんね。でも僕っ……僕ぅっ」
 石鹸に混じって再び胎内から匂い始めた酸っぱい恥臭に、鼻腔は痺れ、肺が焼ける。
 咳き込むのを堪え、両手の親指で裂口を左右に広げると、詩乃の中は目に鮮やかなサーモンピンク色をしていた。
「詩乃さんの中……なんて綺麗な色をしてるんだ。僕はいま、詩乃さんの身体の中を覗いてるんだね」
 医学の上で膣は内臓に分類される。
 グロテスクとも言える女性器とその内部を覗き込んで、洋介の頭はクラクラした。
「い、いけませんわ。そんなに奥までご覧になっては。自分でも見たことはありませんけれど、きっと気味の悪いものまで見えてしまいます。ああっ、どうしましょう」
 詩乃は亀頭をぺろぺろ舐めることで羞恥心を誤魔化そうとしていた。
 両手を使って絶え間無く手淫を施し、心なしか射精を急かしているようにも思える。
「だ、ダメだよ。そんなに強くしたら、また出ちゃうってば。僕だけ先にイカせて、授業を打ち切りにするつもりなの?」
「そ、そんなつもりは……」
「だったら、もう少しだけ我慢して。僕、大好きな詩乃さんの身体を、隅々まで知りたいんだ」
「わ、わかりました。では、しばらくの間、私は何もせず、洋介さんにすべてをお任せします」
 ペニスから手も唇も離して、詩乃は背中を起こす。
 大胆にまくり上げた浴衣の裾を前でまとめ、洋介の見やすいようにヒップの谷間を両手で広げると、恥ずかしそうに呟いた。
「ど、どうぞ……お好きなようにしてください」
「ありがとう、詩乃さん。ほんとにほんとに大好きだよ」
 洋介は心の底から感謝し、詩乃のもうひとつの唇に優しいくちづけをした。
「あっ、あっ、洋介さんが私のを舐めてくださっている……こんなことって……」
 詩乃がヒップを突き出すたびに秘裂はわずかに開閉し、濡れ光る紅い内壁が覗ける。
 それは詩乃の中心に刻まれた、癒える事の無い傷口のよう。
 奥からは透明な液体がとろりと溢れ出し、洋介の顔をめがけてぽたぽたと滴り落ちてくる。
 震えるヒップをがっしと鷲掴み、薄開きになったスリットを舌先でなぞると、ぴちゃぴちゃと卑猥な液音が鳴って、舌に生々しい粘膜の温もりを感じた。
 尖らせた舌を精一杯に伸ばし、淑やかに開いた膣孔に滑り込ませては、詩乃の胎内を思う存分探検する。
 でこぼこした内壁にはびっしりと肉ひだが生え、膣洞を広げたせいで止めど無く涌き出る澄汁はほんの少しだけ粘り気を帯びて、御吸物に酢を混ぜ込んだような味がした。
「あうぅ……そ、そんなに奥まで入っていらしたら、私、腰が抜けてしまいますっ」
 刺激的な言葉に煽られ、洋介は詩乃を苛めてみたくなる。
 胎内に突っ込んだ舌をいったん引き抜くと、しゃぶって唾液まみれにした中指を使い、スリットの下端に脹らんだ肉の芽を撫でてみる。
「はうぅんっ」
 蕩けるように甘ったるい声が聞えて、ヒップは大きく波打った。
 けれども、すぐ元の位置に戻り、ぶるぶる震えながらも、唇を噛み締めて詩乃は堪えてくれる。
「や、やさしく……そこだけはやさしくしてくださいまし。乱暴にされては……私、本当に壊れてしまいます」
 自分は今、詩乃の最もデリケートな部分に触れている。
 そう思い知らされた洋介は指先に神経を集中して、硬くしこった脹らみに添え、幼い子猫の肉球でも撫でるようにやさしく転がした。
「そ、そうです、その調子……洋介さんの指使い、とっても素敵ですわ。ふわぁっ、ふぅっ、はぁっ」
 静かな居間に詩乃の熱い吐息だけが繰り返される。
 吹き込む夜風は相変らず涼しかったが、それでも二人はびっしょりと汗をかき、密着した肌がぬるぬると滑った。
 充分な愛撫を受けた詩乃の花唇はその花びらをすっかり開き切っていた。
 準備が整ったと判断した洋介は、愛液に塗れた中指の先を秘裂の奥に穿たれた小さな膣孔に引っ掛け、そのままねじ込むように挿入する。
「ふぐぅっ……」
 くぐもった呻き声をあげて、詩乃の身体はびくびくと震えた。
 ぬめる肉穴の締めつけを押し切り、中指を根元まですっぽり膣に埋め込むと、内壁に生えた無数のひだが妖しく蠢き絡みついてきた。
 膣全体が螺旋を描いて蛇動し、詩乃の呻きに合わせて引き絞られる。
 膣の中は指が溶けてしまいそうなほど熱く、詩乃の体温を中指に感じながら、洋介は感嘆の呟きを漏らした。
「女の人の中ってこんなに熱いんだ。それにきゅうきゅう指を締めつけてくる。中でびらびらが動いて、まるで指を食べられてるみたいだよ」
 舌ではとても届かなかった胎洞の奥底まで侵入し、肉ひだの感触を味わうように指先で内壁をなぞる。
 驚いた膣筋は入り口と中間部、そして最深部という三段階で指を締め付け、吸盤のように吸いついた肉ひだは蠕動して、指を奥へ奥へと飲み込もうとする。
 女性経験の無い洋介にしても、詩乃の肉壷が恐ろしく具合の良いことぐらいは容易に想像できた。
 もし挿入したのがペニスであれば、あっと言う間に射精させられていただろう。
 それほどに詩乃の膣はたっぷりと濡れ、沸き立つほど熱く、そして処女のように締まりが良かった。
「そうですよ。男性のあそこを奥まで受け入れて、子宮に種を蒔いていただくようにそうなっているのです。ああっ、いけない……このままでは私、もうっ」
 オルガスムスの予兆を感じるや、詩乃は洋介の腹に突っ伏してペニスを咥え込み、激しく頭を振り始めた。
 それは無理やり精を吸い出すような強烈な吸引力だった。
 きつく窄めた唇でペニスを締め付けながら、じゅぷじゅぷと音を発ててピストン運動を繰り返し、舌先は亀頭の筋を忙しなく弾き続ける。
 収まりかけていた脈動を再び呼び起こされ、腰の中心に心地良い痺れが広がっていく。
「す、すごっ……詩乃さんの口、僕のに吸いついて……ぬ、抜き取られるぅっ」
 詩乃が本気になった以上、洋介に勝ち目はなかった。
 せめて一緒に果てようと、夢中になって中指を膣に突き立てる。
「うっ、うっ、うっ、うっ」
 ペニスを咥えたまま詩乃は呻き、ヒップの中心では褐色のアヌスがばくばくと膨らんでは奥に引っ込む。
 その目も眩むような光景に耐え切れず、首を持ち上げた洋介は舌先でアヌスを舐めあげた。
「ひぃっ」
 下の方から悲鳴が聞え、一瞬、詩乃の唇はひるんだ。
「そ、そちらはいけませんっ。そちらは汚いところですからっ……ああぁっ、なんてことでしょう。洋介さんにお尻の穴を舐めさせるなんて、私、恥ずかしくて死んでしまいますっ」
 汚いなどとは決して思わなかった。むしろ、皺の窄まりが綺麗な菊のように見えた。
「詩乃さんのお尻の穴、とっても綺麗だよ。僕、詩乃さんのお尻の穴なら、喜んで舐められる」
 詩乃の訴えを無視して、舌先で無数の皺を舐め広げていく。
 膨らんだアヌスの凹凸とそのつるつるとした粘膜の舌触りにうっとりした刹那、菊座の中心から苦み走った腸液が滲み出して、洋介の頭はスパークした。
「やめてください、洋介さんっ。そんなに奥の方までお舐めになったら、う、うんちが……うんちが出てしまいますっ」
 脱糞させられては堪らないと、詩乃は猛然とフェラチオを再開する。
 ペニスを食いち切らんばかりに唇を窄め、喉の粘膜まで使って亀頭を擦り上げる。
 そうしながら、指先は陰嚢を弄び、二つの肉玉を優しく転がしていた。
「そ、それ、すごいっ。あっ、うっ、ぼ、僕も出ちゃうっ。僕、もう出ちゃうっ」
 洋介もまた限界を越えつつあった。
 一度射精しているとはいえ、詩乃にペニスをしゃぶられ、指を膣に挿入し、さらにはアヌスを舐めているこの状況で、辛抱などできる筈も無い。
 腰から下を吹き飛ばされそうな快感の中、一秒でも長く続けと願った夢はついに終りの時を迎える。
 しかし、意外にも先に果てたのは詩乃の方だった。
 膣の筋肉がぎゅうっと引き絞られ、根元まで埋まった指を痛いくらいに咥え込む。
 内壁にびっしりと生えた無数の柔襞はその丸い先端で一斉に絡みつき、出る筈もない精液を吸い出そうと妖しく蠢く。
 胎内に溜まっていた分泌液が圧搾されて噴き出し、洋介の胸元をびしょ濡れにした。
 指を呑み込んだまま、透明な蜜液を垂れ流す詩乃の性器は、まるで巨大な食虫植物のようにも見える。
 やがて、ひくっひくっと小刻みな痙攣を起こしたかと思うと、アヌスは脱肛せんばかりに盛り上がり、洋介は初めて立ち会う詩乃のオルガスムスを、中指と舌先で同時に体験した。
 絶頂の波動に突き上げられた詩乃の唇は、嗚咽を堪えるようにペニスの根元を締めつけ、とどめとばかりに尿道を強く吸った。
 触発された洋介はびくりと腰を跳ね上げ、ヒップに深々と指先を食い込ませて、詩乃の喉奥にぶちまけてしまう。
「で、出てるっ、僕、詩乃さんの口にっ、口の中に出してるんだっ」
 放尿するが如く、大好きな詩乃の口に射精する悦びは、強烈な背徳感を伴って想像を遥かに超えていた。
 括約筋の痙攣によって搾り出された多量の精液が、ペニスに絡みついた口腔へ向けてビュクンッ、ビュクンッと勢い良く打ち出される。
 そのたびに目の前は真っ白になり、身も震える快感に背骨は蕩けそうになる。
 果てしなく続く深い射精感に身を任せ、洋介は恍惚として、詩乃の膣からゆっくりと指を引き抜いた。
「あ……ん……」
 オルガスムスの緊張に張り詰めていたヒップは、ひくひくと断末魔の痙攣に震え、ふやけた淫裂は栓が抜けたように緩んで、胎内に溜まっていた分泌液を洋介の胸板に残らず吐き出す。
 その上のアヌスからも腸の搾り汁が糸を引いて滴り、さながら真下より眺める滝のような景観だった。
 激しいオルガスムスの余韻に、二人はぐったりとしてしばらく動けなかった。
 荒い息遣いだけが居間を包み、びっしょりと汗ばんだ身体を爽やかな夜風が撫でてくれる。
「よ、洋介さん……どうでしょう。満足……していただけましたか。それとも、もう一度くらい……頑張っておきますか」
 息も絶え絶えになりながら、詩乃は訊いてきた。
 洋介が望めば、幾らでも相手をしてくれるつもりらしい。
 しかし、病み上がりの上、わずかな間に二度の射精をこなした洋介の腰は、すっかり痺れて感覚が無くなっていた。
「もう……お腹一杯」
 返事をするのも億劫だった。
「よ、よかった。いいえ……ごめんなさい。私……本当に腰が抜けてしまいましたの。何分、久しぶりのことでしたので。それに洋介さんのミルクで、私もお腹がいっぱいです。これ以上はいただけません」
 そう言って安堵の溜息を吐くと、詩乃は事切れたようにがくりと洋介の股間に突っ伏してしまった。

「ねえ、詩乃さん。家に泊まってくれるのは、今日が初めてだったよね」
 一枚の布団に仲良く並んで身を横たえ、詩乃を見つめて洋介は訊いた。
 肩を寄せ合い眠るのは、嬉しくもあり、また恥ずかしくもある。
「そうですね。でも、泊めていただくのは今晩限りです。次回からはまた、毎日通わせていただきます」
 念を押すように言う詩乃は、けれども昨晩、玄関で別れた時より、遥かに親しみを感じさせる。
 今日という一日を経て、何かが確実に変わったのだ。
「わかってる。でもさ、毎日通って来てくれて、身の回りの世話どころか、エッチなことまで教えてくれる詩乃さんは、僕にとっては通い妻っていうのかな」
「あらあら、洋介さんは私のようなおばさんでも、お嫁に貰って下さるのですか?」
 詩乃は嬉しそうに目を綻ばせる。
「詩乃さんはおばさんなんかじゃないよ。少なくとも僕にはそうは見えない。母さんと同じくらい綺麗でやさしくて……僕、いつか詩乃さんと結婚したい」
 洋介にとって母親は特別な女性だった。
 しかし、詩乃もまた同様に特別であると気付く。
 亡くなった母親の代わりに、と叔父から紹介された時、素直に受け入れられたのは、相手が詩乃だったからだ。
 もし別の誰かであったら、その場で追い返していただろう。
 あの日から、実に三年。倍以上も年の違う詩乃に、洋介は迷わずプロポーズした。
「ひどいですわ、洋介さん……」
 切れ長の瞳がじわりと潤み、大粒の涙がぽろぽろ零れる。
「大人の女性を泣かせるなんて、そのお年ではまだ早いと思います」
 光る涙で頬を濡らして、詩乃は精一杯に微笑んだ。
「詩乃さんっ」
 洋介は思わず抱きついてしまった。
 母親の浴衣に包まれたふわふわの乳房に顔を埋め、詩乃の匂いを胸一杯に吸い込む。
「あぁ……母さんの匂いがする。母さんに抱かれてるみたいだ……」
 ぷんと漂う情事の残り香に混じって、ほんの少しだけ、懐かしい母親の匂いがした。
「このまま詩乃さんの胸で眠りたい。今晩だけだから、ねっ、いいでしょ?」
 鼻を擦りつけて懇願する、そんな洋介をぎゅっと抱き締め、詩乃は囁く。
「今晩だけですよ、甘えん坊さん。私の胸でゆっくりとお眠りなさい」
 そして、やさしく髪を撫でつけ、本当の母親みたいに、そっとおやすみのキスをしてくれた。

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